シュウの学生生活 講義と訓練の日々 1話目 熊さんの謀略 草むしりさぼりたい編
アリーズたちと連れ立って、職校の学生課の受付前にきた。
受付のおじさんに新人職校生がそろって登校したことを告げた。
「今日は講義のガイダンスをすると聞いているよ。
担当の教員が来るまで向こうの席で待っていてくれないかな。」
「わかりました、待っています。」
俺たちはぞろぞろと指定された席に座って待つことにした。
どたどたと廊下を走ってくる音が。
ガチャッ。乱暴に開かれるドア。
「わりーっ、待たしちまったようだな。」
熊さんだった。
「さっ、移動だ、付いてこい。説明するぞ。
シュウ、この資料を持ってくれるか。」
「いいですけど。熊師匠、訓練場の草むしりと整備はどうしたんですか。
さぼりですか。カロラさんとエレオノーラさんに昼飯とおやつを抜きにされますよ。」
「いやーっ、今日のガイダンスを担当する教員と昨日の夜、親睦を深めるために門前町で飲んてでな。
盛り上がったのは良いが飲みすぎて公園で2人して寝込んじまった。
朝になり寒くて目が覚めたら、その教員が風邪をひいてしまって、すごい熱が出てな。
病気じゃ、ヒールでも状態異常回復の魔法でもなかなか良くならなくて、今日は安静にしているとのことだ。
それで今日の講義は代わりに俺が来たんだ。」
くさいぞ。熊さんから匂ってきたぞ。仕掛けたな。
「熊師匠、失礼を承知で聞きますが、講義できます?
剣を振り回すのとは違うんですよ。
確かに、剣技の腕は尊敬しますが。」
「何を言っているんだ、たかがこの資料を読み上げるだけだろ。
それぐらい俺でもできるはずだ。」
「熊師匠、ちなみに講義を担当したことはあるんですか? 」
「んっ。ねぇよ、そんなもの。
午前中に頭を使ったら、午後の訓練がおいしくなくなるだろ。」
何がまずくなるって言うんだ。
大丈夫かこの人? んっ。熊?。
かなり変だぞ。
「ちなみに、どちらが飲みに誘ったんですか。」
「いろいろうるせぇーぞ、シュウ。
俺だよ。俺。
さっ、黒魔法協会の訓練場に行くぞ。
今日は外で講義だ。
天気も良いし、気持ちがいいぞ。」
やっぱり。何か企んだな。
しかも小学生レベルでバレバレだ。
でも、本来の教員が来ないので熊師匠についていくしかないな。
ドダッ、ドダッ、ドダッ。
ガチャッ、ドアが開いた。
青い顔をした教員が慌てて入ってきた。
「すまない、ちょっと体調がいまいちで少し治療をしていて、講義におくれてしまった。
とりあえず君たちに講義室で待っていてもらうように、イムレ先生に伝言と引率をお願いしたんだが。
今、講義室に行ったら誰もいなくて、もともとの集合場所のここに来てみたわけだよ。
見つかってよかったよ。
さぁっ、皆さん講義室に向かいましょう。
イムレ先生なんか行き違いがあったようで、申し訳ありません。
講義がありますので、失礼しますね。
みなさん、付いて来てください。」
と率先して、部屋を出て行ってしまった。
せこい熊さんの陰謀に気付いた俺以外は何のことだかよくわかっていないみたいだが、とりあえず本来の教員が教えてくれることになったので、後について講義室に行くことにした。
俺は憔悴した熊さんに向かってつぶやいた。
「カロラさんに言うのとエレオノーラさんにチクるのどっちがいいですか?
