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吹雪、立つ 1 話目 敵、大隊発見

次の朝、当然のように筋肉痛が襲ってくるが、エリナがちょっとだけ疲労回復魔法を強くかけてくれたためか、5分もストレッチをすると筋肉痛は和らいだ。

エリナありがとう。


エリナとラースはもう起きており、かまどに火を入れてお湯を沸かしていた。

朝食はパンとチーズとお茶。


朝食後は昨日と同じように出発し、緩衝地帯を移動することになる。


午前中に移動、午後にキャンプの準備、稽古、魔物探索の練習。このような日々が3日間続いた。

途中で魔物にも出会わず、天気も晴れで順調な旅路だった。


そして、運命の4日目。


俺たちはついに緩衝地帯から軍が展開する戦闘地帯へと足を踏み入れた。

移動中の探索はエリナが中心となり、全方向検知を展開することになっている。御者は俺が担当することになった。。


館長の出発の合図で、何度も通ったであろう、第6軍団の後方基地までの道を急いだ。

ここは既に戦闘地帯ということもあり、軍の監視を潜り抜けた魔物や最悪、魔物を従えた魔族と遭遇すことも考えておかなければならない。


それでも、途中の休憩地までは何事もなく旅を進めることができた。

休憩していると先生が話しかけてきた。


「このまま、何事もなく軍の基地に着ければよいのですが。

基地までは残り、10kmちょっというところです。

エリナには悪いのですが、もう少し検知魔法の継続をお願いします。


いつもの遠征は、風属性魔法術士の同行がないのでこの戦闘地帯を抜けるときはドキドキしています。

今日はエリナに付いて来てもらっているので、いつもよりずっと早く魔物を見つけることができます。


基地の周りには魔物はいないでしょうから、危険なのはあと6km ぐらいですかね。もうひと踏ん張りです。」


「わかりました。検知はそんなに負担でないので使い続けることには問題ありません。

ただ、ずっと私たちだけが馬車に乗っているのは申し訳ないというか。」


「検知は歩きながらでは使い難いと聞きました。エリナが馬車に乗っているのは当然です。

御者もシュウの方が安心でしょ、あなたにとっては。」


「それに今日の午後は稽古や魔物探知などはなく、運んできた荷物を降ろして、倉庫に整理するだけですので、私たちが歩き続けても問題ありません。

クズミチにはここでの荷物の整理の仕方を覚えてもらわなければならないので稽古も休みです。

あなたたちは稽古の自主練をしてもらいますけどね。」


「うふふっ。シュウとの自主練に備えて、馬車でゆっくりさせてもらいますね。」


「どうぞごゆっくり。」


休憩が終了し、館長の合図で俺たちはまた旅を再開させた。


「あっ。」


「どうしたのエリナ。」


単調な道と検知をエリナに任せていたため、俺の警戒心が緩んでしまって、頭が少しぼーっとしていた。


「魔物が一杯、いえ、それでだけではないわ。

魔族も数体確認できるわ。ちょっと探知に切り替えるね。」


なんかやばい状況になってきた。おれ、油断しすぎ。


「左側面、距離約4km。

魔族10体、魔物はオーガ70体。こちらに気が付いて急速接近中。後、約400秒で遭遇。」


「先生、緊急です。オーガ70体と魔族10体がこちらを認知、急速接近中、後約7分で会合します。」


「それは本当ですかっ。遠征隊停止しろ。

魔族の1個大隊の襲撃だ。おそらく、魔族の指揮官は佐官クラスだ。」


先生が大声で叫ぶ。

それに応えるように、先頭を行く館長から叫ぶような指示が届く。


「馬を馬車から外せ。

武人以外は馬に乗って、軍の後方基地に逃げ込め。あと、30歳以下の武人も馬に乗って、後方基地に退避し、軍に緊急出動を要請しろ。


敵は魔族の含む1個大隊相当だ。

残りの武人は遠征隊の中央部分に集合。」


「マリアンナとクズミチ、ラースとシュウで組んで馬で逃げなさい。

エリナは見習いとは言え教会本山に所属するものです。

間が悪かったと思って、あきらめて、私たちと一緒にシュウが逃げるまでの間の時間稼ぎをお願いします。」


「わかりました。シュウ、早く逃げて。

あなたが無事に逃げて、応援の軍を率いて戻ってくるまで先生とここで踏ん張るわ。」


「でも、エリナを置いていけないよ。

一緒に戦うって、約束したろ。」


「ラースさん。早くシュウを馬に乗せて出発して、もう会合まで3分しかないわ。」


「シュウ早く、乗れ。エリナの気持ちを無駄にするな。

さぁ、後ろに乗れ。」


「クズミチも行くぞ。後ろに乗んな。先生とエリナ、申し訳ない。」


「マリアンナさん。でも。俺だけ逃げるなんて。」


「私も気持ちはお前と一緒さ。

でもな、お前がここにいて何ができる。

お前ができるのは一人前の武人になり、お前の後輩に先生の志を伝えることだろ。

俺も断腸の思いだが、できることがない。行くぞ。」


「わかりました。先生、エリナ先に行くよ。

軍の基地で待っている。無事に切り抜けてくれることを祈っている。じゃっ。」


クズミチはマリアンナの後ろに乗り、マリアンナがそれを確認するとすぐに馬に鞭打って出発した。


「さっ。シュウも早く乗れ。」


シュウはラースの手を取るそぶりを見せたが、急に馬の尻を叩き、「行け」と馬に命じた。


「うぁっ。」


急に馬が走り始めたので、ラースは馬から振り落とされそうになったが、何とか体制を立て直した。

