38話目 お前は本当は誰なんだ、ゴセンなんて知り合いにいないぞ
宿に帰ってきた。
エリナはまだ妄想界から帰ってきていない。
おばちゃんが言うように、何か念仏のようにつぶやき続けている。
もう宿に着いたよ。戻って来~い。
宿からは相変わらず、子供たちの歓声が聞こえる。
なんか人数が増えたような。
そろそろお昼の時間だけど。
俺たちは宿の玄関を通って、中庭に出てみた。
中庭では、みんなで・・・・・・昼食中でした。
あの歓声の大きさは子供の人数が増えたのもあるが、どうも昼食を食べている子供たちが一段とざわざわしていたためと思われた。
一通りの給仕をおえたタイさんとアイナさんが、俺たちに気が付いて、お玉振っている。
俺たちは彼女たちの方にゆっくりと近づいた。
「ただいま、すごい騒ぎになっていますね。」
「そうなの、子供たちが芦高さんから離れようとしないので、このままここで遊び続けていたらお昼をどうしようか困ってしまいましたわ。
そうしたら、宿の好意で子供たちの分の簡単な昼食を、肉団子野菜スープとパン、果物ですけど、作ってくれまして、それを食べさせていたところですわ。」
「食べ始めの頃はそうでもなかったんですが、少しお腹が満ちてくると、騒ぎ始めちゃって、もう抑えがきかないというか、この通りの騒ぎになってしまって。
うるさかったですか。」アイナさん
「いえいえ、声のトーンが上がっていたので、また子供が増えちゃったのかと思いました。
他にお客さんはいないので、宿の方が迷惑でなければ思いっきり騒いでもいいかなぁと思います。」
「宿の方は構わないと言っていただきました。
ああっ、それとソシオさんと言うか王族と族長会議の方からかなりの報酬をもらっているので、それに報いる形で子供たちの分の昼食を出させてもらったとのことです。
子供たちの昼食については気にしないでくださいとのことでしたわ。」タイさん
「そうですか。芦高さんも一杯友達ができて良かったな。」
「エルフの子供たちと遊ぶのは楽しいんだな。
ところで、奥様はどうしたんだな。起きてはいるみたいだけどぶつぶつ言っているんだな。具合が悪くなったのかな。」
「嬉し過ぎて魂が妄想界に行ったまま戻ってこなくなったの。
その内戻ってくると思うけどね。
お兄ちゃんだったら、お腹が空けば正気に戻るんだけどな。」
「そういえば腹減ったな。」
「うふふふっ、皆の分は宿の食堂に用意してあるそうなので、食べていらっしゃいな。」
「そうだよ、タイさんの言う通りまずはお昼だな。
よし、エリナぁぁぁ、腹減ったよ。今日のお昼は何。」
「えっ、お兄ちゃん、お姉ちゃんはトリップ中で・・・・・」
「しょうがないわね。もうお腹が空いたのシュウ。小さな子供みたい。
でもそこがかわいいの。私の大好きな旦那様。ちょっと待ってて・・・・・・。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
って、ここはどこ。
確か古道具屋さんで結婚指輪を買ってもらって、それをはめてもらって、・・・・・でへへへへっ、幸せだわ。」
「今だっ、この機会を逃せば次はいつ戻ってくるかわからないぞ。
エリナ、腹減ったよ。我慢きないよ。」
「あっ、はい、待っててね。
え~とっ、タイさん、今日のお昼はどうしましようか。」
「戻って来たようですね。
エリナさん、今日のお昼は宿の食堂に用意されていますよ。
宿の方にお願いすれば、温め直してもらえるはずですよ。」
「わかりました。
シュウ、ソニアちゃん、食堂に行きましようか。」
「お兄ちゃんの食欲、恐るべし。
10年はかかると思った妄想界からのお姉ちゃんの魂の帰還が俺、腹減ったの一言で終わっちゃたよ。」
お昼が終わって、俺とエリナ、ソニアは食堂の隅で食後のお茶を楽しんでいた。
「お姉さま、そろそろ私をはめてみてはどうでしょうか。」
「今だったら、誰もいないし、覚醒しても構わないんじゃないのか。」
まぁ、覚醒するとは限らんがな。
「私、ゴセンちゃんをはめたら覚醒する気がするわ。」
「何か感じるものがあるの。」
「そう、さっき結婚指輪をもらって、今はすごく幸せなの。
この幸せエネルギーが私を覚醒させる気がするの。」
「私もそう思います。
さっ、さっ、早く私を着けてみてくださいな、お姉さま。」
「これで土の属性に覚醒しなかったら、エリナまずいぞ。」自称美人秘書
「んっ、何がまずいの。」
「その上の光の公女への覚醒がさらに遠ざかっちまうということだ。
どうしたら、土と炎の属性に目覚めるのかの見当がつかなくなる。
