11話目 戦場に急げ、特攻大魔神様が怒で目覚める前に
第2軍団より地図をもらい、まずは第233ベースキャンプに行くことにした。
攻撃隊のメンバーは俺とエリナ、芦高さんの旅団第3小隊、そしてソニアだ。
まずは、エリナが芦高さんにスピードアップを転写しする。
次に芦高さんに糸を出してもらい、それを他のメンバーの腰にしっかりと巻き付ける。
更に、エリナは低空飛行とエアシールドの魔法を使い、また、俺にも転写してくれた。
ソニアは覚えたての低空飛行とエアシールドの魔法を自分に掛けていた。
そうして、3人の体が浮いて風圧防止のエアシールドの発動が確認できた。
「芦高さん、そろそろ出発しよう。場所はわかるかい。」
「地図上で現在地とベースキャンプの位置は確認できたので、とりあえず近くまではいくんだな。
そこでベースキャンプの位置がわからなかったら、奥様かソニアさんが探知魔法で基地の場所を探って、教えてくれれば問題ないんだな。」
「駄女神さん、準備できました。
第233ベースキャンプに出立します。
軍団長、ベーキャンプとは繋がりましたか。」
「先ほど、君たちがこれから30分以内に到着することを伝えてある。
目印はメタリックな大蜘蛛に人が3人ほど引きずられていることだと言っといたぞ。」
「それでは出発します。」
「よろしく頼む。」
「がんばってね。」
「エリナさん、基地に着いたら一度連絡を忘れずに。」
「気を付けてな。」
「第233ベースキャンプに着いたら、まずは師団長を訪ねてくれ。」
俺たちは旅団の残留組と2匹の熊さんに別れを告げて出発した。
低空飛行で浮いた3人を芦高さんが引っ張る。
芦高さんは徐々に速度を上げ、一分もしないうちに、俺たちがエアシールドで風圧に耐えられる限界速度に達した。
芦高さんはまるで低空を飛ぶように走る。
八本の足を器用に使って。
周りの景色が流れる。
先の大防衛戦で荒らされた原野が流れる。
広大な荒れ地が目の前に現れ、そして、黒い土肌、赤い土肌、白い岩、緑の下草と木々をあっという間に後ろに置き去って行く。
一時間当たりの移動速度は100kmを超えているのではないか。
エアシールドに時折、バシッと衝撃が走る。
芦高さんの足に巻き上げられた小石や小枝であろうか。
それとも逃げ遅れた小鳥なのであろうか。
そんな衝撃はものともせずに芦高さんとそれに引きずられた俺たちは跳ぶ。
芦高さんは回避ではない木々があると飛ぶのだ。
決して、横にぶれることなくまっすぐ進む。
横に流れると俺たちがその慣性力で木々に激突する可能性を考えての結果、障害物はすべて飛び越える。
俺たちは低空飛行の魔法を使っているので、芦高さんが飛び跳ねても上下に揺さぶられる衝撃はほとんどない。
この魔法が緩やかに俺たちを空に運んでくれるのだ。
俺、エリナ、ソニアはこの快適な空の旅を満喫した。
エリナの顔を見る。次に、ソニアの顔を見る。
エリナはこのような移動は2回目なので、ゆったりと空の旅を楽しんでいるのか、俺に微笑みを返してきた。
ソニアは初めての経験に興奮しているのか、目を輝かせて前方を見ている。
次いつジャンプするのかわくわくしながらその瞬間に期待しているのだろう。
やがて、芦高さんがゆっくりと減速した。旅が終わりに近づいたのだ。
人が走るほどの速度に減速して、芦高さんがエリナに話しかける。
「奥様、ベースキャンプの位置を確認して教えてほしいんだな。」
「ちょっと待ってね、芦高さん。今、探してみるから。」
「13時の方向、あと3000mほどのところにベースキャンプの入口があるわ。」
「わかったんだな、もうすぐ着くんだな。」
芦高さんは若干の方向修正の後、スピードを少し上げた。
やがて、逆に、スビートを下げ始めた。
それと同時に俺は遠くにベースキャンプらしき建物と人の動きを確認した。
そうして、芦高さんは完全に走るのを止めて、停止した。
俺たちが低空飛行の魔法を切って、地上に降り立つと芦高さんが俺たちの腰に巻いた糸を回収してくれた。
「着いたんだな。」
俺たちが完全に停止したのを確認したのかベースキャンプから慌てて走ってくる人たちがいた。師団長と師団司令部の人であろうか。
「ご苦労様です。第233ベースキャンプと第22師団へようこそ。」
