8話目 予定にない実技試験
「シュウ、ではコロシアムに向かおう。
コロシアムと言っても観客がいるわけではないので、今日はコロシアムに近接した第4魔法練習場だけどな。
魔法防御壁のあるところでないと攻撃魔法は発動してはいけない規則だ。
試験会場を転々として悪いな。」
俺と熊さん、謎の美少女は3人並んで、人気の余りない道を進んでいた。
しかし、この美少女は誰だろう。
熊さんを遠慮なく杖で殴るなんて。
何か話を聞いていると熊さんより立場が上みたいだし。
わかった!! 職校で熊さんのお世話している飼育員さんのお嬢さんに違いない。
学校ではよく情操教育の一環として動物を飼育しているし。
さすが教会本山だなぁ。熊を飼育しているなんて。
俺は入学試験だというのにくだらないことを考えながら、移動していた。
「あっ、試験会場はあそこだ。」
俺はボルガとアリーズが木の平屋建ての建物から出てくるのを見つけた。彼らの担当の教員と一緒だ。
この建物は木のフェンスで囲われた広場の、そのフェンスの脇に立っていた。おそらく広場が第4魔法練習場なのだろう。
続いて、ボルバーナが出てきた。ちょっと戸惑った顔だ。
「転写魔法が発動しなかった。くっそうー。」
「ボルバーナは転写魔法を発動したことはないんでしょ。初めてなら仕方ないわ。
職校長も言ってたでしょ、これは試験じゃないって。
職校に入れば訓練して、使えるようになると言ってだでしょ。」
何か転写魔法が使えなくて、また落ち込んでいるボルバーナをアリーズが慰めているみたい。
「でもよぉ。残りの3人は転写魔法が使えるのに俺だけ使えないなんて、ただでさえ筆記試験で取り残されているのに、実技試験でその分を取り返そうとしていたのに、はーっ。
これで浪人+アルバイト生活が決定だーっ。」
「来年はアリーズにきっと、アリーズ先輩よろしくご指導お願いしますっていうことになるるんだーっ。」
「まだ、試験は残っているし、最後まで頑張ろう。
きっと大丈夫よ。」
「まだ、大丈夫? ほんとに? 」
「ええ、たぶん。」
「たぶんだーつ。
おれはもう浪人決定だー。うわわわわーんっ。」
面倒くさい奴になっているな。しかし、試験途中で絡むなよ。
結果を聞いてから絡めよ。
俺たちが建物に到着したと同時にペーテルが建物から出てきた。
「無事に発動できたよ。緊張したけど。」
「うわーーーんっ。やっぱ、俺だけだーっ。」
「ボルバーナはどうしたんだい。」
「一人だけ転写魔法を発動できなくて、落ち込んでいます。」
「初めてなんだろ。転写魔法。
だったらできなくても仕方ないさ。
まぁ、一応試験項目なんだからできた方が良いと思うけど。」
「やっぱ、浪人決定だーっ。うええええええええんっ。」
また、面倒くさい人になった。
「ところでシュウは今、模擬戦終がわったの?
凄い型の応酬で、びっくりしたわ。
私たちを担当してくれた教員もああなったイムレさんを止めるのは大変だから、先に試験を進めましょうと言われたの。」
アリーズは少しだけ申し訳なさそうに先に試験を進めた理由を教えてくれた。
ちょっと、教員の方々、止めましようよ熊さんを、お願いします。
ちゃんと職校の飼育動物の面倒を見ましょうよ。
「さっ、シュウも試験を進めようか」と誤魔化す様に熊さんが俺を建物の中に放り込んだ。熊さんにさらわれたーっ。
「さて、シュウ、ここにいるソニア様が君の武器、模擬戦で使ったやつね、それに転写魔法を付けてくれる。
それを発動してみて。
まっ、試験じゃないので気軽にしてくれ。」
この子はソニアと言うのか。
そういえば第6軍団ベース基地のモーリツさんに、入試に合格したら白魔法協会総帥のソニアさんを頼れと言われたな。
この子もソニアか、ここではソニアって名前の子が多いのかな。
「まぁ待て。熊公だけ模擬戦を楽しんだとあっては面白くない。私も模擬戦をするぞ。
シュウよ、お前は誰かに転写魔法を付けてもらい、発動したことがあるか? 」
「あっ、はい。
母と妹と、それと一緒に旅をした見習い魔法術士のエリナさんとペアを組んだことがあります。」
「見習い魔法術士と言うことは、今、教会本山にいるのか。」
「はい、今日の朝も試験を頑張るように生徒会長と一緒励ましてくれました。」
「ほほーっ。そうか、いるのか。
じゃ、こうしよう。
私と熊公のペアvs.シュウとエリナのペア。
どうじゃ、実技試験としてはこの方が面白いだろう。
丁度、昼休みに入ったし、シュウよ、エリナを呼んで来い。」
「あのーっ、俺一昨日ここに来たばっかりだし、オオカミさんたちのせいでゲストハウスを一歩も出られないし、今エリナが、どこにいるのか・・・・・、ここがどこかすらわかりません。」
「シュウ、試験の調子はどう。
試験中は接触できないからここから応援するわね。
ダーリン、がんばれー。」
建物のドアを開けて、ドアから顔をのぞかせながら、エリナが叫ぶ。
「エリナとはリーナの娘であったか。
それにこの男をダーリンだと。
許せん、齢〇年のわしでさえ、そのような男の存在が今までなかったいというに、この小娘は生意気だ。
もう、二人ともけちょんけちょんにしてやる。」
「ソニア様、受験生とエリナ様にけがをさせるのはまずいですよ。」
「馬鹿者、このようなエロガキどもはケガなんぞでは生ぬるい、三途の川の片道チケットの配布じゃ。」
「もっと、まずいですよ。」
「あのー、ソニア様、イムル様、ケガとか三途の川とかどういうことでしょうか。」
「えぇぇいっ、うるさい。
黙って、私たちと模擬戦、いいや八つ当たり戦をやるのだ。
早く魔法練習場に入って準備しろ。」
エリナは何のことだかわからす、首をかしげるだけだった。
一方、熊さんとその飼い主は足早に練習場に入っていった。
「シュウ、どういうこと? どうなっているの? 今は実技試験中よね。」
「俺もさっぱりだよ。
この試験は転写魔法の発動経験の有無を確かめる試験で、試験の成績には関係ないと職校長に説明されたんだ。
実技試験の初めは模擬戦で、その相手はさっきの熊さんだったんだ。」
「シュウ、熊さんと呼びたい気持ちはよーく、わかりすぎるほどわかるけどね、あの方は聖戦士協会の参議、イムレ様よ。
そして、一緒に居たのがシュウがモーリツさんに頼るように言われたソニア様よ。」
「えっ、熊さん、いやイムレ様が聖戦士協会の参議と言うのはわかるとして、あの見た目8歳の女の子が白魔法協会の総帥と言うのはどういうこと? 」
「絶対に本人の前で入ってはいけないことなんだけど、見かけと年が全然合っていなくて、すでに三桁の歳とのうわさがあるわ。」
「極端な若作りとか? 」
「シュウ、そんな大きな声で。
聴かれたら首ちょんでは済まないわよ。」
「首ちょんとは何の話だ、待ちくたびれたぞ早く模擬戦しようぜ。」
「エリナ、と言うわけで、俺とペアとなり、熊先生と若作り先生のペアと模擬戦をするのが第2の実技試験となりました。よろしくお願いします。」