4話目 タイさん、カメさん、一緒に龍宮城へ行きませんか
荷物を片付けて、足りない物を補充しながらエリナとソニアとで話し合う。
「死神さんが常駐とはまいったね。」
「いない間に休暇を利用して、風の大精霊様に会おうと思ったのにね。」
「でも、風の神殿には行かなきゃならないわよね。」
「もちろん。」
「私たちは誤魔化せるとしても、タイさんとカメさん、そして、連れてきたくないけど保護者枠の駄女神さんを連れて行くとなると、休暇でミステリーツアーに行ってきます、お土産期待してね♡、じゃすまないわよね。」
「死神さんは使命には目覚めていないけど、使徒としては覚醒しているようだから、エルフ領に行くこととこれまで経緯は話した方が良いかな。」
「でも、なんで黙ってたのと大鎌を振りながらただをこねるような気がして怖いわ。」
「基地にいなかったから詳しく話をしようにもできなかったのが事実だと思うわ。」
「しかし、熊元師匠がエルフ領に語っていても誰にも信用してもらえないとはね。」
「日頃の行いがものをいうのが軍と言うところだと痛感したわ。」
「それじゃ、はちみつ酒のところだけでも信用してもらえてもよさそうなのにね。」
その時、部屋をノックする音が聞こえた。
「シュウ君、ちょっといいかな。」
そこには、カメさんとタイさんがお菓子と飲み物をもって立っていた。
「シュウ君、謎の転移魔方陣で探検に行っていたんでしょ。どうだった? 」
「面白かったら、僕たちも連れて行ってほしいんだけれど。」
「卒試の方は良いんですか? 」
「私たち二人は終わったの。
去年先取りした単位があってね、これからはその試験があるの。
だから、越後屋さんとおまけはチームはもう少苦しむことになるわね。」
「僕たち二人は卒試にすべて合格したので、後は卒業を待つだけなんだ。
就職は旅団で決まっているし、気楽なもんだよ。
だから、休暇を持て余しそうなんで、探検に一緒に連れて行ってくれるとうれしいんだけど。また行くんでしょ? 」
「はい、2~3日後にはまた行く予定です。
実は二人にはぜひついてきて、手伝ってほしいと思っていました。」
「手伝いですか。私たちでお役に立ちそうな場所だったんですか? 」
「試験前だったんで動揺させたくなくて黙っていたのですが。
実は前の戦闘時にエリナと芦高さんと一緒に、無断で外泊したことがありましたよね。」
「あれは確か、そうだ、特攻隊長が激怒していた事件だね。」
「そのとき発見したのが実はエルフ領に転移することができる特殊な転移魔方陣だったんです。」
「えぇぇぇぇぇっ。
じゃ、あのシュウ君の魔力がないと発動できないここの社にある謎の転移魔方陣じゃなくて、別の謎の転移魔方陣を見つけて、そこに行っていたと。」
「その通りです。社のてっぺんに風見鶏を設置しましたよね。
あれが転移魔方陣を展開する装置です。」
「戦場に落ちていたから拾ってきて、社に飾ろうと言っていたものですわね。」
「それです。」
「ただの飾りじゃなかったんだ。」
「普段は飾りですが。風魔法術士がエルフ領に行きたいと念じながら風見鶏を回すとエルフ領に行くことができます。
魔力溜めの設置がないので、あらかじめ風見鶏にある程度の魔力を封じておいて風見鶏を回すか、強い魔力で風見鶏を回すかのいずれかの方法で発動することができます。」
「時々シュリさんがその風見鶏を見上げて、良しと言っていたのは何かわけがあるのですか。」
「それはエルフ領に転移したら、エルフ側の風見鶏を管理している方に言われたの。
戻るときは戻りたい側の風見鶏が回っている必要があると。
そこで、熊元師匠を人類側に戻したついでに、シュリさんに頼んで風見鶏を回しておいてもらったの。
止まったら、強風の魔法で回してほしいと。」
「熊師匠が先週、エルフ領に行っただの、エルフのお姉ちゃんがきれいだの、エルフのはちみつ酒が絶品だのとわめいていたのは、エルフ妄想シンドロームを患ったわけではなく、事実で、実体験と言うことですか。」
「そうだよ。でも、熊さんはエルフ領にいき、初日からはちみつ酒の瓶に首を突っ込んでがぶ飲みし、酔いつぶれるという人類の恥部として活躍しやがったから、酔いつぶれている隙にお姉ちゃんが強制送還の処置をしたの。
