28話目 案内役は猫じゃなく、トラじゃなく、豹さんです
やっぱ混ぜやがったよ。エリナめぇぇぇぇ。
眠れん。
俺は振った、剣を振った。フラフラになるまで。
混ぜられたやつを体から抜くために。
宿のある部屋から夜中にブンブンと不気味な音が港中に響いた・・・・。
まぁ、そんなわけはないが、同室のパキトさんとソシオさんが眠れないぐらいはうるさかった。
その様子をそっと覗きにきたあるお方が、ドアをちょっとだけ開けてあ「チッ」と舌打ちをしていたのは旅の良き・・・・、全く良くないぞエリナ。
ソシオさんとパキトさんに迷惑を掛けただろうが。変なものを混ぜるのは止めてください。
ソニアも面白がって、混ぜたそうにしていたぞ。
ソニアの混ぜ物ははチンチクリンズの呪縛だそ。
俺がチンチクリンになってもいいのか。
えっ、それはそれで可愛いから良い? 試してみて良いかってねぇ。
良くはないぞ、俺は全然良くないぞ。
ということで、変なものを混ぜられたせいで、剣を振り続け、俺はいつの間にか剣を抱いて床で寝てました。
ちょっとだけすっきりした自分がいる。
次の日の朝食、俺は自分の分の食事をまずはワンコのように嗅ぎまわったぞ。
事情を知らないアイナとアラナ 、そしてタイさんに顔をしかめられてしまった。
これでまた、エルフメイド戦隊ご主人様お世話しま~すズの設立が遠のいたではないか。
俺はこのエルフ女子二人を第一次選抜メンバーとしてメイド戦隊加えることを目論んでいたのに。
しくしく。
俺が一人朝からしくしく心で泣いていると食堂のドアが開いた。
この町の行政官だった。
「おはようございます。
今日はまず、バルデス山の案内役をご紹介します。
こちらにどうぞ。」
ドアから入って来たのは・・・・・・、
猫でした。
白黒2匹も。
猫耳可愛い。
「あっ、こちらは猫族ではありません。豹族の方です。
豹族の方はこの地方で暮らしております。特にバルデス山付近はかれらの生活圏ですので安心して皆さんの冒険の案内をお願できます。
彼らも今回の冒険について大変興味を持ったようでして、快く案内役を引き受けてくださいました。
それでは、申し訳ないですが、自己紹介をお願いします。」
まずは白い豹さんが一歩前に出てきた。
豹族というのは豹の獣そのものではなく、獣人と言った感じだ。
人を白い毛皮で覆い、猫耳としなやかな尻尾を付け足したと言えばわかり易いだろうか。ちゃんと服も剣などの装備も着けているしね。
かつては人類領にも獣人がわずかに住んでいたらしい。
ここに豹族が暮らしているのならエルフと一緒に転移してきたのだろうか。
「私はバルデス山の麓の村から来た、豹族のイザトラだ。
トラ族じゃないからな、勘違いするなよ、豹族だからな。
大事なことだからもう一回言っとくぞ。トラじゃないからな、豹だからな。」
名前にトラが付いていることがトラウマなのだろうか。
その姿を見て、誰もトラ族とは思わないと思うぞ。
あっ、そう言えばホワイトタイガーというのがいるらしいことは聞いたことがあるな、だからか。
「私は豹族の村の村長の娘だ。
今回、人類の方が何十年ぶりにこの地に転移してきたというので、是非、見てみたいし、話しをしてみたいと思っていたんだ。
そんなところに、我々の村の近くを冒険したいとの話が持ち込まれたので、是非にと案内役に立候補したんだ。
よろしく頼む。」
あっ、次は黒豹さんが一歩前に出た。
「私は豹族の戦士、ノアフだ。
ちなみに、猫族じゃない、豹族だ。
黒猫不吉とか言って、追い払わないように頼む。
大事なことだからもう一回言っとくぞ。黒猫じゃないからな、黒豹だからな。」
豹族って、なんかエルフ領では苦労しているのかな。やけに種族にこだわるな。
「私はイザトラ様の護衛を兼ねて案内役を引き受けた。
良くバルデスの山々を駆け回っているので、案内と護衛は任せてほしい。
