6話目 デス〇〇ト
俺とエリナは交代で熊師匠の大剣の指導を受けた。形はどうでもいいのでとにかく振れと。師匠の大剣を受けるときにはしっかりと受け止めろということだ。
そのあとで、効率の良い剣の振り方、相手の剣の受け流し方を覚えればいいので、まずは効率は悪くとも力を使えという教えだった。
当然、2時間もするともう俺とエリナはへとへとだ。
「よし、これで今日の訓練は終わりだ。」
と、涼しい顔で言う熊さん。
まったく、疲れた様子がない。あれだけ俺たちの相手をしても疲れないとは何たる体力。
人間じゃねぇ・・・・・・、熊でした。
突然、師匠の頭からバゴーンッとすさまじい音が響いた。
「いつまでも、エリナとシュウが来ないと思ったら、熊公が立ちふさがって邪魔をしていたみたいですね。悪い熊は私の火炎烈風で焼け踊りしてもらおうかしら。」
おおっ、熊の飼い主の秘書さん。颯爽としたところが素敵な美人さんです。
美人秘書の美脚を見て俺がにやけていると、隣の般若様にほっぺをつねられた。
「ああいうのが良いんだ。ああいう大人の美人が。ぐすん。」
こ、これはまずい。般若よりまずい。美少女様のうるうる攻撃だ。これは耐えられん。あまりの破壊力に心臓がつぶれてしまいそうだ。
「俺もうるうるしたら、シュウになでなでしてもらえるんか? 」
「ガサツな方は無理かと思います。普段から奥様のように可憐な方でないと気持ちが悪いだけです。」
「そりゃ、差別じゃねぇか。よし、試しにウルウルしてやる。」
カロラさん。この大剣にその火炎烈風を転写してください。この指輪を熔解するんで。
「ごめん、シュウ。うるうるなんてしねぇ。
ギャーギャー泣いてみるから。」
むだに泣かんでよい。うるさいさんは俺の今の状況を少しは察しろ。ガサツ者め。
" 俺にとっての一番はエリナだ。
早く、師匠と後見役から〇婦になる許可をもらって、一緒に夫〇官舎に引っ越そうな。
そのためには俺は何だってやるぞ。カロラさんに媚びるのも厭いはしない。キリッ。 "
" ああっ、シュウ、私もよ。その目的のためだったら何だって我慢できるわ。
さっきはごめん。シュウがカロラさんに色目を使ったのかと思ったわ。実はそんな高尚な目的のための行動だったのね。
わかったわ、いくらでもカロラさんの美脚を見て、にやけてちょうだい。"
「ちょ、ちょ、ちょろすぎんだろ、エリナ。
シュウはそんなこと全く、全然思っちゃいねぇぞ。
おい、メイド。
お前の大事な奥様がこのくそ悪党に騙されてんぞ。」
「そんなことはございません。
この前も申し上げたと思いますが旦那様はあえてそのような嘘をつき、奥様との仲を円満にしようとしているだけなのです。
素敵な旦那様です。うっとり。」
誰がくそ悪党だって。
う・る・さ・い・さ・ん。
熔解すれば少しはその口数が減るのかなーーーーぁっ。
「ごめん、俺、昼寝がまだだった。
健康のために昼寝してくる。」
このような壮絶なバトルが裏で繰り広げられていた。
表の人たちは?
「全くこの熊公は、自分の都合だけ優先しやがって。
はっ。違う私のキャラはやり手の美人秘書のはず。
この前お見合いに失敗してからギャルキャラから変わってみせると心に誓ったはずだわ。おほんっ。
熊師匠が自分勝手にお弟子さんの時間を使ってしまって、本来この時間は私のところに二人が来て、魔法の修行をしているはずでした。
本日は時間がありませんので、次の予定である黒魔法協会の総帥、アンタル様のところにご挨拶に伺います。よろしくて? 」
「俺も行くのか、あの辛気臭いところへ。」
「熊公、てぇめーまだ自分の立場っつーもんがわかっていねぇみたいだな。
俺が行くって言ったら黙ってついてくんだよ。ぼけっ。」
カロラさん、地が出てます。地が。
もう無理して、できる美人秘書役を演じなくても良いのでは?
