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32話目 輪廻の会合と月の女王 その4

「イリーナの望みは、より大きな心を持って、月の女王にふさわしいぐらい広く人々を支えたいということだよね。」

「確かにそのように望みます。尊王派の住民だけでなくより多くの人々の支えになりたいと思います。

それが私の考える月の女王です。」

「どのぐらい多くの人を支えたらイリーナの思う月の女王と言えるかは俺はわからないけど、まずは尊王派の住民の他に皇帝派の魔族を支えたらどうだろうか。」

「皇帝派の魔族、豹星の北の大陸に住む魔族をですか。」


イリーナは俺の言った意味を噛み締めるようにそう繰り返した。


「尊王派と皇帝派に分かれる前は等しく尊王は魔族の精神的な支えだったんだよね。

まずは原点に返るのはどうかな。

5日後に帝都で皇帝派の魔族軍と人類軍の停戦に向けた交渉をする予定なのは知っているよね。

その交渉では、まずは魔法の空打ち合い、それを取りあえずの措置として本命のトレント族事業についても話をする予定なんだよ。

皇帝派と魔法の空打ち合いに合意が出来たら、もう尊王派の水魔法術士が狙われることはないと思うから尊王派は皇帝派から隠れる必要はなくなり、皇帝派と尊王派の交流も可能になると思うんだ。」


「はい、一昨日もそのようにお聞きしました。

尊王派も魔法の空打ち合いに参加する必要がでてくるかもしれないので、一緒に帝都に行って皇帝派と人類軍の交渉の行方を見定めに来ないかとお誘いを受けましたわね。」

「その場で皇帝派と尊王派の交流について話を進めて、最終的に皇帝派と尊王派の魔族は昔のように区別なく魔族として暮らせるように努力しましょうと皇帝に提案してみないか。」


「二つの派閥に分かれる前のようにですか。

当時は政治や行政は皇帝や貴族たちが担当し、精神的な支柱として尊王やそれに連なる一族がおりました。

その時代に戻そうということですか。」

「当然、すぐにとは言わないけどね。

それにイリーナは月の女王として皇帝派の魔族を支配したいわけじゃないだろ。」

「もちろんです、私としては皇帝派の魔族も新たな時代の到来の中で前に進む勇気が持てるように支えてあげたいのです。

私がどうしろこうしろと皇帝派の者に命じたいわけではありません。

今でこそ、尊王派の政治や行政に積極的に関わっておりますが、本心としては尊王派の住民が自ら進む道を決めて、その様に進んでほしいと思っています。

そして、何かに躓いたときや悩んでいるときに前に進める勇気が持てるように支えてあげたいというのが私の本心です。」


「さっきも話したように、まずは皇帝と話し合い、和解し、皇帝派と尊王派の融合を進めるのはどうだろう。

数百年も交流がなかったからいろいろすれ違いは出てくるのは仕方ないとしても、そのすれ違いを乗り越えて、友好を進める勇気を両派の皆が持てるように働きかけるのはどうだろう。

