45話目 停戦交渉 その5
この人はここに何しに来たんだ。
"そんなの決まってるじゃない。シュウ君のワタワタしたところを堪能するためよ♡
今のは良かったわよ。
「こんなの聞いていない、知らないよ。俺、どうしたらいいんだ。」って言う感じが最高だったわよ♡。"
あぁぁぁ、そう言うヤツだった、こいつは。
"ほらっ、早く話を続けないと皇帝側に不審に思われるわよ。"
てめえの言動で十分不審に思われているよ。
「えぇと、旅団の小隊長の権限で追加条件は消去します。」
"えぇ、そんなぁ。なんかつまんないわねぇ。
でも、追加条件 その1は削除不能だから。
私が決めたから。"
あっ、それいつも狙っていることだからわざわざ黒い計画書に追記しなくても良いよね。
兎に角、停戦をまとめないとリーナ様と命を懸けて人類軍の幹部に黒い計画書を説明している黒い塊さんに申し訳が立たない。
「まぁ、いいわ。
停戦合意に向けていろいろ条件を提示したけど、勝ったわけじゃないから大幅な魔族軍の撤退しか取れなかったと言うことにしましょう。」
あっ、そう言うことね。
交渉もしないで初めから大きな譲歩はできないと。
交渉したけどダメだったと言う事実が欲しかったのか。
"いいえ、あの追加条件は本気よ♡。"
だっ、そうですか。
「と言うことで、追加条件その1と2は認めてもらえなかったことに決定しました。
良かったですね、総司令官。」
「あぶなかったぁ、儂の首がチョンされるところだったぁ。」
「良く話が見えないのですが、停戦のための2件の追加条件は破棄と言うことですね。」
「「異義な~し。」」シュウと総司令官の息の合ったハーモニー
あっ、こらぁぁぁぁ。
また、新たな追加条件を黒い計画書に書くために内職してんじゃねぇ。
停戦条件の話はもう終わったんですよ。
"ちぇっ。"
これ以上勝手に内職されると困るので、俺は黒い計画書の写しを4部、追加条件その1と2に二重線を引き、訂正した証拠にサインと日付をその脇に記載した。
そして、さらなる変な内職の跡がないことを確認後、それらを宰相に引き渡した。
「停戦条件がまとまったので、次に停戦までの工程について話を進めたいと思います。
その件についてはこの黒い計画書(シュウ小隊長の最終確認済み)に沿って進めたいのですが。
先ほども言いましたけど、かなりのボリュームとなりますので、一度これを持ち帰って問題がないか検討をお願いします。
次回の交渉は停戦までの工程での問題点について話し合うことにしたいのですが、如何でしょうか。」
「宰相、それで問題ないのではないか。」
「はい、皇帝。一度これを持ち帰り、行政府と軍部の担当者で検討いたします。」
「よろしく頼む。」
「それでは停戦のまでの工程、魔法の空打ち合いまではこの計画書を検討していただくことにして、本日の話の本題に入りらさせていただきます。」
「えっ、これまでの話がメインのテーマだったんじゃないんですか。
ここまではタダのご挨拶程度の交渉で、これからが本当の話し合いだと言うのですか。」
「宰相、本当に重要な話はここから始まります。」
「停戦条件より重要な話とはいったい何なんだ、シュウ君。」
「もちろん停戦に向けた条件への合意は我々人類からすれば最も優先すべき検討事項です。
しかし、皇帝派の魔族にとっては最終目標ではないですよね、その先がありますよね。」
「ここまでの交渉内容は人類にとっては最終目標になり得るが、我々にとっては通過点に過ぎないと言うのですか。」
「もちろん、人類にとっては魔族軍がすべて人類領から撤退してもらう事が最終目標になりますが、停戦が成り、人類のほとんどの地域を返還してもらえるなら、ほぼこの目標を達成できたと言っても良いのではないかと思っています。」
「しかし、儂ら魔族軍は違うということですか。」
「そう言うことか。」
「皇帝はおわかりのようですが、私たちにもわかるように話してもらえませんか。」
皇帝は宰相の方を向き、難しい顔をして口を開いた。
「そうだな、前回、シュウ君たちと話をしたのは私だけだったな。
前回の話では魔法の空打ち合いはあくまでも魔族の衰退を止める一時的な措置に過ぎないと言うことだった。
