30話目 シュウとエリナの謀略 シルフィードちゃんのチンチクリンズ入りを阻止する 編
「今回案内役を引き受けて人類の方と話をしてみたかったのは、人類も魔族と戦い続けていると聞いているからだ。
まだ、人類領での勝敗は決していないんだろ。
俺たちやエルフ族とは違った戦い方を人類はしているんじゃないかと思ってな。
その辺のことを参考に聞かせてもらおうかとも思ったんだ。」
「確かに、人類と魔族は今も戦っています。
一昨日も人類領で戦ってきたばかりです。
あっ、一点東方にいる魔族のことを聞いてもいいですか。」
「何か気になることでもあるか。何でも聞いてくれ。
やつらについて隠すことなんてないからな。」
「聞きたいのはですね、東方を魔族が占拠した後に続けてエルフ領にさらに侵攻しているかどうかです。」
「それは僕から答えようか。
魔族が侵攻を開始して、ある程度東方を侵略した後はそれ以上の侵攻をやめてしまったんだ。もう数百年も前にも後ろにも魔族の支配領域は進んでいないんだよ。」
「現状がずっと昔から維持されてきたということですか。
ソシオさん、その理由は何か想像がつきますか。」
「後退しないのはエルフ族の戦力不足のせいだけど、前進してこないのは理由はわからないね。」
「実は人類領でも同じことが起こっているんです。」
「と言うと、どんなことが起っているんだい。」
「1000年ほど前に魔族は人類領にも突如現れて、人類の領域に侵攻を開始しました。
徐々に人類軍は押し込められ、特に20年ほど前の人類側では大防衛戦と言われる大戦で、人類は手痛い敗北を喫して、大きくその生存領域を削られました。
ちなみにその戦いにはソニアと俺とエリナの両親も参加していまして、生き残ったことが不思議と思えるほどの大敗北だったようです。
普通であれば大勝利の勢いに乗って、魔族はさらに人類領域を侵攻してくると思われましたが、不思議なことに、その後は小競り合いはあっても本格的な侵攻はぴたりと止まりました。
その理由がわかりません。
人類軍の最上層部でもその理由はわからないと聞いています。
そうしているうちに漸く今年になって大防衛戦で失った領域を何とか奪還したような現状です。」
「と言うことは、人類軍は魔族軍に勝利しているんだな。
どうやったんだ、教えてくんねぇか。」
「イザトラさん、方法と言うか俺たちの戦い方を伝えることはできますが、その前に本当の意味で魔族に勝利しているのかがわからなくなっています。」
「シュウ君、魔族軍に連勝して領域を奪還している君たちがその勝利を疑っているということなのか。どういうことが聞いてもいいかな。」
「それは構いません。これまでの話と強く関連していますから。」
「どんな風に関連しているんだい。」
「んっと、ここにカメさんか死神さんがいればもっとうまく戦略的な面からわかりやすく説明してくれるんだけど、とりあえず聞いてもらえますか。」
「お願いするよ。」
「俺たちの疑問は、あれだけ連勝していた魔族が何故侵攻をやめてしまったのか、その理由がわかりません。
わかりませんがその理由おそらくは人類領をなぜ突然襲ってきたのかと同じ理由だと思っています。
その理由と言うか意図を挫かないと本当の勝利とは言えないと思います。
侵攻の意図を掴み切れない以上、魔族に対する勝利条件が見えてこないと思います。
この間までは、人類領とエルフ領を繋ぐ特一風見鶏を機能不全にし、人類とエルフ族の行き来や連携を妨害いするためかと思っていました。
しかし、俺たちが特一風見鶏を解放しても、その後の魔族軍の動きは相変わらず停滞しており、特一風見鶏を取り返すような動きはありません。
また、奪回した領土に再度侵攻してくる様子もありません。
まぁ、これは奪還してから日が浅いからかもしれませんが。
とにかく魔族軍の人類領への侵攻の真の目的が見えてこないんですよ。
同様に、ここの東方に侵攻してきた魔族軍も何故侵攻してきたかが良くわからないんですよね、」
「侵攻の理由かぁ、単なる領土拡張であれば連戦連勝の魔族軍が突然その侵攻をやめたのは訳が分からないね。」
「だから、獣人族を捕らえてこき使うために。」
「何のために、侵攻してきたかか。
単な領土拡大ではないということだね。」
「そういうことです。
そこを知らないと、例え領土を奪還してもまた、突然攻められたりする。
侵攻の理由を知り、それを絶たないと真の勝利はないということだと思っています。」
「シュウ、その理由って、ペット魔族の言を信じるなら、人類領で10年戦えば魔族の子供の寿命と魔力の低下が防げるんだよな。
それが目的者ねぇのか。」
それが理由なら、人類を滅ぼして魔族が人類領を乗っ取り、全員で移住してくればいいんだよな。
侵攻を止める理由にはならないな。
それにもっとわからんのはエルフ領に侵攻してきた魔族だよな。
こちらも領土拡張が目的でないとしたら何のために魔族は侵攻してきたんだろうな。
「ご主人様、エルフ領に侵攻してきた魔族に関しては、お母様たち風の大精霊に聞いてみてはいかかでしょうか。
ずっとここでエルフと魔族を見てきたと思いますから。
何も知らないということはないと思います。
私は聞いておりませんけど。」
「俺も知らねぇな。ちょっとおばちゃんに聞いてみるか。」
シルフィード様と連絡が取れるの?
