5話目 エリナとおばちゃん
熊さん、邪魔です。
誰も出入りできません。
職校で人に迷惑をかける熊さんは手を〇華料理店に売られ、残りは熊汁にして迷惑をかけた人々に振舞われると聞いていませんか。
もう、めっ、ですね。
「熊公でけえっな。何喰ってるんだろうな。」
「あれはプロテインだけを取っているに違いありません。
筋肉が異常に発達しておりますわ。
もちろん脳も筋肉で占められていますけど。
私は旦那様と奥様にはバランスの取れたお食事を召し上がっていただき、健康には留意していただきたいですわ。」久々の登場のメイドさん
「シュウ、いつまで待たせんだ。昼休みが終わったら、俺とやるスケジュールだと聞いているぜ。
師匠を待たせるなんて、昔じゃ考えらねぇぞ。早く模擬戦に行うや。」
あんたは師匠じゃなく、その辺の鼻たれのガキですか。
一応肩書だけは参議なんですから、少しは大人の雰囲気と言うか、落ち着きを纏いましょうよ。
それに今は年功序列の時代じゃないんですから、そんな今は昔みたいな話を持ち出されても迷惑です。
働き方改革をちゃんと理解してください。年5日の有給休暇の取得は義務ですよ。
これでも強制的に職業軍人にされたのですから。有休は働く者の権利です。
「良いから、早く、行こうぜ。
空き地を確保しておいたからよう。」
「わかりました。今行きますよ。
もともと急かせられなくともまずは熊師匠のところにエリナと一緒に今から向かうところでした。」
「熊先生。これからよろしくお願いします。」
「俺は熊じゃねぇ。人だ。」
エリナも熊さんにしか見えないのか俺の師匠は。
もうあきらめて、熊師匠でいいじゃん。
愛称はプ〇さんで決まり。
「もう熊でも人でもいい。この空き地で模擬戦やろ。」
「わかりました。プー師匠のお望みとあらば、不詳の弟子の俺がお付き合いいたしましょう。」
「誰がプー〇郎だ。俺は聖戦士協会の参議と言う、立派な就職先を得ているぞ。」
「もう、熊師匠わかりました。
とりあえず隣の空き地に行きましょう。
熊師匠が邪魔だと新人研修係の職員の皆様に、ペットはちゃんと躾て置けと言う刺すような視線がビシバシ、俺のガラスのハートに突き刺さっています。」
「それでは、いろいろご指導いただきありがとうございました。うちの熊師匠が暴れださないうちに失礼させていただきます。」
俺はお世話になった新人研修係のお姉さんに丁寧にお礼を言った。
俺とエリナ、世間様的に俺の半ペットに位置付けられた熊師匠は軍司令部の隣にある綺麗な空き地に移動した。
「さぁっ、やるぞ。男と男に言葉はいらねぇんだ。剣と剣で語り合おう。」
熊さんはそう言うと俺に大剣を投げてよこした。素直に受け取った俺がバカだった。
何なのこの熊さん。剣と剣で語り合うなんて、そんな恥かしいこと剣バカのクズミチでも言わねぇぞ。
「では参る。構えろ。」
熊さん自分に酔っているよ、絶対。
では参るだって、そんな臭いセリフ、今時中学生でも言わねぇぞ。
まさかの生きた化石か?
