2話目 俺は守ったぞぉ
エリナが炎魔法の練習で作った作った肉団子入り野菜スープとサラダ、パンの簡単な朝食を取った後に俺たちは出発することにした。
陽は少し高くなったが、空気が温まるほどではなかった。
冬山に入るということで厚手の服や手袋、防寒靴の装備で体がもこもこ。
でもあまり厚着をすると汗をかき、それが冷えて風邪をひかないようにコートはいつでも脱げるようにしておかないと。
ほとんどの荷物は芦高さんが持っていてくれるので、俺ちょっとしたものを入れたリックとおばちゃんを背負っているだけだからコートは直ぐに脱げるな。。
おばちゃんは俺の背中に戻れてちょっと嬉しそうにしていた。背中が冷んやりしいるのがその証拠だ。
まぁ、水の使徒と巫女が見つかったので、もうすぐお別れかもしれないし。
老い先短いおばちゃんに孝行しなきゃな。
「そうじゃ。いっぱい孝行せえよ、シュウ。妾が長生きできるようにじゃ」
「おはば、長生きできそうにないからシュウが孝行するって言ってんのよ。早く逝っていいわよ。」
「ゴセンめぇ、叩き割ってやるのじゃ。やっすそうな腕輪だから柄の方でトントンと叩けは十分じゃろ。」
「うぇ~ん、私そんなにやっすくないもん。」
おっきなにゃんこ村を出るときには村長を始め、村の全員が見送ってくれた。
特に子供たちは俺たちにそのまま付いて来ようとして、また、村長の奥さんに連れ戻されていた。
冬山は雪男が出るぞう。雪男は子供の尻の肉が大好きなんだと、いって、脅していた。
きっと一昨日までは雪男じゃなく大蜘蛛様と言っていたんだろうな。
だって、雪男ってだれって、子供たちに聞き返され、村長の奥さんの目が泳いでいたもん。
村を出て、山の方に登っていく。
一番高い山で1500mぐらいらしいが、山々が繋がって、目の前には山の壁が横に立ちはだかっているような印象だ。
冬と言うことでこの山々も雪をかぶっていたが、先端が白くなっている程度だった。
しかし、見た目と違い山から吹き下ろす風は冷たく。風が吹くとコートをギュッと抱きしめたくなるような衝動にかられた。
その冬に吹く冷たい風のためか、周りの木々はそれほど高くなく、特一風見鶏の村の周りのように道全体を覆うような木は生えていなかった。
下草はすっかり枯れ、枯草色のじゅうたんに黒い筋が一本通っているような道を進んで行った。
道も石畳みのような立派なものではなく、土に小石が混じったようなものだった。
その土が霜柱で浮き上がって、俺たちはしゃりっ、しゃりっと踏みつぶしながらゆっくりと進んで行った。
今一緒に歩いていて風の聖地(仮)に行くメンバーは次の通りである。
まずは風の大精霊に会いに行くのは。
俺とエリナ、ソニア、ソシオさん、タイさん、そして、そんなところに行くことになろうとは夢にも思っていない、白黒おっきいにゃんこのイザトラさんとノアフさん。
昨日は死神変身の件でいろいろあって不機嫌だったが、今日は特に俺たちに思うところはないような感じの対応だった。普通に朝の挨拶もしたしね。
しかし、あれだけやけ酒をかっ食らっても今日は平然としているのはさすが豹族、虎族の親戚だとソシオさんは関心したように言っていた。
まぁ、俺は人類の恥部の熊元師匠の姿を見慣れたいたので、そんなには驚かなかったが。
俺が驚いたのはあれだけの酔っぱらいが集会場で寝ていていびきをかいても、熊元師匠一人の分もうるさくなかったことだ。
今朝は寒くて目を覚ましたがうるさくて寝れないようなことはなく、体調も良く、徒歩での旅に全く問題はなかった。
次に風の聖地(仮)だけに行く不幸な人は。
パキトさん、アイナさん、アラナさんとおっきいにゃんこの同行者5名である。
なぜ不幸かって、シルフ様が風の神殿に行く社を改装して、風の聖地(仮)とし、その中に駄女神さん酷似の女神像を据えて、風の女神の神殿が発見されたように噂を広げてもらうつもりだから。
あまりに、女神が駄女神さんにそっくりだから、駄女神さんを風の女神の生まれ変わりとしてその神殿に送り込み、あこがれのエルフ領移住生活を満喫してもらおうというのが優しいシルフィード様の考えである。
もちろん社だから聖地の裏には風の神殿(本物)への転移魔法陣があるが、そのことは先の7人以外には当面広めることは考えていないのだ。
駄女神さんにも当面黙っていよう。