それともソニアさんがいいですか?」
「シュウ君、いや、シュウ様。
このことはやつらにはないしょにねっ。ねっ。」
「考えて置きましょう。
でも、次やったら確実に3人に報告しますからね。
わかりましたか。早く草むしりに行ってください。
昼までに終わりませんよ。」
「はい、もう決してこんなことは致しません。
反省しています。
すぐ草むしりをさせていただきます。」
熊さんは担当教員を酔わせて、公園に放置して風邪をひかせ、今日の講義担当を強引に変更しようとしたのだろう。
ここからがさらにいやらしいところだが、天気が良いことをいいことに、俺たちを黒魔法協会の訓練場に連れ出し、講義の一環として訓練場の草むしりと整備をさせるつもりだったらしい。
俺が居なかったら、うまくいく芽もあったかもしれないが、俺が一緒じゃバレバレだよね。
ちょっと考えればわかりそうなもんだが、脳が筋肉でできている人たちは、これだから。
講義室に着き、これからの講義について、科目、内容、試験等について説明を受けた。
全部は覚えきれないので、良く講義のしおりを読んでほしいとのことだった。
また、わからないことは遠慮なく、教員や先輩に聞いてほしいとのことだった。
特に先輩は先生の性格や試験の内容について代々受け継いできたものがあるので、その情報を良く引き出した方がいいよと教えてくれた。
説明が30分を過ぎたころであろうか。
ガタン。ぐぅ。ガタン。ぐぅ、ぐう。
船上で働いていらっしゃる方が出た。
当然、それはボル〇ーナ様だ。
講義初日から。それも始まって、30分で。
「先生、質問があります。」
「なんだい。確かボルガ君か。」
「初講義で30分で寝た人が聖戦士職校を卒業した確率はどのくらいですか。」
「うーん、そうだね。
あまり細かい情報は持ってないけど、初日の講義で寝ちゃった人で卒業できたのは・・・、イムレさんぐらいじゃないの僕が知っている中ではだけど。」
やっぱり熊さんも寝てたよ。初日から。
どうやって卒業したんだろあの人。
あっ、飼い主さんがすごい人だから裏から卒業したんだ。
裏口卒業。
もう、ボルバーナも正規の卒業は無理そうだから、裏から出してくれる人を早く見つけた方がいいかも。
エノオローラさんに身を捧げたら、研究材料として出してくれるかも。
筋肉が詰まった脳なんて見てみたいんじゃないの研究者としては。
その後も休憩を挟みながら、ガイダンスは続いた。
裏口卒業が確定された方は、その後も口から液体を流しながら、昼までずっとお休みだった。
寝てるぐらいだったら、熊さんの草むしりを手伝えばいいのに。
職校の罰ゲームは草むしりで決定というのはどうかな。
ちなみに俺は寝てないぞ。眠たかったが。
ガイダンスが終わり昼食に行こうとするとガバッとボルバーナが跳ね起きた。
「飯食い行くぞーっ。」とものすごい勢いで寮の方に走り去った。
寝てても腹はすくもんね。
でも、これで+ウルトラWにしたら確実にお腹がポヨ~ンだよね。
残された4人で雑談しながら食堂に入ったときにはボルバーナは+ウルトラWの一つ目の+ウルトラを既に食べ終わっていた。
俺たちが窓口で自分の食事を受け取ったころには全部食べ終わって、またテーブルに伏せて昼寝を始めていた。
まずいよ。食ってすぐ寝ちゃ、ポヨ~ンじゃなくてポヨポヨ~ンだぞ。
今日の昼のメニューは親子丼と野菜の煮物、スープ、バナナだった。俺は今日も+スペシャルにした。午後から訓練だもんな、しっかり食べよう。
食事をしているとエリナが職校長室から戻って来た。
慌てて、食事を受け取りこちらにやって来た。
そして、俺の隣で寝ていたボルバーナを押しのけ、俺の隣の席を確保した。
さすがスタイルの良いエリナ様。
ちゃんと隙間に収まりました。ポヨポヨ~ンさんとは違いますね。
「シュウ、親子丼どう? +スペシャルで足りそう? 」
「十分だよ。エリナ、それよりも職校長の話はどうだった? 」
「すごい叱られたよ。食堂で魔法を使っちゃダメでしょって。
食堂の女子トイレの掃除1週間の刑を仰せつかったわ。
まぁ、これまでもやって来たから慣れてるわ。5分で終わるし。
男子トイレもやったげようか。シュウが使う前後に限定で。」
いいです。エリナさん、美少女様が堂々と男子トイレに入らないでください。
「遠慮しておきます。
それにしても、あの騒ぎについては何のおとがめなしなの? 」
「当然よ。私とシュウの婚約披露会だもの。
誰にも文句を言わせないわ。ふふんっ。
なんてね。実はそこのところの罰を恐れていたんだけど、別に指摘をされなかったわ。
職校長は大〇のところは腹を抱えて笑ったって。」
「もう世捨て人しかないな、俺の将来。」
「そしたら、私も世捨て人になるわ。
2人でのんびりとしようね。」
「エリナさん、ところでトイレ掃除の罰の原因は何だったんですか? 」
「結局、叱られたのはシュウに抱き付くために、有刺鉄線を超えるときに低空飛翔の風魔法を使ったの。
食堂での魔法使用は厳禁とされているので、そこを指摘されたの。
他は特にないわ。
一番は大〇と言われた私を気遣って、ちょっと話をしたかったとのことだったわ。
婚約披露会で婚約者を大〇と呼んだ、旦那様。
こっちのほっぺもさみしいと言っているわ。
ささっ、チュしていいよ。」
俺、一生エリナに言われ続けるんだろな。
大〇の件。
「ウフフッ。私たちの子供には絶対に教えてあげなきゃね。」
「勘弁してください。」
「どうしようかなあ。」