11話目 ランチウォーズ勃発 妄想恋愛ウォーズも併発
俺は入学試験をすべてやり終えた。
入学試験とはこんなに疲れるものなのか。
「シュウ、実技試験終わった?
さぁ、辛かったことはすべて忘れて、私の旦那様入学試験終了おめでとう記念スペシャル愛妻お弁当を一緒にゲストハウスで食べましょうよ。」
ソニア様を送って行ったエリナが魔力溜施設に顔を出した。
「えっ、エリナお弁当作ってくれたの。ありがとう。」
「部外者はすぐにここからお引き取りください。
シュウ君はあそこの会議室で私と二人っきりで私の手作りの豪華幕の内弁当シュウ君お婿にいらっしゃいスペシャルを、私があーんして、食べさせてあげる予定です。」
「何よ、ちょっと胸がジャイアントスズメバチに刺されて異常に腫れあがったからといって、優位に立ったつもりなの。
試験が終わったら、私と二人きりで口移しで私の旦那様入学試験終了おめでとう記念スペシャル愛妻お弁当を一緒にゲストハウスで食べさせてあげる約束をしたんですからね。
さっ、行くわよシュウ。」
「ちょっと待ったぁーっ。
私なんて、あそこの会議室で私がシュウ君の膝に乗って、私の美脚を堪能してもらいながら、私の手作りの豪華幕の内弁当シュウ君お婿にいらっしゃいスペシャルを、私があーんして、食べさせてあげる約束を今さっきしたばかりですからね。
エリナ様こそ、午後の授業に遅れるわよ。さっさと退散しなさい。」
「うるさいわね。いい加減にしなさいよ、
私なんて、私と二人きりで抱き合いながら口移しで私の旦那様入学試験終了おめでとう記念スペシャル愛妻お弁当を食べさせてあげると、1ヶ月間の二人きりの旅の野宿の寝屋で毎日約束したんですからね。
年季が違うのよ、胸がでかいだけのアホねぇちゃんとは。
ふんっ。
さっさと行くわよ、シュウ。がるるるっ。」
「何を言ってるの胸ペタ小娘が。
悔しかったらシュウ君を胸で窒息させてごらんなさいよ。
あなたなんて隙間が空きすぎて余裕で呼吸がきますよね。
ぷぷぷぷっ。ペた子。ぷぷぷふっ。
私なんて、あそこの会議室で私がシュウ君の膝に乗って、私の美脚と胸がむぎゅっとするのを堪能してもらいながら、私の手作りの豪華幕の内弁当シュウ君お婿にいらっしゃいスペシャルを、私があーんして、食べさせてあげる約束を今さっきしたばかりですからね。
とっとと一人きりで授業に戻りなさい。」
「悔しーいっ。いい加減にしなさいよ、私なんて、・・・・・・・・・・・・・・」
「熊先生。
俺ゲストハウスで、一人で、試験終了お疲れ様スペシャルランチを食べに行っても良いですか。」
「試験は終了だ。
ゲストハウスに戻っていいぞ。
ここからの道順はわかるよな。
試験の合否は午後4時からゲストハウスで職校長より直接発表される。
シュウは落ちることはないと思うが、試験が終わったからいって羽目を外さないようにな。
ではまた後で。」
言い争っているエリナとお姉さんを置いて、俺はゲストハウスに戻った。
ゲストハウスでは他の受験生が豪華ランチの堪能も終わり、リビングで思い思いにくつろいでいた。
「シュウ、遅かったな。
実技試験でだいぶ苦労したのか。
何か第4魔法練習場で大事があったみてぇだし。
それに巻き込まれたのか。
ケガはないか。」
「ボルバーナ、心配してくれてありがとう。今は君が天使に見えるよ。」
「おい、婚約者のエリナ先輩がいるのに俺を口説こうって言うのか。
お前、いい度胸しているな。
甲斐性があれば俺は口説かれてやってもいいぞ。
ただし、死ぬほど貢いでもらうけどな。ガハハハハハッ。」
試験が終わって、屈託のないボルバーナと話をしているとさっきまでの騒々しさが嘘のように思えてきた。
「シュウ、漸く戻ったか。
遅かったな。
俺たちが魔力溜で最終実技試験をしている時になんか魔法練習場で物凄い音がしたんだが、なんかあったのか?
