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39話目 いざ、出陣

眩しい。

部屋の窓から入ってくる朝日が顔に当たっている。

目を開けようとしたら朝日が入ってきた。

いつもよりちょっと早いけど、もう起きるか。


俺は横で寝ていたソニアが起きないように、そっと、布団から出る。

隣のベッドでも誰かが寝ている。そう、チンチクリンズが。

漏らしてねぇよな。

俺はちょっと奴らが寝ている布団を持ち上げた。


一部が湿っぽいんですけど。

あと、一部から埃のようなものが舞うんですけど。


まあ、後でソニアがクリーンを掛けて、風属性魔法で乾かしてくれるだろう。


いつもの日常がベッドルームに有った。

お漏らしさんも含めてな。


しかし、今日は特別な日だ。

人類にとっても、皇帝派の魔族にとっても、尊王派の住民にとっても、そして、エルフ族も無関係ではない。


今日は皇帝派と人類の初交渉の日である。

俺はテーブルに置いてあった今日使用する黒い計画書の写しを手に取った。

重い。

実際には本一冊よりも軽いのだが、これが人類軍と魔族軍の停戦、人類が数百年望んだ停戦への計画書、和平への道筋だと思うと、これが受け入れられない場合にはどうなってしまうのかということが頭をよぎって、心がズシリと重く感じるんだ。


そんな人類と魔族の将来の事を考えていると、俺が寝ていたベッドからガサゴソ音が聞こえてきた。


「お兄ちゃん、もう起きたの。」

「あぁ、今日の交渉のことを考えるとね。

何かゆっくりと春眠を貪る気にはなれなくて。」

「それで黒い計画書をまた見ていたの。

しっかし、ほんとに表紙を黒くするとはね。

そんなんだから不安になるんじゃないの、気持ちが沈んで。」

「まぁ、作った過程がかなりの黒さだったからな。

作成者の黒い塊さんなんかはこれが出来上がって数日経つのにまだ溶けたままだよな。

目が宙を彷徨っているし。」


「黒い塊さんは今日は教会本山に行って、リーナの御前で、人類軍の幹部に黒い計画を説明するんだよね。

そんな溶けた状態でちゃんと説明できるのかなぁ。」

「それは大丈部だと思うぞ。

リーナ様様の御前ではいつもしゃんとしているし、基本、参謀気質なんで作戦を説明する段になれば生き生きとして復活すると思うぞ。」

「そっかぁ。

お兄ちゃんが魔族の皇帝に黒い計画を説明するのに、いい大人が味方にちゃんと説明できないなんてことはないよね。」

「そうでないと困るよ。

俺の方は敵の真っただ中でその大将に黒い計画を説明するんだからな。」


そう、皇帝派の前で魔族軍と人類軍の停戦の条件、停戦にむけたプロセス、魔法の空打ち合い、そして、教会事業について、今日は俺が説明するのだ。


エリナとエルフ領での教会事業、風の聖地の分社化事業について話し合った後にエリナはその案を持って王都に帰って行った。

その直後に死神さんが黒い計画書の写し(意訳: 黒い表紙の悪だくみ )を持って、俺の宿舎を訪ねた来たのだ。

そして、今日、皇帝派に黒い計画書の概要を説明するように仰せつかった(意訳: 拒否すると首が物理的にやばい御命令)のだった。


そんな大役をなんで俺に押し付けるんだと無駄かもしれないけど、俺なりに最後の抵抗を試みたのだが・・・・・・。


奴は言いやがった。

"できもしない大役に恐れ慄くシュウ君を堪能するの♡。

テンパって、キョロキョロし始めて、私に縋りつくような眼を向けてきたら私はそれだけでいっちゃいそう♡。"


もう、どこへでも好きなとこに行っちゃてください。

二度と帰ってくんな。


とっ、心で叫んでみたが、死神さん相手に口に出して抗議する甲斐性なんて俺に有ろうはずもなく、反射的に"はい、喜んで"と言ってしまったのは青春のいい思い出となるであろうか。

まぁ、ナタ婆ぁを通じて、俺の心は丸裸だったはずだけどな。

と言うことで、あれから数日間はどのように説明しようか、午前中は毎日朝食を持って訪ねてくるイリーナに、午後は毎日3時のおやつを持って訪ねてくるエリナに相談していたのであった。


