33話目 ソニアちゃん、はしゃぎすぎ
都合のつくものはマドリンの町を散策することにした。
今のメンバーで都合のつかない人は以下の通り。
エリナ 妄想が爆進中
イザトラ 幻想が微速前進中
ノアフ 白いおっきいにゃんこの付き添い中
ソシオ この騒動のきっかけを作ったので反省中
おばちゃん エリナの背中から逃走不可、夜に備えて昼寝中
と言うことで、残りのメンバーでお出かけです。
せっかくのお出かけなのに、ないものに気が付いた。
あれですよ、あれ。
先立つものですよ。
ソシオさんにエルフ領のブツと人類のブツを交換してもらいました。
人類領に移住するときに必要だから、交換は遠慮なくどうぞと言われたのでお言葉に甘えて、人類側のメンバーは皆、交換してもらいました。
タイさんは越後屋さんへのお土産は必須ですからね。
もちろん、タイさんは人類領に残っている旅団のメンバー全員にお土産を忘れないと思いますが。
どっかのにゃんことは違うのです、はい。
どっかのにゃんこのことは聞かないでください。噂をカメさんから聞いた程度ですので。
外出組は、一応最低限の武器と防具を身に着けて、宿の玄関に集合した。
宿は低い丘の上にあり、マドリンの町、特にマドリンの港が見渡せる場所に建っていた。
この町は特一風見鶏の村よりもかなり北方にあるためか、風が冷たかった。
また、潮風が強く吹くためなのか、村のある南方で見たような町全体が深緑の木々で覆われているわけではなく、家々を風から守る程度の高さの木々が多く植えられていた。
当然、潮風の被害から家々を守るため、レンガか石造りの家が多かった。
海岸に近いところでは木の家も見られたが、どれも古びており、おそらくは漁業で使用する道具を入れておく小屋か、作業小屋の類と思われた。
宿の玄関先から港が見えたが、大きな船はなく、近海で魚を取るような小さな漁船が何隻が繋ぎ止めれ、港に入ってくる波にゆっくりと揺られていた。
この様な大きな港町に大型船がないことをパキトさんに尋ねると、不思議そうな顔をされてしまった。
俺はさらに、大型船で物を運ばなんですかと尋ねたところ、基本的にエルフ領では町と町との間の人や物の運搬は転移魔法陣を使って行うということだった。
エルフ領での転移魔法陣、つまり風見鶏は移動設置が可能なので、行きたい町同士、行き来の多い町同士を転移魔法陣で繋いであるということだった。
また、転移魔法陣の発動にはわずかな魔力しか使わないので、余り魔力の高くない一般のエルフたちでも、日に何度も転移することが可能であるとのことだった。
そのため、町々を繋ぐ転移魔法陣網がよく発達しており、気軽に遠くの町に出かけていけるとのことであった。
人類領の転移魔法陣は一方がある町の教会に設置してある祠で、もう一方が教会本山の転移魔法陣の施設であり、且つ、実際の転移には多くの魔力を必要としている。
そのため、転移魔法陣を使った人や物の移動には制限が生じて、移動に何週間も必要でかつ早急に送らなければならない重要なもの以外は、転移魔法陣を使った町から町へのものの運搬は行われていない。
比較的気軽に行われているとしたら、ある町と教会本山間だけである。
そう言った意味では人類領でのものの運搬には大型船を活用することは有効な手段であるが、手軽に転移魔法陣を使えるエルフ領では船での移送は選択に入らないのだと思う。
しかし、エルフ領における移動において、手軽に転移魔法陣を使えない例外的な地域がある。
それが、特一風見鶏の村とその周辺の村である。
その理由は前回のエルフ領での旅でも教えてもらったが、エルフ族に危害を及ぼすある種の人類のエルフ領内での移動を制限するための処置だということだ。