他に数人の豹族の戦士も同行するが、彼らは斥候と護衛役なので、我々に用があるときはイザベラ様か私に声を掛けてほしい。
よろしく頼む。」
「シュウ、豹族の方だって、精悍で頼もしいね。」
「お兄ちゃん、肌? 毛皮? つやつやで綺麗だね。」
「豹族の案内と護衛が付くとは、私の出番はなさそうだな。」
「パキトさんはエルフ族としての護衛を果たせばいいと思います。風魔法で探索とか。
しかし、僕は初めて見ましたよ豹族を。」
「つやつやの尻尾を触ってみたい。」
アラナさん、尻尾を触っちゃダメでしょう。怒られますよ。
「・・・・・モフりたい。猫耳・・・・・」
アイナさん、猫じゃなく豹です。かみつかれますよ。
「・・・・・モフモフしたいですわ・・・」
タイさん、あんたもかい。
「ちなみに耳と尻尾をさわられたらひっかくからな、反射的に。噛みつかないけど。」
ネコ科の反応ありがとうございます。
「ところで、風の聖地と言うところを探すんだろ。
あの山々にそんなたいそうなところはないと思うんだがな。
なぁ、ノアフもそう思うだろ。」
「はい、イザトラ様。
私もあの山々を日ごろから駆けまわって獣や魔物を狩っていますが、風の聖地といわれるにふさわしいものは何もないと思います。」
「ところで、豹族さんは魔法は使えるんですか。」
「俺は水魔法を使えるぞ。ノアフは反対に炎魔法だな。
体の色と同じで正反対なんだ。
豹族としては水魔法士よりも。対極の炎魔法士の方が多いな。
風と土、まして闇はいないな。」
イザトラさんが闇と言うときに言葉が少し強くなり、目じりがさらに上がり、険しい表情になったような気がした。
「おそらくですか、風の聖地は僕たちエルフのような風魔法術士じゃないとその存在を感じないのではないでしょうか。」
「それはあるかもしれませんね。」
「シュウ君、確か君たちはその風の聖地の方向を感知する秘法を持っていると村長から聞いたんだけど。」
「その通りです。わけあって、実際にそれをお見せすることはできませんが、方向はわかります。昨日、ここで確認してみました。
まずはそっちの方向に進む、ここからですと南西? の方角になると思います。」
雷ちゃんが秘法と言う言葉に反応して、俺の指を風の神殿のある方向に引っ張った。
このところ、秘書の仕事をたまにするようになったじゃないか。
「シュウわかっているじゃねぇか。俺はお前の愛人兼美人秘書だからな、このくらいは当然だ。
あと、風の神殿の方向を感知しているわけではないんだ。
正確には、風の神殿に転移する装置の場所を感知しているんだ。
水の神殿と同じように風の神殿はほんとはどこにあるのかは俺たちアーティファクトは知らねぇんだ。おばばもそうだろ。」
「zuuuu、zuuuu。」
「おばばは昨日の夜遊びが過ぎて、寝ておりますわ。
帰って来てから手入れをしていなかったので潮風で錆びるかもしれませんわ。」
また、若者ぶって、おばちゃん夜遊びしてたのか。
「あとは、ソシオさんが言う通りに風の魔法術士でないと風の聖地を感じられないのかもしれません。
俺たちの入手した古文書にはそこまでは書いてありませんでしたが。」
「そうか、それじゃ俺たち豹族が知らないのも無理はないな。
バルデス山の付近にはほとんどエルフ族は立ち入らないようだしな。
俺たち豹族に遠慮しているのかな。」
「豹族とエルフ族の間には何か緊張関係のようなものがあるんですか。」
「それはないと思うよ。ただ、豹族がバルデス山の付近で心安らかに生きて行ってほしいとは思っているけど。」
「んっ、心安らかに生きて行くなんて、過去にあったんですか。」
「ああっ、その話は俺がするよ。その話は豹族の俺がすべきことだ。」
そう言って、イザトラさんの表情が先ほどの闇とつぶやいた時と同じように厳しいものになった。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。