シュウを見たところ別に何ともなさそうなので、安心したぞ。
試験から全然戻ってこないんでないので何か大きなトラブルに巻き込まれたのかとみんなで心配していたんだ。」
「ぺーテル、皆、心配かけてごめん。
何かあったかは後で話すよ。
とにかく、飯を食わしてくれ。
いろいろトラブルに巻き込まれて、物凄く腹が減った。
今日の昼は試験終了お疲れ様スペシャルランチなんだろ? 凄い楽しみにしていたんだ。
うまかったか? 」
なぜかボルバーナが青ざめている。そして、大量の脂汗。
「ワリー、ほんとに反省している。
俺がおまえの分も食べちゃったよ。
シュウは帰ってくるのが遅いし、その上、俺も試験が終わってほっとしたせいかスゲー腹が減っていてよ。
まぁ、食べずに無駄にするのも作ってくれたゲストハウスの料理人に失礼かと思ってなぁ。
ワリー、ワリー。」
「そんなぁー、腹減って死にそうだよ。ぐうーっ(おなか)。」
「しょうがねぇなぁ。
んーっと、んーっと。
お詫びにさっき口説かれたから、俺をくってもいいよ。
よっしゃっ、シュウの部屋に行こうか。
俺も覚悟を決めたぜ。
大人の階段を登るぜ。」
「わっ、ボルバーナ、早まるな、僕が料理人のところに行って何か簡単なものを作ってもらえるように頼んでみるよ。」ボルガ
「一人だけどさくさに紛れて大人になるなんて、駄目よ。こういうのはちゃんと順序を踏まないと後で後悔するわよ。」アリーズ
「はやまるなー。俺の非常食をシュウに分けてやるよ。ほら、固焼きパン。」ぺーテル
「おなかが減って、もう動けない。
自分の部屋にも行けないので、ボルバーナの提案はなしでね。」
これ以上、勝手に妄想恋愛で俺を振り回すんじゃねーっ。
「シュウはモテモテで良いなぁ。
俺も彼氏の一人でも欲しいぜ。
あのボルガっていやつでいいや、俺の言うことすべて聞いてくれそうだし、紹介しろよシュウ。」
うるさいさん。これ以上、面倒事を増やすなよ。熔解するぞ。
「ごめん、彼氏は欲しがりません。」
「ボルバーナ。悪いと思うなら魔力溜施設に行って、エリナを呼んできてくれないかな。
なんかお弁当を作ってくれたみたいなんだ。
それを食べることにするよ。
すごい力作みたいだし。」
「一つ注意してほしいのは、エリナと言い争っているかもしれない魔力溜施設の職員のお姉さんは連れてこないでね。」
「おめぇ、そんな職員にまで手を出しているのか。
とんだプレーボーイだな。
俺なんて遊ばれて、貢がされて、捨てられそうだから、やっぱお前の口説きには乗れねぇな。
ごめんよシュウ。」
この人は本気で口説かれたと思っていたのか。
これまでの俺のセリフでそんなことはゴマ粒ほども匂わせていないのだが。
「これが入試が終わった解放感ていうやつじゃねぇのか。
頭がぼーっとして、春になって、お花畑になっている状態。」
さすがガサツなもの同士、お互いのことをよく理解しておられる。
「ガサツって言うなぁ。
俺は他人のランチに勝手に手は出さねぇぞ。」
「ボルバーナ、とにかくエリナを呼んできてくれよ。」
「わかったよ。ちょっくら行ってくるぜ。」
早くしてくれぇ、腹減ったよぉぉぉぉっ。
10分後、物凄い砂煙とともにエリナがゲストハウスに現れた。
手には4段お重をぶら下げて。
おおおっ。あれが私の旦那様入学試験終了おめでとう記念スペシャル愛妻お弁当というやつだな。
早く食べたいなぁ。
俺とエリナはゲストハウスの食堂の一番端っこに陣取った。
「シュウごめんね、胸だけおばけさんが私たちの愛のランチタイムを邪魔して。
おなかがすいたでしょう。
ゲストハウスの豪華なランチを食べずに私の愛妻弁当を待っているって、ボルバーナより聞いたわ。
もう、シュウったら女の子の扱いが上手なんだからぁ。」
エリナの後ろにいるボルバーナがサムズアップしている。
普段はガサツなくせにナイスホロー。
「ほんとにごめんね。さっ、召し上がれ、私の旦那様。
これなんてね、朝3時に起きて、シュウが試験に合格しますようにと祈りながら煮込んだチャーシューよ。いっぱい食べてね。
これはね、昨日の夜中に門前町の魚屋を叩き起こして買ってきた塩じゃけを今朝焼いたの。減塩だから健康にも安心ね。
あっ、シュウ、食べさせてほしいの? ほら、あーんして。
それでデザートはわ・た・し。食後にシュウの部屋でね。
もっ、シュウったらエッチなんだから。」
なんか最後はほっぺに両手を当てて、顔を赤くしながらくねくねしているぞ。
エリナのお弁当、おいしいな。
エリナは料理も上手だからな。
いろいろなおかずをエリナに取り分けてもらって堪能した。
エリナも一緒に食べてほしいな。
お昼食べてないでしょ。
一人で食べるよりも二人で食べた方がおいしいのに。
何か二人だけの遅いランチ。
新婚さんみたいだな。
今日はいろいろあったけど、神様はちゃーんと最後に落ち着いた、幸せな時間を与えてくれた。
ふと、ゲストハウスの食堂の窓を見たら、髪を振り乱して血の涙を流しながら、こちらをにらむお姉さんの顔が窓越しに半分だけ見えた。
今晩一人じゃ寝ねられそうにない。トイレもいけない。