まったく、いい加減にしてほしいわ。
数十年ぶりにエルフ領に人類が行ったのにあの醜態。
あいつだけは二度とエルフ領に近づけないわ。」
「それでエルフ領ではどんなことがあったのかしら。」
俺たちはソニアと風の大精霊に関すること以外は正直に話をした。
「それじゃ、エルフ領への次の訪問は2~3日後で、その目的は今後の交渉の下準備と風の聖地を探すということですわね。」
「そうです。エルフ族との交渉をカメさんと駄女神さんにお願いしたいと思います。
風の聖地の探索は俺とエリナ、ソニア、そして、タイさんにも一緒に行ってほしいのですが。」
「風の聖地に私がですか、カメさんか駄女神さんの方が適当なのではないですか、風の魔法術士ですし。」
「こう言ってはタイさんに申し訳ないのですが、やはり一番大事な目的はこれからの人類とエルフ族が友好を結び、どう一緒に歩んでいくかだと思います。
外交的なロジックを組み立てていくことはカメさんと駄女神さんの方が適当かと思います。
向こうも王族と族長会議からカロリーナさんと言う女傑が出てきます。
彼女は今日会ったばかりなのに駄女神さんの親友というか師匠と言うか、そんな関係をあっという間に築ける方です。
そういう方を向こうに回して、戦略的に渡り合えるは、旅団じゃ、死神さん、駄女神さん、カメさんじゃないかと思います。」
「死神さんは連れて行かないの。」
「ちょっとインパクトが強すぎて、さすがにいきなりは無理かと。
いきなり、"エルフ族は人類に従いなさいオッホホホホ"とか言いそうじゃないですか。
俺は人類とエルフ族は従属関係ではなく友好的に将来を歩んでほしいと思います。
だから、下交渉がきちんと済むまでは旅団以外にこの話をするつもりはないです。」
「ジュラさんの存在がと言うことだね。」
「はい。かなり死神さんにコントロールされているとはいえ、第2軍団の影の支配者とまで言われた人です。
この段階でエルフ領のことを第2軍団に情報を流されては困ります。」
「死神さんにも黙っているつもりですか。」
「死神さんには今と同じ話をしたいと思います。
もちろんジュラさんは別途、旅団で監視していてもらうとして。
最後は死神さんが人類とエルフ族の交渉、そして同盟の立役者になってもらわないと人類側が後で約束を反故にする可能性がありますので。
その辺はしっかりと人類側をコントロールできる人が死神さんだと信じています。
そのためにこの段階でエルフ領のことは話をしたいと思います。」
「わかったよ。僕もその線で組み立てていくのが良いと思うよ。
そうなるように次のエルフ領への訪問に同行し、交渉を進めるよ。」
「風の聖地に私が同行を求められる何か特別な理由があるのかしら。
カメさんのように。」
「一つは冒険なので、チームの指揮官が欲しいことです。
それと火属性と言うことですね。」
「それは料理番と言うことかしら。」
「ぶっちゃけ、その通りです。
冬山を2週間ほど彷徨うことになるので、信頼のおける炎の魔法術士が同行してほしいです。」
「わかりました。シュウ君たちのお願いだから、これ以上の理由は聞かずに同行し、務めさせていただきますね。
カメさんも私も今の話が全部だとは思いません。
隠しておきたいこともあるでしょう。
まだ、聞きたいことが山ほどありますが、今は必要なことだけはすべて語っていただいたと信じましょう。
今はシュウ君たちの、人類の希望である人たちに頼られたことに満足し、そのお願いをかなえることに全力を尽くすわ。」
「僕も同じ思いだ。
もっとも僕はエルフ族とエルフ領に非常に興味があるので、いらないと言われても絶対について行くつもりだけどね。」
「よろしくお願いします。準備はほとんどエルフ族の方がやってくれます。
我々に必要な準備は人類領を3週間ほど離れることを、エルフ領に行くことは秘匿して、関係者に伝えて、納得してもらうことですね。」
「まずは死神さんの説得ね。でも、もう遅いからまた明日にしましょうよ。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。