イリーナは"私にトレント事業について話をしてくださったようにすれば良いのです。それで理解できないおたんこなすは本物さんに引き渡し、とある一丁目に遊びに行っていただきましょう"と、皇帝休暇説(意訳: 地獄めぐりのバカンスへGO)を展開していた。


エリナは"シュウの話を理解できない阿呆は頭を活性化するためにリンダさんの手作りお菓子で一旦、休憩してもらおうよ。"と、皇帝休憩説(意訳: 爆薬による過失致死)を展開していた。


聞かなかったことにしよう。

せっかくの停戦の機運が終息のない、どちらかの種族が地上から消滅するまでの殲滅戦になりそうだから。


と言うことで、人類の危機を感じた俺は開き直って、ごく普通に黒い計画書の概要を話すことにした。

練習の相手をしてもらった聞き手のソニア、白魔法協会の総帥様からは一応の合格点をもらった。

えっ、ちがうって、そんなことはしていないって。お菓子で何か釣ってないよ。


という、数日間を過ごして、今日の晴れの日を迎えたのであった。


ここ数日の出来事を思い出していると宿舎のドアがノックされた。


「旦那様、起きていらっしゃいますか。

陣中見舞いの朝食をお持ちしました。」


イリーナ、だから戦いに行くんじゃなくて停戦の交渉に行くの。


「シュウ君、腹が減っては戦が出来ぬって、昔の人が言ってたらしいわよ。

早く食べたら。」


つるはしさん、だから戦いには行かないって、和平に向けた話をしに行くの。


大体、イリーナたちも皇帝派と尊王派の和解、融合に向けた話し合いを提案しに行くんでしょ。

何で今からケンカ腰なんだ。


俺は玄関のドアを開けた。

そこには戦闘服を着たイリーナとつるはしさんが立っていた。


「イリーナ、何で魔族メイド戦隊ゴホンゴホンの制服を着ているんだ。

イリーナは尊王として、皇帝派と尊王派の対話の当事者として会議に出席するんだから給仕をする必要はないよね。

そいうのはメイドのつるはしさんにまかせ・・・・・・、あっ、言ちゃ悪いけどミニスカニーソは止めといて、ロングスカートにして。」


「ぐぞぉぉぉ、似合わんのはわかっているわい。

しかし、これが今の私の制服なんだから仕方ないじゃない。」

「まさか色仕掛けで皇帝の愛人の座を狙っているとか。

宰相の第4婦人を狙っているとかですか。

大事な交渉なんですから、そう言う色事は止めておいてほしいんですけど。」

「誰が色仕掛けじゃぁ。

あっ、そう言うのもありね。

皇帝の愛人や宰相の第4婦人かぁ・・・・・・、一生喰いっぱぐれることはなさそうねぇ。

うん、このままで行くわ、私。」


まぁ、好きにしてください。

でも変な仕掛けをして、無礼打ちにされても知りませんからね。


つるはしさんの似合っていない制服による魔族中枢部食い込み計画について話をしていると、既に中に入っていたイリーナが声を掛けてきた。


「旦那様、そろそろ召し上がらないと、集合時間に送れますわよ。」


あっ、そうだった。

朝の貴重な時間をつるはしさんの似合わない制服で無駄にしたぜ。

イリーナのミニスカ・ニーソのメイド姿の方をずっとガン見していれば良かったぜ


ソニアと一緒にイリーナが持参してきた食事をいただいて、出掛ける準備を整えた。

そして、俺はソニア、尊王の正装に着替えたイリーナ、嬉々としてミニスカ・ニーソのままのつるはしさんと連れ立って、旅団基地の社の前にやって来た。

そこには既に今回の皇帝派との交渉に向かう面々がすでに待っていた。


「お待たせしました。

では、行きましょうか。

人類と魔族の将来を掛けた話し合いに。」


良く晴れた空の下、社の上の風見鶏が風で揺れていた。


「よし、絶好の合戦日和だな、シュウ。」


雷ちゃん、だから戦いに行くんじゃなくて、話し合いに行くの。


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。


長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。


3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。

こちらの作品も宜しくお願い致します。


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