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31話目 輪廻の会合と月の女王 その3

「そうですね。

尊王派が皇帝派とまだ一緒に暮らしていた時期は、尊王とその一族は魔族の精神的な支えとなる役割を負っていましたね。

今では確かに、実業、行政に直接携わることが多いですね。」

「今でも尊王様は皆の精神的な支えですけどね。」

「つるはしさん、そうですか。

私なんて精神的に何の支えにもなっていないと思いますけど。

その分、実務で、尊王派の地域で行政が滞りなく運営されるようには力を尽くしているつもりですけども。」


イリーナは何か不思議そうな表情でつるはしさんを見て話しをしている。


それに対して、つるはしさんは真剣な、それよりも高揚したような表情、少し頬を赤らめて言葉を続けた。


「それでも尊王様が尊王の社にいらっしゃるだけで私たち尊王派の住民は安心できるのですよ。

尊王様は多くの住民の顔は知らないと思いますが、黒い霧の壁の中で生活している住民は全員、尊王様の顔を知っています。

それに顔見知りでなくても尊王様は尊王派の全ての住民の幸せを願っていることも知っています。

この世で誰も気に掛けてくれる人がいない孤独な方でも、尊王様だけはそんな方を心配していることを知っています。

だから尊王派の住民で天涯孤独何ていう者は一人もいないんです。

全ての住民が尊王様の暖かい眼差しの下で日々暮らしているんです。」


そんな熱いつるはしさんの言葉を聞いたイリーナの目にあの水が溜まって来るのが見て取れた。


「イリーナにとって尊王派の住民は家族なんだな。」

「シュウ君の言う通り、尊王様は皆の家族なんですよ。」

「やっぱりイリーナは立派な今代の月の女王だ。

代々の尊王様と同じように月の女王として尊王派の住民を温かく見守り続け、必要な時には大きな心で行政機関を動し尊王派の住民の手助けしているんだろうな。」


「そんな、私が大きな心を持っているなんて。

まして月の女王にふさわしい大きな心を持っているなんて。

そんなことはありませんわ。」


そう言うとイリーナはまた下を向いてしまった。

その様子を見たガサツなつるはしさんはオロオロしている。


「イリーナ、そう思っているのなら、これから大きな心を持つように頑張ればいいんじゃないか。

イリーナの思う大きな心を身に付けられるように頑張ればいいんじゃないか。

エリナだって光の公女として覚醒したのはその使命に目覚めたからなんだよな。

それは光の公女としての役目を果たし終えたと言うことではないよね。

光の公女としての役目がトレント族事業を軌道に乗せ、全種族に広めることにあるんだったら、その実績はまだ何もないに等しいんじゃないかな。

王都以外には旅団基地の周りの森に2体のトレントさんが居るだけなんだよ。

まだまだ光の公女としての役割なんて果たしていないんだよ、これからなんだよ。

これから一歩一歩前に進んで行こうとしているんだ。

だから、イリーナも月の女王として少しづつその心を広げて行って、多くの者を支えてあげればいいんじゃないのかな。」


イリーナは顔を再び上げて俺の方を見た。

その目には俺が言った言葉の意味を必死に捉えようとしているような真剣な光が宿っていた。


「大きな心を持てるように努力するのですか。

今は月の女王としての大きな心はなくても、そうなるように頑張れば良いのですか。」

「そうだよ。そうなるように努力して、真の月の女王、自分が考える月の女王を目指すんだよ、イリーナ。」

「ありがとう、旦那様。

私、いじけている場合じゃなかったわ。

月の女王何てとてもとてもと思っていたけど、そうですよね。

そう成れるように努力もしないで、ただ理想とのギャップに悩んで立ち止まって泣いていただけなんですよね。」


「そうですよ、尊王様。

月の女王と言うのは何なのかわかりませんけど、今の尊王様より偉い大尊王様と言うことですよね。

目指しましよう、尊王様、その大尊王様の地位を。

私なんかよりまだまだ若いんだからこれからですよ。

目の前には無限の可能性が広がっています。

ほんと、私なんかより若くて、・・・・・・、若くて・・・・・・。

