28話目 力がある者たちと託す者たち
食後の礼拝を済ませた後、俺は宿泊施設の一室でゴロゴロ、昼寝。
風の大精霊の加護があるのか、冬山にある施設だというのに暖かいです。
寝袋に入ってゴロゴロ。
礼拝以外にやることが全く思いつきませんでした。
ここじゃ、デートする場所もないしね。
そう言う訳で、俺はこの頃いろいあって疲れているかもと、エリナから昼寝をしていなさい指令が出ました。
ということで、ゴロゴロしているわけです。
エリナと芦高さん、パキト兄妹、そしてイザトラさんとお手伝いのシッポさんたちは外で庭や花壇の整備を続けます。
エリナはまだ身に着けていない魔法属性が土なので、炎のアーティファクトを手に入れたときに土魔法に覚醒しやすいようにと、イザトラさんと同じ発想で、土いじりをするんだと。
それは、イザトラさんのように、いくつかの属性魔法に覚醒する可能性があるときに欲しい属性魔法に覚醒しやすくするための方法じゃぁなかったの。
エリナのようにもう次は土に決まっている方にはあまり意味のないような。
まぁ、無心に奉仕することも心のリフレッシュにいいかもね。
残りの方々はソニアとソシオさんの案内で風の大精霊シルフィード様に会いに行っています。
風の大精霊にお会いするのだから、付き添いはやはり、風の使徒と風の巫女がいいということになりまして・・・・・、言いつけられまして、シルフィード様に。
ただ単にソニアと一緒に居たいだけじゃないの疑惑が。
まぁ、いいけど。
そう言う訳で、昨日、イザトラさんとソシオさんが聞かされた輪廻の会合について、タイさんと水の巫女のノアフさんが大精霊から直接話を聞くという、今日の本当のイベントが発生しているところです。
両人ともあらかじめ、話は聞いているので、内容よりも風の大精霊様から話を聞くことにより、今各種族がおかれている状況に現実味と深刻さを実感してもらうのが目的です。
あんな話は、本来であれば信じらんねぇもんな。
権威者が話さないと。
「シルフィード様は見かけはチンチクリンじゃからのう。話に箔が付くかはわからんのう。」お昼寝仲間のおばちゃん
「おばちゃんは見た目はあれだけど、空飛べるぜ。
飛んで宙返りすればいいんじゃねぇ。」身内のため何んとか威厳を付けさせようとする雷ちゃん
少しは見習え、おばちゃん。
アクア様の威厳のなさは・・・・・、げふん、げふん。
まあ、シルフィード様の外見の威厳のなさを年の功で何とかするんじゃねぇの。
「俺とおばばも相当年を食ってるけど、威厳感なんてまるでねぇよな。」
「なっ、何を言うのじゃ。妾はこの身の刃から相当な威厳感があろう。このキラッと光る刃からな。」
それって威厳というより威圧感だろ。
「威厳も威圧も同じもんじゃろ。」
「シュウそうなのか。」
相手を委縮させればいいというおばちゃんの発想ではね。
でも、威圧感では人は付いてこないというか、心の底では信じられていないというか。最後に裏切られる未来が見えるな。
「そうか、じゃあ、シュウも威圧感ではなくて威厳を身に・・・・、ないな全くないな威厳が。これだけの実績を残してきたのによう。
例の記憶玉のせいで子供にまで指をさされて笑われるしな。」
ううっ、それを言わないでくれ。
一応、俺の愛人兼美人秘書なんだろ。
「まぁ、武士の情けじゃ。月の女王にはその件は黙っててやるのじゃ。
もう一人の嫁にいきなり指をさされて笑われたのでは背中に居る妾が笑われているようで気分が良くないのでのう。」
ううっ。ありがとうございます。
「その代わり、シュウが10代の内は妾を背中に背負い続けてほしいのじゃ。」
20歳になったら?
