42話目 灰色の村
おやつの時間にゴセンちゃんは無事にエリナの元に戻った。
少し涙ぐんでいたゴセンちゃんに平謝りのエリナ。
まぁ、身に着けることが習慣になっていないのでしょうがないと思うけどな。
可愛そうなんで、適当に着けてやってくださいな。
次の日の朝、白黒おっきいにゃんこコンビが宿に迎えに来た。
俺たちはもう朝食と準備を済ませて、宿の食堂でお茶を飲みながら待っていた。
「おはよう、迎えに来たよ。」白にゃんこ
「おはようございます。今日からよろしくお願いしますね。」
「用意はできているの。」
「はい。」
「冬山の装備と食料は俺たちの村に先に運びこんであるからな。
今日はそこで一泊してから、いよいよ山に入るつもりさ。
村まではここから3時間ぐらいだから、普通に歩けば丁度昼飯時に着くな。
昼も用意して待ってもらっているぞ。」
「今日はイザトラさんの村までと言うことですか。」
「その予定だ。午後は装備品の点検、おおざっぱなルートと予定を確認、そしてシュウ君たちの歓迎会を予定しているんだ。」
「俺たちの歓迎会ですか。」
「そうだぞ。シュウ君たちはその人数で魔族師団を瞬時に壊滅させることができると聞いたよ。我々豹族は強い戦士が好きだ。
直接、シュウ君たちの魔族との戦いの話を聞きたいとの村の仲間たちの希望なんだよ。
もちろん、軍の秘密事項までは話をしなくても良いよ。」
「それは構いませんが、俺とエリナ、そして、ソニアの戦力は秘匿しておいた方がいいかな。」
「どうして、シュウ。」
「俺たちの防御が攻撃力ほど強くないからさ。狙われるとまずい。
どこで俺たちのことが魔族に漏れるとも限らないから。」
「俺たちの豹族はシュウ君たちのことを魔族に話すことなんてないぞ。」
「もちろん、それは心配していません。
しかし、情報と言うものはいつどのような形で魔族に知られるかもしれないので。
まぁ、そういう意味では人類領ではさんざんやらかしているので、今更隠すのはどうなのと言われれはそうなのですが。」
「まぁ、そうだな。シュウ君たちが話せないならそれでもかまわない。
人類領での生活の様子でも十分興味がある話題だし、いずれにせよ、歓迎会には出てほしい。」
「それでちょっと心配事があるんですが。」
「なんだ、我々豹族は人類にかみついたりしないぞ。
急に尻尾を掴まれたらひっかくぐらいはするかもしれんが。」
「そういう、豹族の習性を心配しているのではありません。
いや、やっぱり習性を心配していることになるのかな。」
「何を心配しているんだ。」
「芦高さんのことです。芦高さんも村に行くんですが、大丈夫でしょうか。」
「一応、昨日、村の皆には話したが、特に旅に同行する者に対しては念入りに。」
「それじゃぁ、大丈夫よね。」
「それが、正直に言うとちょっと自信がないんだ。
説明している俺も大蜘蛛様の前では腰が引けるしな。」
「ちょっと困ったわねぇ。村に入れるかしら芦高さん。」
「実はさっきの魔族との戦いについては芦高さんの話をしようと思ったんだ。」
「なるほど芦高さんであれば、強くて当たり前だもんね。
無敵の芦高さん、魔族の一個師団のど真ん中に特攻して、魔法で無双する。
確かに、絵になるわね。」
「だろ、俺たちだとどうやって魔族を殲滅したんだとかいろいろ聞かれそうで、話せないことばっかりになりそうだけど。
芦高さんだったら、大蜘蛛さんだからで皆納得してくれると思うんだ。」
「そうねぇ、芦高さんと一緒に戦おうなんて、私たち以外は考えなさそうというが、そもそも大蜘蛛さんがどこに生息しているのか誰も知らないしね。」
「あとは芦高さんと直に話をしてもらって、芦高さんが俺たちの仲間だと言うとを知ってほしいのが一番かな。」
「そうかぁ、芦高さんが魔族をコテンパンにする話をしてもらえるなら、村の皆も、おっかなびっくりではあるけど、興味津々で話を聞いてくれるかもな。
そして、大蜘蛛様のことをよく知ってもらうか。それはいいかもしれんな。
そういう風にもう一度村の皆には話してみるよ。
豹族で尊敬されるのは魔族よりも圧倒的な力を持った者だからな。
大蜘蛛様が魔族を殲滅した話は皆食いつくな。
いいな、それを歓迎会のメインの話にしようか。」