「ソニアちゃんと姉ちゃんのコンビだったらいけんだろ。」
「でも、ここではまずいですわ。
ソシオさんとタイさんなら構わないけど、パキト兄妹にも何か感じられてしまうかもしれませんわ。
連絡を付けるまでは風の強力な魔法が必要ですから。」
じゃあ、ソニアとメイドさん、後でシルフィード様と連絡を取り、今の件を聞いてもらえるか。
「何か御用ですか。ソニアちゃん。」
"あっ、シルフィードちゃん。おはよう。"
「おはよう、もう、マドリンの町まで来たようですね。
早く会いたいわ。
そこから、普通に歩いて3日ぐらいかかるから、道中は気を付けるのよ。
転んでゲガをしないようにね。
何ならずっと低空飛行で浮いていればいいじゃないかと思うわ。」
なんか、大精霊って自分の使徒にはすっごい過保護だな。
「シュウ君、いいじゃない。そういう関係なのよ。
大精霊と使徒って。家族なんだから。」
"ここにもいたのね、私を家族って言ってくれる人が。
お母様とは小さいころ分かれてしまったけど、そのお母様とお兄ちゃんとお姉ちゃんの力で一杯家族が増えたわ。
お母様、ありがとう。"
"シュウ、私、物凄い不安なことがあるんだけど。"
どうしたのエリナ。
"シャドウ様が死神さんを甘やかして、好き放題させると思うと。ブルブル"
「「「・・・・・・・ブルブルブル」」」
考えたくないな。今は止めてこう。混ぜなくても、今晩は眠れなくなりそうだ。
「月の女王がちゃんと面倒を見てくれるはずだから、そこまで心配する必要はないと思うわよ。
エリナちゃんがソニアちゃんをしっかし、導いているように。」
それだったらいいけどな。
ところで、シルフィード様、お聞きしたいことがあったんですが。
「エルフ領の東方にいる魔族についてですか。」
その通りです。何か知っていることはありますか。
「もちろんです。
ただし、今はと言うか、風の神殿で直接話をさせてくださいな。
ここから転移させてもらって、泉か土の神殿で、他の大精霊が一緒でもいいわよ。」
取り敢えず、早く風の大神殿に来いと言うことですね。
「その通りです。」
わかりました。準備が整い次第出発します。
"ところで、シルフィールド様は泉の神殿に行ったらチンチクリンズに入るんですか。"
「なんですかそれは。初めて聞きましたが。人類領ではやっているのですか。」
"悪いことは言いません。アクア様とノーム様に誘われても、決して、チンチクリンズに入ってはだめですよ。背が低いんでしょ。"
「確かに私が一番背が低いけど。」
じゃ、入らない方がいいです。訳は聞かないでください。
一生、大精霊の場合は永遠かぁ、絶対後悔しますので。
「まだよくわかりませんが、皆さんがそこまで止めるのなら、絶対にチンチクリンズには入りませんわ。永遠に後悔するのはいやですもの。
それではここに来るのを兄と一緒に楽しみにしていますね。」
未然に犠牲者を防いだぜ。一日一善、今日はいい気分で一日が過ごせそうだな。
「シュウ君、急に黙ってどうしたの。何か風の強い力を感じたけど、それに当てられたのかな。今の魔力は何だったんだろう。」
「すいません、魔族の侵攻についていろいろ考えてしまって、フリーズしてました。」
「それでは、とりあえず朝食を済まして、案内役の方も入ってもらってこれからのことを相談しましょうか。」
「あのぉぉぉ、これからの相談の前にだな、俺は自己紹介したんだが、エルフ族と人類の方々をまだ紹介してもらっていねぇんだが。」
「「「「あっ。」」」」 みんなでフリーズしたよ。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。