特一風見鶏の村は、エルフ領内において、城壁都市としか転移魔法陣は繋がっていない。
かの村の周辺の村々には転移魔法陣さえ設置されていないのだ。
町には、さすがに設置されているということだったが。
俺はパキトさんの説明を聞いて、転移魔法陣の差異が、文明や文化的な面までの差異となって現れてることに驚いた。
エルフが一杯乗った帆船なんて、常に風魔法で航行に良い風を送れるので早いのにと思ったが、転移魔法陣の方が確かに手軽なことに思い当って、実際にそのことを口にするは止めておいた。
宿から石畳の道を歩いて、俺たち一行は雑談しながら町の中心部らしきところを歩いている。
町の中心部の道は、馬車同士が余裕ですれ違えるほど広かった。
しかし、実際の道には馬車の姿はなく、エルフが荷車を引いていた。
ここでも文化の違いを感じたが、確かに風魔法を荷車に掛ければ軽々と引っ張ることができるな。
そういう意味ではここでは芦高さんの輸送能力の価値は下がるな。
そう言えば、おっきなにゃんこさんたちは今回の冒険に必要な食料などの運搬に近郊の村からポーターを雇うようなことを言っていたが、エルフさんを荷車付きで雇った方がいいんじゃないか。
そのことを、パキトさんに尋ねると、予想ではあるがこの辺に暮らしているエルフ族は静かに暮らしている豹族の生活範囲に入ることを遠慮しているんで、バルデス山付近での仕事を引き受けるエルフがいないんじゃないかと思うということであった。
まあ、風魔法を使える者がいっぱいいるので交代で荷車を引っ張ってもいいかな。
あっ、結局、芦高さんが荷物持ち係になるのが一番いいのか。
道の両脇には広い歩道があり、さらにその脇には歩道まで商品を広げたお店が軒を連ねていた。
何とはなしに店を眺めていると、ソニアが突然のダッシュ。
そこには、パンが一杯。パン屋さんでした。
さっき、朝食が終えたばかりだよねと思って、ソニアに近づき顔を覗き込むと、咥えていましたドーナッツを。
粉砂糖がたっぷりとふりかかったやつ。
いつ買ったんだ、早すぎて見えんかったぞ。
金は払ったよね。
「ふがふがぶが・・・」
ちゃんと食べ終わってから話なさいな、ソニアちゃん。
お兄ちゃんはその辺のしつけは厳しいよ、たぶんね。
そんなことを思っていると、お金をポケットから出して、店員に渡したよ。
そして、ドーナッツをもう一個つまんで、今度は俺の口に押し込んだ。
「ふがふがふが・・・・」
「シュウ君、食べ終わってから話そうね。お行儀が・・・・。ぱくっ。
ふがぶがふが・・・・・」
とタイさんもソニアのドーナッツ攻撃に。
そして、次はアラナ、アイナの双子、そして、最後はパキトさんまでふがふが攻撃に。
「「「「「ふがふがふが・・・・・・」」」」」
「みんな、ちゃんと食べ終わってから話そうね。小学校の先生にそういわれたでしょ。」
とニコニコしたいたずらソニアに言われたしまった。
可愛いいたずらに俺たちは何も言い返せず、とりあえずドーナッツを堪能いたしました。
生地と形が若干人類領のドーナッツとは違っていましたが、甘くておいしいです。
「やっぱ、旅は買い食いよねぇ。」
可愛く微笑むソニア。
「おいしかったわ。でも、ちょっとのどが渇いちゃった。」
と、こちらもかわいく微笑むアラナちゃん。
そして、また、ソニアの目がいたずらっ子になった。
手に取ったのは、ドーナッツの横に置いてあった、ソーダ水、ラムネだ。
うぁぁぁぁぁ、あれを口に突っ込むつもりなんじぁ。
絶対、噴いちゃうよ。
絶対、むせちゃうよ。
絶対、砂糖水で体がべとべとになるよ。
ソニアちゃん、はしゃぎすぎです。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。