5話目 大人のお節介?
再会を喜び合い、俺たちは基地の中に入った。
夕方ということもあり、基地は作戦から戻ってきた軍人たちでにぎわっていた。
軍人の中には館長たちを見て、「いつもおつかれさん。おいしいものなんかあります? 」と気軽に話しかけてくる者も多数いた。
魔族や魔物との戦いから戻り、この基地の中はほっとできる空間なのだろう。
基地には多くの建物があったが、俺たちはその中でも大きいが、飾り気のない建物の前に来ていた。
魔族との戦闘で基地に入るのは遅れたが、明日は予定通りに出立しなければならないので、みんなで運んできた荷物をすぐに倉庫に入れることにした。
運んできた荷物の内、半分は馬車に積んだままで、明日、この基地より先にある前線基地に荷物を、今度は軍人たちが運ぶようだ。
皆は忙しく働いているが、勝手がわからない俺とエリナは戦闘で疲れたろうからということで食堂に連れていかれ、休憩しお茶を飲んでいる。
「なんか俺たちだけ休憩なんて悪いな。」
「ふふふっ。そうね。クズミチは今マリアンヌさんたちに荷物の運搬と整理でしごかれているかもね。
しごかれて、汗をかいて、ぶつぶつ言って、また、マリアンヌさんに怒られて。
「イエスッ・サー」なんて言わされているわ、きっと。」
突然、エリナが俺の目の前に来て、息がわかるほど近づき、そっと俺の両手をとり自分の手で包み込んだ。
そして、俺の顔を覗き込み、念話を送ってきた。
" ねぇ、シュウ。すごいと思わない。生きているって。"
「えっ。」
" 生きていないと、友達と話をしたり、一緒に遊びに行ったり、親の愚痴を言ったり、道場のみんなと一緒に汗をかきながら働くことも、大好きな人と手をつないで歩いたり、愛を語ることも何もできないの。
館長がいつも言っているわ。生き抜けと。今日改めて思った。生き抜くことの大切さを。愛する人と生き抜くことを。
私は何もいらないの。ただ一つを除いて。あなたと一緒に生き抜くこと以外は。
今日、あなたと離れて、念話ができなくなって思い知らされた、一人取り残される残酷さを。
別動隊を倒した後、あなたの声を聴くまでは狂い死にしそうだった。あまりにあなたの無事を思いすぎて。
ねぇ、シュウ。お願い。前も言ったけど。
生き抜いて。
魔族との戦いなどというつまらない争いでいなくならないで。
お願いよ。 "
" わかった。
今日は相手の魔族がものすごく強くて諦めそうになった。
君との再会を諦めそうになった。
ごめんよ。
でも、これからは違う。絶対に生き抜くと誓うよ。
君と生きるために。 "
「ぐすん。」
" ありがとう。シュウの言葉を信じるわ。
一緒に老衰よね。私たちの願いは。 "
" えっと。でも、まだまだ老衰には早いよ。
エリナと一緒に居る時間が無くなりそうだもん。 "
" ふふふっ。そうね。シュウ、私の大事な旦那さま。
きゃっ、ついに言っちゃった。
旦那さま・・・、えへへへっ。"
「言っちゃっただって、・・・・・・うらやましくなんてないのう。ちぇっ。」
「聞いてらんねぇゃ。耳をふさげない自分を呪うぜ。ちぇっ。」
「プリンセスの逆口説きですね。あこがれですわ。うっとり。」
「シュウ殿、後戻り絶対不可になりました。ご愁傷さまです。」
「畑にまく大根の種を。プリーズ。」
こいつらやっぱり聞いてたろ。出っ歯のカメさんだろ。恥ずかしい。こいつらのことを知らない、エリナがうらやましい。
そのうえ、最後の種は何だ、なぜ大根なんだ。
俺は役者じゃねぇぞ。
あっ、そういう意味ではないのですか。
魔族さんはまじめに畑仕事をしたいんですね。
勘違いしてごめんなさい。大根収穫したらおでん食べたいな。
エリナがうっとり、俺が引きつっていると向こうから軍人が二人近づいてきた。
あっ、援軍に来た大隊長さんだ。
「おほんっ。
食堂で休憩中に煩いことは言いたくないが、今にもキスしそうな距離で、お互いをじっと見つめ合うのはどうかと思うぞ。ここには若い独身の者も多いんだ。
周りを見てみろ。今にもお前に皿やコップを投げつけそうなやつが10人じゃすまないぞ。」
おおっ、手にコップをもって、血走った目でこっちをにらんでいる軍人さんや、腰の剣に手をかけて、こちらに身を乗り出したところを「殿中でござる。殿中でござる。ここはいましばらく大隊長がいなくなるまで堪えてくだされ。」と仲間に両肩を後ろから掴まれて止められている若い男の軍人さんが3人はいた。
俺とエリナは慌てて互いの手を放した。エリナのぬくもりが手と心に残った。
「あっ、すいません、エリナと念話をしてました。
今日のことを、あまり危ないことに首を突っ込まないように叱られていました。」
「叱られている雰囲気ではなかったが・・・・・、まぁそのことはいい。」
「俺は第16師団第3連隊第4大隊 隊長のモーリツ。
これはチームのクリスティア。よろしくな。」
