20話目 エルフ領へ、再び
良く寝た。冬で寒さが厳しいのに、俺の周りは暖かい。
エリナが左側、ソニアが右側。
なぜ、ソニアまで俺の隣で寝ている。
あっ、エルフ領に行ってからはそうか。
俺の新しい家族はいつの間にか一緒に寝ることになってしまっていた。
さすがに芦高さんは別だけどな。
まぁ、ソニアもチンチクリンズの呪縛が解けたので、これからは順調に心も体も成長して、そのうち恥ずかしくなってお兄ちゃんたちとは一緒には寝なくなるだろう。
それを思うと寂しいな。
兄とて、妹がそうしたいならもう少し一緒に寝てもいいかも。
「おはよう、シュウ。
今日からはまたエルフ領だね。」
「エリナ、おはよう。
本当はもう少し準備に時間を掛けたかったけれど、哀の方や喜の方、疑の方がどうしても今日中に行かないと怒に合体して、第23基地で口から火炎を放射し、焼き尽くすと脅し出したからな。」
「怒の方はエルフ領では大丈夫かしら。前回のように人類の恥部にならなきゃいいけど。」
「まぁ、あそこで人類領でのように、暴れることはないと思うよ。
さっ、出発が遅れるとこの第1083基地でも暴れ出しそうなので、ソニアを起して朝食、そして、出掛ける準備をしますか。」
「しばらくキャンプ飯ともお別れね。
朝食で十分に堪能してね。
エルフ領でも言っていたもんね。キャンプ飯が恋しいって。」
「エリナ、あれは人類領に早く帰ってくるための口実で・・・・。
まぁ、ないと寂しくなるのがキャンプ飯の魔力と言うことか。」
「私たちの料理よりもキャンプ飯がいいの、お兄ちゃんは。」
「あっ、ソニア。
そんなわけないだろう。
毎日、2人の作った朝食を食べているとありがたみが薄るてくるんだよ。
たまにキャンプ飯を食べると、2人の作ってくれた朝飯が輝いて見えるんだな、これが。」
「ありがとう、お兄ちゃん。
いっぱい料理の勉強して、おいしいものを食べさせてあげるね。
でも今日はキャンプ飯食っとけだけどね。」
「はい、泣きながらキャンプ飯を食べますです。」
「プププッ。でも食べるんだ。」
「腹だけは膨れるからな。」
「さあ、出発が遅れると怒の人が大魔人に開眼するので、朝食に行きましょ、シュウ、ソニアちゃん。」
「「うん。」」
皆で食べるキャンプ飯は、うま・・・・・、お腹だけは膨れました。
準備を終えて第1083基地の社の前にのんびり歩いていくと、炎を背中にまとった怒特攻大魔神様が仁王立ちでお待ちでした。
お前は仁王像か。怖くて誰も転移してこれんぞ。
社の脇には芦高さんとそれに隠れるようにタイさんとカメさんが怒の方の様子を伺っていた。
「遅いぞシュウ、今何時だと思っているんだ。」
「集合時間の9時の10分前です。社会人の我々はちゃんと5分前集合を守っています。」
「なんだとう、学生のカメとタイさんは8時には来ていたぞ。
社会人を標榜するなら5時に来い。ちなみに俺はいつでも行けるようにここで徹夜していた。」
だから、9時前には出発しないって昨日の夜に何度も言ったでしょ。
人の話を聞いてください、社会人長いんだから。
「まぁ、いい。これで出発だな。さぁ行くぞ。1秒でも時間が惜しい。
シュウ早く魔法陣に魔力を注げ、エリナ速く魔法陣を起動しろ。」
「怒女神さん、そんなに焦って行かなくてもエルフ男若衆は逃げません・・・・・、全力で逃げるな。怒女神さんのことを知っていると。
でも早く向こうに行ったら、その分だけ早く逃げだすことになりますね。
ここはやはり夜を待って行った方が、エルフ男若衆に逆夜這いを掛けやすいんじゃないんですかねぇ。」
「シュウがエルフ女子に夜這いをしないように、直ちに行きましょう。
さぁ、転移魔法陣を起動しますね。それっ。」
俺たちが虹色の淡い光で包まれて、その光が消えたときには白光に代わって一面の緑の世界が飛び込んできた。
俺たちは再びエルフ領に来た。
相変わらず冬だというのに緑が濃く、それに暖かい。
俺が一時の感傷に浸ろうというときに、物凄いスピードで脇を通り抜けていく、炎の塊。
怒の方が喜の方に変身され、自らにスピードUPを施し、エルフの村に特攻されたようです。
止められませんでした。
もう、ほっとこう。人類の恥部はできるだけ隠しておこうと思ったが、自ら翼を得てしまったようだ。
