3話目 入寮の儀式と寮生活
軍司令部での最低限の手続きを終えた俺たちは、続いて、職校の学生課に向かった。
こちらの方も石造りで厳かな建物だった
職校の学生課の場所はエリナが知っているので、そのまま、学生課まで進んで行った。
学生課のドアを入って、受付カウンター越しに職員に声をかけた。
「すみません。昨日、入学試験を受けたシュウと言います。
軍の新人研修係からこちらに行くように指示されました。
エリナも一緒です。」
「あっ、はい、シュウさんとエリナさんですね。
話は軍の総務課より聞いています。
すこし、待ってもらって良いですか。
いま、聖戦士職校の新入生にこの職校内を案内しているところです。
新入生が見学から戻ったら、一緒に寮に案内します。
あっ、シュウさんは時間のある時にエリナさんに職校内を案内してもらってください。
エリナさんは講義に戻ってもいいですよ。
寮にそのまま残ると聞いていますので。
そして、昼休み後に軍の新人研修係の受付に行ってください。
これはシュウさんも一緒ですね。
あと、朝一番の講義は欠席したようなので、補講の手続きを取ってくださいね、」
「わかりました。」「わかりました。」
「ところで、エリナは講義に戻った方が良いじゃない。」
「いや、一緒にいるもん。」
「でも、次は寮の説明だから、一緒に男子寮には行けないよ。」
「変装してついて行くもん。」
「少人数だから一人多いとばれるって。
午後はおそらく、師匠に会いに行くから、ずっと一緒だと思うけど。」
「師匠が別だから、一緒とは限らないもん。
ここで別れたら夕食か魔法溜施設でのお務めまで会えないもん。絶対にやーだ。」
なぜか、幼児化している。
これ以上、幼児化されても困るので、俺たちは学生課の椅子に座って、ボルガたちが戻るのを待った。
その間にも学生課には職校生が盛んに出入りし、様々な相談や手続きをしていた。
一様に俺とエリナをみて何か驚いたような顔をしているが、新入生への過度の接触は禁じられているようで、俺に直接話しかけるようなことはなかった。
ちなみに、学生課は聖戦士職校と魔法術士職校で窓口は別であったが、職員は両方を担当していた。まぁ、聖戦士の方が圧倒的に少ないので、別にすると事務効率が悪いためかもしれない。
そんなことを眺めていると、ボルガたちが戻ってきた。
ボルバーナがすでにあくびをしていた。
校内の案内でそんなんだったら、講義はどうなるんだ。
講義で寝る → 筆記試験が全滅 → 進級できない → 留年 → 何年も卒業できない →
退学 → 自暴自棄になり町で問題を起こす → 牢獄
とならないように少しまじめに、講義を受けた方がいいと思うな。
「よう、シュウ、軍の方の用事は終わったのか? 」
「最低限の手続きだけはな。
それと俺とエリナは職校寮に住むことにしたからよろしくな、みんな。」
「そうなんだ、男子寮で3人一緒だね。なんか心強いや。」
「エリナさん、よろしくっす。」
「皆さん、それでは寮に案内します。
部屋は決まっていますので、荷物を持って移動してください。」
「エリナ、そろそろ講義に行かないとだめだぞ。」
「ぶーうっ。」
「幼児化しても今度はダメ。
ちゃんと勉強して、午後は一緒に訓練しようよ。」
「しょうがないわね。授業に行ってきます。」
「行ってらっしゃい。また後で、お昼は一緒にな。」
「絶対よ。先に食べたらだめよ。」
「ハイ、ハイ」
漸くエリナは去って行った。
「さっ、夫婦漫才が漸く終了したので、寮に行きましょうか。」
俺たちは職員の案内で男子、女子別々の寮の玄関に入った。
やはり石造りの立派な建物だった。
俺たちが玄関に行くと人の良さそうなおじさんが出てきた。
「私が職校男子寮の管理人です。
生活する上で困ったことがあれば何でも聞いてください。
実は私も40年前は寮生でした。ここはあの頃と全然変わっていませんね。
代々の管理人が精魂込めて、管理しているためかもしれません。
私は職校を卒業して、チームメンバーとともに第7軍団第27師団に入団しました。
入団して、戦闘地域に配属されたその日に魔族の1個大隊に攻められましてね。
