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26話目 噂と情報

「ソシオ、何やら大変なことになっているようだな向こうの村は。

大丈夫だろうか。」

「あっ、痛たたたっ、村のことを考えたらまた胃が痛い。」


「どんなことになっているか行ってみることにしよう。」

「父さんが行ってくれるのなら、幾分安心です。

とにかく若いエルフの男を連れて行かなければ、とりあえず駄女神さんの厄災だけでも避けられるでしょう。」


「うむ、シュウ君、こうして会えたのに申し訳ないが急ぎ特一風見鶏の村を見に行ってくる。

冒険が成功するといいな。


エルフ領のことをひとつ知っただけでも冒険は成功と言えるからな。

例え、風の聖地が見つからずとも。

だから、無理はしないで旅を楽しんでくれよ。」


「王太子、ありがとうございます。

村に行ったら、まずは胃薬を飲んだ方が良いと思いますよ。」

「アハハハッ、私は様子を見に行くだけだよ。村長もいるし大丈夫だ。

多分な。なんか急に、自信がなくなって来たな。とりあえず行ってる。」


王太子は執事らしき老エルフと二人で風見鶏で村に旅立った。

俺にできることは胃が無事に帰ってくることを祈るのみだ。


「やっぱり、私の仮説が正し事がいま証明されましたわ。」

「仮説ってあれか、姉ちゃん。シュウから甲斐性なしが移るっていうやつ。」

「確かにのう、やつはなんやら急に自信を失っていたようだしのう。」


「さすが、ご主人様。感染力が半端ないですわ。恐ろしい。」

「妾はエリナの背中に乗り換えて、結果的には正解だということじゃな。」

「俺は愛人兼美人秘書なんで、もうとっくに考え無しとして移っちまったがな。

後悔はないぜ。」

「それを後悔しないとはな、かなりの重症じゃな。」


「先ほどの方がもしかしてエルフの王太子様ですか。」

「あっ、タイさん。そうです。

彼が王太子で、ソシオさんの父で、ソニアのいとこになりますね。」


「どうしましょう。私、ご挨拶ができませんでしたわ。」

「いきなり転移して行っちゃんだからしょうがないですよ。」


「シュウ君の言う通りだよ。

順調に旅が進めば、帰りは王都に寄ってもらおうと思うので、その時にまた会えるよ。」


「王太子は私を失礼な人類だとはお思いじゃないかしら。」

「タイさん、それはないと思うよ。挨拶もしないでそそくさと位転移していったのは父さんなんだから。」

「それでしたらいいのですが。」


「シュウ君、ここにはもう用はないと思うので、先に行こうか。」

「そうですね。風見鶏の守り人の方も知らないやつらがざわざわして、迷惑なだけでしょうし。

先に行きましょう。」


俺たちは隣の部屋に移動した。そして、ソシオさんが別の風見鶏を起動し、いよいよ目的の町に転移した。


虹色の淡い光に包まれて、それが徐々に晴れて視界が開けてきた。

塩辛い匂いが鼻に入ってきた。

以前、嗅いだことはないのだが、何故か懐かしい匂いだ。

体に直接、そして心の奥に直接語り掛けるような懐かしい匂いだ。


「潮の香りですわね。ここは海辺の町、港町の様ですね。」

「タイさん、ここは海辺、海が近いんですか。」


「そのようですわ。私も海には数回来ただけですが、どこでも同じ匂い、心の奥に優しく語り掛けるような香りがします。

決して不快なものではありませんね。」


「そうだね、優しい香りだね。

私も何度か海には来ているけどいつも母親に抱かれているような気分になるよ。

実際お母様に抱かれたのは遠い昔だけどね。」


「ソニアさん、人もエルフも、そして魔族さえも昔は別の生物だったといわれているんだ。

それが気の遠くなるほどの年月を経て、今のような生き物になっそうなんだ。


その気が遠くなるほどの昔には、すべての生き物は海で生活していたとのことだよ。」


「ということは、私もお兄ちゃん、お姉ちゃん、タイさん、ソシオさん、パキト兄妹もみんな海の生き物の子孫なの。」

「そういうことになるね。」


「それじゃ、私たちはすべて海の子ということですね。

シュウ、海に来たことある。」


「俺はないな。ルーエンから海は相当離れているから。

水辺に行ったといえば言えば川、良くて湖だな。


そう言えば夏の暑いときに母さんが穴を掘って、石で回りを固めて、そこに水を張って小さな池を作って、兄弟で水遊びしたっけ。」


「なんか、非常に魔力の無駄遣いだね。

氷系魔法に外気を冷やす魔法があるけど、それで涼めばいいのではないかな。

