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9話目 模擬戦の顛末

俺たちは試験管たちのいる魔法練習場に恐る恐る入った。


「逃げずによく来た。さあ、模擬戦だ。


私たちは向こうのポール付近に行く。

お前たちはそこのポール付近にいて、準備を始めろ。


こちらの準備が整ったら、手を挙げる。その手を下げたら検討開始だ。いいな。」


「先生、これは実技試験ですよね。説明と違うのですが。」


「つべこべ言うな。男だろ。

挑まれたら戦え。それが私の信念だ。」


若作り先生の信念を強要されても困るんですが。

熊先生も苦虫をつぶしたような顔をしています。

ここで多数決を取ったら、3対1でもともとの実技試験をするすることになると思います。


「ここでは私が法律だ。逆らうことは許さん。」


でたぁぁぁっ。

俺が法律。付き合ってらんねーぇ。


熊先生は当てにならないので、ここで唯一部外者のエリナに抗議してもらおうと、隣をちらっと見た。


何故か目が燃えていた。


「私たちの愛の力を甘く見てもらっては困るわ。

熊と飼い主の少女の関係なんて、私たちの前では紙屑同然。」


エリナ様のスイッチが、入れてはいけないスイッチが入っちゃったよ。

でも、向こうに聞こえないほどの小声で言うところが、先生への遠慮と言うものですか。


「シュウ、まず、この指輪を返すわ。


そして、私の成長したところ、雷系の魔法とその連携を試してみましょう。

今日のアルバイトは中止でいいわ。

最後の実技試験用に魔力溜50基分の魔力を残して、全部この聖戦に叩き込みましょう。」


聖戦ってなんだ。聖戦って。


もしかして、勢いで行っちゃった? ちょっとかっこいいから?

エリナちゃんがおばちゃんと同じレベルじゃダメでしょ。

年齢的に厨〇病と思われてしまいますよ。


俺もこの状況について行けず、ついおばちゃんのことを思い出してしまった。

反省はしている。


「シュウ、しっかりしろ。敵は強大だか、俺が付いている。任せろ。」

「ご主人様、奥様との共同作業を最後まで応援させていただきます。

お二人の可憐な姿をこの目に焼き付けたいと存じます。」


うるさい指輪さん、あなたは何を任せてほしいんですか?