あれっ、目から何か出てきた・・・・・・。」


あっ、それは決して喜びの水じゃないな。

取り敢えずイリーナ、大きな心を持つために動揺の水を流しているつるはしさんをなだめてやってくれ。

俺じゃ、無理だ。

あっ、でも"これからですよ、まだまだいけますよ"何て言う慰めはイリーナが言うのは止めた方が良いよ。

つるはしさんも大尊王様を目指そうなんて言うから変な方向に話が曲がってしまうんですよ。


「まぁ、つるはしさんのことは取り敢えず置いといて。」

「置いとくんかい。ちゃんとお世話してよ、シュウ君。」

「えっ、俺が。良いですけど。

本当にいいんですか、俺で。」

「あっ、やっぱいいや。

立ち直れないぐらいグサッとくる言葉を投げつけられそうだから。」

「それはこんなことかな。

"もう若くないんだから夢を見るのは止めて、現実を見たらどうだ"とか"オークだって二本足歩行種族だよ、きっとお似合いだよ"とか。」

「うああああん、シュウ君が言ってはいけないことずけずけと投げつけてくるぅぅぅぅぅ。」


ねっ、だから俺には無理だって。

あと、どうせ流すなら喜びの水にしてくんないかな。

雄オークで良ければ芦高さんにさらって来てもらおうか。

そのまま一緒になれば子供もバンバン出来るよ。


「取り敢えずつるはしさんは落ち着いてください。

落ち着くまで向こうの席で休んでいてはいかかですか。」

「うぅっ、流石が尊王様、お優しい。」


いや、話が進まなくなったからあっちへ行っててと言う意味だと思うぞ。


尊王様にお優しいお言葉をもらったつるはしさんは向こうテーブルに・・・・・、じゃなくて、また、厨房の入り口に首をつっこんでサッちゃんさんたちと雑談を始めてしまった。


まぁ、たいしてダメージがなかったと言うことだよね。

流石、打たれ強いと言うか、お年の分だけ経験を積んでいると言うか。

あっ、諦めですか、それは大事ですよね。


そんなつるはしさんとのやり取りの間に落ち着いたのか改めてイリーナが口を開いた。


「旦那様、月の女王としてふさわしい大きな仕事、大きな心を持つために必要な役割とは何でしょうねぇ。

本当は私が考えなければならないのでしょうが、中心にいる者の旦那様のお考えを聞いておきたいと思いまして。」

「う~ん、俺は今でもイリーナは月の女王としての役目を果たしていると思っているけどな。

それより、大きな役目ねぇ、何だろうな。」

「旦那様は先ほど光の公女はお日様の様にその強く輝く光で広く人々を照らし、幸せに導くものだと。

それに対して月の女王はその優しい光で闇を照らし、傷付いた心を優しく包んで癒し、明日の生きる活力を与えるものだとおっしゃっておりましたね。」


「あれは俺じゃなくて輪廻の会合に集いし者どもの誰かが言っていたこと思うんだけどな。

光の公女が生きる目的を示し、月の女王は生きる活力を与えるか。

どうやったら、その活力を人に与えることが出来るんだろうな。」

「明日を生きる活力、明日に踏み出す勇気でしょうか。」

「その為には今日が充実していたり、足元がしっかりしていないと明日には踏み出せないよな。」

「そうですわね。

足元がしっかりして背中をしっかりと支えてもらっていると言う実感がないと不安で仕方ないですわね。」

「尊王派の住民はその点、イリーナという指導者、崇拝する尊王がいるから心の支えは充実しているよね。」

「そうだと良いのですけど。」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


感想や評価、ブックマークをいただけると励みになります。

よろしくお願い致します。


本物語"聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます"も第620部分(3/25公開予定)でようやく終了を迎えます。


長い間、お付き合いをいただきありがとうございました。


3/27日より新しい物語、"聖戦士のめまい 肉壁狂響曲"を公開していく予定にしています。

こちらの作品も宜しくお願い致します。


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