「俺たちは第108旅団より派遣されて来たものです。
師団長はいらつしゃいますか。」
「私だ、君たちのことは先ほど軍団長より連絡が入った。
まさか本当にこんなに早く到着するとは。空でも飛んできたのかね。」
「まあ、そんなとこです。
それよりも正面の魔族師団の動きに変わりはありませんか。」
「偵察隊の定期報告があったが、闇魔族が1個師団、戦闘時警戒体制で駐留しているとのことだ。」
「ありがとうございます。
次に魔族師団の居場所をこの持ってきた地図に記入してもらえますか。
できればどの程度散らばっているかも円で示していただくと助かります。」
「おい、情報参謀補。魔族師団の現在地とその駐留範囲を書いてやってくれ。」
「ここに30分前の定期報告をもとに作成した地図の写しがあります。
これを持って行ってください。」
「ありがとうございます。」
「しかし、本当に君たちだけで行くのかね。
まぁ、君たち第108旅団第3小隊の噂は嫌になるほど聞かされているが。
こんな職校生ぐらいの若者が魔族師団に突っ込んで行って、敵師団を殲滅するとは信じられんのだが。
その、見かけでものを言って申し訳ないが。」
「師団長、俺たちも敵に勝てるかは当たってみないとわかりません。
ただ、この芦高さんがいれば生きて戻ってこれる可能性はかなり高いです。」
「この大蜘蛛君がいればか。
確か、魔法攻撃と物理攻撃が全く通らないとのうわさを聞いたが。」
「はい。彼には申し訳ないのですが、危なくなったら彼を盾に撤退します。」
「それであれば例え少人数で魔族の師団を相手にしてもそうそう負けることはないと。」
「我々は敵を殲滅するより、まずは自軍が生き残ることが大事だと考えています。
生き残れば敵の情報を持ち帰り、対策を練った後に再度戦いを挑むことができます。
今から、正面の魔族師当たりますが、倒しきれないと思ったらすぐ徹底してきます。
たたし、この基地に戻らず第1084基地の方に逃げたいと思います。
それでも、敵が我々を追撃せずに、こちらに向かってくることも考えられるので迎撃の準備はお願いできますか。」
「わかった。準備というか撤退戦の用意はしておこう。
撤退して、第42、32師団と合流後に反転攻撃するのが元々の作戦だったからな。
逃げる準備はしてあるよ。」
「それでは行ってきます。」
「もう行くのか。少し休まなくても大丈夫か。」
「午前中で形をつけろと煩い指揮官がいますので。
結果はわかりませんが、のんびりしていると後が怖いので。」
「死神様か?」
「いえ、大魔神、特攻隊長の方です。怒らせると第2軍団が大変なことになりますよ。」
「第2軍団がか? 」
「特攻隊長は今、第23基地に居ますよ。
うだうだしていると堪忍袋の緒が切れて、怒特攻大魔神に変身し、あたりかまわず破壊してしまうかもしれませんね。
俺たちは第23基地にもう近づかないから良いですけどね。」
「それマジ。」
「マジ。」
「シュウ君たちは早く魔族のところに行った方が良いかなぁなんて思い始めたというか、絶対倒してきてほしいというか。」
「それでは出発します。」
「おぉっ、武運を。」 対魔族軍
「「「ご武運を」」」 対怒特攻大魔神様
俺たちは再び戦場に出た。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
10/5より、「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を投稿しています。
この物語は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
死神さんと旧ランク8位が結婚式のために故郷に帰ったときの物語です。
時間的には本編と同じ時の流れになっていますので、別伝としてお伝えすることにしました。
シュウが風の大精霊と会合した後の本編の進行に大きく影響してくる別伝ですので、本編ともどもよろしくお願い致します。
一応、本編を読でいなくてもひとつの物語としては成立しているようなしていないような。
この別伝を読んでいただき、面白いと思ったら本編もどうぞ的なものに仕上がればいいなぁと思ってたりしてます。