まぁ、指にはめているので「俺に付いている」ことは間違いないです。


「シュウ、ぼーっとすんじゃねぇ。

相手はもう向こうのポールに着いて、準備を始めたぞ。」


そうだった、うるさいさんと漫才をしている場合ではなかった。


「エリナ。全力で戦おう。今日は雷系の転写魔法で。

相手との距離が近いので、一緒に戦おう。」


「はい、旦那様。できれば手をつないで・・・・・・。ぽっ。」


「こらーっ。てめぇら、戦いだっつうのに、二人の世界に入っていちゃついてんじゃねぇ。それを見せつけるんじやねぇ。」ソニア


「年増の嫉妬は恐ろしいですわ。

ご主人様、気を引き締めてください。黒いオーラがこの練習場を覆いつくそうとしております。」


向こうのポール付近から若作り先生の魂の叫び。

男の子と女の子が仲良くすることに対する嫉妬の叫びだ。

これは手ごわい。今までで一番恐ろしい属性魔法フィールド、黒い嫉妬。


なんて難敵なんだ。


「エリナ向こうは本気だ。それを通り越してバーサク状態かもしれない。冷静でいる方が勝つと思うが、思わぬ反撃でやられないように気を引き締めて行こう。」


俺はしっかりとエリナの手を握りしめ、しっかりと見つめ合い、俺の思いを伝えた。


「だー、かー、らーっ。

戦いの前にいちゃついてんじゃねぇよって、さっきから何回言わせるんだ。


くそっ、うらやましい・・・・、じゃねぇや。うっとおしいぞ。」


「エリナ、では雷系の転写魔法を頼む。

攻撃魔法はサンダーアローとサンダーランスだっけか。

これを俺は相手の上から高密度で落とす。


エリナは氷系のアイスニードルを横から高密度で頼む。

この広場を俺たちの魔法で埋め尽くそう。

狭いので、俺は2時間は連射しっぱなしにできる。


それでも魔力溜50基分の魔力は残るよ。」


「はい、さすがです私の旦那様、でも今日は私のアイスランスで敵に止めを刺します。」


後から考えると俺もエリナも、うるさいさんもメイドさんもみんな冷静さを欠いて、バーサク状態だったかもしれない。


仕掛けてきたのは向こうだ。

あんなことになったのは先生たちのせいだ。

この高揚がとんでもない事態を招くとは・・・・・。反省してます。


向こうのポールで若作り先生が手を挙げた。

俺の心臓のビートがMAXに。


そして、手が下りた。


「転写雷属性魔法フィールドを生成。急速拡大。

同時に転写サンダーアローを敵頭上から高密度連射!! 」


俺が展開した雷フィールドがものすごい放電を放ちながら自陣を拡大するように広がる。


それに対し、向こうも属性フィールドを展開。

土石流が押し寄せる。若作り先生は土と水魔法だな。


土石流の上を熊さんが高速で移動してくる。

そこに俺の属性フィールドのスタンが発動。


熊さんがなかなか近づけない。


こちらはさらにエリナがアイスニードルを発動。

しかし、相手の石壁に阻まれる。


一撃目はお互いの中間地点で、属性フィールドが拮抗。


お互いに有利なフィールドを形成するため、さらに魔力を属性フィールドに叩き込む。

相手の魔力も高まり、放電と土石流がぶつかり合う。電流と土石が空中に舞う。


さらに属性フィールドに魔力をどんどん追加する。

お互いに相手の魔力を確かめ合うように少しづつ魔力を上げる。


小学校の運動会の玉入れの最後に、かごに入った玉の数を一個づづお互いに投げ合うような探り合いと緊張感が30分ほど続いた。


ついに、先生側のフィールドが後退する。


熊さんは逃げ遅れ、俺の転写雷属性フィールドに巻き込まれていた。

若作り先生の魔法防御障壁が間に合わず、スタン発動。

その瞬間、過剰電流が直撃した熊さんの骨格が見えたような気がした。


俺はさらに魔力を追加。

急速に向こうのポールの方に雷フィールドが放電のうなりと共に接近。


敵の頭上にはサンダーランスが高密度で振り注ぎ、エリナのアイスランスも横から何本も飛んでいく。


向こうは防御障壁を展開するが、既に雷属性フィールドで練習場が埋め尽くされたため、先生の属性フィールドと防御障壁も急速に縮小。


もう少しだ、もう少しでやれる。


「シュウだめだ、これ以上の攻撃は中の少女を蒸発させるぞ。

勝負は着いた。

これ以上の攻撃は虐殺だ。

やめろーっ。」


うるさい指輪さんの悲鳴で、漸く俺は我に返った。

まずい、その瞬間魔力の供給をやめた。放電も雷も氷も消え失せた。


あるのは一面の焼け野原、サンダーランスで開けた無数の穴。

痺れてぴくぴくしている熊さん。

