47話目 停戦交渉 その7
「まぁ、どうしてもというのなら総司令官にのしを巻いて差し上げるということもやぶさかではございませんが。」
「ちょっとぉ、宰相。せっかく追加の件はなしになったのに、なんで今度は認めるんだぁ。
追加その1だけでも十分じゃないのか、その2はいらんだろう、贅沢だろう。」
「一緒に生贄に・・・・・・。」
「お兄ちゃんも追加条件を何気に認めてんじゃないわよ。」
「まぁ、その件は後でじっくりと話し合うことにして。話を先に進めようではないか。」
「皇帝まで何言ってくれてんですかぁ。
儂の首が物理的にチョンされようしているんですよ。
ここは妥協しないできっぱりと断りましょうよ。」
「まぁ、その件はお二人にはあきらめてもらうとして、トレント事業が最終的な措置だということはわかりました。
また、それを成し遂げる上での一番の問題はトレント族の数が全然足りていなくて、これから増やしていかなければならないということですね。」
「えっと、俺はなめまわされるのを我慢すればいいだけなので、追加条件で停戦が成るのならそれを認めましょう。
宰相のおっしゃる通りです。トレント族を如何に増やすかが一番の問題点なんですよ。」
「追加条件の当事者であるシュウ君もあきらめて従うと言っているのですから、総司令官も覚悟を決めておいてくださいね。
どのようしたら増えるのかはわかっているのですか。」
「宰相、総司令官の説得はお任せしていいですか。
はい、わかっています。
まずはトレント族は木の妖精なので種から生まれるんですよ。
その種は魔の森に生えている木々の葉っぱです。
そして、その葉っぱに喜びの水が着かないと発芽しません。
喜びの水が着いたこの葉っぱを魔の森のようなマナに満ちた場所に置いて、葉っぱにお日様が当たるとトレント族が生まれるのだそうです。
生まれたトレントさんは100年ほどは自分で移動できるので、新たな土地に魔の森を築いてもらうことが出来ます。
このトレント族が生まれる過程で一番のネックになるのは喜びの水を魔の森の木々の葉っぱに着けるところですね。」
「必ず説得して見せますよ。
皇帝派の魔族と人類の将来が掛かっていますからね。
魔の森の木々の葉っぱは魔の森で入手できるのは予想が付きますが、その喜びの水とはいったい何なのですか。
トレント族の暮らす魔の森、エルフ族の王宮の周辺でしか得られない特別な水なのでしょうか。」
「ではそう言うことで、よろしくお願いします。
喜びの水は特別なモノというほどものではない・・・・・、いや格別なものか。
まぁ、ぶっちゃけ、人の涙です。
エルフ族の涙でも人類の涙でもトレント族が生まれたので、おそらく魔族や獣人族の涙でも大丈夫かと思っています。」
「みんなぁ、儂を見捨てないでくれぇぇぇ。
シュウ君、その格別な涙とはどういうことなのだ。」
「諦めましょうよ、和平のためです。
総司令官だけでなく私もそうなんですよ。
格別な涙とはですね、うれしい時や感動した時に出る涙のことです。
悲しい時やつらい時、痛い時に出る涙ではダメなんだそうです。
あっ、欠伸のやつも駄目です。」
「もう、停戦のための追加条件については最後に時間があったら話し合いましょう。
それでいいですね。
時間がなかったら認める方向で行きます。
うれし涙を葉っぱで拭くということですね。
・・・・・・・・
なるほど、それはかなり厳しい条件ですね。」
「宰相、本当だな。最後に話し合うんだな。
よし、とっとと今日の話し合いを進めるぞ。
なんで厳しいんだ。」
「それを説明すると話し合いが長くなりますが、まぁ、当事者の要望ですので良いでしょう。
うれし涙を流しているときに都合よく魔の森の葉っぱを所持しているのかということと、涙を葉っぱで拭くという習慣的なものがないということですね。
わかりましたか。」
「あっ、そうか。そういうことか。
それは難問だな。」
「そうなんですよ。他の条件はそうでもないんですが、魔の森の木々の葉っぱにうれし涙を着けるなんて奇跡的な偶然がないと無理ですよね。」
「そっかぁ、だからトレント族はほとんどいないということなんだぁ。」
「その辺の解決方法についてはこれから話し合うということなのですか。」
「それについては既に話し合っています。
人類領では教会事業としてトレント族を増やしていく予定にしています。