怒特攻大魔神様に見込まれたエルフ族の不幸を俺のような一介の軍人が止められるわけがないもんな。
ここに来るのを精々数時間遅らせるのが精一杯、いや、怒の方を少しでも人類領に引き留められた俺って、すごくねぇ。誰もなしえなかった快挙だぞ。
よし、自己満足した。これで堂々とエルフの村に行ける。
俺は精一杯やったんだ、人類で誰もなしえなかった怒特攻大魔神様の突撃を数時間も遅らせたんだぞ。これは人類の快挙なんだぞ。
誰かわかってくれぇぇぇ。
と、数分間自分を褒め称えていると、向こうからもすごい勢いで飛ぶように走ってくる方がいた。
村長とソシオさんだった。
「ああぁ、シュウ殿。
意外と早く戻っていらっしゃいましたね。
あと2、3日は準備にかかるかと思いました。」
「アハハハッ、なにせすぐ戻りたいと駄々をこねる輩が同伴していますので。
その輩は本当は昨日来るつもりだったらしいですよ。
今、物凄い勢いで村で暴れまわっていますでしょ。
ほんとすいません。
後で心よりお詫びさせますので、ソシオさんも気を悪くしないでくださいね。
その暴れまわっている奴を人類側に戻すなと人類の関係者はみな考えているようですが、私が責任を持って、可能ならば、もう多分ムリだとは思いますが、できるだけ人類側に連れて帰りますので、少し長い目で見てやってください。」
「ええと、暴れまわっている人類ってもしかして、駄女神様のことですか。」
「そうです。本当に申し訳ありません。
ちょっと目を離したすきに逃げ出しまして。
かなりの被害を発生させているのではないのでしょうか。
走る厄災と言われていますので。
特にエルフ男若衆の皆さんは既に追いかけまわされて、森の中に引きづり込まれて・・・・・、その後のことは恐ろしくて口に出すことができませんね。」
「駄女神様が村で暴れまわっている? 何かの間違いではないでしょうか。」
「えっ、喜女神さんがエルフ男若衆の臭いを嗅ぎまわって、
"エルフ男若衆はいねがぁぁぁぁ、隠れているエルフ男若衆はいねがぁぁぁぁ"
と片手に鉈をもって叫びながら各家々を荒らしまわって、運悪く見つかったエルフ男若衆の襟首を掴み、土煙を上げながら森の奥の方に引っ張って行き、その後にそのエルフ男若衆を見た者はいなかったという生地獄の展開になっていますよ絶対に。」
「えっ、ちょっとどういうことかわからないのですが。
確かに駄女神様はいらっしゃいましたが、村の門に隠れて、もじもじしながら村の中をちらちら見ている恥ずかしがり屋の座敷童のようにされていたようです。
もじもじしているところをたまたま通りがかったソシオ様が気が付いて、
"駄女神さん、もう人類領から戻ったんですね"
と声を掛けたら、顔を真っ赤にして森の中に跳ぶように走り去ったと言うことを私に知らせてくださったのです。
それで、シュウ殿たちがここに戻ってきたことに気が付きまして、こうして慌ててお迎えに上がったというわけです。
駄女神さまは村で迷惑どころか、一歩も村に入らずにどこかに消えてしまったのです。
「お兄ちゃん、と言うことは駄女神のもう一つの病気、エルフ男若衆大好き過ぎで襲って食べちゃうぞメスオオカミに変身したんじゃんなくて、イケメンと一緒にいるのが恥ずかしくて逃げだしちゃったの子ブタちゃんに掛かっちゃったのね。
イケメン恐怖症を克服したと思ったのに僅か3日ぐらいで元に戻っちゃたのね。」
「でもその方がいいと思うわ。
村でエルフの若い男を探して、森の奥に引きずって行き、あんなことやそんなこと、あまつさえ、こんなことまでやらかすよりは、恥ずかしがって一人で逃げてった方が何万倍もましよ。ほんとに何億倍もましよ。
森の中でクマや魔物に襲われても怒特攻大魔神に変身し、襲ってきた輩をそれこそ灰すら残らないようにその業火で焼き尽くすでしょうし。」
「と言うわけで、駄女神さんのことでお心を煩わす必要は、まったく、金輪際、全然ありません。
もう戻ってこなくても全然かまいません。カメさんが来てくれたので。
と言うことで、今回もお世話になります。
よろしくお願いします、村長、ソシオさん。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。