6話目 務めを果たせ
そんなわけで俺たちは風の止む10時を待った。
10時に止むことを知らない者たちは風に変化があるかを何となくじっと待つことになる。
やがて、徐々に風が弱まり、まったくの無風ではないが、進むには問題ないほどになった。
「風がほとんど止みましたね。これで進めます。」
「こんなことが、長年ここを通っているが突風が止むなんて。」おっきいにゃんこ族の同行者
「とにかく、風が凪いでいる間に進もう。
しかし、また突風が吹いたらどうしょうか。
皆で行くと事故があったときに対処が難しいので、ここで探検組と待機組に分かれた方がいいと思うけど。
どうだろうシュウ君。」俺だけに分かるようにウインクするソシオさん
「その方がいいと思います。突撃組と待機組に分かれましょう。人選はどうしましょうか。」
「この冒険の隊長のシュウ君が決めてくれないと。
その上でどうしても行きたくない人は代わってもらうとか。
待機組でどうしても行きたいと言う人は様子がわかってから次回、明日以降に行ってもらったらいいと思うよ。」
「わかりました。
風の聖地一番乗りのせっかくのチャンスなので各種族から1名は突撃隊に入ってもらいます。
まず、人類は俺とエリナ、ソニア。
ここまで来て申し訳ないけどタイさんは待っていてもらえますか。
それと待機組の隊長をお願いします。」
俺はタイさんにだけ頷いた。
タイさんに待機組に入ってもらったのは風の神殿まで一般の人間が入れるかわからなかったからだ。
それだったら、事情の分かっているタイさんに待機組の指揮を執っていてもらいたい。
「わかりましたわ。晩御飯を用意して待っていますね。」
「エルフ族からはソシオさん。
申し訳ないけどパキトさん兄妹は待機組と言うことでお願いします。」
「護衛役としては付いて行きたいが、隊長の決定には従います。」パキトさん
「豹族からはイザトラさん。全部で5名で突撃したいと思います。」
「シュウ君、ちょっと待ってくれ。俺はイザトラお嬢の護衛も兼ねているんだ。俺も行きたい。」
「ノアフさんには待機組の豹族のまとめ役をお願いします。」
「でもよぉ。」
「ノアフ、わがままを言ってはダメだ。
いつ突風がまた始まるとも限らないからな、シュウ君早く行こう。」
「突然突風が吹いた場合に芦高さんを盾にするつもりです。ですから先頭は芦高さんでお願い。」
「ご主人様わかったんだな。」
「芦高さんの陰に隠れるので、できるだけ突撃隊の人数を少なくしたいと思っての人選ですから、これで行きましょう。」
「シュウ、イザトラさんの言う通り、また突風が出てくるといけないわ。
急いで出発しましょうよ。」
「それでは行ってきます。
また、突風が吹いたら、待機組は見張りの2名を残して、風の影響を受けない地点までこの道を戻ってもらえますか。
そこで待機のためのベースキャンプの設営をお願いします。
夜には戻ってくるつもりです。それでは行ってきます。」
俺は待機組の隊長に指名したタイさんに近寄ってつぶやいた。
「街道の近辺で突風の影響を受けない場所を探してもらえますか。
そこに特一風見鶏の村とを結ぶ転移魔法陣を設置するつもりです。
巡礼者が突風が止むまでに待機する施設を作りたいので、ちょっとした風の聖地の門前町を作ろうと思っています。
その場所探しをタイさんにお願いしたくて、残ってもらいました。
申し訳ないです。明日は一緒に行きましょう。」ボソ
「いいんですよ。わかっています。
その場所のあたり付けは私に任せて、早く行ってらっしゃい。
気を付けてね。」ボソ
「それでは突撃隊は出発します。
待機組には申し訳ないですが、今日確認して問題がなければ明日は皆で一緒に行きましょう。
それでは行ってきますね。
タイさん、後のことはよろしくお願いします。」
「任せてください。風の聖地が本当にあればいいですね。行ってらっしゃい。」
*
*
*
*
*
突風の力はすさまじく、地面が削られて、剥き出しにされた岩が点在する。しかし、その岩も長い間突風に晒されているため少しづつ削れて、最後には突風で転がされてしまうようだ。
山と山の間を下ってくる突風が岩を砕いて石とし、それをを転がすので、この突風の道の真ん中は不思議なことにごつごつした岩や大きな石がなく、小石の敷き詰められた歩きやすい道となっていた。
自然の力とは実に不思議なものである。
1時間後には突風が吹くということであるが、30分で風の聖地に着くはずなので、俺たちは比較的のんびりと歩いていた。
ただ一人、状況を知り得ていない人以外は。
「シュウ君、そんなにのんびり歩いていいの。
いつ突風が吹いてくるかわからないんだろ。もっと急ごうぜ。」
そう、この中で一人だけ事情がわかっていない白いおっきなにゃんこちゃんのイザトラさん。
ここですべてを話すべきすか、それとも風の聖地に着いてから話すべきか。
"お兄ちゃん、話の持って行き方が難しいよね。
だって、白にゃんこちゃんは魔族を目の敵にしているわけでしょ。
でも、お兄ちゃんの志の全種族の救済の中には当然魔族も入っているだよね。
白にゃんこちゃんに魔族を救う手助けをしてくれなんて言ったら、怒特攻大魔神と同じように大暴れしそうだよ。"
「まぁ、父ちゃんとおばちゃんが東を占領している魔族についてどんな情報を持っているかによるよな。
占領地に居るという獣人族が既に全滅しているとかいうんじゃ、怖くて、真実を話せないし、おばばを引き渡すこともできねぇな。」
「妾はシュウの背中が気に入っているので、東の獣人どもが全滅していてくれた方がいいのじゃ。」
なんてことを言い出すんだ、おばちゃんは。
"でもおばちゃんさんをイザトラさんに渡さないと、水の使徒として十分な力が発揮できないわよ。水の使徒なしで輪廻の会合が起こせるのかしら。
そして、私も光の公女として覚醒できるのかしら。"
光の公女の覚醒条件がわからないよね。
恐らく炎のアーティファクトが見つかって、そいつがエリナに身に着けてほしいとと思ってくれれば土属性に覚醒することになると思うんだ。
それで、エリナは4魔法属性に覚醒して、それで光の公女としてそのまま覚醒するんだろうか。
4属性取得は覚醒の条件の一つかもしれないな。
やはり4属性の使徒がエリナに付き従うことが光の公女としての覚醒条件に入っているんじゃないのかなぁ。
「まずは風の大精霊様の話を聞いてみましょうよ。
東の占領地の獣人たちが全滅しているかわからないけど、いつかは真実を知ってしまうと思うわ。
隠し通せる情報とは思えないわ。」
「ゴセンちゃんの言う通りだぜ。
真実を知ることは避けて通れねぇ。
真実を知って、たとえそれが許せないほど残酷な事であっても、それを乗り越えることも輪廻の会合に集いし者共には必要だと思うぜ。」
「それにそんな酷い情報を持っているのなら今回、ご主人様たちに水の使徒と巫女を連れてくるようにとはお母様も伯父様も言わないと思いますわ。」
わかった、風の聖地に行くまでに、イザトラさんに話せることは話しておこうと思うけどいいかな。
"いいと思うよ、お兄ちゃん。"
"私もいきなり風の大精霊様に会うというのもどうかと思うし。"
「誰にいつ、何を話すかを決めるのも中心にいる者の務めだぜ。務めを果たせシュウ。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。