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49話目 停戦交渉 その9

今回の交渉で一番どうなるかが心配だった尊王派と皇帝派の魔族の和解と交流の件が至極あっさりと両派で了解されたので、俺は交渉前に感じていた心の重石が一気に砕け散ったような、開放感にも似た心の高ぶりを感じていた。

それはイリーナも同様だったようで、口元は同じように微笑んでいたが、皇帝たちを見る目が鋭いものから口元と同じように柔らかいものに代わるのが分かった。


「尊王様、いや、イリーナ、良かったな。

皇帝派との和解が出来そうで。

そして、魔族の融合への道筋が見えてきて。

これでこの世界から、また一つ大きな争いごとが消えたな。」

「はいっ。すべては旦那様のおかげです。

ありがとうございます。」


「イリーナ、お礼なんていらないよ、俺は何にもしていないんだからな。

俺がやった事は魔族と人類の停戦交渉の見届け人となってもらえるように尊王様に同席を願いしただけだよ。」

「そんなことはございません。

人類軍と魔族軍の停戦交渉とは直接関係がないことですのに、この話をこの場でするように誘ってくれたのは旦那様ですわよ。

その上、教会事業と合わせるようして、和解の話をし易いように導いてくださいました。

さすが私の旦那様、中心にいる者ですわね。」


「これシュウ君の力だというのか。

凄まじい破壊力というか突破力だな。

人類軍と魔族軍の停戦、続いて全種族の救済と繁栄への導き、そして今度は尊王派と皇帝派の和解までも導き出してしまったのか。」

「皇帝、だから俺の力じゃないですよ。

この件に関わった皆の思いが力になって、結果を導き出したんですよ。

俺がやった事はきっかけの一つにすぎません。」

「そうは言うがな、それでもシュウ君の力が本当に大きいと思うが。」


「今、尊王様がシュウ君を指して呼んだ"中心にいる者"という言葉にぴったりの活躍ですね。」

「宰相、そんなに煽ててもこれ以上の何も出てきませんから、もうサプライズはありませんら。」

「いやぁ、これ以上何か出されてもそれに対応する実務の方が追い付きませんよ。

今日はこれぐらいで勘弁してください。

いただいた黒い計画書に記載されている停戦への工程すら全く確認していないんですからね。」


そう言うと宰相は黒い計画書をペラペラ捲って、停戦までこんなに一杯やることがあると主張して見せていた。

そんな宰相のおどけた姿をにこやかに見ていた皇帝は、今度は少し真剣な眼差しをイリーナに向けて、口を開いた。


「それでも、もう一つこの場で聞いておかなければならない事項があるな。」

「そうですわね、尊王派と皇帝派、いえ、もう区別する必要はありませんね。

魔族領における教会事業についてですわね。」

「その通りだ、尊王様。

詳細は決まっていなくても魔族領で教会事業、なんといったか・・・・・」

「皇帝、"尊王の社とその一族の施設事業"ではありませんでしたか。」

「おぉっ、そうだったな、宰相。

尊王と名の付く事業であるからには尊王様が前面に出て事を進める事業だとは思うが。

もし、その概要が決まっているのなら聞かせてほしいのだが。」


「それでは引き続き、私からお話させていただきます。

とは言っても、魔族領だけ特別なことをやるわけではないのです。

人類領では教会という施設を通じて教会事業を行うところを、魔族領では尊王の社や尊王の一族が住まう施設で行うと言うことです。」


「尊王の社で教会事業を行うと言うことなのですね。

なるほど、そう言うことですか。

だからこの会議の冒頭で北の大陸、我々皇帝派の魔族の住まう地域に袂を分かった尊王の社やその一族の施設が数百年も維持されており、人々は未だにそこに参っていると話をした時にシュウ君は丁度良かったと言ったのですね。」

「はい、尊王派の地域では教会の代わりになる尊王の社とその一族が住まう施設が各地に整備されて、人々は心の支えを求めて詣でていると言うことでした。

一方、皇帝派の地域ではそのような心の支えとなるような場所があるのかが全く分かっていなかったので、一からそういう場所とそこで精神的な安らぎを得るという習慣を構築しなければならない事を覚悟していたんです。」

「それがそんな必要は全然なくて、皇帝派の地域にある尊王の社とその一族の施設で教会事業を直ぐに始めれば良いだけだなんてびっくりだよね、お兄ちゃん。」


「ソニアの言う通りだな。」

「そういう意味では教会事業が最も早く進むのは魔族の住まう地域と言うことではないのか。」

「龍一さん、それはどういうことでしょうか。」

「教会事業のキモとなるのは教会に詣でて、祈り、心の安らぎを得たり感謝を捧げるという行為を多くの住民に習慣付けることにあると聞いているが。」

「なるほど、そういうことかぁ。

人類領では教会は各地に整備されているけど、多くの住民が詣でる習慣があるとはとても言えないから、まずはその点にテコ入れが必要なんだよな。

それに、エルフ族は必要であれば森に勝手に祈りに行くだけのようだから、エルフ領ではそもそも教会のような機能を持った場所がなくて、一から教会事業を掘り起こさなければならないんだよ。」


「そうかぁ、魔族領では教会のような場所があり、そこに詣でるという習慣もあるし、後はうれし涙を葉っぱで拭くというおまじないのところを浸透させるだけだもんね。

確かに魔族領が一番早く教会事業が進むかもね。」

「そうだな、ソニア。

あとは魔の森の葉っぱを尊王の社に持ち込んで、喜びの涙を葉っぱで拭いてもらい、王都の魔の森か旅団基地の隣にあるブリアンダちゃん、セルシオ君が暮らす森に持っていけば新しいトレントさんが生まれるな。」

「生まれたトレントさんに尊王の宮や帝都の周りの森に移動して棲んでもらえば、次からはそこでトレントさんを増やしていけるよね。」


「そうすると確かに魔族領が一番早くトレント事業を完遂できるかもな。」

「そうして、魔法の空打ち合いの必要がなくなり、魔族軍は人類領から完全撤退の運びとなりますわね。

そうなると魔族と人類は次の段階、友好を築き、お互いの過不足を補い、繁栄の道を突き進むということになりますわね。」

「死神さん、直ぐに、いつまでにということはまだまだ言えませんが、繁栄の道を歩ける日が見えてきましたといってもいいですよね。」


「シュウ君、道は見えてきたけど、ただそうなることを願っているだけではそこにたどり着けないわよ。」

「はい。

まずは停戦への合意を取り付けて、魔族軍の占領地の引き渡し、そして、魔法の空打ち合いを進めなければならないんですよね。」

「それと同時に、教会事業も進めなければなりませんわね。

私は北の大陸に向かいたいと思います。

まずは皇帝派と尊王派の和解と融合を進め、そして、尊王の社とその一族の施設事業も進めて行かなければいけませんわね。」


「そうなのか、魔族領が一番早くトレント族事業を成し遂げそうなのか。

我々エルフ族も負けないように"風の聖地の分社化事業"を推進させねばな。

エルフ族だけ繁栄の道に進むのが遅れてはいけないからな。」パキトさん


「そうですよ、対立と分裂の時代は終わったんですよね。

これからは融和と繁栄の時代が来るんですよね。」

「はい、旦那様。ともに栄えましょう。

その基調に乗って私たちの家族もばんばん増やしましょう。

子孫繁栄は必達です。旦那様の一番のお役目です。

ねっ。

今晩は寝かせないからね♡。旦那様♡。」


「えっ!?」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。


長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。


3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。

こちらの作品も宜しくお願い致します。


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