俺とエリナは立ち上がって、背筋を伸ばし、二人に頭を少し下げた後、挨拶をする。
「俺は、私はシュウ、聖戦士職校の入試に向けて修行中です。
よろしくお願いします。」
「私はエリナ、見習い魔法術士です。
よろしくお願いします。」
「二人ともまだ軍人ではないのでそこまでピシッとしなくて良いよ。
これから飽きるぐらいそんな挨拶をしなければならないのだから。」
「そうよ、でもきちんとしていることはいいことよ。特に軍では。」
「ところで、二人には昼間の魔族との戦闘について聞きたいのだが少し良いかな。
報告書を作成しないといけないんだ。」
「敵は二手に分かれて、襲ってきたんだよね。
一つはシュウ君がもう一つはエリナさんが主に戦ったと聞いている。
そこで、私はシュウ君から、このクリスティアがエリナさんから戦闘の概要を聞きたいのだ。」
「わかりました。協力致します。」「私も問題ありません。」
「ありがとう。
面談室で話を聞くと緊張してしまうだろうから、シュウ君と私はここのテーブルで、エリナさんとクリスティアはあの向こうの空いているテーブルで話を聞くことにしよう。」
エリナとクリスティアさんが向こうに行ってから、モーリスさんに席に座るように促された。
「戦闘について、どこから話をすればよろしいでしょうか。」
「それはどうでもいいんだ。俺の方で適当に報告書を上げておくから。」
「それでは、話というのは・・・・・」
「君の両親はモニカ様とダン様かな。
そして、君の好きなエリナさんはリーナ様お子さん。
ちなみにエリナさんのお父さんは第101師団長だ。知ってた? 」
「エリナの父さんの方まではまだ聞いていませんでした。」
「まぁ、リーナ様が目立ちすぎて、ジークロード様は刺身の妻扱いだからな。優秀な司令官なのに。」
「そうなんですか。」
「ふふっ。さすがエリナさんがぞっこんなわけだ、あの方たちの軍での立場を知っても平然としていられるその器量。」
「いえ、修行に出てわずかですが、リーナ様の噂がどこでも聞こえてきて、その内容が怖すぎます。
何度も聞いているうちに慣れてしまったのかもしれません。」
「なんかリーナ様は凄いよね。
それでも実力はモニカ様の方が圧倒的だった。」
「母さんを知っているんですか。」
「ああ。一度、モニカ様とダン様のチームに俺とクリスティアは助けられたいる。
まだ、駆け出しの小隊が魔族の大隊に囲まれた。
小隊員はなぶり殺しかと思ったときに、はぐれた小隊を探しに来てくれたのがモニカ中隊長とそのチームだった。
圧倒的な破壊力で、魔族の大隊をわずかな時間で消滅させた。
そのチームがお前たち二人の両親たちだ。」
「エリナの両親は俺の両親とチームを組んでたのか。
母親同士は親友だったとエリナから聞いたけど。」
「子供達には黙っていたのかもな。
あの大防衛戦でなんかあったみたいだし。
私も何がまでは知らないが。」
「今日はその話をするために? 」
「それもなくはないが、ちょっと気になってな。」
「何がですが? 」
「お前たち自分たちの立場、うーん、違うな、置かれた状況か。
あのモニカ様とリーナ様の子供たちがチームを組んで、それも見習い魔法術士と聖戦士の見習いにさえなっていないやつらが、たった二人で魔族一個大隊を蹴散らしたんだぞ。」
「でも殲滅したわけではありません。」
「二人で蹴散らしただけでも十分噂になる。
まして、あの方たちに血統だ。
怖くて近寄ってこないなら問題がないが、お前らを利用しようと近づいてくる海千山千の軍関係者、教会関係者がどんだけいるだろうかと思ってな。
表面は聖者面して、裏では金勘定とかな。
まぁ、自分の実力をしっかり見極め、自分を見失わないようにしろとお節介を焼きに来たわけだ、俺たちは。」
「ありがたいお節介ですが、でも俺たちを別々にして言う必要があるんですか? 」
「お互いを頼るのはいいが、寄り掛かってばかりではいけない。
まずは一人にして俺たちの言葉を冷静に聞いてほしかったんだ。
お前たちの置かれた状況を冷静に自分たちに落とし込んでほしかったんだ。」
「いまいち意味は分かりませんが、大隊長の言う俺たちの状況は分かったような気がします。」
「まぁ、悪い大人にいいように利用されないよう、自分のことを大事に冷静に考えて行動しろということだなぁ。
俺の言いたいことは。」
「ありがとうございます。母さんのことも教えてもらって。」
「あと、教会本山ではエリナの母親の他にもう一人頼りになる御仁がいる。
教会本山で職校の試験に合格したら、まずその方を訪ねるのがいいぞ。
モニカ様からの伝言を直接伝えたいと言えば必ず会ってくれると思う。
そして、自分たちが正しく成長できるように導いてほしいとお願いすれば、喜んで手助けしてくれると思う。」
「どなたでしょうか? その方は。」
「白魔法協会総帥 ソニア様だ。」