5話目 G様なのか?
「シュウよ。何か楽しげな声が聞こえるぞよ。
妾も混ざりたいのじゃ。急げ。」
駄剣は何を言っているんだ、悲鳴じゃないか。助けを求めているんだが。
まぁ、急いで行くけど。
「お嬢様。寄り道をすると野宿ですが。よろしいので。」
「良いのじゃ。良いのじゃ。妾はしょせん剣だしのう。
夜露で寝れるのはそなた(鞘氏)だしのう。それより娯楽じゃ。」
野宿で問題ないんだ。だったら初めからそう言えよ。
おれは吹雪の言い様に悪態を付きながら、悲鳴のする方向に疾走する。
途中で剣と盾、組み立て式の簡易弓以外はすべて道端に手放り投げる。
悲鳴は街道沿いの田んぼのすぐ脇から聞こえる。
誰かが襲われているのか。こんな日の高いうちから。
それも街道のすぐそばで。しかも町からそう遠くないぞ。
盗賊などの悪党であればこんな場所で、こんな時間に悪事を働くとは思えん。
まさか、オオカミか魔物か。
俺の頭には最悪の事態が描かれていた。
オオカミや魔物が単体であれば問題なく討伐できる。
しかし、攻撃力の強い魔物が数体あるいは魔物とそれを従える魔族のチームの場合には俺自身も相当危険だ。
そんなことを心の片隅で考えながら、悲鳴の方向に急いでいると。
「シュウよ。危ないと感じた場合には遠慮のう妾を抜け。なますにして見せようぞ。」
「お嬢様。ダンがいっていたように、お嬢様の出番は最後です。」
「おおーっ。それは真打登場というやつよのう。
心が躍るのう。久々の妾の見せ場じゃ。シュウよ。
遠慮のう敵に翻弄されるがよいぞ。ほれほれ。」
今、背中のやつに殺意が沸いた。大剣なので重たいし、走るのに邪魔。
捨てて行こか。
どうせ自分で飛べるようだし。
「きゃーっ。
きゃーっ。
キーっ」
悲鳴は続いている。だんだん大きくなってきたのでもうすぐ着くだろう。
俺は弓と矢を手に持ち、いつでも矢を放てるように準備しながら走る。
脇道に入ところの小川の側で白っぽいフードを被った少女が手をばたばたさせながら座り込んでいるのを見つけた。
「きゃーっ。
きゃーっ。」
少女はまだ叫んでいるが、周りに魔物や敵となるものは見当たらない。
見た目は少女もけがなどはしていないようだ。
俺は取り換えず弓をかまえて、周りを警戒する。
やはり敵対するような者はいないようだ。
慌てて戦闘になるようなことはなさそうなので、弓を下げる。
少女はまだ叫んでいる。
「おい。どうしたんだ。」と俺は少女に叫ぶ。
フードに隠された顔を覗くと、超絶な美少女だった。
透き通るような白い肌が興奮のあまり赤く染まっている。
年は俺と同じくらいか。
まぁ、俺の妹ももう少しすればきっと同じぐらいにはきれいになるだろう。
あの厳つい父からよくもあんなかわいい妹が生まれたもんだ。
神様の気まぐれか。
たぶんだけど、妹が生まれたときに神が降臨したのだろう。
ちなみに母もすごい美人だ。妹よ母に似て良かったな。
父に似ていたらなんて考えたくもない。
弟も母に似て華奢な美少年だ。
一人で外出するときはある特定な趣味の方にまとわりつかれないか心配して、できるだけ一緒に出掛けたものだ。
そのため弟は俺の腰巾着と陰で言われていた、かもしれない。
確信はない。
俺はというとまあ、俺=父×0.4+母×0.6と若干母よりであるが、外見的には特に愛でる特徴はない。
町中で石を投げて当ったやつを見ると俺の様な見た目だろうという、最も存在確率が高い外見と思う。
しかし、目の前の美少女は並外れた美人の領域に確実に入っている。
つまり、町で見かけた場合に野郎の94%が振り返りガン見し、その中の21%がストーカー化すると思われる。
何を言いたいかというと存在が奇跡に近い美少女ということだ。
そんな美少女さんはまだまだ叫んでいる。
「取ってーっ。
取ってーっ。
取ってーっ。」
顔と同じように透き通るほど白い腕をぶんぶん(腕が華奢なので見た目はパタパタ)振りながら腕についている何かを取ってほしいらしい。
腕振りが早いので何がついているのかはっきりと見えない。
残像を脳内処理し、静止画状態に変換し、彼女の腕を確認するが両腕とも何もついているように見えないのだが。
ヒルにでも食いつかれたのか。
「ちょっと、どうした。何もいないようだぞ。
まずは落ち着け。」
何度か声を掛けると漸く俺の方を見ることができて、少し落ち着いたのか、腕振りをやめた。
そして、自分の左手を見て、何も付いていないことを確認できたのか、ほーっと一息吐くのであった。
「すごい悲鳴だったけど、どうしたんだ。
ヒルにでも食いつかれたか。
見たところかまれた跡はないようだけれど。」
俺は彼女のきれいな白い細い腕を確認したが、特に傷が付いていることはなさそうだった。
この辺のヒルは大型になると子猫ぐらいになるジャイアントヒルがいるので、油断できない。
ところで、ジャイアントヒルは魔物かだって? 俺は知らん。
岩と勘違いして何気に近づくとガブリ、一気に血を吸われて貧血で動けなくなり、そのまま吸血され続け、最後は天使に手を繋がれて天上界に召される方もおられるぐらいだ。
「Gが・・・」消え入りそうな声で彼女が。
良く聞こえないので、首を傾げる俺。
「Gが手に・・・・」
やっぱりはっきり聞こえない。何か手に付いたのだろうか。
「Gが飛んできて、手にとまったのよ。」
おおっ。G様が。何億年も生き延びている偉大な種族。
完成された生物、G様が。
「災難だったね。もう逃げたようだからだいじょうぶだよ。
とりあえずそこの小川で手を洗ったら。」
何だGか、大騒ぎしすぎ。
とは思うが女性、いや、男も含めてやつを好ましいと思うものはいないだろう。
「あなた、何言っているの。この小川に手を入れるなんて冗談じゃないわよ。
さっきだって、小川でハンカチを洗っていたら、黒くて足の細い虫が手に乗ってきたの。
ここの小川はGの巣窟よ。
そこに手を入れろだなんて、あなた本気で言っているの。」
すごい剣幕で怒られた。
小川で手を洗うことを進めただけで、親の仇みたいに言われるのは心外です。
でも美少女様だから許す。
ちなみに水中にいたのなら地上の徘徊王G様ではなく、水中生物の<Geンゴロウ>さんか、<やGo>さんではないだろうか。
まあ、今更確認しようがないのでどうでもいいけど。
「わかったよ。
でも、気持ちを落ち着けるためにも冷たい水で手を冷やした方が良いと思うよ。
俺が手で水を汲んで、あんたの手にかけてあげるよ。
そうすれば俺の手の中にGのような変なものがいないことが確認できるでしょ。」
俺は小川にまたがり、手で水をすくい彼女に手の中の水を見てもらった。
「ありがとう。そうしてもらえるとうれしいわ。
あなた、顔は平凡だけど凄く優しいのね。」
俺は何度も手で水を汲んで彼女の手にかけてあげる。
彼女の白い手は瑞々しく、水をかける毎に輝いていた。