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8話目 エリナの謀略 寮の新歓編

着替えを済ませて、俺は食堂にやってきた。


既に多くの寮生で食堂は埋め尽くされていた。

誰もがその目を血走しらせ、まさに獲物を狙う餓えたオオカミたちの有様であった。


俺は食堂の真ん中にセットされた壇上の前に案内された。

このまわりは有刺鉄線で保護され、一般の寮生と新寮生を分けるような配置にされていた。


有刺鉄線、ここのひな壇は軍事基地か。


エリナは俺を見つけると気丈にもオオカミたちをかき分け、有刺鉄線を、ジャンプ一番、飛び越えて俺に抱きついてきた。「私の旦那様、だーい好き」と言う絶叫と共に。


そして、そそくさと俺の左手を自分の左手で握って、オオカミさんたちに誇示するように、高々と上げた。その薬指にはうるさいさんとメイドさんがきらりと光っていた。


その手をオオカミさんたちに見せつけたまま、俺とともにゆっくりと階段を一歩一歩踏みしめ壇上に上がった。

そして、ゆっくりと回り始めた。


ペアの魔道具を見せつけるためである。


そこで漸く俺は気付いた。

エリナの衣装が軍の礼服ではなく。

真っ白なふんわりとした、腰のところがキュッとしまったドレスということに。


オオカミさんたちは、唐突な演出に驚き、そして見習い聖戦士の一人がすでにペアになってしまったことに驚愕し、すでに出し抜かれてしまった己の迂闊さを蔑み、何も言えないまま、ただただエリナの演出を見つめるだけであった。


壇上でゆっくりとみんなに俺たちを見せつけながら、そっとエリナが耳元でささやく。


「ペアの魔道具、それもペアの指輪。

シュウは軍の礼服、私はウェ〇ィ〇〇ドレス。


ここまで、見せつけたらどのメスオオカミもシュウにはちょっかいは出さないでしょう。


末永くよろしくお願いしますね。旦那様。」


何だ、これは何だ。

本当にメスオオカミたちを遠ざけるためだけの演出なのか。

ちょっと待て、俺、冷静に考えるんだ。


メスオオカミを遠ざけるためだけなら、こんなドレスを着なくてもいいじゃないか。


もしかして、オオカミさんたちを遠ざけるのは口実で、新歓パーティを乗っ取り、己の婚約発表会に塗り替えるつもりなのではないか。

それは策士すぎるぞ、エリナ。


たっぷりとペアの象徴である魔道具をみせつけたあと、エリナは高らかに宣言しだした。


「皆さま、本日は私たちのためにお集まりいただきありがとうございます。」


確かに皆は俺たち(新寮生)のために集まってくれた。


「このように、私たちはペアとして、ともに歩んで行くことにしました。」


うんうん、ペアとして一緒に魔族と戦うぞ。エリナ。


「ペアとして、公私共に一つの番となり幸せになることを皆様の前で誓います。」


公私、「私」、私の部分までみんなの前で誓っちゃったよ。

このひと。


「腹黒ーぇっ。エリナは己の欲望のために使えるものはなんでも使うってか。俺にはまねできねぇーっ。」

「さすが奥様、皆さんの前で堂々の結婚宣言ですね。その逞しさに旦那様も満足されています。」


満足なんてしてねぇよ。

恥ずかしすぎるだろ。全寮生の前での結婚宣言。


皆ドン引きして、後ずさりしているぞ。

だれか、この茶番劇を止めてくれーっ。


「いけませんわ、旦那様。奥さんがメスオオカミどもからお救いするための策ですのに茶番劇などとおっしゃっては。」


「でもよーっ。本当にこれはシュウを救っているのか。エリナは自分の欲望を満足させたかもしれないが、シュウはただの晒しもんだろ。明日から職校に行けねぇぞ。」

「婚約発表は晒されてなんぼですわ。」


俺は晒しもんだーっ。


" さっ、旦那様からも一言お願い。

気の弱い私はこのようなひな壇で皆さんの視線にされされるのはちょっと苦手なの。"


「そのセリフをどの口がいうかーっ。」


うるさいさんと心が通じた瞬間だった。

いつも身に着けていると心が通い合うんだなぁーっ。

昨日は外して試験に行ったけど。


ここでエリナは俺の手を自分の腰に回し、俺の胸に顔を沈めた。

これは皆の視線を俺に集中させ、自分は晒しもんから回避する策に出たか。


「おい、シュウ。エリナが次の策を繰り出したぞ。

後はお前だけ晒されろ作戦だ。」


ううっ、わかっているけどここは動けねぇ。

どう動くのが正解かがわからん。


「何もしないで立っていると余計注目を浴びるぞ。

ここは被害を拡大させないためにも、すぐ逃げるんだ。


そして、一週間自分の部屋に閉じこもり、恥ずかしさで悶え苦しむんだーっ。」


それはここまで来てしまってはどう転んでも、もだえ苦しむことになるということですか。


「このままだと職校でも皆に指をさされて、職校でも寮でももだえ苦しむことになるぞ。


早く部屋に引きこもれ。1ヶ月も引きこもれば皆のうわさも鎮まるはずだ。

そこで何もなかったように普通の生活に戻ればいいんだ。」


ここはうるさいさんの言う通り、逃げて引きこもるか?