俺たちアーティファクトを身に着ければ少なくとも何かの新しい属性に目覚めるはずだと思ったんだけどな。」
「取り敢えず、着けてみようよ。
おばちゃんとも交代させたいしね。」
「そうじゃ、そうじゃ。覚醒なんてどうでもいいのじゃ。
妾は若い男の背中に居なければならんのじゃ。
エリナよ、遠慮のう、ゴセンをはめておくれ。」
エリナはおばちゃんをおろし、俺は包みを開けてゴセンちゃんを取り出した。
「それじゃはめるよ、エリナ。」
「早くしなよ。お姉さまが待っているんだから」
俺はそっと、エリナの右手にゴセンちゃんをはめた。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「別に何も起こらないね。」
「別に何ともないわ。」
「お姉ちゃん、どう。土属性魔法使える? 」
「壊れたんじゃねえのか。或いは偽物とか。
ゴセン、お前本当は誰だ。お母様の名前は。」
「そんなわけがあるわけないじゃない。何を言っているの雷ちゃんは。
それに私のお母様は土の大精霊のノーム、愛称は確かチンチクリンよ。」
「違う、こいつはにせものだぁ。エリナ早く外した方がいいぜ。」
「確かにのう、自分の母親の愛称を間違えるなんてありえんのじゃ。」
「えっ、でも土の大精霊ノームはあっているでしょ、
それでいいんじゃないの。
お母様と別れてから相当の時間がたっているんだもの。
私が知っている愛称と違っていたとしても不思議じゃないでしょ。」
「ほほぉぉぉ、もっともらしい言い訳をするものじゃのう。
して、お主は本当は誰なのじゃ。」
「もう、このおばばもわかんないやつだわねぇ。耄碌したんでしょ。
私は土のアーティファクトのゴセンよ。」
「えっ、ティエナじゃないの。ゴセンなんだ。
やっぱ偽もんだよ。
俺たちの作った幻影かもね。ゴセンて言っているし。」
「そうかぁ、ゴセンちゃんは偽物なのね。
だから、私が身に着けても土の属性にならないのね。
覚醒しなかったのは私の修行不足のせいじゃないのね。
ちょっとほっとしたわ。ボソ」
「私は初めからあやしいと思ってたの。
アーティファクトが質で流れて5千で買えるなんておかしいと思った。」
「ちょっと待って。
人をさんざん土のアーティファクトだから埃っぽいとか言っといて、今更偽物扱いする気なの。
信じられないわ。」
「埃っぽいのは、実は土煙じゃなく倉庫の奥にしまわれてたんで本物の埃りと言うことだな。」
「でも雷ちゃん、そうしたらあなたのようにカビ臭くないのは変ですわ。」
「そっ、そっ、そうですよ。
倉庫の隅に何十年も眠ってたら、埃とともにカビが生えますわ。
そうすると埃臭くてかび臭くなりますよね。
さすが風神さん、雷ちゃんと違ってモノの本質を見ていますね。」
「でもよう、逆にかび臭くないって言うのが、不思議なんだよな。
質流れであればある程度倉庫に眠ることになるので当然カビ臭くなるはずなんだよなぁ。」
「うえぇぇぇぇん、水と風のおばばたちがいじめるぅぅぅぅ。」
「どうかしましたか。だれかが泣いている声が聞こえましたよ。」
「あっ、おばちゃん。どうしたんだ。突然。」
「風神を通して、シュウたちがどうしているか覗こうと思ったら、どっかで会ったあったことがあるような気配がしたから。」
「あっ、シルフィード様ですか。土のアーティファクトのゴセン、いえ、ティエナです。
実は光の公女(まったくもって仮も仮、本物なの?)が私を身に着けても新たな属性に目覚めないからって、皆で私を偽物扱いするんですよ。うぇぇぇぇん、」
「あらそうなの。
でもみんながそう言うんじゃ、偽物なんじゃない。
ゴセンなんて聞いたことがないし。」
「・・・・・・・・私ってまがい物なの? ・・・・・・・・」
「ゴセンちゃん、あなたが偽物でも私は捨てたりしないからね。
ちょっと埃っぽいけど我慢できないほどじゃないし。」
「うううっ、お姉さま、なんてお優しい。
お慕いしています。一生付いて行きますわ。
私をずっと身に着けていてくださいね。
もう絶対にはなれません。
夜も外さないでくださいね♡。」
その時、エリナの体が眩しいぐらい光った。
そして全身から炎が上がったと思ったら、徐々に光と炎が消えて、元の姿に戻った。
「エリナ大丈夫か。火傷していないか。
しかし、どうして光ったんだ。どうして燃えたんだ。」
「あっ、私、炎属性に目覚めたかも。」
「「「「「「「はっ? 」」」」」」」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。