5話目 皆で訓練、受験に備えよう
これが俺の同期か。俺は他の4人を見渡した。
どんな奴らかな。
「漸く、受験生が揃ったな。
試験は明後日。武道の試験があるから、少し、体を動かさねぇか。
このまま、ここに籠っていたら、頭がおかしくなってしまうぜ。
なぁ、ボルガ。」
「僕は別に部屋にずっといても良いよ。
外になんて、行きたくない。
僕が教会本山の門前町からこのゲストハウスにたどり着くまで、何度死にそうになったか。
外の人たちは異常だよ。
私をもらってだの、好きにしてだの、こっち来いチビーっ、俺が幸せにしてやるだの。
何なの。
僕はただ親にここに来れば男らしくなれる、強くなれる言われて、そうなれることにあこがれてここに来たのに。
あんな怖い見習い魔法術士の人なんて嫌いだ。」
「仕方ないわよ。みんな生きこと、生き残ることに必死なのさ。
生き残るためのアイテムのような存在なのかもね私たち。」
「初めまして、アリーズさん。
私、このシュウのペアで見習い魔法術士3級のエリナよ。
よろしくお願いしますね。
ちなみにシュウは私の婚約者、婚・約・者。
ここだけはしっかり覚えといてね、
私もシュウと一緒に戦うと自分の実力の何倍、何十倍の力を出せるわ。
でもねぇ、だからと言って、シュウをアイテムとしてなんて考えたことはないわ。
それは外のオオカミさんたちも同じだと思うの。」
「私たち見習い魔法術士は、小学校を出ると魔法幼年職校に入れられ、普通の人とは別の道を歩み始めるわ。
そこで、この道を懸命に歩むことは人々の幸せを守る道だと教えられるの。
私は実際にシュウと一緒に魔族と戦って、シュウを守り、逆にシュウから守られて初めてその教えの意味を実感できたわ。
そして、シュウの望みでもある多くの人々を魔族から守りたいと心から思えるようになったの。
確かに、一部には聖戦士を自分の武器の一部でしかないと考えているオオカミさんもいると思うけど、そんな考えの人とはペアを組まなければいいの。
あんなに多くの見習い魔法術士がいるんだから、これから一緒に戦っていける人をじっくり探せばいいと思うわ。
魔物や魔族との戦いは厳しいわ。命のやり取りになるし。
その時、しっかりと信頼できるペアじゃないと背中を預けられないわ。
だから、心から信頼できる人を探してね、2年半かけてじっくりとね。」
「ありがとう。先輩。僕も先輩のような素敵なペアを探します。
ペアに迷惑をかけないように、職校で学び、鍛えます。」
「素敵だなんて。そんな、ポッ。
シュウ聞いた、ねっ、ねっ。素敵なシュウの婚約者だって。」
エリナが照れてる。でも、ボルガは婚約者までは言っていないと思うぞ。
エリナの脳内変換はどうしてもそこに行きつくなぁ。
「そうだぞ、ボルガ。
お前をアイテム扱いするやつがいたら、俺がこの槍でケツを突いてやる。
そいつはしばらく椅子に座れなくなるぞ、ガハハハハハっ」
ボルバーナって、うるさい指輪に似ているなぁ、ガサツなとこが。
「誰がガサツだと、俺はボルバーナのように乱暴者じゃねぇや。
失礼だぞシュウ。」
「旦那様がおっしゃるように、私はそっくりだと思います。無法者っぽいところが。」
「てめぇ、俺のことをガサツで、乱暴者で、無法者だというのかよーっ。」
「その通りでございます。」
「シュウ、何とか言ってやってくれよ、こいつによう。」
「さすが対の指輪じゃのう。いつも仲が良いのう。」
「このやり取りのどこに愛情があるってんだよぉ。耳までボケたか婆ちゃん。」
「老い先短いお年寄りに向かって、そんな失礼な言葉を投げつけるところが乱暴者だというところに気が付かないところがガサツなのです。」
「くそぉぉぉぉぉ、・・・。皆で俺をいじめるんだ、助けてくれーっ。シュウ。」
