12話目 覚醒したソニアの実力は?
第233ベースキャンプを辞して、再び芦高さんに引っ張られて魔族領域に移動を開始した。
2km移動したところで、芦高さんに一旦停止するようにお願いした。
「止まるなんてどうしたんだな。」
「ここでいったん作戦を確認しておきたいと思って。」
「それが良いわね。」「お兄ちゃん、賛成。」「どうすればいいんだな。」
「エリナ、ソニア。敵の魔族師団を捉えられるか。」
「シュウ、私はまだ捉えていないわ。
居るのは、魔族軍と関係なさそうな魔物と第22師団の偵察部隊と思われる人類軍よよ。」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、見えた、違う感じるわ。
これが風魔法の探知の力なのね。
ここから10000mぐらい先に魔族軍発見。
3個の偵察中隊をこちらの方に放っているわね。
それはここから8000mぐらいね。」
「ソニアは凄いな。覚醒した風の使徒はこの世界では最高の斥候だな。」
「それほどでもあるよ。もっと褒めていいよ、お兄ちゃん。」
「ソニアちゃん、まだ離れているとはいえ、もう敵が目前に居るのよ。
油断しないようにね。」
「お姉ちゃん、ごめん。わかったよ。」
「ソニアは素直でいい子だな。
良い子にお兄ちゃんから質問してもいいかな。
敵魔族師団の陣形はどうなっている?」
「500m四方の塊が4個あるような陣形。
それぞれの塊は前方に2個、後方に2個、塊の間は200mぐらい離れているわ。
なんか、丁度お昼の準備をしているみたいよ。
何か焼いたり煮たりしているもの。」
「俺も腹減って来たから、そろそろ昼かもな。」
「シュウ、どうする。」
「そうだなぁ、今日はまずは風の使徒に覚醒したソニアの力を見てみたいんだ。」
「私の力を。」
「そうだ。
大精霊の力を封じたアーティファクトを使う者の実力を知って於きたい。
それでいいかソニア。」
「もちろん。私も知りたい、お母様とお父様、そしてお兄ちゃんとお姉ちゃんに目覚めさせてもらった力を。
お兄ちゃんたちの志を実現するための力を知っておきたいの。」
「よし、それでは作戦だ。」
「「「お願いします。」」」
「このまま芦高さんに引っ張ってもらって、敵の偵察部隊と敵本体の中間、つまりここら9000mの地点で俺とエリナ、そしてソニアを切り離し、芦高さんは敵魔族師団のど真ん中に到達。
到達後、魔力の1/4を使用して雷フィールドを魔族軍本体の存在するすべての範囲に展開。
ソニアはあらかじめ芦高さんに攻撃は雷系と氷系を守りは土系の一連の魔法を転写。
芦高さんには今のところどんな攻撃も通らないが、魔族と直接接触すると何が起こるかわからないので、雷属性フィールドを展開後にただちに土魔法で防御壁を作って、魔族との接触を遮断。その後は自己判断で対応。
ソニアは芦高さんの雷フィールド発動後。
あっ、ソニア魔力は魔力溜め換算でどのくらいに増えたの。」
「はっきりとは確認してないけど750基以上だと思うわ。すごいでしょ。」
「俺は600基まで増えたので、俺よりかなり多いな。」
「私なんてまだ75基よ。あ~ぁ、この間まではソニアちゃんと同じぐらいだったのになぁ。」
「まぁ、エリナも光の公女として覚醒していけば指数的に魔力が増えると思うよ。
それより、作戦の続きだ。」
「ごめんね、話の腰を折っちゃって。」
「いいよ。まだ魔族軍には俺たちの存在は気取られていないと思うし。
細かいお互いの情報を交換するのも大事なことだよ。
ソニアは芦高さんの雷属性フィールドが展開し終わったら。その範囲に魔力の1/5を使用して高密度にサンダーアローを掃射。
敵の炎攻撃が始まったらアイスランスを敵の炎属性魔族に向けて発射。
敵の主力は闇魔族なので炎魔族は多くはないはずだ。魔力は1/10の仕様で十分だ。
もし第23師団の情報に齟齬があって、敵が炎属性の場合は雷系を氷系に、氷系を雷系に変更して対応。
どちらの属性化は芦高さんが判断して、早急に伝達。」
「了解なんだな。」
「エリナと俺は、敵偵察隊の殲滅とソニアの防御担当だ。
エリナ、俺にも雷系と氷系、そしてスピードUPを転写してくれるかな。」
「了解。」
「何か作戦で質問は。」
「「「ありません。」」」
「それでは移動だ。芦高さん、敵本体前1000mまで移動してくれるか。」
「了解なんだな。皆、行くよ。」
芦高さんがすべるように敵の前方に移動する。
俺たちが耐えられる限界まで速度を上げて移動する。
もちろん、何の音もしない。
唯一、芦高さんと俺たちが風を切る音だけだ。
今日は少し風がある。
魔族軍から俺たちの方に向かってくるので、風を切る音がするのだ。
たまに木々のそばを通過したときに俺たちの移動する風圧で脇の木の葉っぱが騒めく。
これがもしかしたらこの周囲で一番大きな音かもしれない。
魔族軍に近づくと煙が見えた。
お昼の用意をしているためのものだろう。
敵が迫っていることも知らずに、戦場らしからぬのんびりとした雰囲気が漂ってくる。
自分たちが次の瞬間には雷地獄か氷地獄に落とされることなんて、ゴマ粒ほども感じていないようだ。
それはそうだ。偵察隊を放って安心しきっているのだから。
その偵察隊の横を俺たちは全速で通過したが、気が付いていない。
当然だ。唯一の気配が風を切るごくわずかな音と木々が不自然な風に揺れる音だけなのだから。
俺たちは魔族の偵察隊、本体いずれにもその存在を気取られることなく目的の魔族本体前1000mに到達した。
さぁ、戦闘の始まりだ。
戦闘になるかどうかはわからない。
闇魔族だとしたら芦高さんの雷属性フィールドの展開で瞬殺だ。
炎魔族だとすればソニアのアイスランスでその形を変えられてしまうだろう。
それでもここまで来たら、敵の目前に忍んで来たのなら、躊躇することは許されない。
すればこの大防衛戦の戦跡の地で、逆に俺たちの方が土にかえることになる。
「予定通り、敵に気取られていないようだ。作戦遂行。」
「「「了解」」」
芦高さんが俺たちを切り離し、糸を回収した後にすっと動く。
俺たちという彼のスピードのお荷物になっていたものを切り離したのだ。
ソニアのスピードUPの魔法を十二分に活用することができる。
彼が消えた。一瞬で俺の目の前から消えたのだ。
風魔法術士のエリナとソニアは芦高さんの移動を捉えているとは思うが。
俺にはこの瞬間から彼を感じるものがなくなった。
数秒後。
爆音と閃光を伴いながら電の乱舞が始まった。
その爆音と閃光の乱舞に心を捕らわれることさらに数秒。
"ご主人様、闇魔族が主力の様なんだな。予定通り雷属性フィールドの展開を終えたんだな。ソニア様サンダーアローをお願いなんだな。"
「さっ、次は私の番ね。
この地で新たな力を得て再び戦うことになるとはね。
まぁいいわ。過去に捕らわれるのはもうやめ。
それ。」
ソニアはここで戦うことに何かを感じているようだが、戦いの手は止まることがなく進んでいく。
上空に雷が渦巻く。
よく見れば矢のような光る物体が放電しているのが見えるはずだが。
余りの数の多さに巨大な雷の渦としか見えないのだ。
これを叩き込むのだ。闇魔族の集団に。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。