そして、人ひとりがやっと入れるほどの若作り先生の防御障壁。


あれっ、この防御障壁、何か変だな。最初に展開していたものより、より強固で異質な感じがする。

でもなぜか暖かい心が鎮まるような防御障壁だ。

この暖まる感じはどこかで経験したような気がする。それも最近。


それよりも先生たちがやばい。


「エリナ、まずい、やりすぎた。まずは熊先生の回復を頼む。」

「わかったわ。何とかできる状態ならいいけど。まさか、・・・・。」

エリナの声に焦りと恐れが見える。


俺は防御障壁の方に走った。


防御障壁の中からはしくしく泣く女の子の声が。

声が震えている。

まずい、女の子を泣かしてしまった。


「シュウ、熊先生は何とか助けたわ。心臓が止まってなくてよかった。

感電によるやけどもハイヒール10回で何とか治したわ。

重症だったわ。


こちらの方はどう? 」


「震えて、泣いているよ。」


エリナと俺は防御障壁に近づき、中を覗いてみる。

中の女の子は鼻水を垂れ流して、あと言ってはいけないかもしれないがお尻の周りには水たまり。


「怖いよ、怖いよ、雷怖いよ。おへそをとられるよ。」

と涙ながらの震えた声でぶつぶつ呟いている。


エリナは防護障壁を軽くノックし、優しく語り掛ける。


「もう怖いのは終わったわよ。

誰もこれ以上あなたを傷付けないし、もう怖い思いもしなくていいの。

お姉ちゃんを信じて、ここから出ていらっしゃい。」


聖女のような語り掛けに漸くうなずく少女。


でも俺を見つけて、

「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、悪魔が来た、悪魔が来た、殺される。」

とまた、防御障壁の中に入ろうとする。


「はーっ。完全に嫌われちゃったな。

これ以上俺がそばに居ると、ますます自分の殻に閉じ籠りそうだから、エリナに任せていいかな。」


「そうね、その方が良いかも。

わかったわ。

ここは私に任せてちょうだい。旦那様は熊先生の様子を見てきてちょうだい。」


「わかった。ごめんね。こんなことになるとは。」


俺は少女とエリナのそばを離れて、熊先生のもとに駆け付けた。


熊先生はすでに回復していたが、魔力切れと体力消耗、ケガが重かったせいで息が荒く、大剣を膝に乗せて座っていた。


「どうですか具合は? 」


「おおっ、シュウか。俺は大丈夫だ。それよりもお前は魔力切れを起こしていないのか? 」


「まだまだ、あまり減った感じはしませね。」


「お前、とんでもないな。何だその魔力は。」


「熊先生が大丈夫そうで安心しました。

それよりもソニア様が心配です。

幼女返りをしています。」


「あれだけの魔力攻撃を受けたのは初めてだろうからな。

俺は聖戦士だから、最前線での命のやり取りには慣れているが、ソニア様魔法術士で常に後方に居るからな。

あそこまで死を間近に経験したことはあるまい。


あの年で初めて、死ぬ思いと言うものを経験したのだろう。

そうか、ソニア様は幼女返りをしてしまったか。


他人の力に負けて初めて自分の死を、三途の川の向こう岸を見たものは、程度の差こそあれ、自分の力だけでは支えきれない大きなストレスを経験するものだ。」


「シュウよ。気にするな。

勝敗を左右する要因は多々ある。

たまたま、おまえたちがソニア様を極端に追い込むような圧勝になったのかもしれぬ。


次回は逆にお前たちが防護障壁の中で震える立場になるかもしれぬのだ。」


「あまり、勝敗の結果に心を揺らすな。

死は誰にでもいずれ訪れるものだ。」


熊が哲学語っている、力で負けたことを学力で挽回しようとしているのか。

それは、ボルバーナやおばちゃんよりえげつないぞ熊さん。


「いずれにせよ、このようなことになってしまい申し訳ありません。」


「シュウよ、模擬戦とはいえ勝負に正々堂々勝った者が敗者に謝るものではない。

敗者を侮辱するものだぞ。


負けておいて師匠顔もないが、敗者への過剰な遜りは止めよ。

敗者への余計な侮辱になり、将来への遺恨を生む。」


「わかりました、熊先生。」


「俺は熊ではない、人だぁぁぁっ。」


エリナはソニア様をなだめすかして、何とか白魔法協会の総帥の執務室に連れて行った。


俺はもうぐだぐたになった実技試験の最終試験を受けに熊先生と魔法溜施設に向かうのだった。


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