34話目 真の大魔王様の下に
死神さんとイリーナの"ふっ"の凶暴さについて考えを巡らせていると厨房の入り口でサッちゃんさんたちの邪魔をしていたつるはしさんが漸く戻ってきた。
その手にはどんぶり等々が乗ったトレーを持っていた。
「ちょっと早いけど、昼食にしたらどうかとサッちゃんが言ってましたよ。
今日は他人丼だって。」
そう言うとそのトレーをイリーナの前に置いた。
一応、メイドさんの自覚はあったか。
主人のイリーナをほっといて自分だけガツガツ食べちゃうのかと思ったよ。
後ろからはソニアが付いて来ていた。
「お兄ちゃん、これ昼食だよ、どうぞ。
これを食べたら教会本山のリーナの下にトレント族事業を説明に行くんでしょ。」
「ああ、そうだな。
俺の給仕はソニアがしてくれるのか、ありがとう。
ソニアも持ってきて、一緒に食べようよ。」
「うん、死神も一緒にどうかな。」
とっ、ソニアに昼食のお誘いを受けた死神さんがなぜか俺の他人丼をガン見して、ボソボソ呟いていた。
「私がお世話したかったわ・・・・・・・・・。
んっ、じゃぁ、私はあ~んしてあげればいいかしら。」
とのたまうと、自分の昼食を取りにもいかず、俺のトレイ乗っていたスプーンを持ち上げていた。
「あっ、死神様、そう言うのは妻の務めです。
旦那様には私があ~んして差し上げますので、先にこれを食べていてください。」
イリーナはそう言って、自分の前に置かれた他人丼が乗ったトレイからスプーンだけを取り上げると、トレイを死神さんの前に差し出した。
「ちっ。」
自分の他人丼を取りに行って戻ってきたソニアが死神さんの舌打ちに反応して口を開いた。
「死神、どうしてもあ~んがしたいなら、あそこに居るアクアちゃんとノームちゃんにしてあげたらいいんじゃねぇ。」
「まぁ、しようがないわね。
本当はシュウ君が良いけど"今日も"大精霊様たちにしますか。」
あ~っ、チンチクリンズは本当に毎食たかりに来ていたんだな。
その上、死神さんにあ~んしてもらっていたのか。
でも、本当にそれでいいのかチンチクリンズ。
死神に飼われているんだぞ、お前ら。
「じゃぁ、ソニアちゃんは私にあ~んしてくれますか。」
がぁぁぁ、ソニアは悪魔にエサやりをしていたのか。
そんなものを飼っちゃいけません、ソニア。
俺が一番被害にあいそうだから、今のうちにと~くに捨てて来なさい。
旅団基地では悪魔の面倒なんて見切れません。
お漏らしさんと泥んこさんでいっぱいいっぱいです。
「それでは旦那様、口を開けてあ~んしてくださいまし。」
えっ、本当にするの。
「さっ、早く。」
「良いなぁ、わたしもあ~んしたいなぁ。」
つるはしさん、ご主人様のイリーナが食べてないのに他人丼をもうほとんど食べちゃったんですか。
それじゃぁ、だれにもあ~んできないですよね。
そんなことを考えて、口を閉じていると。
「ご主人様は他人丼は苦手ですか。やはり、親子丼の方がよろしいですか。
他人よりも親子の方が食べ慣れていますか。
親子丼に変えていただきましょうか。」
その時、厨房の外で雌鶏たちが大騒ぎし始めたのが聞こえてきた。
「イリーナ、ここでは親子丼を食べたいなんて言ってはいけないんだ。
俺は食べたいけど、我慢しているんだ。
この騒ぎでわかるだろう。」
「親子丼を食べたいけど我慢しているのですか。
そんな我慢せずとも、食べたいなら私が用意いたしますわよ。
旦那様なら3人前ぐらいは行けますかね。
料理は得意ですわ。
素材も厳選いたしますわよ。」
その時、さらに大きな鳴き声で雌鶏たちが大騒ぎし始めた。
「こらぁぁぁ、あんまりうるさくすると夕飯は焼き鳥丼にするよぉぉぉぉ。(怒)
元気のいい奴から順番にぃぃぃ。
私は素材にこだわるわよ。」
サッちゃんさんが厨房の外に向かって叫ぶ。
あっ、最後通告だ。
「旦那様、外が急に静かになりましたわね。
親子丼よりも焼き鳥丼の方が人気がないのでしょうか。
しかも元気がないと食べられないなんて。」
この基地の一部の方々にはどちらも不人気です。
おれは好きだけどな。
今晩の夕食を巡ってなぜか一部の方々が大騒ぎしていらっしゃいましたが、それ以外は大きな混乱もなく皆で昼食を済ませました。
まあ、一部の方々には命が掛かった場面もありましたがね。
他人丼を食べながら近いうちに親子丼か焼き鳥丼が食べたいと思ったのは内緒です。
昼食が済むとイリーナとつるはしさんは尊王の宮に戻って行った。
