8話目 純粋な力と本当の力
「ところでシュウ君たちは風の大精霊様に聞きたいことがあるの。」
「さっきの話を受け入れてもらえたのであれば、俺たちの目的、俺たちの志を話しても構わないかな。」
俺とイザベラさんの話の様子を後ろで伺っていたエリナが近寄ってきた。
「シュウ、それは話しておいた方がいいわ。
話せないなら、イザトラさんの話が終わったら、私たちと大精霊様との話が終わるまで外で一人で待っていてもらうことになってしまうわ。」
「これまでは俺に言い難かったことか。」
「そういうことになるわね。
だって昨日は死神になりたいというんですもの。
そんな危ない人、何が何でも力を欲している人に私たちの志は話せないわよ。
でも、先ほどの様子だと、まずは考えて、そして、我慢しなければならないときは怒りを抑えてじっと我慢すると言っていたので、もう話しても構わないと思うわよ。
いえ、是非に聞いてほしいわ。」
「力を欲することと、シュウ君たちの志とどういう関係があんだ。
ちょっと繋がらないような気がするんだけど。」
「シュウ君たちの志を達成するには大きな力が必要で、その力を蓄えつつあるということですよ。」ソシオさん
「力を蓄えつつあるか、と言うことは今でもその大きな力の一部を既に持っているということか。」
「そうだよ。シュウ君たちは大きな力を持っている。
それこそ魔族軍何個師団もひねりつぶせるほどに。」
「そんな力を持っているのか、それだったらその力を俺に・・・・・・、
わかったよ。漸くわかったよ。
俺にこれまで本当のことを、真実を話せなかったわけが。
そう言うことか。
俺は力があれば同族を救えると妄信してたってことだな。
それが違うというんだな。
シュウ君たちの志は純粋な力、暴力的な力だけでは解決できない物なんだな。
確かに言えないな。力だけを欲している俺なんかには。」
「でも今なら話せると思うよ。ねっ、お兄ちゃん。」
「そうだね、さっきもみんなで真実を話すべきかどうか相談していたし、俺はここにイザトラさんを風の神殿へ連れて行くことすら悩んでいたよ。
でも、今の言葉で、迷いはなくなったよ。
是非聞いてほしい、俺の、俺たちの志を。」
「そんな大事なことを俺に話していいのか、ただただ力を欲している俺に。」
「今はそうじゃないと思いますよ。一緒に力の使い方を考えましょう。
それがあなたの志の獣人族を滅亡から救済することにもつながると思います。」
「そうか、そうなんだ。
シュウ君たちの志には俺たち、獣人族の滅亡から救うことも入っているのか。」
「そうです。それも入っています。」
「そうか、ありがとう。
こんな力のない獣人族を、これまで交流のなかった獣人族のことまで考えて、救いの手を差し伸べようとしてくれているなんて。」
「まずは聞いてください。俺たちの志を。」
「ぜひ聞かせてくれ。
そして、その中に俺が、俺たち豹族ができることがあればうれしいんだがな。」
「俺たちの志と言うか、今行動している目的は全種族を衰退、いや最悪の場合は滅亡の危機から救うことです。」
「えっ、全種族が滅法の危機にあるのか。獣人族だけでなく。」
「そのようです。
獣人族は数が少ないので既に滅亡の危機に晒されているようなことを聞きました。
寿命は短くなっていませんか。魔力は落ちていませんか。」
「われわれ豹族の寿命はもともと50年ぐらいだ。その分、成長するのが速いがな。
でも、寿命が短くなったような話は聞かないな。
また、魔力はもともと少ないので、減った様には感じないな。」
「そうですか、人類と同じようにその辺には顕著に影響がまだ出ていないようですね。」
「エルフ族は違うのか。」
「エルフ族の寿命がだいたい400年が300年に、魔族は250年が100年ほどになっているようです。」
「そんなに短くなっているのか。」
「我々人類と豹族は短くなっているのかもしれませんが、数年と言うところじゃないんですかね、皆がそう感じないほどかと思いますね。多分だけど。」
「しかし、これからどんどん短くなっていけば、豹族はその数の少なさから滅亡し、数の多い人類は寿命の短さや魔族との戦いでの消耗から滅亡し、そして、魔族、エルフ族もやがては人類よりも寿命が短くなって滅亡するか。
そんなことが起こっていたのか。」
「そうです、種の滅亡はどの種族でも現実味が出てきています。
特に私たちエルフ族よりも魔族の方が相当焦っているんじゃないんですか。」
「そりゃあ、そうだろうな。魔族は寿命が半分以下になっているんだもんな。
それを救う手立てを探し出すのがシュウ君たちの目的なのか。」
「その通りです。その力を持ちたいと思います。
しかし、現在は魔族との戦に勝つような純粋な力は持っていますが、全種族を滅亡から救うような力は持っていないどころか、その力と言うものがなんだかもわからないんです。
でもきっと見つけてみせます。
ここにいる仲間と、そしてここにはいない別のところにいる仲間と一緒に。」
「そうか、純粋な力だけでは種族の滅亡を防げないのか。
俺がどんなに強い力を身に着けても、それが純粋な力である限り、東の魔族の占領地から同族を救い出せても、すぐに獣人族が滅亡してしまうかもしれないのか。」
「そうならないためにも、必要な力とは何かを明らかにして、それを得たいと考えているんですよ。」
「なんか俺ってちっちゃいな。体は大きんだけどな。
自分の事だけ考えていたんだな、そして、ただ純粋な力だけを求めていたなんてな。
起こっていることの本質を理解して、本当の力を求めなきゃいけないんだな。
それが一番早く滅亡するという獣人族を救うことになるんだよな。」
「それでも、占領地の獣人を解放しないと獣人族の場合は厳しいようですね。
滅亡の危機の原因が寿命の短縮だけでなく、絶対個体数の少なさにあるわけですから。
解放するには魔族との戦闘、そのためには純粋な力がものを言うと思います。」
「それで俺は、この全種族の危機を知った上で、純粋な力を求めてほしかったんだ。
また、純粋な力だけでなくこの危機を乗り越えるための本当の力をイザトラさんには求めてほしかったんだ。」
「俺もシュウ君の言うように純粋な力だけでなく、本当の力を、それがなんであるかを含めて探してみたくなったよ。
それでみんなが救えるのであれば、きっと魔族も救われるのであれば今のような占領作戦もきっと変わると思うしな。」
「そうですね。
イザトラさんは自分で答えを見つけたようですね。
危機を回避するだけではだめだとシュウ君は考えているようですよ。
私もその考えは大いに賛成です。
危機を乗り越えた後、どう各種族が関わっていくか。
どのようにして共に発展していくのかも考えないと。
そうしないと、過去の繰り返しになります。
そうするとまた、別の危機が早々に訪れてしまうということでした。」
「別の危機が早々に訪れるのか。
それはどういうことを言っているのか、これまでの話からは分からないな。」
「この続きは風の大精霊様から話してもらった方がいいと思うわ。
輪廻の会合の話になりますもの。
ソシオさんも直接大精霊様から聞いてほしいと思うわ。」
「そろそろ、風の聖地のはずだよ。みんな。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。