35話目 ドラゴンさんの涙
リーナ様様に決死の請願をし、2、3日たった日の午後。
真の大魔王様から、黒い塊さんの魂と化した例の魔軍族と人類軍の停戦、そして、魔法の空打ち合いの計画書(案)を承認する旨の連絡が旅団基地に入った。
また、人類領での教会事業の展開についても了解するとのことだった。
4日後に旅団と皇帝派の魔族が黒い魂の計画書(案)を元に交渉するが、時を同じくして人類軍の幹部を集めて計画書(案)を作成者である黒い塊さんが説明することになった。
皇帝派から合意が得られればその時点で(案)が取れて黒い魂の計画書となり、人類軍に計画書を実行する命令を発することになる。
それとは別に教会事業については、これも皇帝派との合意が成った時点で、教会の関係者を教会本山に集めて教会事業の説明と実施を命ずることになるとのことだ。
今までは教会自体が軍の組織の一部の様になっていたが、これからは軍とはほとんど関わりのない組織となりそうなので、教会事業の推進だけではなく教会の組織や役割も整備すると言う根本的な改革が必要になるとの話だった。
改革をどう進めるかまでは俺は知らんがな。
まぁ、これであとは4日後の皇帝派との会合に向けて準備をするだけだな。
「シュウ、何を準備するんだ。
黒い計画(案)を説明するだけじゃねぇのか。」
「雷神、黒い計画だなんてなんか腹黒い悪だくみの様に聞こえますよ。」
「でもよう、姉ちゃん、"黒い塊がドロドロになって命がけで作った魂の計画書"何て言い難くねえのか。」
「ご主人様は"黒い塊さんの魂の計画書"とおっしゃってましたわね。」
「その後で、"黒い魂の計画書"って言ってたぞ。
"黒い魂"の時点ですでに腹黒いよな。
だから、もう黒い計画で良いと思うぜ。」
「そうですね。所詮、真性甲斐性なしでゲスい男たちが作った計画書なんて紙が白いだけで、中身が白い訳ではありませんでしたね。
良いでしょう、これからは"黒い計画"と呼びましょう。」
魔族軍と人類軍の停戦、そして、魔法の空打ち合いと言う人類と魔族の救済計画が腹黒い計画として扱われることになってしまった瞬間だった。
「まっ、致し方ござませんわね。
ご主人様と雷神が関わっている時点でまともなモノじゃなくなってしまうのは皆さんご納得されるでしょう。」
「姉ちゃん、俺とシュウをそんなに褒めなくていいぜ。
ついでに計画書の表紙は真っ黒にしようぜ、なっ、シュウ。」
俺を腹黒の仲間に引き込むんじゃねぇ。
人類と魔族を救済する崇高な計画が越前屋さんも真っ青な腹黒い計画に代わっている頃。
あっ、越後屋さんの前ではどんな腹黒い奴でも真っ白だけどな。
その時、玄関のドアがバタンと鳴った。
イリーナが戻って来ちゃったのか。
どたどたと走る音がしたと思ったら。
「シュウ、ただいまぁ。元気にしてた? イリーナを引きずり込んでいないわよね?
くんくん、臭いで分かるんだからね。」
わんこになったエリナが帰ってきた。
良かったぁ、イリーナは朝はいたけど午前中に帰ったよ。
もう十分に換気はされたよな。
「イリーナなんてこの頃見てないよ。」
「ほんとにぃ? 」
「ほんとだよ。なっ、ソニア。」
「えっ、何で私にフルかなぁ。
まぁ、そうだよ。今日は見てないよ(意訳: 私は朝から昼まで教会本山の白魔法協会で溜まった書類を片付けていた(ここでも意訳: 見ないで捨てた)からお兄ちゃんはイリーナちゃんと二人でいたはずだけど、私は見ていないよ)。
昼食も私とお兄ちゃんとの2人で食べたよ。」
エリナはほっとした表情になり、リビングの椅子に座った。
「シュウはソニアちゃんとずっと一緒だったんだ。」
「そうだよ(意訳: 昼食後はね)。
イリーナのことよりも、ところでどうしたんだ、エリナ。
急に帰って来て。」
「実は相談したいことがあって。」
「王都で何か困った事が起きたのか。」
「困った事と言うか、どうしたら良いかシュウの意見を聞きに来たのよ。」
「タイさんやカメさん、常識さんでも対応できないような難問なのか。
それを俺に相談するのか。」
「いろいろなアイデアを聞いて見たいと言うのが本音かな。」
「いろいろなアイデア?
