24話目 ソシオの思い
エルフ領に再訪して早々、俺の甲斐性なしの話でグダグダになってしまった。
言っとくけど、俺は自分で甲斐性なしを宣伝したいわけじゃないぞ。怒
しかし、下交渉は大丈夫か。まともに動けそうなのは村長だけだぞ。
その村長も甲斐性なしらしい(奥さん談)から、不安になって来た。
まぁ、俺がやるよりははるかにましだと信じたいが。
「それでは、おいしい昼食もご馳走になったし、我々冒険組は城壁都市に転移しようか。」
「ソシオさん、城壁都市からは歩いて王都に行って、そこからまた転移してマドリンの町に行くんですよね。」
「通常はそうなんだけどね、今回は簡易風見鶏を城壁都市とマドリンに設置したんだ。
だから、ここの村から城壁都市経由でマドリンに行くような感じだね。」
「わざわざ風見鶏を設置してくれたんですか。」
「そんな大したことではないよ。もともとシュウ君たちに貸し出そうと思った簡易風見鶏を設置しただけだから。
それに、こんなことを言うと失礼に当たるけど、今、大蜘蛛様を王都に入れるのはその、ねぇ、ちょっとためらうと言うか。」
「そうですね、まだ、芦高さんのことをエルフ族の多くの皆さんは知らないと思うので、突然大蜘蛛様が現れたら王都が大混乱になりますよね。
下手をしたら逃げ惑う人たちの混乱で死人が出ますものね。」
「その懸念もあるんだけどね、さらに深刻な問題がでてきたんだよ。」
「もっと深刻な? 芦高さんに釣られて別の大蜘蛛様が来ちゃうとか。婿探しに。
あっ、蜘蛛の世界だとメスは交配の後にオスを食べちゃうとか。
やばいよ、エリナ、芦高さんが食べられちゃう。」
「物理攻撃無効、魔法攻撃無効の芦高さんにそんな天敵がいたのね。
それは考えつかなかったわ。」
「アハハハッ、そいうことではないよ。
2匹の大蜘蛛様が暴れたらエルフ領などは1日で全滅するよ。
実は大蜘蛛様、芦高様の人気が子供たちの間で急上昇中なですよ。
王都はただでさえ子供が多いから、芦高様を見た子供たちが殺到し、大混乱が予想されているんだ。
エルフ領は情報だけは伝わるのが速いから、前回の旅の詳細が他のエルフ領に伝わってしまったんだね。
その中で一番の衝撃情報が大蜘蛛様の、それもメタル化した芦高様が出現して、子供たちと楽しく遊んでいるというものだったんだ。
この衝撃情報で、人類の方が数十年ぶりに訪問した情報などは消し飛んでしまいそうになったよ。
幸い、シュウ君の甲斐性なしというおばちゃんの風の井戸端会議発のうわさはなくなったけどね。良かったね。」
「ホッとしました。」
「ちぇっ、エルフ女の子をシュウから遠ざけることができたと思ったのに。」
「まぁ、冒険の後は芦高様も王都に入られると思うので、それまでに王都の子供たちの芦高様と遊ぶ順番を決めたいと思っているんだ。
それで混乱をやわらげるつもりだよ。」
芦高さん子供たちにすげぇ人気だな。
俺なんて教会本山の子供から記憶玉のお兄ちゃんだと言ってすげぇ笑われて終わりだからな。
「そろそろ出発しますか。転移2回なので10分もすればマドリンの町ですよ。」
「そうですね。エリナ、ソニアもう行こうか。」
「お兄ちゃん、ちょっと待ってね、饅頭の残りを包んでもらっているから。おやつにでも食べましょうよ。」
「シュウ、芦高さんに声をかけてきたら。
子供たちを引き剥がすのに苦労するわよ、きっと。」
「ちょっと表に行ってくる。」
俺は集会場のドアを開けた。
そこは子供たちの歓声が響き渡る世界だった。
芦高さんは公園の遊具代わりになっている。
相変わらず、つるつるボディの滑り台が人気だな。
「芦高さん、そろそろ出発するので子供たちにお別れを言っておいて。」
「わかったんだな。皆また遊ぼうね。」
ブーイングの嵐。そのブーイングは当然すべて俺に向けられている。
この待遇の差は何だ。
まぁ、当然だな。
おれは子供たちと遊んでいないからな。楽しみを取り上げに来た悪人だよ。
「シュウ君も子供たちにとっては悪役だね。」
「ソシオさん、それを言わないで。わかっているけどなんか心の汗が目からこぼれるから。」
「ごめんね。しかし、この光景は驚かされたよ。」
「えっ、どのことですか。俺が悪役になったことですね。また、心の汗が。」
「ごめん、ごめん。違うよ。
大蜘蛛様がエルフの村に入って、子供たちと遊んでいる、この目の前の光景のことだよ。」
「俺には公園の遊具が芦高さんになっただけで、そこまで驚かないです。」