" ダーリン。皆あなたの言葉を待っているわ。

ここは私の婚約者らしくかっこよく決めてね。


将来、私たちの子供にパパのカッコよさ名場面の一つとして話すんだからね。"


そっ、そういうことだったのか、さすがエリナだ。

将来、俺の娘にかっこいいお父さんというところをアピールするための思い出作りだったのか、これまでの演出は。


俺、「お父さん、かっこいい」と娘に言ってもらうために、今、このひな壇に立つよ。

ここは気を引き締めてっと。


「シュウ、深みにはまってんぞ、戻ってきた方がいいんじゃねえか。まだ間に合うぞ。早く自分の部屋に逃げ込めーっ。」


いや、俺はやってやる。一世一代の大勝負。


エリナに告白するぞ。

大好きだって、大声だ言ってやる。


俺はエリナの演出に応えるべく、さわやかな笑顔(本人談)でエリナをしっかりと引き寄せ、そしてエリナの目が俺の目と合うようにエリナの顎を右手持ち上げ、俺はついに言った。


一世一代の大勝負を。


全ての寮生が固唾を飲んで見守る。

ついにあのセリフが出るのかと。


そして、大きく息をすいこみ、腹に力を入れて、俺はエリナに告白した。


「エリナーぁ、大ふくだーっ。」


「えっっっ。」「がっ。」「マジか。」「うっそ。ありえん。」・・・・


えっ、俺は何を言ってしまったんだ。


周りをそしてエリナを見てみろ、皆、唖然として魂をあのエレオノーラ様にささげたような顔をしている。


もしかしら、生徒の2割は既にここからは見えない川岸で、死んだじいちゃん、ばあちゃんと世間話をしているかもしれない。


やってしまった。なんであんな言葉が出てきたんだ。


このシュチエーションで言うことは愛の告白しかないだろう。

エリナも皆も、そして俺もそれを期待していた。


何だ大福って言うのは、何なんだー。


俺は昼の訓練ですげー疲れていたので、甘くて腹の膨れるものを食いたかったのか。

いやいや、エリナの白くて柔らかいほっぺに吸い付きたかったのか。


わかった、腹が減っているのとエリナに自分の気持ちを言葉にすることが同時に脳から神経をつたって伝えられ、神経の中で二つの命令がシンクロしてしまい、別命令になって届いたものを口が素直にあのような言葉で吐いてしまったに違いない。


そうだそれだ、俺はエリナも大福も同じように好きで、大切だったんだ


「大福と奥様が旦那様の中では同レベルだったなんて。

軽蔑しますわ。旦那様。」

「もともとこう言う甲斐性のないやろーだよ、こいつは。」


違う今のは違うんだ、大福とエリナがどうレベルだなんてあるわけがない。

俺はただ単に腹が非常に減った状態で、エリナに大切な言葉を伝えるつもりだっただけなんだーっ。


「ダーリン。お腹が空いたの。

今日の訓練きつかったものね。

もうすぐパーティが始まるから一緒においしいものを食べようね。」


エリナ、俺のあの状況での大福発言を気にしていないんだ。さすが天然さんだ。


「でもぅ、あそこでの大福はさすがにないと思うの。


どうしようかなぁ。何で償ってもらおうかなぁ。


新しい家が欲しぃなぁ。ふふふっ。2人の新居。ふふふっ。」


「申し訳ございませんでした。俺の天使様。


すぐには無理だけど何でも欲しいものは言ってください。

必ず手に入れます。」


「本当? じゃ、すぐ何手に入るものをねだっちゃおうかなぁ。」


「何なりとご命じ下さい。俺の天使様。」


「じゃ、ほっぺにチュして。

もちもちの白い大福を食べたいんでしょ。」


エリナにはかなわないや。ちゃっかりチュまで手に入れているし。

でも許してもらえそうで良かった。


俺たちが痴話げんか? ラブラブの間に、寮の新歓は今年も例年と同じように進んで行ったようだ。


オオカミさんたちの新寮生へのアピール合戦。

オオカミさん同士の大立ち回り。


今年はけが人がちょっと多かったらしい。

生徒会長によると俺とエリナの仲の良さに当てられたオオカミさんたちが自分もペアが欲しいとテンションを上げて大暴れしたためらしい。


俺は悪くない。と思う。


無事に新歓済んだからいいんじゃねぇ。


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