うちはみんな仲が良さそうでよかったね。はーっ。
「それじゃ、少し訓練をしようか。試験は明後日だし。
皆は主に何で戦うが教えてくれるか? 俺はこの大剣だ。」
イケメンさんがかっこよく大剣を上に構えた。背が高いので両手剣を上に構えるとなかなかの迫力だ。
「俺はこの槍だ、この槍での旋風は範囲攻撃になるぜ。」
「僕は短弓。まだ、相手の懐に入るのはちょっと怖いから。」
「私はこの鞭ね。変幻自在に攻撃が走るわよ。」
「俺は盾とロングソードが基本かな、槍も練習してきたよ。
背中の大剣は本当にピンチになったときに抜く予定だよ。」
「それじゃ、2階のテラスに行こうか。
あそこは広いので、テーブルを隅に片付ければ十分な訓練の場所が確保できるだろうから。」
俺は荷物を言下に置き、エリナとテラスに移動した。
他の受験生は一度部屋に戻って、武器を持ってテラスに出てきた。
「じゃまず、シュウとボルガ。
シュウが盾てでボルガの放った矢を受けてくれるか。
ボルガ、君の弓の精度はどうだ。
外れたらシュウが血みどろだ。」
「精度は高いよ。シュウの盾ぐらいの大きさがあれば、走り回ったとしても外れないよ。」
「じゃ、シュウはあそこまで離れて、盾を両手に持って、上に掲げてから左右に動いてくれるか。
ボルガ盾を狙って、初めは立って、慣れたら少し動きながら矢を放って。
じゃ行くよ、はじめ!。」
ボルガの矢は正確に盾に当たった。
本当は広い場所でやりたいが、オオカミたちが下に群がっているので、ボルガは怖くて外に出たがらないので仕方ない。
「まぁ、何もしないで試験に臨むよりはいいかな。
次はシュウが俺に打つ掛かってくれ、俺が大剣でそれを捌く。
では始めよう。」
俺はぺーテルが捌きやすいような位置に突きを繰り出した。
踏み込むと当たりそうだったので、一歩だけだ。
すぐに剣を引いて盾を上に構えると同時に剣を振り上げる。
ぺーテルは俺が盾を上げた時に、すかさず大剣を盾に打ち込んでくる。
そして、すぐ大剣をひいて構える。
構えた大剣に俺は剣をうちおろす。これを繰り返した。
繰り返すうちに相手の技量が見えてきたため、お互いの剣を打ち込むスピードが上がった。
ペーテルはクズミチに劣らない良い戦士だった。
体を解す程度かと思ったが、思ったよりも良い訓練になった。
「シュウは良い剣士だな。基本がほんとにしっかりしているね。
スキがなさすぎだよ。」
「ペーテルもな。
体が大きくて、大剣だから力で押してくるかと思ったが、しっかり受けて、的確に切り返す。
いい訓練になったよ。ありがとう。」
次はボルバーナとアリーズだ。
いずれも短中距離の武器だ。
槍は直進と円の動き、鞭は直進と変形、どこから次が飛んでくるかわからない。
結局、ボルバーナが槍を回転させた旋風で、アリーズの鞭をからめとり、そのまま一気に突いて勝負有の状態に。
何回かこの組み合わせで手合わせを行った。
その後休憩を兼ねて、お互いの力量についてついて話し合った。
今のところボルバーナの槍が一番強力だということになり、現状でそれに対抗できそうなのが遠距離攻撃のボルガの短弓と、俺が槍を盾ではじいてそのすきに剣で突くことということになった。
ただ、剣と槍で距離が違うので、どのくらい俺が突きで踏み込めるかを考えるとまだまだ厳しいと思う。
初めて会った俺たちだが、ボルバーナの発案の訓練でお互いをよく知ることができた。
いろんな奴が同期となるが、こいつらと机を並べることに不安はなくなった。
外のオオカミさんたちは俺たちの訓練の様子を食い入るように見ていた。
どの子羊がうまそうか、いえいえ、どの受験生が好みか、いやいや、どの受験生が自分のペアとしたらいいかと妄想し、その目の輝きは飢えたタカのようであったと、ふと外を見たエリナが入試が終わった後に語ってくれた。