「エルフ族は大蜘蛛様を見ると逃げ出すか死を覚悟して土下座で許しを請うかのいずれかなんだ。
しかし、目の前には予想もできなかった別の光景が広がっているよ。」
「エルフと大蜘蛛様が手を取り合って笑いながら遊んでいることですか。」
「そうでね。
我々エルフ族はその寿命の長さゆえ、急激な変化を好まないんだ。
現状維持かゆっくりとした変化を望むんだ。かなり保守的だね。」
「保守的な割には突然現れた俺たちを歓迎してくれましたよね。」
「それは逆だよ。人類が突然現れたのではなく、漸く現れた。つまり、人類がエルフ領にいるのが普通で、いなかったここ数十年が異常な事態だったんだよ。
そこに、シュウ君たちが現れて、以前の姿に戻った。
エルフの保守的な部分に安寧をもたらしてくれた。
しかし、目の前の大蜘蛛様と子供たちは違うんだ。
このような光景は明らかに劇的な変革というべき事態だね。
それにも関わらず子供たちはそれに順応して楽しくやってる。
保守的なエルフと言うものからはかけ離れた状態だね。」
「は~ぁ、子供たちは保守的ではないと。」
「すいません。私が言いたかったのはエルフの子供たちが保守的か革新的かとか言うことではなくて、変革にもひるまない強い心を持っていることなんだ。
このような心が種族の希望になるのではないかと思ってしまったんだよ。」
「種族の希望ですか。この光景が。う~ん、わかりません。」
「この前も話したけどね、エルフの寿命と魔力は世代を重ねるごとに少なくなってきているんだ。
王族と族長会議はそのこと、種族の衰退に憂慮し、その調査に乗り出しているんだよ。
しかし、一般のエルフたちは衰退していることの実感はあるけど、それに抗おうとはしていないようなんだ。
王都にいる行政官ですらそうなんだから。
今を変えたくないというエルフの保守的な部分だと思うんだよ。
しかし、種の衰退と言う運命に抗うためには現状に満足してはいけないはずなんだ。
私はそれを歯がゆく思っていたんだ。動けるうちに動かない、抗えるうちに抗わないエルフと言う種族に。
しかし、この目の前の光景を見て思うんだ。
抗う力がそこにあったって。
ありのままを受け入れ、そして今よりももっと高みに登ろうとする純真な心を。
我々エルフ族は大蜘蛛様の伝説、過去にあった災厄を聞かされて育つんだ。
だから、大蜘蛛様を見ると我々を滅ぼす悪魔だと確信してしまうんだ。
しかし、この子供たちは違うようだね。
芦高様の本質を見抜き、そして、友として一緒に事をなすことができている。
私は彼らの目と芽を大事にしていきたいと思うんだ。」
「何か具体的な方策はあるのですか。」
「職校を起したいと思っているんだよ。」
「職校ですか。」
「はい、職校です。今までにない種族の衰退と言う現実に抗えるような者たち、研究者や冒険者を育てたいと思っているんだよ。」
「エルフ族の衰退の原因を探る研究者、そして、それに抗う方法を見つける研究者と冒険者ですか。」
「そうなんだ。その志を示すために今回私はこの探索に参加し、是非、未知の風の聖地を見つけたいと思うんだ。
未知のものを探したり、直視したりする勇気を示したいと思う。」
「わかりました。一緒に探索しましよう。あなたのもっと大きな志を示すためにも。
俺たちもエルフ族が衰退していると言うのであれば、その原因と対策を一緒に探すのは、むしろこちらからお願いしたいぐらいです。
その衰退がいつ我々人類に及ぶかもしれませんので、今のうちにはっきりさせておきたいと思います。」
「一緒に探そう。風の聖地を。」
魔族は既に種族の衰退を止める方法を見つけているのに、エルフ族は本気で種の衰退を止めようとはしていなかったんだな。
でも、俺は、魔族の方法、人類の領域を武力で乗っ取るというやり方は許せない。
その為にもなぜ、魔族とエルフ族の衰退が起っているかを知りたい。絶体にだ。
それが俺の志を遂げる第一歩だ。
「そうだシュウ、それでこそ、俺のシュウだ。カッコええぞ。」
「あまり気張ると大事なことを見逃すのじゃ。あと、みも出る危険があるのじゃ。まずはじっくりと問題に取り組むがよかろうのう。」
「おばばさん。汚い話はなしにしてください。我が主家の品格が駄々下がりになりますゆえ。」
「シュウ、ソシオさん。出発の準備ができたわよ。」
「今行くよ。」
さぁ、まずは風の神殿への訪問だ。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。