水の魔法術士が少ないエルフ族はそれですら贅沢な魔法の使い方なんだよな。」


「ソシオさん、その通りかもしれません。

あの時に母さんが魔法を使った場所は水魔法が使えない農家の脇でした。


水遊びの後は川とその池を細い水路でつないで、新たに開墾した畑に水をやる仕組みに作り替えていました。」


「お兄ちゃんそれって、畑の開墾を依頼されたお母様について行って、お兄ちゃんたちがうるさく騒ぐものだから、灌漑用の池を先に作って、水遊びをさせていたってことだよね。

お兄ちゃんも昔はやんちゃだったんだ。」


「落ち着いたと思ったら、今ではすっかり甲斐性なしに成り下がったというわけじゃな。


やんちゃな時代のままのシュウだったなら、エリナも今頃は夫婦官舎で赤ちゃんオオカミの靴下でも編んでいたかもしれんのう。

ご愁傷さまじゃ。」


"はぁ~っ、あと少し出会うのが早かったなら。はぁ~っ。"

"お姉ちゃん、早いなら早いで色恋に無関心で、結婚すらできなかったと思うよ"


"そっ、そっかぁ~っ。今出会って良かったんだぁ。"

"そうだよ、甲斐性なし対策には毎夕食に水魔法の精力剤と興奮剤を混ぜとけばOKだからね"

"でへへへへっ、そうよね。混ぜとけばいくら甲斐性なしのシュウだも、耐え切れなくてガバッと、でへへへへっ"


眠れなくなって、次の日の冒険に差し支えるので混ぜるな危険ということでお願いします。


「ここはマドリンでの我々の宿となるんだ。

あらかじめ一室を借りて、簡易魔方陣を設置させてもらったんだ。

我々専用の転移魔方陣になるよ。


守り人もここの地方行政官にお願いして、常時、派遣してもらったんだ。

私たち以外はここから転移できないようにしてあるんだ。


守り人の方々、急なお願いをして申し訳ありません。

よろしくお願いいたします。」


「気にしないでください、王族の方と、ほんとは信じていなかったのですが、人類の訪問者の方々のお役に立つのであればこれほどうれしいことはないのです。」


「うれしいことですか。」


「そうですよ、退屈な田舎でこれほどのビッグイベントに一役をいただけるなんて、末代までの自慢になります。

とりあえず子供に、あっ、大蜘蛛様もご一緒ですね。


時間があれば後でうちの子供たちを撫でていただけませんか。

なんでも大蜘蛛様に触っていただいた子供は体が丈夫になり、そして幸福が訪れると聞きました。」


「芦高さんが都市伝説化しているよ。」

「前回の旅とはエルフ族の皆さんの対応が全然違うわね。」

「情報が伝わるのが速すぎて、いい加減な情報も混じってしまっているよ。」

「私が炎魔法しか使えないことが広まって、毛嫌いされたらどうしましょう。」


「ソシオさん、時間があれば、子供たちと芦高さんを遊ばせてあげてもいいですか。


変なうわさが広がる前に、ここのエルフの子供たちにも芦高さんのやさしさや力強さ、そして、子供たちを愛しむ心をわかってほしいと思います。」


「良いと思うよ。

噂は情報以上に速く伝わるから、子供たちが殺到するかもね。


その辺の扱いは守り人と地方行政官にお任せしてもいいですか。」


「お任せください。

直ちに行政官と相談して、混乱が起きないように段取りを組んでから、子供たちを集めたいと思いますよ。


あとは皆さんの宿のお部屋はこの2階を借り切っていますので、ご自由にお使いください。

何か困ったことがありましたら、我々守り人に言ってくだされば、行政官を含めて対応いたします。

それではごゆっくりお過ごしください。」


ご自由にお使いくださいと言われた瞬間、俺の背筋になにかぞわぞわっとするものが走った。

隣のエリナを見ると、獲物をロックオンした女豹の目で俺を見つめていた。

こいつは絶対、夕食に混ぜるつもりだな。



活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。


この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。

死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。

時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。


シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。


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