4話目 駄剣発覚
町を出るとそこは田舎の田園風景が続く。
小麦畑がある、田んぼもある。
この辺は町に近いため街道は石畳であり、歩くのは楽であった。石畳みを農夫が連れた牛が尾で自分の尻を叩きながらのんびりと歩いている。
道幅が馬車一台分しかないので、牛が来るたびに俺は道の脇によけなければならない。
しばらく、旅立ちの感傷に浸っていると何やら背中がひんやりとしてきた。
普段着慣れない革の鎧を付けて歩いているのでうっすらと汗ばんでいたので丁度よかったが。
「若い男の汗ばむ匂い。たまらんのう。」
「お嬢様。興奮すると冷気が漏れてしまいます。
シュウ殿の汗が引いてお望みの体臭が薄くなってしまいます。
シュウ殿も旅立ったばかりなのに風邪を引いてしまいます。
直接シュウ殿に接している私としては蒸れるのでその方がありがたいのですが。」
「なるほどそちの言う通りよのう。
久々なものでついはしゃいでしまったのじゃ。
これシュウよ。もうちょっと速く歩いても良いのだぞ。
汗をかくほどにのう。」
町を出たとたん騒めきだす背中の大剣。
マジでうざくなってきたんだけど。
人の体臭で盛り上がらないでほしいんですけど。
「あまり騒ぐと家に置いてくるぞ。まだすぐに引き返せるからな。」
「それは止めてほしいのじゃ。
せっかく何年振りかで外出できたのに。
ダンめは魔力を十分にくれなかったので、夜な夜な出かけることもできなんだ。」
魔力が足りてたら一人で出歩けるのか、こいつは。
夜に大剣が飛んで来たらオカルト騒動だな。
あんな小さな町でそんなことが起こったら、あっという間に噂になり、本山から魔物退治の戦士や術士がわらわら押し寄せてくるぞ。
吹雪に最低限の魔力しか渡していなかったとは、父、ナイス判断。
「今日そなたから十分な魔力を貢いでもらったでのう、夜の外出が楽しみでのう。」
しまったこいつ、外出を堪能する気だ。オカルト騒動発動決定だ。
「勝手に夜出かけたらもう魔力を渡さない。
俺がピンチの時だけ、吹雪に魔力を急速充填すれば事足りるし。」
「えっ。それはあまりに意地悪ではないかのう。
せっかく、旅に出ておるのに。
旅の恥は何とやらと言うではないか。おぬし、少し頭が固いのではないかのう。」
「いやなら家に戻る?」
「ちぇっ。仕方ないのう。
今夜はおとなしく寝ることにするかのう。
シュウに添い寝を申し付けるぞよ。」
「お嬢様、シュウ殿。町が出るのが遅くなりましたので、今夜は野宿になるかも知れません。
このままですと隣町につくのは夜遅くになり、町の門が閉まってしまうと思われます。
幸い野宿ならお嬢様が徘徊しても誰にも見つからないと思いますが。」
「野宿って~、冗談を言うでないぞ。
この高貴な妾が屋根のないところで休むことなどできんぞ。
シュウ何とかせい。従者であろうが。」
やっぱり受け取らなければよかった、こいつら。
父が俺に吹雪を譲るときに妙にうきうきしていたのはこのことか。
剣のくせに好き勝手にわがままを言うなんて質が悪いし。普段使いできないし。この駄剣め。
そんなことを考えていると前方でお約束の悲鳴が。
「きゃーっ。来ないでーっ。
くっつくなー。
誰か助けてー。誰かー。
きゃーっ。」