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6話目 魔法術士と聖戦士

190310 一部設定を修正

「ふーっ」


彼女は深く息をつき、ようやく落ち着いたようだ。表情も随分柔らかくなった。


「ありがとう。私は<エリナ>よ。」


そういって、マントのフードを取った彼女は肩まであるブロンドの髪を風でなびかせていた。

はためいた髪に光が当たりキラキラと輝く。

ああっ、聖女様だ。ほんとに素敵だと改めて思った。

歳は俺と同じぐらい、身長はわずかに俺よりも高い165cmぐらいか。

俺だって、これからの成長期でもっと伸びるさ。


「俺はシュウ。そのマントは教会本山の術士? その年だと見習いかなぁ。」


「そうよ。見習い術士3級よ。」


「3級ということは職校2年生?」


教会本山の職校は魔法使いのための術士コースと聖戦士コースがある。

普通は13歳で職校に入学し、見習いとなる。

術士コース1年生は見習い術士4級、聖戦士コースは見習い剣士4級にランクされる。


職校を卒業するには3年間で1級まで昇格し、その後、卒業試験に合格する必要がある。

卒業すると教会に併設された対魔族討伐組織に配属されることになる。

また、見習いが取れ、術士コースからは術士10級、聖戦士コースからは剣士10級にランクされる。


卒業できない場合は教会の運営に関わる部署に就職するか自主的に退学して次の道を探すことになる。

また、在校中に大きな問題を起こした場合は退校処分となる。


「ということは、エリナは、いや、エリナさんは俺より一つ上の14歳か。」


「違うの。飛び級で職校に入ったの。まだ13歳よ。」


「すげーっ。教会本山の職校に飛び級入学!!!!

