シュウの学生生活 実戦体験 1話目 作戦開始だ、妹よ
そして、翌週の朝。
転移魔法陣の前に、中隊メンバーとリンカチーム、生徒会チームの全員が集合。
生徒会チームは歓迎会の準備の都合上、明後日の夜にはここに戻ってこなければならない。
その次の日が準備で、さらにその翌日が生徒会の歓迎会だそうだ。
俺は第2軍団の最前線基地に移動するための大型転移魔法陣の起動に必要な24基の魔力溜に魔力を充填した。
全員が装備を持ち、魔法陣に乗ったのを確認して、エノオローラ中隊長が魔法陣を起動した。
一瞬で、最前線基地の魔法陣に着いた。
死神さんと熊師匠が現地司令官に挨拶に向かった。
それと時を同じくして、特攻隊長を先頭に俺たちは食料などの物資を受け取りに物資倉庫に移動した。
予定では2泊3日のキャンプとなっといるが、装備は5日分用意してもらった。余ったら返却するけどね。
倉庫は第6軍団のベース基地で見たものよりも小型であった。
物資を人数分受け取り、芦高さんに括り付けた。
パワーがある芦高さんは喜んで皆の荷物を運んでくれるとのことだった。
その後、死神さんと熊師匠が案内役の3人、えっ、案内役は1個小隊じゃかったの? を連れて合流した。
「案内はこの3人だ。初めての演習で、それも生徒を2チームも連れて行くのであればそんなに遠くに行かないだろうということで1チームでの案内に変更となった。」
「よろしくお願いします。」旅団一同
「こちらこそ、お願いします。」案内チーム
まだ若いチームで、一昨年に職校を卒業したらしい。
こちらの中隊にソニアや熊師匠、特攻隊長、死神さんがいるのがわかるとものすごく驚いて、緊張感がmaxに達したようだ。
彼らにとっては職校時代の恩師にあたるが、生徒の当時は恐れ多くてひとことも言葉を交わすことができなかったらしい。
そのため、案内役は中隊長ではなく俺やエリナ、職校組に言葉をかけるようするらしい。
ここ第2軍団の戦闘地域はかなり狭く、前線基地とベース基地の2つの転移魔法陣しかない。
ここはかの大防衛戦の舞台になったところで、他の軍団の戦闘地帯よりも大きく魔族に切り取られた形になっている。
また、ここは俺やエリナの父母、ソンバトの館長、熊師匠とソニアもかの大防衛戦で戦い、手痛い敗戦を強いられたところである。
そのため、俺らの中隊にとってここは因縁の深い場所ということになる。
他の戦闘地域よりもこんな危険で因縁深いところを最初の演習地に選んだのは、カロラさんが本気で旅団の領地として魔族から乗っ取るつもりであることが伺われた。
魔族との戦闘の最前線に向かって前進を開始した。
風魔法術士が交代で、探索を行いながら、何度も通ったことで踏み固められた軍道を徒歩で進んだ。
まわりは、大防衛戦からそんなに時が過ぎていないためが、森と言うより林が続き、下草もそんなに背丈はないので、比較的見通しはよかった。
初めての旅団としての軍事行動なので、かなりの緊張感が漂い、あのソニアでさえ顔に緊張感を漂わせていた。
特に、まだ魔族と相まみえたことのない、リンカチームと生徒会チームの緊張感は半端なく、相当体を鍛えてきたにもかかわらず、彼らからは疲労感が漂い始めていた。
「とりあえず、この見晴らしのいいところで休憩にしましょう。
まずは第3小隊が警戒に当たってね。
職校チームは疲労が見えるので、見張りは免除。
その代わり20分後に出発するので、それまでに十分に休憩してね。
片手剣以外と軍用ナイフ以外は装備をいったん降ろしても良いわよ。
もちろん軽食をとってもいいわよ。
水は必ず3口は飲むこと。」死神さん
中隊長は行軍の基本を職校チームに解いていく。
皆、知識としては持っているがこの緊張感の中ではそれを実行することを忘れている。
この余裕のなさが、いざ戦闘になると一歩反応が遅れてしまい、その一歩の遅れが生死を左右する。
魔法や剣の技量が上回っていても、若い軍人がベテラン軍人に一歩劣ってしまうのはこのような休憩時間にすべきことを全部やれたか、やれるだけの心の余裕があるかどうかの差である。
優秀な指揮官は若い軍人に対し、休憩の取り方まで心を配っているものである。
交代で俺たちも休憩に入った。
「休憩の途中ですが、これからの行軍についてもう一度、一つ一つ確認していきます。」死神さん中隊長
「まず今回の演習の目的ですが、一つは芦高さんのオーク狩りです。これは芦高さんの生死にかかわることなのなので、最優先事項です。
オーク狩りは目標4体です。それ以上は望みません。お腹がいっぱいでそれ以上はもう食べられないそうです。
芦高さんのお腹がすいたら、次回の演習を計画したいと思っています。来月ですね。」
魔物のお腹のすき具合で演習を始める俺たちの中隊。半端ねぇ。
「次に魔族の発見。
おそらく魔族の前衛としてオークやオーガがいる可能性が高いので、オークを数体見かけたら魔族の出現を警戒してください。」
「魔族を発見したら、まず、芦高さんは第3小隊から、第1小隊に移動。私のチームに入ってください。
練習通りに私が土属性フィールドを転写しますので、第一小隊を守るようにフィールドを展開。
