8話目 怒りの矛先
「それでは訓練を、とその前にリンカたちに客だよ。」
「誰でしょうか? 」
「訓練をお邪魔して申し訳ございませんわ。」
「あれ、生徒会長と役員の方々? 」
「実は今日はリンカさんたちチームにお詫びに来ましたの。」
「お詫び? どうして? 」
「第19師団との同行についての件ですわ。
私たちは第15師団のある部隊と課題遂行のために同行するはずでしたわ。
それが、ご存知のように、突然、任務地に戻られたため同行の話が宙に浮いた形になってしまいましたの。
私たちも進級、卒業がかかっておりますので、ほかの皆様と同様に別の部隊への同行を必死に探しましたわ。
そうしましたら、第19師団のある部隊に同行のキャンセルが出たとかで、そこに入れていただくことができましたの。」
なんとなく話の筋が見えてきた。
「私たちはそれは喜んで、一昨日その部隊長さんにお礼を申し上げに参りました。
その帰りに、その部隊の隊員の方々の雑談が耳に入りました。
"まあ、あんな普通のどこにでもいる女の子3人のチームよりも、生徒会の優秀なチームを同行させた方が良いよな。
今回、急な申し出を快く受けたということで卒業後もそのまま優秀なチームがこの師団に入ってくれるだろうし。
正直言って、あんなどうでもいいチームより生徒会チームの方が何倍も役に立つよな"
と言った内容でした。」
生徒会長の話の途中から、エリナとシュリが目に涙をため、それ以外のものは怒りでこぶしを固めていた。
その話をきいて、私たちは部隊長のところに引き返し、真実を確かめるため詰め寄りました。
全て事実でした。
私たちは今回の同行の話はなかったことにしていただき、あなた方を同行させるようにお願いいたしました。」
「しかし、昨日のことですが、その部隊にはあなた方でない別のチームが同行することがわかりました。
大変残念です。
そしてリンカさんたちにはお詫びの仕様もないほどご迷惑をおかけしました。」
「戦闘地帯にはシュウさんたちと同行するとのお噂をお聞きしておりますので、課題の方は心配なくなくなったと考えておりました。
今回の顛末をリンカさんたちにお伝えするするかどうか、迷いましたが、卒業後の進路を考える上で知っておられた方が良いと思い、今日訓練のお邪魔とは思いましたが、お話しさせていただきました。」
リンダさんが真っ赤になって、怒りを爆発させそうだったので、俺はそっと腕を握った。リンカさんもリンダさんの反対の手を握っている。
それはリンダさんの怒りを止めると同時に自分の怒りを鎮めるためでもあると思った。
エリナは大泣きしそうなシュリをかばうように抱きしめていたが、目には涙をため、抱きしめる手はこぶしが握られ、怒りで震えていた。
俺は怒りと共に別なことも考えていた。
かつて、クズミチたちと第6軍団のベース基地でモーリツ大隊長に言われたことだ。
俺たちを利用したりする大人のエゴから逃れるためにソニアを頼れとの、あの言葉だ。
今回の一連の顛末はすべて大人のエゴだ。
おれは、そこに怒りを覚えたのだ。
「こんなことを言うとさらに、君たちの怒りを買うかもしれないが、訓練だと思って冷静に聞いてほしい。
怒りに任せることは生き残る道を狭めることになる。いいな。」
カロラさんがいう。
その顔は軍司令部の方を向き、刺すような冷たい目をしていた。
そして、俺たちの方に向き直った時には目からは怒りが消えていた。
「人が正義のみを押し通して生きることは難しい。
どうしても己のエゴがその言動に入るからな。
その他人のエゴと向き合い、時にかわしながら自分の信じる道を進むしかない。
他人のエゴに惑わされるな。それは己の進む道を霞ませることになるのだ。
よく考えろ。自分の信じる道とは、それを進むためには何をすべきか。」
「今回のことに怒りを覚えるのはいい。
他人のエゴにまきこまれ、理不尽な扱いを受けたんだ怒りを覚えて当然だ。覚えないやつは人間じゃない。
それでもその怒りに飲まれていいのかは考えろ。
いいと判断すれば怒りを爆発させろ。徹底的に破壊しろ。
後悔はするな。
何なら手伝ってやる。」
「だがな、怒りの感情に任せることが自分の信じる道を霞ませたり、閉ざされてしまうと思ったら、引け。
負け犬のごとく引け。今は引け。
そして、ただひたすら、剣をふれ。
己の中からその意味のない怒りを消すために。」
「おまえたち、そこの生徒会役員も含めてだ。
右手のこぶしを固めろ。
次に自分の心臓の上に置け。
そして、自分に問いかけろ。
怒りを解き放つか、それても引くか。」
「今日の訓練は怒りとの向き合いを課題とする。」
俺は、いや、ここにいる全員、答えは初めからわかっていた。
ただ、理不尽に怒りが抑えられなかっただけだ。
しかし、この怒りはカロラさんの言うような解き放って良い怒りではない。
一度引いて、冷静に対処しなければならない怒りだ。
今、怒りに任せて、その部隊に怒鳴り込んでも何も解決しない。
さらに大人のエゴが発動し、うやむやにされ、そして俺たちの怒りが更に高まるだけだ。
リンカさんが言う。冷静に戻った声で。
「私たちは、シュウ君たちに同行させてもらい課題をこなしますが、生徒会長たちはどうしますか。
第19師団の話を蹴ってしまったんですよね。」
「私たちはカロラ先生の怒りに任せて行動してしまったようです。
その後が続きませんね。
私の信じる道が閉ざされるかもしれませんね。」
生徒会長と書記長の目には光るものが。
「こんなお願いをするのは筋違いかもしれませんが、シュウ君、リンカさんたちに我々のチームも同行させていただけませんか。」生徒会副会長
「私からも何とかお願いします。
荷物持ちでも、料理番でも、一晩中寝ずの警備でもします。
どうか同行を許してくださいませ。」
「私も何でもします。
わんと言えと言われれば、にゃーと言いますので、何とか同行をお願いします。」書記長。
書記長のテンパリ方が尋常じゃない。
「シュウ、どうしますか?
あなたの信じる道がどういうものか問われていますよ。」壁激突から復活した死神さん。
「俺は是非同行してもらいたいです。
そして課題を克服し、進級、さらに無事に卒業してほしいです。
それが今回の大人のエゴに対する俺の怒り表し方です。」
「わかりました。エリナはどうですか? 」カロラ
「私もシュウと同じ答えです。
シュリさんの涙を流しっぱなしで終わらせるわけにはできません。」
「わかりました。まずは同行の件はその方向で進めましょう。
でもねそれだけではだめですね。
先生は100点は上げられませんね。
まだまだ、ダメシュウです。」死神さん
「えっ、まだ何か? 」
「わかる人はいますか。」
生徒会副会長が手を挙げた。
「卒業後の進路ですね。
この決定では、申し訳ないけど、シュウ君とエリナ君の将来も危うくしてしまう。」
えっ、就職先をハブられるってこと。
「その辺は私たち大人の出番ね。
まあ、君たちは課題同行の件を怒りに任せることなく、冷静に解決したことで100点をあげるわ。
さっ、みんな気を取り直して、訓練するわよ。
もちろん生徒会組もこれからは一緒ね。」