シュウの学生生活 俺の師匠は熊さん?と黒魔法使いさん? 1話目 合格発表の後始末
俺は試験に受かったのか? お姉さんの呪いに打ち勝ったのか?
つまりだ、俺のお弁当の選択に間違いはなかったのだ。そうか。
俺は正しい選択をしたのか。
良かった、エリナに悲しい思いをさせなくてすんで。
職校長が言うには俺が職校の生徒ではなく、すぐに軍人だという。エリナもだが。
俺は職校長にさらに訊ねた。このような特例になった理由をだ。
それによると、熊師匠とのエア模擬戦、ソニア様との模擬戦の結果を考えると職校で教えられることは聖戦士や魔法術士が必要とする知識だけであり、俺とエリナのペアとしての戦い方は既に1個連隊、条件によっては2個連隊に相当すると判断しているそうだ。
そのため、聖戦士と魔法術士のペアの戦い方を一から職校で学ぶのは時間の無駄と考えて、訓練は現在聖戦士協会で最も実力のある聖戦士の一人であるイムレと白魔法協会で最も実力のある魔法術士の一人であるカロラの内弟子として、個別に鍛えた方がより高みを目指せると判断したための今回の特例措置だそうだ。
ちなみに、俺とエリナ ペア vs. 熊師匠とソニア様 ペアの模擬戦の詳細はレポートにしてカロラさんに提出し、それを口外することは軍の機密情報のため厳禁と申し渡された。
この件は模擬戦の顛末を知る全員に対しても通告されたそうだ。
破れば当然、起訴され軍法会議にかけられる。
これで、ペーテルたちに今日の第4魔法練習場での詳細を話すことができなくなった。
軍法会議という、怖い話が出てきたので話題を変えるため、職校の入学式について職校長に聞いてみた。
「職校長。俺は職校の入学式への出席はボルバーナたちのご友人枠ですか? 」
「まぁ、そうなりますな。
職校に入学するわけではないのでね。
職校での授業は聖戦士協会か教会本山の軍司令部から職校への内地留学とするという体になりますね。」
やっぱり、職校の入学式には新入生として出席できないのか、ボルバーナのお友達枠としてご父兄と一緒にお祝いをする方なのか。
せっかく、家族やクズミチたちと会えると思っていたのに。
軍の入隊式に親や友達を呼ぶなんて聞いたことはないし。
「その件は了解しました。」
もう軍人になるわけだから、わがままは言えない。
「家族やお世話になった人への入学試験の結果はどのように報告すればよいでしょうか。
試験結果を待っていると思います。」
「まぁ、いきなり軍人になりましたでは訳が分からないし、いきなり魔族との戦闘の最前線に送られると勘違いされて猛抗議を受けても困りますからなぁ。
うーんっ。
あっ、悪いけど最前線に行けと命令されたら断ることはできなくなりますね。
軍人となるのでね。
まぁ、君たちの師匠と後見人がそんなことは滅多にさせないと思いますが。
んーっ。家族への説明か。もう正直に言ってもいいんじゃないでしょうか。
入学試験に優秀な成績で合格したため、特例により特別指導を受けるため軍人扱いとなりましたと。」
「わかりました。そのように家族と知り合いには連絡します。
エリナ、何か巻き込んじゃったみたいでごめんな。」
エリナはこれまでの俺と職校長との話をほとんど聞いていないらしく、ぽっべに両手を当てて、真っ赤になりながら体をふりふりさせてブヅフツ呟いていた。
「夫婦官舎に入れる。
私とシュウが夫婦官舎で一緒に暮らすの。
もう、誰もシュウに手が出せない。
だって、シュウと私は夫婦となって、夫婦官舎で一緒に暮らすんだもの。えへへへへっ。
私が先に帰って、お料理をしながら夫婦官舎でシュウの帰りを待つの。
シュウがただいまというの。
私はお帰りなさい、今日も訓練お疲れさまと言うの。
えへへへへへっ。えへへへへっ。
私はシュウに向かって言うの、今日は夕飯とクリーンのどちらを先にしますか、それともいつものようにわ・た・しを食べちゃいます? と聞くの。
もうやだーっ、恥ずかしいもう。
そこでシュウは野獣に豹変して、わ・た・しを・・・・・。
もうやだーっ、幸せ。
そして、その結果は・・・・、赤ちゃんが、シュウと私の・・・・、もうやだーっ。もうやだーっ。」
あのう、全部聞こえています。外のお姉さんにまで。
また、血の涙の痕が、今度は目から血を吹き出すかもね。
「おほんっ。