「シュウ、諦めろ。このくれぇ濃い奴じゃねぇとあのゾンビねぇちゃんを追い祓えねぇぞ。ここは我慢だ。」
「私はこいつを追払うのが我が主家の火急の課題だと存じます。旦那様、遠慮なくクマちゃんをぬいぐるみに変えて差し上げてくださいまし。」
こんなかわいくないぬいぐるみ誰もいらんぞ。
俺はこれ以上の事態混迷を避けるため、仕方なく地面に転がっている大剣を拾いあげ、目の前に構えた。
「良い構えだ。行くぞ。
俺の乱れ打ちをどこまで耐えられるかな。」
俺は昨日と同様に、熊さんの大剣をうまく払い除けながら、反撃のチャンスを伺った。しかし、今日は勝手が違った。
昨日は盾とロングソードだったため、熊さんの大剣の攻撃を俺の剣か盾で振り払い、大きく外へ流すことができたが。
しかし、今日は大剣を両手で構えた居るため、熊さんの大剣の打ち下ろしを十分外へ弾くことができず、その分熊さんの攻撃の動きが小さくなり、昨日よりも攻撃の回数と鋭さが増す結果となってしまった。
「シュウどうした。
やられっぱなしではかわいいエリナを守ることができんぞ。」
熊さん、とことん悪役キャラだな。ここで、エリナのことを持ち出さずとも良いと思う。
完全に悪代官だな。越後屋は、んーっと。うるさいさんにしよう。
「こりゃー、人を勝手に熊公の相棒にするんじゃねぇぞ。これでも俺はシュウの相棒・・・・・、恥ずかしくて言えない。ぽっ。」
「このエロ指輪。何色気付いてんだ。ご主人様に懸想したら、私が許しません。ペンチの刑です。」
昨日と同じように、30分ぐらいは打ち合っていただろうか。
特筆すべきことに、俺は一度も熊師匠に剣を打ち出すことができなかった。
さすがは腐っても師匠だ。
やはり、剣の実力では全くかなわない。
「うむ、俺は満足した。ちょっと休憩にしよう。
シュウもこれ以上は剣を持って立っていられないだろう。
シュウはもう少し、いや、かなり基礎体力を付けないと実戦では魔力を使い切る前に体力的に参ってしまうかもな。
戦闘地帯での魔族との戦いでは数時間戦い続けることも珍しくない。
それが一月以上も続いたのが先の大防衛戦だ。
俺も参戦したが、ひどいものだった。
ソニア様は消耗しきって、途中で教会本山に帰軍。
ソニア様は俺のペアだったのだが、ペアをなくした俺は聖戦士をなくした別の魔法術士と急遽臨時ペアを組んで、大戦を何とか生き延びたのだ。
シュウよ、覚えていてほしい。
戦場で相手を倒すのは魔力や魔法、剣技の力かもしれないが、戦場で生き残るためにはあきらめない強い意志と基礎体力だ。
これからしばらくはこうして打ち合って、基礎体力を上げていくつもりだ。
ついてこれるか? シュウ。」
「かならず、熊師匠を討ち取って見せます。金〇郎のように。」
「だから俺は熊じゃない、人だってばーっ。」
「さっ、シュウは一息入れてもらって、次はエリナだな。」
「えっ、私も? 」
「そうだぞ、基礎体力が必要なのは聖戦士ばかりではない。
後方でそれを支える魔法術士も同等の体力がないと聖戦士、つまりお前の大事な旦那様のシュウを見殺しにする羽目になるぞ。
いいのか。」
「全然よくあません。
わかりました、私も鍛えてください。
シュウを、私の旦那様をしっかり守り支えるために。」
「よし。いい嫁だな、シュウ。お前だけうらやましいぞ。
後で一杯、おごれ。いや10杯な。」
俺、熊さんにおごるほどお小遣いもらえるかな。
その前に、師匠が弟子にたかるな。
ふつう逆だろ。「今日の稽古はなかなかよかったぞ、お疲れ、まぁ、一杯のめ。今日は俺のおごりだ」とか師匠が言うのが普通じゃないのか。
やはり、しょせんペットのプ〇さんに過ぎないのか。
「シュウ、お前の大剣をエリナに貸してやれ。今日は大剣を2振りしか持ってこなかったからな。」
「私も大剣で訓練ですか? 」
「えっ、シュウがいつも背中にしょっている大剣はエリナのものじゃないのか。
重くて振れないからシュウが借りているのかと思ったぞ。」
「あれはシュウの持ち物です。」
「そうなのか、俺はうまく説明できないのだが、エリナとあの大剣が深い因縁で繋がっているように感じたのだがな。
まぁ、勘違いか。
いずれにせよ、エリナの基礎体力作りにも大剣を振って鍛えよう。
そっ構えて、まずは素振りから・・・・」
俺はエリナが大剣をよろよろしながら振るのを応援しながら、先ほど熊師匠が言っていた、おばちゃんとエリナの深い因縁とはどういうことだろうと考えていた。