「それではみなさん参りましょう。シュウは初めてだよな。
この熊師匠について行けば大丈夫ですよ、こいつがまた変なことをしようとしたらみぞうちに一発噛まして、大人しくさせてやるぜ。」
混じった、混じったよ、ついに。
キャラを維持できなくなってきたのか。
おれは今後、この師匠たちと修行をすることにものすごい不安を感じた。
ソンバトの先生が如何に優れた指導者であったか、本当に痛感した。
そんな不安のオーラの残り香を方々にまき散らしながら、俺たち一行は古ぼけたツタで覆われた石造りの建物にたどり着いた。
ひぇーっ、絶対この中になんか居る。
人間じゃない何かが絶対に居るという雰囲気を醸し出していた。
「さあ、皆さん総帥のところに行きましょう。
シュウ、アンタル総帥は気難しい人ではないのですが、ちょっと変わっている方なのでその辺は聖母のような包容力で堪えてくださいね。ねっ。」
えっ、聖母のような包容力がないとまともに付き合えないの?
それ、俺は無理だわ。
巨大アイスロックを降らせそうだ。ぺちゃっと。
コンコン。
「どなたですか? 」扉の向こうから落ち着いた女性の声が。
よかった、声はまともそうだ。
「秘書のエレオノーラ参議よ。聖母のような優しい方だわ。」エリナ
「えっ、問題児、じゃないや総帥じゃないの。」
「素敵なおじい様よ、総帥は。」
その素敵な方とお付き合いするには聖母のような包容力が必要なんですよね。
「総帥がお会いになるそうです。皆さん、どうぞこちらにお入りください。」
といって、30歳ぐらいの聖母様のような優しい微笑みを浮かべた女性が奥の部屋に俺たちを誘った。
奥の部屋には60歳ぐらいの少しやせた紳士が立っていた。
黒魔法協会総帥アンタル様だ。
「おおっ、君がシュウ君か。
では早速、麻酔を打つから腕を出して、最初はチクッとするけど3つ数えたら何も覚えてないからね。
さっ、解剖するぞ。君の馬鹿げた魔力の秘密を解明したくて、朝からこのメスを持つ手がうずうず震えてねぇ。
さっ、早くあの手術代に仰向けになって。」
えっ、俺、解剖されるの。
用が済んだら標本にされるの、職校の理科室の。
瞬時に無言で、総帥のみぞうちに見事なアッパーカットを叩き込むエレオノーラさん。
総帥は崩れ落ち、気を失った。
「ごめんなさいね、シュウ君。
総帥は悪い人じゃないんだけど、うーん、自分の欲望に対して素直な人なの。
あなたの膨大な魔力の話を聞き、どういう体の構造をしているがとても興味を持ったみたいなの。
それであいさつ代わりにあのような話をいきなりしてしまったの。全く迷惑ですよね、シュウ君。」
と圧倒的なパンチで敵を沈めたにもかかわらず、聖母の微笑みは全く崩れていない。何だこの人は。
「総帥がこの有様じゃ、あなたの後見役は無理ね。
そのかわり責任をもって、私が代わりに後見役を務めさせて頂くわ。」
そんな状況を作ったのはあなたですと突っ込みそうになったが、ぎりぎりのところで堪えた。
俺だって、枯れたじじぃよりも聖母様の方が後見役になってほしいし。
「でも、今回の人事は軍の上層部がその決定にかかわっているわ。そう簡単には後見役を変更できないと思いますが。」カロラ
「ふーんっ。その上層部とは誰かな。私が直接交渉してくるわ。」
「教会本山軍司令部の副司令長官と人事部長と聞いているわ。」
その時、着ている黒いローブの中から一冊のノートを取り出した。
どれどれとノートをめくるエレオノーラさん。
そして、あるページを開いたとき、目から閃光を放ち、掛けている眼鏡のふちがきらりと光った。
「ほほーっ。
その二人は結構上位に名前が載っているわね。」
何か軍の偉い人リストかな。
「丁度いいわ。シュウ君の後見役の変更の件と私の用事を同時に片付けるられそうだわ。」
「じゃ、ちょっと軍司令部に行ってくるわね。
総帥はそのソファにでも転がしておいて。
シュウ君が本当はこのリストのトップなのに、実際の順番が入れ替わってしまってごめんなさいね。
そのうち必ずに対応しますので安心して待っててちょうだいね。」
と聖母の微笑みをさらに強くして、スキップしながら部屋を出て行ってしまった。
そして俺は見てしまった。
二つのどえらいものを。黒いローブの中がちらっと見えてしまった。
そのノートの表紙には丁寧な字で、解剖候補者リスト。
そして、背中には巨大な鎌を背負っていることを。
やばい、そのノートはデ〇ノートじゃないか!!