リンダとジェシカはファイアーランスを発動し、魔族に攻撃。
攻撃後は第1小隊は安全地帯まで後退。
後衛は後退するときにチームメイトを防御することを忘れずに。
第2小隊は土属性フィールドを展開し、前方からの攻撃を警戒。
第1小隊がファイアーランスを発動後は前方の敵を殲滅。
第3小隊は中隊後方や側面の安全確保を担当。
第1小隊が退避後、そのまま後方及び側面を警戒。
これが理想のプランね。」
「もう一つ、確認します。これが一番重要ですので、私からこの命令の指示が出たら、全ての感情を捨てて、ひたすら生き残ることだけを考えて行動してください。
予想外の強敵が出た場合の対応です。
まず、殿は次の方に任せます。この方たちが他のメンバーが退却するまでの時間を作ります。
第3小隊に私、エレオノーラを加えたものが殿です。
退却の方はカロラが中隊本体の指揮を引き継ぎます。
殿小隊の防衛は私と芦高さんが敵へのけん制、攻撃をシュウとエリナに任せます。
他の方は絶対に引き返すことなく、第2軍団の最前線基地に必ず逃げ込んでください。
以上が今回の演習の基本行動になりますので、落ち着いて行動してくださいね。」
「私もお兄ちゃんと一緒がいいな。」
「ソニア様、今回は旅団の演習と言う名目の、ほとんど実戦となります。
演習ならともかく実戦ではそのような我がままは通用しません。
勝手な行動は自分や仲間を危険に追い込みます。」
「ぶーっ、わかっているわよそんなこと。
でもそこを何とかするのが秘書の仕事でしょ。カロラ。」
「もう、わがまま言う人はシュウとの演習や実戦に連れてきませんからね。
一人でお留守番ですからね。」
「うわーん。ごめんなさい。もうわがまま言いません。
だからお兄ちゃんと一緒に連れてってーっ。」
「はいはい、ちゃんと言うことを聞くなら連れて行きますよ。」
「わーいっ。」
「何でこんなに幼児後退しちゃったのかしらねぇ。ソニア様。ふーっ。」
それは先週の旅団結成発表時のどさくさにまぎれたソニアの愛人願望発言の直後のことだった。
ソニアが俺の愛人にしてほしいということがエリナや親衛隊にばれたら、磔、火あぶりの聖人ジャン〇ダル〇フルコースになるのは目に見えていた俺。
何とかソニアを説得しようと考え、仲直りするために二人きりで話し合いたいとソニアを訓練場の反対側にある芦高さんの住処の裏に引っ張って行った。
そこで俺はソニアを愛人枠から妹枠に変更するよう説得を始めた。
「愛人になりたいだなんて、まずは赤飯を炊いてもらってからにしな。
ガキは愛人何ておこがましい。妹で十分だ。」
「赤飯を炊いてもらったら、愛人にしてくれるのか。」
「考えてやらんでもない。」
「そうか約束したからな、すぐにカロラに赤飯を炊いてもらってくる。」
「えっ、お前、赤飯来たのか。」
「赤飯とは何か知らないが、とりあえず炊いてもらえばいいのだろ。」
「赤飯の意味も分からん、お子様は妹枠で十分、お釣りも来る。」
「じゃ約束しろ。俺が本来の意味で赤飯を炊いてもらったら妹から愛人だからな。」
「いいだろう。その時が来たら愛人になる資格はできる。
その上で、エリナが認めれば愛人にしてやろう。」
「約束したからな、絶対だからな、嘘ついたらハリセンボンだからな。」
「ふんっ。それまでは俺の妹としてかわいがってやる。
俺を呼ぶときはお兄ちゃんと呼べ。
俺はお前を本当の妹のようにソニアと呼ぶ。いいな。」
「はい、お兄ちゃん。
将来、愛人として認められたら何て呼べばいいの、お兄ちゃん。」
それは万国共通で決まっている。ずばり、「パパ」だ。
「パパと呼べるように努力します。」
「おう、頑張れソニア。」
そうやって、俺はソニアを妹枠に押し込んだのだった。
妹となったソニアはもともと超美少女な上、性格もすごくかわいくて素直になり、まさに目に入れても痛くないほどに思えてきた。
お兄ちゃんはソニアを誰にも嫁にやらないで、一生そばに置いて面倒をみる覚悟を決めたよ。
例え傍から見ていて、それが愛人と言う関係だろうと指をさされても、俺にとってソニアは大事な妹だ。
・・・・・・と無理にでも思い込もうとした。
仲直りして妹として付き合っていくとエリナに報告したところ、俺の妹は嫁であるエリナにとっても妹と宣言し、一人っ子のエリナは少し年の離れた妹ができたことをすごく喜んでいた。
何か大事なことを忘れているような。
かわいい妹がで来たからと言ってうかれていてはいけないようなことが、何だっけか、まぁもういいか。
ちなみに、赤飯の風習は俺の故郷のルーアンだけみたいで、その意味を知るものを見つけることは非常に困難である。
また、ソニアの風体からして赤飯を炊く日がすぐに来るとは思えない。
そして、エリナが愛人など認めるわけがない。
と言うことで、愛人の約束を果たす日は永遠に来ないはず。
「大事なことを忘れてんぞ、シュウ、ソニアは200歳間近の婆ちゃんだ。」
「まぁ、旦那様も奥様もお妹様ができて、喜んでいるので細かいことは良いではないですか。」
「ぴゅき。」
「ん、後輩の芦高さんもそう思いますか。そうですか。」