表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

603/620

33話目 輪廻の会合と月の女王 その5

イリーナは立ち上がって、俺の両手を握ってきた。

その眼は希望に満ちた強い光を発して、その体は淡い月の光をまとっているように思えた。


「旦那様、ありがとう。

今代の月の女王としての役目が見えてきましたわ。

旦那様とエリナの頑張っている姿を後ろから悶々とただ見ているだけにならずに済みそうです。」

「それは良かったよ。

でも、俺のおかげじゃないと思うけどな。

もともとの尊王やその一族の役割に戻っただけだよ。」

「いえ、旦那様のおかけです。

もともとの尊王の役割に戻れそうなのも、旦那様が輪廻の会合の歯車を回し続けて、皇帝派が尊王派を狙う必要性をなくしていただいたおかげです。」


「輪廻の会合の歯車は輪廻の会合に集いし者どもがみんなで、あっ、罪人さんは除くけど、回したものだと思うよ。

俺一人の力ではないよ。」

「それでも旦那様の中心にいる者としての運命の会合を引き寄せる力が輪廻の会合に集いし者どもを集めたのは間違いありません。

もちろん、私と旦那様の会合も運命ですわね。」


「運命の出会いか、確かにそうだね。

俺はこの一年で多くの出会いを果たしてきた。

輪廻の会合に集いし者どもの他にも多くの人たちとの出会ったんだ。

その一期一会を大事にしてきたからこそ、ここまで輪廻の会合の歯車が回ったんだと思う。

それでもまだまだだよな。

輪廻の会合の歯車は回り切っていない。

最後まで回すとどうなるかが漸く見えてきたところだよね。

ここで、手を抜いたら中途半端なまま、そしていつかは一年前の状態に戻ってしまうと思うんだ。」


「そうですわね。

旦那様の皇帝派との停戦と魔法の空打ち合いに向けた話し合いとその遂行、エリナのトレント族事業の発展、私の皇帝派と尊王派の融合とトレント事業の補助。

いずれもまだ始まってもいませんわね。

ゴールが見えたと言ってもまだスタートラインに立っただけですわね。

それでも先の見えない暗澹たる状況から、頂上が見える、その頂上に皆の幸せが待っていることが漸く見えてきましたわ。

まだまだ時間が掛かるかもしれませんが、そのゴール、みんなの希望に向かって進んでいけますわね。」


「希望に向かって進むか。

その希望が輪廻の会合の歯車を回し切った先に起こることなんだな。

よし、ここで止まっちゃぁいらんないよな。

やるべきことをやんなくっちゃ、なっ、イリーナ。

希望を見失わないように一つ一つ、一歩一歩と。」

「はい、旦那様。私も一つ一つ、一歩一歩進んでいきます。

旦那様と並んで。

悔しいけれどエリナとも。」


「はははははっ。」汗


やっぱりエリナと張り合うことは既成路線なんだ。


「シュウ、怪獣大戦争は不可避ということでいいのか。

闇と光の運命を賭けた戦い、怪獣大戦争と輪廻の会合の歯車が回りきるのとではどっちが早いんだ。」


雷ちゃん、怪獣大戦争が起こったらその場所にいる種族は全滅。

そうなるとまた、輪廻の会合の措置が不完全になるんじゃないのか。

そして、暗黒の時代が到来。

次代の輪廻の会合に集いし者どもを雷ちゃんたちアーティファクトが探す旅に出立へという流れだな。


「シュウ、何を他人事のように言ってんだ。

怪獣隊戦争の引き金はてめぇだろうが。

これからのシュウの輪廻の会合に集いし者どもとしての役割は怪獣大戦争を未然に防ぐことだと俺は思うぜ。」


そんなもの止められるぐらいだったら真性甲斐性なしなんて言われてないぞ。

おれはひたすら膝を抱えて怪獣大戦争が終わるのを待つしかないんだよ。


「そんなこと言ってねぇで、何とか未然に防ぐ方法を考えろ。」


無理だ。あきらめろ雷ちゃん。


雷ちゃんと不毛なやり取りをしているとイリーナが不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。


「どなたかと念話されていたのですか、旦那様。

午後からリーナ様、真の大魔王様にトレント族事業と教会事業、それに魔族の融合事業についてどのように説明するかを話し合っていたのでしょうか。」