「お嬢、そろそろ行かないと昼飯に間に合わんぞ。」
「おおっ、そうだな。それじゃ、みんな俺たちの村に行こうか。」
俺たちはマドリンの港町から南西に伸びる街道を歩き始めた。
魔物も街道にはほとんど出ないということなのでのんびりとした旅になった。
芦高さんが魔物を警戒していたが、前回の南での旅と違い魔物と出会うことはなかった。
今日は冬晴れで、朝の空気が冷たく俺たちを包んでいた。
その寒さに負けたのではないと思うが、俺の両腕にはエリナとソニアがぶら下がっていた。
暖かいんだけど、ちょっと恥ずかしい。
ちゃんと歩けば温まり寒くなくなるよと、腕を放すように暗に提案したら、腕を放したらエルフ女子のおしり目がけて突進するつもりでしょと、両脇からステレオサラウンドドルビーの高音質で言われてしまった。
そしてますます引っ付かれてしまった。
歩いてだんだん熱くなってきたので、放せとは言いませんから、手を繋ぐ方向で行きませんか。
えっ、これもだめ。
しっかり押さえていないとエルフ女子の・・・・以下、略・・・・・・・
全く信用なさすでした。
回りはまさに冬と言える風景で、余り緑はなく、枯草色が支配していた。
しかし、今は枯草色でも春になれば新たな緑が芽吹き、そしてあでやかな花となって春、或いは初夏を飾る予感がした。
この枯草色のものは何十年、何百年もそうやって、誰に知られることもなく命を繋いできたのだと思う。
そういうことを考えると枯草色が単なる静寂の象徴から、実は春に向かって力を蓄えている命の象徴に思えてきた。
俺は皆との雑談の間にこのような命の営みについて思いを寄せていた。
バルデスの山々がどんどんその形を大きくしてきて、俺たちを圧倒するような大きさになったころ、遠く向こうに低い石造りの家々が見えてきた。
これがイザトラさんの村か。
枯草色の中にぽつぽつと灰色の点を付けたような小さな家々だった。
その灰色の点に向かって俺たちは進む。
村は塀のようなもので囲われているわけではなく、大きな広場を小さな家々が塀のように囲んでいた。
俺たちは村の入り口へ向かって進んだ。
入り口とわかったのは門のような二つの大きな燭台が道の両脇に立っていたためだ。
村の入り口まで50mぐらいになったときに、先頭を歩いていたイザトラさんが急に立ち止まり、こちらを向いて言った。
「悪いけど少しここで待っていてくれないか、父、村長を呼んでくる。」
「わかりました、ここで待っています。」
そして、駆けるように村の中に入って行った。
すぐにイザトラさんと3人? 3匹の黒いおっきなにゃんこが急いで俺たちの前にやって来た。
なぜかみんな腰が引けており、視線は正面の俺の方ではなく、一番後ろを歩いていた芦高さんに向けられていた。
でも、さすがは村長だ。
芦高さんを見てもイザトラさんやノアフさんのように気絶やジャンピング土下座して命乞いをしないだけ、肝が据わっていると思う。
他の2人も村長と同じような様子なので、彼らも村では顔役を務めているのであろうか。
「いらっしゃい。君たちが人類領から来た冒険者かね。」
「そうです。あなたはイザトラさんのお父さんですか。」
「私はイザトラの父で、この村の村長をしている。こっちは村の顔役だ。」
「村長、初めまして。人類領から来たシュウと言います。
今回は俺たちの冒険の案内役を出してもらいまして、ありがとうございます。」
「まぁ、それはどうってことないんだが・・・・・」
「後ろの大蜘蛛さんが気になりますか。」
「実はそうなんだ。イザトラから話は聞いているが、実際にこんなに近くで見るとなんというか、後がないなという気分になった。
大蜘蛛様、失礼をご容赦ください。
失礼がありましたら、私の命だけでお許しいただけるとありがたいのですが。」
「別に失礼なことは何もないんだな。
気になるなら、いないものとして扱ってもらってもいいんだな。
この辺の魔物でも狩って、時間を潰すんだな。」
「今のは大蜘蛛様ですか。本当に話ができるんですねぇ。感心しました。
まずは村の中に入ってもらえますか。ここでは話もできませんので。」
「わかりました、それではお邪魔しますね。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。