本音は駄女神さんをエルフ領の僻地に押しこみ、人類とエルフ男若衆の安全を確保することにある。
きっと、駄女神さんもエルフ領に永住の地を得て満足なはずだ。
「いや、それでは駄女神が直ぐに里に下りてきてしまうぞ。」
「そうじゃな、肝心なものを当てがっておかないとまずいのじゃ。」
「ご主人様はいつも肝心なところが抜けていますわ。」
「甲斐性なしに何を期待しているのですか、皆さん。」
片手落ち。
「ようく考えてみろシュウ。駄女神がエルフ領に移住したいのは何のためだ。」
「そうよ、雷ちゃんの言う通り、そこのところをよく考えてほしいわ。」
それはエルフ男若衆を・・・・・・、そうか、エルフ領に住処をあてがうだけではだめか。エルフ男も一緒に連れてこないと。
「漸くそこに気が付いたのじゃ。こんな僻地にエルフ男若衆が喜んでくるわけがなかろう。」
「それに駄女神が一人でここにいるとだなぁ、とでもないことが起きそうだぜ。」
どんなことが起きるんだ、なんか背中がブルっと来たぞ。
「夜な夜なお山から下りてきてなぁ。エルフの里に現れ、エルフ男、特に若い男をさらっていくんだ。
それを警戒して里人が若いエルフ男を隠すとな、怒怒怒特攻大魔神に変身して、里の家々を投げ飛ばし、踏みつぶし、焼き払うんだぜ。
そして、そのエルフの里は壊滅するんだきっと。」
「そうして、エルフ族は己の滅亡を早めるのじゃ。」
何と恐ろしいことだ。駄女神さんを僻地に一人にしておいてはダメじゃないか。
誰だそんなことを考えたのは。
「シュウです、昨日そう言っていたのを聞きました。」
ゴセンちゃん、俺そんなこと言ったっけ。
「その年でボケけてしまったのですが、ご主人様。まだお若いのに。おばばと一緒とは。」
「妾はまだボケてなんぞおらんぞ。」
"シュウがボケたら、ちゃんと私が面倒を見ます。それよりもおばちゃんさんあてはあるの、介護者の。
介護保険に入っていないどころか、貯金もないのようねぇ。まぁ、大剣だから仕方ないか。"
"それこそ風の聖地(仮)の駄女神像に持たせておけばいいじゃん。"
"ああっ、それがいいかも。毎日ゆっくりと日向ぼっこができるし。"
エリナ、それはまずいぞ。一番やってはいけない事だ。
"一番やってはいけない事って。"
夜な夜な怒怒怒特攻大魔神と化した駄女神さんが水のアーティファクトのおばちゃんを片手で振り上げてエルフの里を襲撃するってことだろ。
おばちゃんも夜遊びしてエルフ男若衆をキャーキャー言わすって言ってたし。
「そんな事態になったらあっという間にエルフ族は消滅してしまうということだわ。」
「ゴセンちゃんなんて恐ろしいことを口にするんだ、フラグってやつになっちまうぞ。」
「雷ちゃん、まずいわよ。おばばを駄女神に持たせては。」
"シュウ、どうしよう。エルフ族が一番初めに滅んでしまいそうだわ。"
これはエルフ男を何としてでも風の聖地(仮)に確保せねば。
"やはりここは風の聖地(仮)お参りツアーを企画するしかないわね。"
「それだとエルフ女子も来るんじゃねぇのか。」
「エルフ男若衆だけ、奥殿に引き込めいいのよ、駄女神がね。」
風の聖地となれば興味のあるエルフもいっぱいいるだろうし、それで行きますか。
エルフ族が滅亡の危機に瀕するよりはましか。
よし、風の聖地(仮)巡礼ツアーを企画して、それをソシオさんやパキトさん兄妹に各町に情報としてとしてばらまいてもらおう。
"ああっ、これでエルフ族の将来も安泰だわ。
なんかすごくいいことをした気分だわ。"
"お姉ちゃん私もよ。何か人々の役に立ったという充実感で一杯よ"
俺もこれでエルフの滅亡の危機を救ったような気分になった。
いいことをした後は空気がうまい。
きっと、昼のキャンプ飯も輝いて見えるだろうな。
んっ、何かか違うような。
まぁ、気にしなくてもいいよね。
俺は駄女神さんからエルフ族を守ったんだし、
俺はやったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ。
とっ、10秒だけは思った。
よく考えると、駄女神さんから守っただけで、エルフ族の衰退を止められたわけではなかった。
まぁ、守ったのは間違いないんだからいいんじゃねぇ。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。