黒い計画書にはその辺の事は詳細に記載していないので、これらから説明させてもらいます。」
「シュウ君、できれば手短にお願いしてもいいかなぁ。
儂はかなり焦って来たんだけど。
もう昼近いし。」
俺は旅団基地で話し合った、教会事業についてたっぷりと時間を掛けて、途中にトイレ休憩と昼食を挟むぐらい、丁寧に説明させてもらった。
ひとり悲しみの水を垂れ流している方がいたが、まぁ、大事なことなので端折るわけにもいかないしね。
総司令官の役に立たない無駄な水は見て見ないふりを貫いた。
「なるほど人類ではそのようにして喜びの水を付けた葉っぱを集めるつもりなのですね。
人類領ではトレント族事業は必要としていないと思いますが、それでもそんな点まで協力いただけるとは有り難いことです。」
「人類としても魔法の空打ち合いから最終的な措置であるトレント族事業に移行することで魔族軍の完全撤退を実現できればより安心して平穏に暮らせるということになります。
そうして、各種族が安心して暮らせることで、各種族が衰退への道から繁栄への道に乗り換えることが出来ると思うんです。
直接トレント族事業から恩恵は受けないとしても、それに協力するのは当然だと思っています。」
「そう言っていただけるとは嬉しい限りです。
ちなみにエルフ族はどのようにするつもりですか。」
「エルフ領には人類教会のような機能を持った機関がありませんので、まずはそこを整備するところから始める予定です。
ちなみに人類の教会事業をエルフ領では"風の聖地の分社化事業"と呼ぶことにしています。」
「そうすると魔族領でもその教会事業を展開していけば、思ったよりも早くトレント族事業が進むと言うことですかね。
この交渉が済んだら内政担当者で教会事業について検討しなければいけませんね。」
「宰相、魔族領での教会事業について一つ提案があるのですが。」
「もしかして、魔族領に合った教会事業についての腹案が既にあるというのか、シュウ君。」
「皇帝、我々旅団は皇帝派および尊王派の魔族領での教会事業を"尊王の社とその一族の施設事業"として提案させていただきたいのですが、聞いていただけますか。」
「"尊王の社とその一族の施設事業"か、尊王様が関わってくるのか。
是非もない、直ぐにでも聞かせてほしい。」
その時、静かに交渉な成り行きを見守っていたイリーナが突然、立ち上がり、強い意志を持った眼差しを皇帝たちに向けながら話を始めた。
「"尊王の社とその一族の施設事業"については私からお話しさせていただきます。私が直接関わる事業となりますので。
よろしいですか、旦那様。」
「「「旦那様だぁぁぁぁぁぁぁ。
当代の尊王様は人類のシュウ君と夫婦になっていたのかぁぁぁぁぁ。」」」
「こいつらそっちに反応したよ。」雷ちゃん
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3/5より新しい物語「炎の誓い 聖戦士のため息 別伝」を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
第108旅団の面々は3つのパーティに分かれて行動していました。
「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」
の本編ではシュウを中心として、月の女王に会いに。
「優しさの陽だまり」ではエリナを中心としたエルフ王族の寿命の調査にエルフの王都に。
もう一つの「 アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記」では駄女神さんを中心とした風の聖地の運営に。
「炎の誓い」では旅団の面々がエルフ領で活躍している間に起こってしまった人類領への魔族軍の大侵攻について、それを阻止した炎の使徒の活躍について語ったものです。
是非、お楽しみください。
「聖戦士のため息」シリーズとして、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
これも「聖戦士のため息」シリーズの重要な物語の一つとなっておりますので、お読みいただけたら「聖戦士のため息」シリーズがよりいっそう美味しくいただけるものと確信しております。
シュウとエリナ、イリーナや輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。