しかし、馬は魔物の危険を感じたのか、ラースが止めようとしても逆らって、そのまま他の馬を追って駆け始めてしまった。


「シュウ、あたなた何故で先生の言うことを聞かなかったの。

ダメじゃない。戦場で指揮官に逆らっては。」


「それでも、エリナが残るというし。

エリナが残るのなら俺とペアの方が最大戦力になるし。

まだ若いからということで戦場から遠ざけられてしまうのなら、エリナも一緒のはずだろ。

エリナが残れるのなら、俺だって残っていいはずだ。戦力が大幅に上がるはずだし。」


「わかりました。もう、逃げる時間がありません。

シュウの命令違反は生き残った後で、しっかり稽古で反省してもらいます。

でも、シュウの言う通り、あなた方がこちらの最大戦力です。申し訳ないが、最前線で戦ってもらえますか。」


「了解です。」


武人のうち残ったのは30歳以上のベテラン30人ほどだった。

館長の指示通り、遠征隊の真ん中付近、つまり俺たちの周りに武装して集まっており、大体4人ごとに固まっている。

これがチームなのであろう。


先生はまだ20代だが、師範代ということで、武人の指揮を執るため残っていた。


遠征隊は魔族と遭遇することを想定したマニュアルを事前に作成しており、遭遇場所、相手の規模等に合わせていくつかの行動様式が決められていた。

そのため、敵の発見から会合までわずか7分弱にもかかわらず、その時間内ですでに戦闘態勢が整っていた。


例外として、今回の遠征に初めて参加した、俺、エリナ、クズミチは戦闘マニュアルを理解していないために、あの場でぐずぐすしてしまった。


事実、馬で逃げるのが一番遅かったのは俺たちの馬車だった。

これは後で、もし生き延びることができたならであるが、こってり先生に絞られるのを俺は覚悟した。


「それじゃ、行くぞ。エリナとシュウは悪いが、敵と基地の間に入って、敵が馬たちを追いかけられないようにたのむ。


道場の武人たちはシュウたちを境に二手に分かれ、右は師範代が指揮しろ、左は俺だ。


シュウたちが足止めしている間に魔物を脇から削るぞ。

魔族にはあまり手を出すな、魔物が減った後に魔族をやる。

おそらく、1時間もすれば援軍が基地から到着するだろう。

それまで生き残れ。では散開。」


俺とエリナは街道の左側に立ち、敵を迎え撃つ準備を始めた。


"シュウ、もうすぐ敵が目視できるわ。戦闘プランを指示して。"


念話便利。


"まずは、エリナは烈風で敵全体を足止めして、敵の速度が落ちたらそこに大量のアイスニードルかウオーターニードルをぶち込んで。

これで魔物は倒せるかな、オーガだし。魔力が切れそうなら言って。

指輪を通して補充するよ。

俺には、いつものセットをお願い。あっ、アイスランスも欲しいな。"


"了解。"

「転写、転写、・・・・・、転写終了。敵きました。」


では、転写風属性及び水属性フィールド展開。速度アップ。

"突っ込みます。"


「風属性フィールド、水属性フィールド。

烈風、続いてアイスニードル連射。」


俺が敵に対して前進し、自分の属性フィールドに塗り替えていく。

敵は魔族を指揮官とする6小隊が前列に、3小隊が真ん中に、一番後ろに体が一回り大きい魔族が控えている。

こいつが敵の大隊長の佐官だろう。


俺の烈風により敵前列の小隊の動きが遅くなり、エリナの烈風で加速されたアイスニードルがそこに殺到。


シールドが弱くなったオーガに対してアイスニードルが大量に貫通し、そのまま絶命。

さすがに、魔族の小隊長はシールドが強く、アイスニードルは全弾はじかれていた。


前列のオーガ倒れたすきに俺は敵に接近、烈風をさらに強化し、それに乗せるアイスアローを大量に生成。

敵魔族に叩き込む。

しかし、シールドが固くもう少し接近しないと有効打にはならなそうだ。


敵もこちらにファイヤーボール、ウィンドカッターなどの魔法を打ち込むが、烈風であおられ狙いが定まらない。

また、たまに当たりそうなのが飛んでくるが俺の転写フィールが強力なため、俺のエアシールドとアイスシールドに当たる前に全て魔法が消滅した。


さらに接近し、今度は烈風にアイスランスをのせて敵に放り込む。俺の無駄に高い魔力のおかげで、アイスランスも大量に生成できる。

この間にもエリナのアイスニードルはやむことなく敵に襲い掛かっていた。


"シュウ、そろそろ魔力が限界だわ。補充できる? "


"了解。今、指輪を通じて注入するよ。"


「注入完了。」

俺は指輪に魔力を注入し、指輪が相方に魔力を転送しているようだ。


<<魔力を受け取ったわ。

でもすごい量ね。魔力が全快しても、まだ指輪に結構残っているわ。>>


"こちらの援護を一度中断して、探索を頼む。

目の前の敵以外にも伏兵がいるかもしれない。"


"了解。探索と烈風、アイスニードルを交互に繰り返すね、支援がすこし弱くなるけどちょっとの間我慢してね。"


"了解。こちらは大丈夫なので。探索をお願い。"


俺は先に生成しておいた、大量のアイスランスを前衛の魔族に叩き込んだ。

今度は全弾回避できなかったようで、一部が魔族に到達した。

ただし、ランスなので一本でも魔族に届けば致命的なダメージとなり、前衛の5体は絶命、1体はかろうじて息をしているような状態だった。


俺はさらに敵に接近しようとしたとき、エリナからの叫ぶような念話を受け取った。


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