月の女王らしい役目だと思わないか。」


「月の女王らしい役目ですか・・・・・・」


イリーナはそう呟くとつぶやくと再び考えに沈んで行くような表情になり、口をつぐんだ。

しかし、その表情は先ほどの落ち込んでいた時とは大きく違っており、その頬は赤みを帯び、なによりもその眼には強い光が宿っていた。


そのような状態のまま長い沈黙の後、イリーナは再び口を開いた。


「わかりました。私も旦那様と一緒に帝都に行き、人類と皇帝派の交渉の後に私から皇帝に提案してみます。

もう、魔族として皇帝派だの尊王派だのと勝手に称して、種族の分裂を放置するのは私たちの代で終わりにしましょうと。

同じ種族なんですからお互いに相手を理解し、かつてのように魔族として一つになるように交流を進めていきましょうと。」


「それがいいよ、イリーナ。

そうなれば輪廻の会合の歯車がまた一つ大きく回るよ。

各種族の衰退を防ぎ、平和に暮らしていくという輪廻の会合の目的に近づくと思うよ。」


「衰退を防ぐためにはトレント族事業を進める必要がありますわね。

これは光の公女、エリナが役目。

私、月の女王は皆が安心して平和に暮らしていけるようにするのが役目。

私は対立している者たちの心を静めて、友好な関係を築く橋渡しをします。

人類と魔族の対立は旦那様が皇帝派と話し合い、停戦と魔法の空打ち合いに持ち込むことで解決をはかり、そして、トレント族事業を拡大することで恒久の和平をもたらす。

皇帝派と尊王派の対立の解消はこれも魔法の空打ち合いやトレント族事業により対立する要因がなくなることで進みますわね。

でも、どうやって両派の友好な関係を築いていきましょうか。」


「まずは皇帝と尊王がお互いにそうしようと合意するところからだろうな。」

「それはきっかけにすぎませんわよ、旦那様。

このきっかけを生かして、どう交流を深めるのが良いでしょうか。

交流が深まれば私たちが導かなくとも、自然ともっと多くの交流が始まるのではないかと思うのですが。

その初期の交流については何か私たちの方で進めた方がよろしいですわよね。」


「そうだなぁ、んっ、あれはどうだ。」

「あれって、おいっしゃいますと? 」


「今度の皇帝派との交渉では、トレント族事業が十分に皇帝派に行き渡ったならば魔法の空打ち合いを終了するつもりであることも話すつもりなんだ。」


「はい、そのようにお聞きししたわ。

ただ、トレント族事業の中核となるトレント族の数がある程度は増えないと魔法の空打ち合いからトレント族によるマナの生成、トレント族事業に移れないということでしたわね。

それにトレント族事業を進める順番としては、まずは森の近人であるエルフ族、続いてエルフ族と同じ南の大陸に有る尊王派の地域、最後に皇帝派の北の大陸ということでした。

皇帝派は炎属性の魔法術士が多くトレント族との相性が悪いので、最後になるとか。

皇帝派の前に尊王派ということで何か皇帝派に含むものがあるのではないかと誤解を生まなければよろしいのですが。」


「それと人類領ではトレント族を増やすために必要な喜びの水を集めるために教会事業を起こして、トレント族事業に協力するつもりであることも伝えるつもりなんだよ。」

「はい、それも先ほど伺いました。」

「イリーナ、教会事業の中身を聞いて何か感じることはなかった? 」

「教会事業について私が感じたことですか、旦那様。

人類の住民の方の結婚式や誕生の祝福、葬儀等の人生のベントの場。

それに祈りを捧げる場。

決意や思い、悩みを密かに告げる場。

ということでしたか。

教会に入る前に魔の森の木木の葉を渡し、涙が出ればそれで拭き取ると思いがかなったり、結婚式や誕生の報告ではその当事者がもっと幸せになったり、辛いことはそれが軽くなったりするというおまじないを広めるんですよね。

その教会事業に感じることですか。

どういうことでしょうか。」


「人類の教会は人の心に寄りそう施設になるということなんだ。

そんなところが尊王派の地域に、かつては皇帝派の地域にもあったんじゃないのか。」


「人の心に寄りそう所、今は黒い霧の壁の中にしかなくて、かつては北の大陸にもあったもの・・・・・・・

あっ、尊王の社、尊王に連なる一族の施設ですか、旦那様。」

「それだよ。」

「それは人類の教会事業を尊王派の地域と皇帝派の地域で広めるために、教会の代わりに尊王の社や尊王に連なる一族の施設を使用するということですか。」

「教会事業はトレント族を増やすのが目的だけど、教会そのものは人々の心に寄りそう場所にしたいんだ。

尊王の社や尊王の一族の施設でも教会事業を始めれば、教会事業の拡大と共にトレント族事業は拡大するし、イリーナの志である魔族の人々の心の支えになるんじゃないかと思って。」

「そうですわね。

月の女王として皇帝派と尊王派の融合をはかり、その住民の心に寄り添い、そして、トレント族事業を拡大させることができますわね。

そうですわ、教会事業を尊王派と皇帝派の地域で拡大することが私の月の女王としての使命になるということですのね、旦那様。」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


3/5より新しい物語「炎の誓い 聖戦士のため息 別伝」を公開しています。

この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。


第108旅団の面々は3つのパーティに分かれて行動していました。

「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」

の本編ではシュウを中心として、月の女王に会いに。

「優しさの陽だまり」ではエリナを中心としたエルフ王族の寿命の調査にエルフの王都に。

もう一つの「 アラナの細腕繁盛記 越後屋の守銭奴教繁盛記」では駄女神さんを中心とした風の聖地の運営に。


「炎の誓い」では旅団の面々がエルフ領で活躍している間に起こってしまった人類領への魔族軍の大侵攻について、それを阻止した炎の使徒の活躍について語ったものです。

是非、お楽しみください。


「聖戦士のため息」シリーズとして、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。

これも「聖戦士のため息」シリーズの重要な物語の一つとなっておりますので、お読みいただけたら「聖戦士のため息」シリーズがよりいっそう美味しくいただけるものと確信しております。


シュウとエリナ、イリーナや輪廻の会合に集いし面々が活躍するサーガをお楽しみください。



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