さっそく、尊王派の代議員の委員会を招集し、トレント族事業、魔族の融合と尊王の事業、これは人類で言う教会事業に当たるけど、についてそこに至る経緯を含めて報告と相談をすると言うことだ。
数日後の皇帝派と人類軍の停戦会議までには、尊王派としての何らかの今後の方向性を出したいと言っていた。
旅団基地の社でイリーナたちを見送った後に、そのまま俺とソニアは黒い塊さんがどろどろになるほど命がけで策定した停戦と魔法の空打ち合いまでの工程、トレント族事業についてまとめた書類を手に教会本山に転移した。
転移したのが、丁度、昼時だったため転移魔法陣の施設にいる人はまばらであった。
"お兄ちゃん、あまり人がいなくて良かったね。"
ソニア、それは言わない約束でしょ。
俺は転移魔法陣の部屋を出るときに心臓をバクバクさせていたが、あまり人がいないのを確認してほっと一息ついたのであった。
それでも俺に気が付いた奴らがいたが、以前の様に指をさしながらあからさまに大笑いする者はいなかった。
精々"ぷっ"と口元を緩める程度であった。
"お兄ちゃん、人のうわさも何とやらだね。
でも、油断しない方が良いよ。
教会本山では軍の関係者が多いのでお兄ちゃんの功績を良く知っているからバカにする人はいないけど、門前町ではまだ例の芝居が超ロングセラーで演じられているからね。"
はい、向こう75年間は門前町に近づかないのでご安心くださいませませ。
俺は隠れるようにして第4軍の司令部に潜入した。
そして、俺とソニアはイリーナ様の前に跪いたのであった。
跪いたのは俺だけな。
ソニアはさっそくイリーナ様様の秘書官様が出してくれたお菓子を爆食いだ。
まずはイリーナ様がご存じでないトレント族事業を推進していくことになった経緯を説明した。
続いて、人類ではトレント族事業を必ずしも行う必要はないが他種族の援助を目的として、トレントさんを増すことに協力するために教会の有り方に手を加えて教会事業を起こすことを告げた。
また、イリーナたち尊王派は皇帝派との融合を目指すこと、それにトレント族事業を魔族で推進するために尊王の事業、人類で言うところの教会事業を進めて行けるよう国内で調整し始めた事を報告した。
最後に、どろどろの黒い塊さんが策定した停戦と魔法の空打ち合いの計画書(案)を手渡した。
その計画書(案)を受け取ったリーナ様は微笑を浮かべて口を開いた。
「"男子、三日会わざれば刮目して見よ"なんて話も聞くけど、一昨日あったばかりよね。
でっ、トレント族事業なんて魔法の空打ち合いを超える各種族の最終救済案を良くまぁ出して来たわね。
それも人類では教会事業、魔族は皇帝派と尊王派の融合と尊王の事業というトレント族事業の具体的推進案まで。
さすが婿様ですわね。
当家の誇りです。
でも、計画倒れではだめよ、事業を成功させなければね。
少しづつでも良いので確実に事業を進めてくださいね。」
「はい、リーナ様・・・・・・」
すげぇにらまれたぞ。
これはまずい、事業に取り掛かる前に社会的に抹殺されそうだ。
「おっほん、わかりました、義母さん。
誇りが埃りにならないように確実に進めて行きます。」
「えっ、埃り? まさか俺をタンスに閉じ込めるって話か。
止めてくれよぉ、シュウ。」
「雷神、カビまみれよりはましじゃないの。」
「ねえちゃん、埃りと黴は一色端なんだよぉ。」
「それに各事業も俺一人で考えたわけではないですよ。
皆と一緒に考えて、皆と一緒に進めて行きますよ。
なっ、ソニア。」
「そうだよ。
私もお兄ちゃんを一杯手伝うよ。
特にお菓子の消費は一手に引き受けるよ。」
「もちろん私もお手伝いするわよ。」
「義母さん、よろしくお願いします。」
「任せて。
私は魔族軍との停戦と魔法の空打ち合いについて人類軍をまとめることね。
これこれをやるからよろしくねと言えば、皆は"はい、喜んで"と言って、頼みもしないことまでやってくれるわよ。」
と、黒い塊さんの魂の結晶である計画書(案)を机にバンバン打ち付けながらおっしゃりました。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。
長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。
3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。
こちらの作品も宜しくお願い致します。