もしかして天才なのか。」


しかし、俺の飛び級天才発言の後になぜかエリナの表情が急に曇り、下を向いてぶつぶつ言い始めた。


「・・・・・・・・・私が望んで飛び級入学したんじゃないのに。

飛び級できると知って舞い上がったお父様とお母様が勝手に私を職校に押し込んだだけなのに・・・・・」


エリナの飛び級は何か訳ありで、入校後に後悔しているようだ。


すべの子供たちは5歳の誕生日の前後に教会で魔法適性の検査を受ける義務がある。

その子供の魔法の属性と魔力の資質を見極めるためだ。


魔法の属性は、例えば、火属性や水属性とか言われるものを検査することになる。

また、魔力は魔法の威力やその量を検査することになる。


ほとんどの子供は一つの魔法属性が使えるのみで、二つの属性を使える子供が見つかることはまれである。


また、魔力にしてもほとんどの場合大人になっても炊事などの家事に役に立つ魔法を使えるのがせいぜいである。

それでも、洗濯を水魔法のクリーニングですぐに終わらせられるのは超便利である。


教会本山が欲しい魔族と戦えるような魔力を将来持つことが期待される子供は50人に1人である。


検査は教会が用意した魔力測定器で測定する。

魔力測定器は水晶玉のような球状をしており、子供はこの水晶玉を軽く握りしめるだけで、あとは勝手に水晶玉が検査し、結果をその中に表示する。


子供たちは検査後の翌4月になると地元の町や村にある小学校に入学、つまり6歳児での入学である。

それから4年間9歳まで一緒に勉強や行事を行い、小学校生活を楽しむ。


10歳になると一般人はそのまま地元の町にある中学校に入学する。

中学校3年間で13歳時に入る職校の進学先を決めるためにいろいろな職業を経験する。


一方、優秀な魔法・魔力を持つと判定された子供は10歳になると比較的大きな町の教会に併設された魔法幼年職業訓練校に入り、魔法の基礎を学び始める。


魔法幼年職校は全寮制であり、魔法を研鑽していく他に魔族や魔物に関する知識、将来魔族討伐のチームを組むためのチームワークの在り方などの研鑽も積むことになる。


魔法幼年職校でのカリキュラムは相当高密度であり、3年で学ぶことを2年以下で習得することは至難の業である。


「なんか飛び級に思うことがありそうだな。いやなことに触れて悪かったよ。

今度は俺のことを話すよ。

エリナに全く関係ないとも言えないからな。」


「どういうことなの。」


初めて会ったのに俺ともう関わりがあるといわれたので、きょとんとしている。

その首をかしげたところがまたかわいいんだけど。


「俺はこれから本山の聖戦士になるため職校の試験を受けに行くんだ。

まだ、時間があるから途中で武者修行をする予定だけど。」


「えっ。そうなの。」


驚きの表情から少しずつうれしそうな表情に変わっていき、なぜか最後は満面の笑顔、ではなく小悪魔的な薄笑いを浮かべるエリナだった。

小悪魔でも素敵だ。


「ふーんっ。聖戦士を目指しているんだ。

体が少し華奢だけど、耐えられそう? きびしいわよ。」


「体はこれからもっとできてくるし、元聖戦士の父からこの3年間厳しく鍛えられたからすぐ脱落するようなことはないと思うよ。たぶん。」


「お父様は元聖戦士なんだ。

子供が職校に入る年頃の元聖戦士というと、失礼を承知で言うけど、良く前の大防衛戦を生き残れたわね。

とんでもなく強いのね。お父様は鬼神じゃないの。」


「鬼神かどうかはわからないけど、自分でもよくあの戦を生き残れたと言ってたよ。

でも生き残れたのは自分の力じゃなく、チームを組んだ母のおかげだと言っていたよ。

俺にとってはこの3年間の訓練中の父は明らかにただの大鬼だったけど見かけも含めて。」


「自分の子の生死がかかっているのだから、鬼になるのも仕方ないと思うけど。

あなた有望ね。唾つけといて良いかなぁ。

職校に入ったら一緒にチームを組んでほしいなぁ。

どう、私と一緒に戦わない? 」


「そんな出会ったばっかりの俺を信用して簡単にチーム結成していいの。

実力を見もしないで。よく考えた方が・・・。」


「わかってないわね。

聖戦士コースに入校したあなたの価値についてお父様かお母様に聞いていないの。」


「ある程度は聞いているよ。

加えて母からは聖戦士コースに入って、チームを組む時には変なのに引っかからないように言われたけど。

ねぇ、本山の職校って変なのがいっぱいいるの?

エリナは普通そうで良かった。」


本山の魔法職校の聖戦士コースに入る資格があるのは5000人に一人ほどである。

聖戦士になるための条件は、まず、魔法が全く使えないこと、つまり5歳時の魔法・魔力検証でどの属性魔法にも適正がなかったことである。

さらに、非常に魔力が高いことも求められる。

これは転写魔法を駆使するために多大な魔力が必要なためだ。


しかし、聖戦士の高価値はその希少性のためではなく、魔法術士と聖戦士のチームによる圧倒的な魔法攻撃力にある。


魔法の効果をより高めるためには同じ属性の魔法フィールドを魔法の発動場所、つまり敵の側に展開しておくことが重要である。同じ属性であれば魔法効果は100倍に、逆に火属性と水属性のように相性が悪い場合は1/100に効果が落ちてしまう。


また、魔法属性フィールドの強さにも魔法の効果が依存する。

魔法属性フィールドの強さは自分により近い方が強く、そこから離れて遠くに行くほど弱くなる。

敵が遠くにいればいるほど属性フィールドの強さは弱くなる。


さらにこれが一番魔法術士にとって頭が痛いことなのだが、魔法を発動する場合の大きな制限として、自分で展開した魔法属性フィールド内でしか魔法を発現させることができないことである。


ところで、魔法はある特定の金属に写すことができる。

一番身近なのは鉄である。

よって、通常の武器に魔法を転写することができる。

もちろん、鎧などの装備や指輪などのアクセサリーにも転写できる。

武器に魔法を転写した後に魔力を流すことで魔法を発動することができる。


しかし、これも困ったことに武器に転写した魔法を発動させるためには転写した本人が魔力を流さなければならない。

他人が魔力を流しても転写した魔法は発動しない。

これは同じ魔法でも若干の個人差や個性が生じているためと考えられている。


例外として、魔法を持たないものが転写した魔法に魔力を流すと転写魔法は発動する。

自身では魔法を持たない聖戦士は魔法術士に自分の武器に魔法を転写してもらい、その転写魔法の大まかなイメージを持っていれば、転写魔法に魔力を注ぐことで魔法が発動する。


以上のことから、最も魔法の効果を高めるためには、接近戦の得意な聖戦士に敵に接近してもらい、転写した魔法属性フィールドを発動してもらえば敵の近くで強い属性フィールドを展開できるために強い魔法を発現できることになる。


さらに、聖戦士と魔法術士が同じ魔法を同時に発動すれば効果は2倍ではなく、9倍にもなる。


そのための前提として、聖戦士が転写魔法属性フィールドを発動した場合には、聖戦士に転写した魔法術士も自身の属性フィールドとして使用できることである。


以上が魔法術士と聖戦士のコンビネーションが非常に有効である理由である。


しかし、魔法の効果を最大限に発揮するためには聖戦士が敵の目前まで接近し、魔法属性フィールドを発現することが必須とされるため、必然的に戦闘時における聖戦士の損失率は魔法術士よりも高くなってしまう。



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