当面はそれでしのいで、その間にマナの新たな生成方法を見つけるとの話だったと思うが。」
「そうでした。皇帝からその様に聞かされていましたね。
停戦条件の履行は我々皇帝派の魔族にとってゴールではありませんでしたね。
恒久的なマナの生成方法を確立し、魔族の衰退の懸念を払拭することが最終的な目標でした。」
それを聞いた皇帝が大きくうなずく。
一方、総司令官は眼を大きく見開いて、そして、口を開いた。
「宰相、と言うことは、今日この会合で一番重要な議題は新たなマナの生成法についてと言うことになるのか。
停戦条件の合意ではなかったと言うことか。」
「そうですよね、シュウ君。」
「はい、その通りです。」
「敢えて一番重要な議題と言うからには、何かその件について進展があったのかな。」
「皇帝、その通りです。」
「頼ってばかりで申し訳ないが、それを話してもらえないだろうか。」
「はい、問題ありません。そのつもりで今日は来たのですから。」
「それではシュウ君、今日のメインの議題について話を始めてもらえますか。」
「結論から言います。新たなマナの生成方法が見つかりました。
それも非常に温和な方法です。
我々旅団はこれを最終的な措置であると考えています。」
おれは睨むような強い眼差しで皇帝を見ながら言葉を発した。
「そうか、もう見つかったのか。
魔族の衰退の原因を知った後の僅か10日あまりで最終目標にたどり着く手法を得たと言うことか。」
「シュウ君、詳細を聞いても良いですか。」
「宰相、もちろんです。
その話をするためにここに来たのですから。
それに、尊王様の同席を願ったことにも大いに関係があります。」
「尊王様にも関係することか・・・・、でも、水魔法術士の活用ではないのだろう。」
「はい。
それでは詳細を話せてもらいます。」
俺は一度言葉を切り、すっかり冷えたお茶を一口飲んで喉を潤してから話し始めることにした。
「マナは木の妖精であるトレント族が大量に作り出せることが分かりました。
木の妖精ですから、雨水と根を下ろす大地、そして、お日様の光があればマナを生成し続けられるようです。」
「トレント族と言う者たちがマナを、木々が成長すると同じ方法で作り出せると言うのですか。」
「はい。
実は我々旅団の別のメンバーはエルフ族の王都でエルフ族の寿命の低下について調査していました。
それとは別口で10日前に俺とソニア、龍一さんはここで魔族の寿命の低下の原因を知ることが出来ました。」
「あの時は魔族だけでなくエルフ族の寿命の低下も生活環境のマナ不足の可能性が考えられるから王都の調査隊に確認してくると言っていたが、確認が取れたのか。」
「はい、王都の調査隊の調査結果は、エルフ族の寿命の低下は魔族と同様にマナ不足であると考えられました。
そこで、俺たちは王都で、皇帝派の魔族と同様に、エルフ族も魔法の空打ち合いへのお誘いをするとともに、今後は魔法の空打ち合いに依らないマナの生成方法を考えて行くことを提案させてもらったのです。」
「そうしたら、お姉ちゃんがマナが空中に漂っているのを感じられるよって話になったのよね。」
「空間にあるマナの存在を実際に感じられるのですか。」
「そうだよって言うか、そうだと言っていたよ。私は無理だけどね。」
「エルフ族でもマナの存在を感じられるのは大賢者と言われる者だけらしいですけど。」
「あなた方の旅団にはそのような大賢者も抱えているのだな。」
「エリナが大賢者? そりゃねぇよ。」
「雷神、お黙んなさい。光の公女、私たちの主筋ですよ。」
「ねぇちゃん、シュウのケツを追いかけていれば大賢者になれるというなら、四六時中シュウと一緒の俺はウルトラ超大大大賢者だよな。」
「いいえ、一周回ってただの愚か者です。」
「そうですわね。」フロムちゃん
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。
長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。
3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。
こちらの作品も宜しくお願い致します。