「次の若い子に乗り移るつもりじゃ。
ほれ、職校に行けばより取り見取りじゃ。」
「一般の男子だったら夜中に飛んでくる大剣となんて一緒に居たくないと思うぞ、おばば。」
「そんなのわからんのじゃ。背中に妾を突き立てても平然としている男子を探すのじゃ。わかったなシュウ。」
俺が探すの。
「そんなことより、おばばは早く白シッポの背中に行けよ。そうすればシュウの若いエキスは俺だけのもんだ。」
「絶対に嫌じゃ。無理に引きはがそうとしたら、シュウの背中に突き刺さってやるのじゃ。ぷすっとな。」
めんどいから早くイザトラさんの背中に収まってください。今すぐにでもいいです。
「zuuuu」
寝たフリしちゃってるよ、おばちゃん。
晴れてた青い空が赤く染まり、冬特有のすごい速さで空の茜色が深藍色に取って代わろうとしているとき、突風が緩んだ。
そう、もう帰る時間となりました。
一時間ぐらい前にシルフィード様との面会が終わった面会組は俺がいた部屋にやってきました。
ソニアは一緒にゴロゴロ。
タイさんはお茶を入れて持ってきてくれました。
ソニア、リックがパンパンだね。シルフィード様からのお土産かな。
ソシオさんと黒シッポさんは花壇の整備の奉仕の手伝いに出て行きました。
きっと黒シッポさんは大精霊に会ったという興奮をイザトラさんに伝えに行ったのか。
それを周りのお手伝いシッポさんに気取られないように見に行ったのがソシオさんかも。
最後にもう一度、短く礼拝をして、礼拝堂の前に集合です。
空はすっかり深藍色に変わり、この日の短さは嫌でも冬という季節であることを感じさせられました。
俺はもう一度、風の聖地を、その背後にある、直接は見ることのできない、風の神殿に別れを心の中で告げた。
これから帰って各々がここの予言の石碑と風の女神像について、話を広めていくことになる。
そして、ここ風の聖地は巡礼地と整備され、多くの巡礼者が訪れるようになると思う。
何せエルフ族は情報が伝わるのが速いからな。
初めは風の聖地として物珍しさから訪れるにしても、あの予言の石碑とそれを守護する風の女神像、そして、女神の化身として威厳が備わった、ここが一番の懸念事項だが、風の巫女様から予言の内容について説教を受けるのだ。
のんびりした種族のエルフ族でも危機感を抱くにちがいない。
危機感を持った中から、ひとりでも祈りだけではなく予言の運命に抗おうとするものが現れることを期待している。
その者たちは力をもつ者ではないが、きっと、輪廻の会合を外から動かしてくれるし、措置についても真剣に考えてくれるものとなるだろう。
そして、最も大事なこととしては、その者たちが措置後の世界の安寧を築いて行ってくれる者たちとなることだった。
措置後については俺たち力がある者たちよりも力がない者たちがその担い手の主力となろう。
だから、一緒に輪廻の会合を見ていてもらいたい。
祈っているだけでは安寧が得られないことを。
運命に抗って、初めて安寧の道につながることを措置後を託す者たちには体験してもらいたい。
そう、託す者たちなのだ。
前回の輪廻の会合の措置後に、光の公女と月の女王、おそらく中心にいる者もその後の世界がどうなって行くかを見ることはなかったのだ。
今回だって措置後に俺たちが無事に地上に立っているという保証はないのだ。
おれはそっと後ろをついて来るエリナを見た。
ソニアのリックからお菓子を分けてもらって、無邪気に楽しんでいる。
その笑顔を措置後に見られないかもと思うと、急に、愛おしさが募って来た。
おれはやや強引にエリナの手を握った。
突然なことにちょっと驚いたようだが、すぐに手を握り返してきた。
それを見てちょっと頬を膨らませたソニアが俺の反対側の腕に引っ付いてきた。
そして、クッキーをひとつ俺の口に頬り込んで、満面の笑顔を向けてきた。
俺の幸せの形がここにあった。
絶対にこの家族は守りたい。
そして、タイさんを見た。
タイさんはすっかり仲良くなったアイナさんとアラナさんに、おそらくシルフィード様からもらったのであろう、今俺の口に入っているクッキーを3人で楽しんでいた。
こちらも風の聖地の発見という一つの大きなミッションをやり遂げたという高揚感からかの満面の笑顔だった。
彼女らは力のない者として、措置後の世界の安寧を託す者たちとして、これから訪れる試練に臆することなく立ち向かって行ってほしいと思う。
そう、試練に立ち向かわなければならない者は、決して、強者や力がある者だけではないのだ。
輪廻の会合においては、力がないだけに、俺たち以上につらい試練となるかもしれない。
それでも力がない者、いや、託す者たちには少しづつでも前に進んでほしいと思う。
こうして、風の聖地探検隊はそれぞれの目標を達成したという充実感と共にシッポ村に帰って来た。
風の聖地を出てから3日後の昼だった。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
318部分からの本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。