「あっ、あぁ、まぁ、そうなんだよ。

今のイリーナとの話で魔族の融合事業についても説明する必要がでてきたからな。

あっ、死神さんにも報告しなきゃ。」


その時、ヒュッと俺の頭上に一陣の風が舞った。


「私を呼んだ? シュウ君。

何か困ったことがあったのかしら。

あら、イリーナちゃん、いらっしゃい。

毎日、ご苦労様ですわね。

シュウ君を起こしに、いえ、餌付けに来たのかしら。」


どこから現れたんだ、死神さんは。


"食堂の前を通りかかったら雷ちゃんと念話する声が聞こえたので、お世話をしに来たの。"


頭の上で聞こえたヒュッて音はナタ婆を振ったためか。


"悩み事から解放してあげようと思って。

傀儡になれば悩まずに済むわよ。"


やめれぇぇ。


「ところでシュウ君、今日の午後はリーナ様にトレント族事業と教会事業について説明に行くのよね。

それと、はい、魔族軍と人類軍の停戦とその後の魔法の空打ち合いに関する計画書(案)よ。

お待たせしてごめんね、ちゃっちゃと仕上げればいいのに。

ぐずぐず言って口ばっかり動かして、手は動かさないんだから、じいさんは。

それと悪いけどトレント族事業については詰め切れてないわね。

エリナちゃんたち王都組の情報をもう少し加味して計画しないと。

ほんとに概要しか記載されていないの。

後でスリッパで鍛え直しておくから少し待ってくださいとリーナ様には伝えてね。」


俺は恐る恐る死神さんが入ってきたと思われる食堂のドアに視線を移してみた。

何かどす黒いスライムみたいな粘液が広がっていた。

ついに限界を超えて溶けちゃったか。

これでこの停戦計画書(案)にイリーナたちの魔族の融合についても追記してくれと言ったら確実に蒸発して、どす黒い雲になり、旅団基地と教会本山に黒い雨を降らせそうだな。

魔族の融合については口頭で説明することにしよう。


「ところで、シュウ君とイリーナちゃんはここでどんな話をしていたのかしら。

私も混ぜてくれない。

それとも夫婦のじゃれあいには入ってほしくはないのかしら。」

「あっ、別にそういうことはないですよ。

逆に聞いてほしいことがあります。

良いだろ、イリーナ。

イリーナたちの魔族の融合事業について死神さんに話しても。」

「構いませんわよ。是非、聞いていただきましょう。

死神様は皇帝派との交渉にも同席されるのですよね。」


「魔族の融合事業? シュウ君、また、何か新しいことを始めるの。

甲斐性がないんだから何か始める前には私に相談してからにしてね。

わかったわね。」


「あっ、はい。喜んで。」


つい反射的に言ってしまった。


結局、イリーナから皇帝派と尊王派の融合を進めることや魔族領での教会事業を尊王と尊王の一族の役割として進めることなどを説明してもらった。


「そうですか、イリーナちゃんも月の女王としての役割を見出せましたのね。

私もできるだけお手伝いしますね。

私は闇の使徒、イリーナちゃんの仕事を手伝うのが私の役目。

イリーナちゃんの言うことを聞かない魔族はみんな傀儡にして、名もない地下に放り込みましょうね。」


やんちゃな魔族の運命が決まった瞬間だった。


「ありがとうございます。死神様。

でも、私の進める事業に反対する魔族には私の話を分かってもらうまで説得を続けるつもりです。

しかし、それでも反抗する者には、ふっ。」

「ふっ、ですのね。承りましたわ、月の女王様。」


えっ、ふっで分かったの。マジで。

どうなっちゃうの、反抗的な魔族は。


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。


長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。


3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。

こちらの作品も宜しくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