それでは皆さん、合格、おめでとう。
今夜は合格のパーティーです。後から関係者がお祝いに駆け付けると思います。
羽目を外さない程度に楽しんでくれたまえ。」
「言い忘れたが、明日の予定です。
シュウとエリナは明日08:00に、教会本山軍司令部の総務部総務課新人研修係の受付に出頭。
シュウは荷物を持ってですね。
エリナは職校の寮に留まるか寮から軍の独身官舎に引っ越すか、決めていてください。
寮は無料ですが、様々な当番があります。
官舎は食事代も含めて有料ですが、官舎内での雑用は職員がやってくれます。
職校の入学者4名は明日8時に聖戦士職校の学生課の受付前に荷物を持って、集合してください。
シュウ、悪いが後でエリナに明日の予定をちゃんと理解させておいて下さい。
今は何を言っても聞いていないようなので。
それでは合格発表と明日の予定の指示を終わりとする。
パーティまで解散。」
俺たちは合格の知らせを待つ家族や知り合いに手紙を書いて、転移魔法陣施設に行き、手紙を転移してもらった。
皆は実技試験の魔力溜め試験でほとんど魔力を使い切ったようで、手紙を転送させるだけの魔力が残っていなかった。
俺はまだいっぱい魔力が余っていたので、必要な魔力を魔力溜に充填し、みんなに渡した。
もちろん俺も故郷の家族とソンバトのクズミチたちに手紙を送った。
ちなみに最後の魔力溜の試験は魔力溜の充填数を測定するものではなく、非常にあいまいな問題に対して、受験者がどのようにアプローチして問題の真意に近づいていくかを試す試験だそうだ。
何個充填すれば良いかをその理由とともに自分で決めて、それを試験官に納得させられれば100点。
理由があいまいだが数だけ自分で決めたら70点、持てる魔力をすべて魔力溜めにつぎ込んだら50点、事前に魔力溜の試験があるといったにも拘らず、転写魔法の発動に全ての魔力を注いだために魔力溜の試験で魔力が残っていない馬鹿者は10点ということだ。
今回の試験で、100点は俺とアリーズ、70点はボルガ、50点はぺーテルとボルバーナだったとのこと。
アリーズも充填した魔法溜めは何に使う予定のかと聞いて、合格パーティのための電灯や料理のためのコンロの火力との答えだったので、パーティを盛り上げるためにあるだけ魔力を張り切って注いだそうだ。
その後の夕食を兼ねた合格パーティはすごく盛り上がった。
特に、ボルバーナの異常なテンションの高さには困ってしまった。
まぁ、絶望的な状況から大逆転、まさかの合格をもぎ取ったんだから仕方ないけど。
酒は当然飲んでいないと思うが、ボルガに絡みすぎ。
何度も槍を旋風させながらボルガを追い回していた。
パーティには生徒会長や生徒会役員、職校の教職員、そして、熊師匠とエリナの師匠のカロラさんも来ていた、熊師匠とはかけ離れた美人のバリキャリ嬢というオーラが全開の人だった。
明日からよろしくお願いします。
俺の後見役の黒魔法協会総帥は仕事が終わらずパーティに出席できないため、後日挨拶に来るようにという伝言を熊師匠が預かっていた。
ソニア様についてはカロラさんがそっと俺たちに耳打ちしてくれた。
ソニア様はこのパーティに来てお菓子を一杯に食べることを楽しみにしていたが、どうも俺が怖くてゲストハウスの玄関に入ることができず、代わりに門前町のケーキ屋さんにしぶしぶ向かったそうだ。
俺、小さな女の子に嫌われてしまった。
気持ちを切り替えて、その後は皆で楽しくパーティを楽しんだ。
明日から頑張るぞ。
最後になったが、お姉さんも合格パーティに参加していた。
部屋の隅でこちらをにやっと笑いながら俺の方を伺って、ちびちびお酒を飲んでいた。
エリナがトイレに行ったスキに、おめでとうと言われた。
まだ、俺のことはあきらめないとのこと。
ちなみに血の涙が固まったと思った、目から流れた黒い筋はマスカラが汗で流れたものらしい。
どちらのお弁当を食べさせるかで、エリナとゲストハウスまで競走したとのこと。
普段運動しないお姉さんは当然、エリナにかなうはずもなく大汗をかいて敗退。
しょうがなく俺の顔だけでも見て行こうと窓の外から見ていたらしい。
そして、エリナの弁当を俺が食べる様子を観察し、俺が好きなものをリサーチしていたみたいだ。
ここまで執着される方が怖い、恨まれた方がましだった。