我々のチームは自分の所属もよくわからないまま、魔物に追い回されて大変な目に会いました。
見てください、この傷がその時に魔族から切りつけられたものです。
私はその魔族を得意の風魔法の烈風で吹き飛ばし、ウインドカッター追撃して魔族を追い払うことに成功しました。
この傷は完全に治さないで、戦場で油断しないように戒めとして残してあります。
この時のチームメンバーの一人が女子寮の管理人で、私の妻です。
2人とも引退し、こうして寮の管理人をしながら、後輩の魔法術士と聖戦士の成長を見守っているというわけです。
そもそも彼女との出会いは、魔法幼年職校の入学式で、隣に座ったという、なさそうでありそうな出会いなわけです・・・・・。」
俺は夫婦で職校寮の管理人をしていることと、この人に自由にしゃべらせてはいけないことだけは分かった。
案内の職員はまたかという顔で管理人のどうでもよい身の上話を黙って聞いたいた。
俺はこれは寮に入るための儀式と考えることにした。
何故、こんな無駄話をじっと聞いていなければならないのかというような疑問を持ってはいけない。それは儀式なのだから。
20分ほどしゃべって、漸く。
「ちょっと説明が長くなりました。」
ちょっとじゃないし。寮の説明は何もしていないし。
「皆さんのお部屋は一階のここからここまでになります。
名前が書いてある部屋です。
一通りのものはそろっていますが、これ以上に必要なものがあればアルバイトをして、職校の購買や門前町のお店で買いそろえてください。
制服以外の着るものは自分でそろえてください。
三食この寮の食堂で食べることができます。
前日の夕食後に次の日は食堂で食べるか食べないかを食堂の入り口にある名簿に書いてください。
予約して食べない場合は早めに連絡してください。
連絡なく食べない場合は実費を支払ってもらいます。
まぁ、中には2食3食分を食べる人がいるので、その方に譲って食べてもらうこともできます。
朝食と夕食の前には食堂の奥にある職校生のための礼拝堂でお祈りを忘れずに。
別に自分の部屋で祈っても問題ありませんが。
消灯は特に決めていませんが、23時を過ぎたら、おしゃべりや自室でのトレーニングは終了してください。
門限は21時です。朝は散歩や本堂で礼拝をしたいという人がいるので、4時には玄関のカギを開けています。
外泊はする場合は事前に学生課に届け出て、教員の許可をもらってください。
訓練や任務での外泊は教員や上司から連絡が入ることになっています。
クリーンは当番制で水魔法術士が皆さんを綺麗にしてくれます。
いつもは16時~20時まで、誰かしら食堂脇のクリーン部屋に待機しているはずです。
もちろん無料ですが、感謝の気持ちは忘れずに。
見習い聖戦士の方は雑多な用事をこなしています。
当番表がありますので、確認してこなしてください。
一人ではなく、先輩と一緒なので安心して、当番に臨んでください。
ざっとこんなところですかね。
ああ大事なことを、女の子と話す場合は食堂でお願いします。
お互いの部屋に行くことは厳禁です。
あまり長く話していると先輩や宿直の教員、寮の管理人に叱られますのでほどほどに。
今日の夕方、皆さんの歓迎パーティが寮生会より企画されています。
毎年、医務室送りが何人も出るのが管理人の悩みです。
皆さんにしつこく迫ったり、触れたりすることは厳禁としていますが、見習い魔法術士の方同士の暴力沙汰が絶えませんので、巻き込まれないようにうまく逃げてくださいね。」
オオカミさんたち狂宴があるのか。
おとなしくエリナにくっついていよう。
ペアが決まっていれば寄ってこないというし。
ぺーテルとボルガはモテキ到来じゃないか。
まぁ、迫ってくるのが女子とは限らないが。
その後自分の部屋に案内されて、備え付けのものを確認後、足りないもののメモを作成した。
おばちゃんは日当たりの良い窓辺に立てかけてあげよう。
老い先短いみたいなので、労わってあげなきゃ。
「誰が老い先短いじゃ。
まだまだ元気じゃ、でもこの日当たりが気持ちいい。
うとうとうと・・・。」
おばちゃんじゃなく、ばあちゃんだなこれじゃ。