甲斐性のないお兄ちゃんに相談する時点で無謀だと思うけど。
それでも相談しなければならないほど困っているだ。
何のためにアイデアが必要なの、お姉ちゃん。」
「実はね、トレント族事業をどうやって具体的にエルフ領で広めていくか、トレントさんをどう増やしていくかを今、王都で議論の真っ最中なのよ。」
「具体的には喜びの水をどうやって魔の森の葉っぱに着けるかと言うことでいいのかな。」
「そっ、その通り、流石は私のダーリン。」
「あははははっ、そんなことはないよ。
このあいだもトレント族事業について、人類領でどう喜びの水を集めるかについて死神さんたちと散々議論をしたからな。」
「えっ、人類領でもトレント族事業を広めるの。
人類領ではマナの増産は必要ないわよね。」
「お姉ちゃん、人類領では喜びの水を魔の森の葉っぱに着けて、日に当てて、トレントさんの若木を増やすところまでだよ。
トレントさんをいっぱい増やすお手伝いについて話していたんだよ。
そうすれば魔族軍との魔法の空打ち合いも早く終わるし、魔族軍に早く引き上げてもらえば人類領に真の平和が訪れるよね。」
「あっ、そう言うことなんだ。
で、人類領ではどうやって、喜びの水を集めることにしたの。」
「教会事業だよ。」
ソニアの自慢げな言葉に首を傾げるエリナ。
「教会事業って? トレント族事業でなくて? 」
俺は教会事業についてエリナに説明した。
「そんなことを計画していたんだ。」
「教会事業の件はリーナ様に既に承認してもらっているんだ。
近々に教会関係者を集めて、今後の教会の有り方、組織改正等々を行うことを黒い塊さんが説明して、リーナ様が実行を命じる予定なんだよ。」
「お母様って、教会にも伝手があったのね。」
えっ、実の娘が知らないの。
"お姉ちゃん、そう言う権力事に疎いから。"
確かにな。リーナ様の権力が真の大魔王様に匹敵することすら知らなかったからな。
"天然? "
ソニア、それは言い過ぎだろ。
"今のところ、アーティファクトを身に着けていないから聞こえてないよ。
そういえばフロムちゃんはどうしたのかな。"
光の公女に覚醒したんで、本来の持ち主の龍一さんに返したんじゃないのか。
"えっ、王都から一緒に帰って来たけど龍一さんはフロムちゃんを身に着けていなかったと思うけど。"
じゃぁ、王都のゲストハウスに忘れてきたんじゃないのか。
エリナは俺とソニアが念話をしている間の沈黙に首を傾げている。
「お姉ちゃん、フロムちゃんはどうしたの。」
「あっ、かばんに閉まっていたのを忘れてた。」
エリナはそう言うと肩から下げていた鞄に手を突っ込んだ。
「フロムちゃんごめんねぇ。狭くて、苦しかった? 」
「エリナ様、大丈夫です。」
「エリナ、フロムを外しているのか。」
「そうなのよ。魔の森に出入りしていると炎属性のものはトレントさんや森の木々がちょっと嫌がっているようなのよ。」
「あっ、そう言うことか。相性の問題か。」
「しばらくトレント族事業の推進でエルフ領や王都の魔の森に居ることになりそうなのよね。
せっかくフロムちゃんと炎属性魔法の訓練をしようと思ったんだけど・・・・・。
そういう意味ではあそこは最悪な場所なのよね。
フロムちゃんを外して部屋に閉まっておくのもかわいそうだし。
でね、フロムちゃんとも相談して、いったん龍一さんにお返ししようかと思って。
ごめんね、フロムちゃん。」
「気にしないでください、エリナ様。
旅団基地に居れば私も何かお役に立てることもございましょう。」
「そう言うことか。
じゃぁ、フロムは龍一さんの下に戻って、一緒に皇帝派との交渉に行こうか。」
「シュウ様、わかりました。その様にさせていただきます。」
「もう直ぐ、龍一さんも配達にここに来るだろうから、その時に話をしようか。」
「よろしくお願いします。」
「あっ、お兄ちゃん大変だよ。」
「どうしたんだ、ソニア。」
「また鱗の交換をしてと言うと、ドラゴンさん涙目だよ。」
あっ、そうだった。あれは相当痛いらしいからな。
でも、ドラゴンの涙って、痛みの水でも喜びの水の代わりになりそうか気がするな。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
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本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。
長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。
3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。
こちらの作品も宜しくお願い致します。