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33話目 残されたもの ソニアの父の死 編

「でも、ひとつ疑問があるわ。エルフと人類では明らかに寿命が違うわ。

人の方が早く他界するもの。

残されたエルフの王族がかわいそうだわ。」


「確かにその点は大きな問題として捉えています。

愛する人だけが年老いて行く切なさ。

愛する人が先に他界してしまうやるせなさ。

そういった悲しいことに間違いなく直面します。」


「それでも人類と愛し合うことを、強要とは行かなくても、ソシオさんのような王族は望んでいるのかしら。」


「人類とエルフ族が愛し合い、先に人の伴侶が他界した場合でもすべてを失うというわけではありません。ほとんどの場合、愛し合った結晶があります。」


「二人の間の子供ですか。」


「その通りです。幸いハーフの子は生命力が高いためか、或いは魔力が高いためか、詳しいことはわかっていませんが、ほとんどの子はエルフ族と同じくらいの寿命を持ちます。

その子が伴侶をなくしたエルフ王族の支えとなってくれています。


愛する人を失った悲しみを徐々に消化して、また、新たな恋をする方もいました。

また、もう恋はこりごりだとエルフの行政職として活躍する方もいました。

いずれにせよ、誰かを愛したという、愛しきったという自信とその愛の結晶である二人間の子供が支えとなっていると聞いています。


ですから、一部の王族がその義務から、人類領域に移住し、人類の誰かと恋に落ち、その後に先に逝かれたとしても、全くの不幸と言うわけではないのです。

もちろん愛する人を失った悲しみは徐々に消化されるとはいえ、いつまでも心に残りますが。


このことはソシオ、お前にも是非わかってほしいことだ。」


「父上、ありがとうございます。私が人類領に行く上での不安が一つ減ったように思います。」

「そうか、それは何よりだ。」


「それではソフィア様はご主人が他界された後は、違う、ソニアちゃんだけが人類領に残されている。

今の王太子様の話と矛盾しているわ。どういうことですか。」


「それをこれからお話させてもらいます。


叔母が移住して10年後に歓喜と悲劇が一度に訪れ、その落差が叔母さんの理性を奪ったようでした。」


「歓喜と悲劇ですか。」


「そうです。

移住して、多くの人類と交流するうちに叔母さんにも好きな人が、もちろん人類の方ですが、できたようです。

現王の父、先王の元には何度か手紙が来ていたようです。


そして、その方と結ばれ、何年ぶりかにその方ともどもこの町に帰ってきました。」


「その方はどうのような方なのですか。」


「軍人と言うことでした。強い魔力を持つ土と水の魔法術士だったということです。

彼は軍人として、魔族との戦闘に参加していたようでした。その軍人と叔母さんがどのような経緯で恋仲になったかは私にはわかりません。


先王とその王妃は叔母さんからの手紙で知っていたとは思いますが。

わたしは教えてはもらっていません。


それは仲の良い夫婦だったそうです。

そして、当然、その愛の結晶が生まれてきました。

それがソニアさん、あなたです。」


「人類の父とエルフの母。」


「そうです。

2人の喜びは言葉や文章では表しようがないほどだったと手紙に書いてあったようです。


そして、あなたが生まれてすぐに彼は軍命で魔族とのある戦闘に参加しました。

そして、運悪くその戦闘の最中に亡くなったとのことです。」


ソニアの俺の手を握る力が強くなった。もう、力の限り握っているかのようだ。

そうしないと、ここから逃げ出してしまいそうなのだろう。

俺はさらに強く握り返すことなく、ソニアが握るままに任せていた。


「後から人類側とエルフ側の伝手をすべて使って調べたことですが、彼は新人教育隊の臨時講師として新人の教育部隊、連隊規模の若い軍人たちを率いていたそうです。


その新人連隊が演習途中で偶然遭遇した魔族中隊を、それも偵察部隊だったそうですが、侮って軽い気持ちで追いかけまわしたところ、本体の魔族師団にうまく誘導された挙句に連隊は闇魔法によりなすすべもなく全滅したようです。


追いかけまわしている間に弾みで転んで足をくじいてその場から動けない者だけが一人助かったということです。


当然、彼を含めた講師はすぐ引き返す様に新人たちに声が枯れるまで叫んだり、進めないように土魔法で壁を作ったりしたそうですが、若者が面白半分で追い回したウサギをあきらめるようなことはなく、魔族の本体にうまく誘導されてしまったそうです。


一個連隊規模の全滅ですから、誰かがその責任を取らなければなりません。その責任のすべては新人教育の教官に擦り付けられたようです。


そのため、戦死した教官は任務による名誉ある戦死ではなく、死後でも軍法会議にかけられて、全員有罪、今回の連隊全滅についてのすべてを教官たちのせいにされたとのことです。」


これが人類の軍だ。軍のトップたちのやり口だ。

いつの時代も無謀な作戦を立案し、失敗すると実働部隊の指揮官の責任、それだけでなく、死者にむち打つ行為もまかり通る。


自分たちは教会本山の安全な建物の中に籠って、権力争いに興じている。

俺たちが、必死に生き残りを掛けて峡谷にかかった一本のロープ上で戦っているときにだ。


「若者たちは名誉ある戦死として扱われたため、後日できるだけ遺体や遺品の回収が行われたとのことです。

しかし、教官たちについてはその家族には戦死した旨の連絡が一報あったのみで、戦死の状況、遺体や遺品の回収、遺族に対する補償は一切行われなかったようです。


生まれたばかりのソニアさんを抱えたソフィア様はその直後から教会本山の軍司令部の各部署のドアを狂ったように叩きまわったようですが、当然、どこからも相手にしてもらえなかったということです。


当時、ソフィア夫婦は軍の官舎ではなく、教会本山から歩いて30分の農村にある農家の離れを借りて親子3人で静かに暮らしていたそうです。


ソフィア様の移住に当たっては、当初は数人の付き添いがいましたが、結婚を機に全員をエルフ領に返してしまったとのことでした。

付き添いの者にもそれぞれの人生があるから、いつまでも私に付き合わせてはおけないと言ったようです。

本当にやさしい方でした。


そのため、夫の死を聞いたソフィア様がそれから半年間どうしていたかを詳しく知る者はいないのです。

おそらく夫が最後にいたという戦場を、夫の痕跡をさがしていたのではないかと思います。


半年後、連絡が途絶えたソフィア様を探しに元のお付きの人たちが人類領に行きました。


そこで、借りていた農家の離れの居間でやせ細り意識も定かでないソフィア様が一人でソファーに横たわっているのを見つけたということです。」


「一人で? ソニアちゃんはどうしたんですか? 」


「探しに来た元お付きの人が離れを貸している農家のおかみさんにここ半年の様子を聞いてみたそうです。


夫の死を伝えられたソフィア様は夫の死の確認とその詳細を知るべく、初めは赤子を連れて教会本山の軍施設を回っていたようです。


しかし、全く埒が明かないと悟ったようで、旅の準備をして赤子を連れてどこかに旅立ったそうです。

農家のおかみさんが行き先を問うたのですが、ソフィア様はぶつぶつと「夫は絶対に私が見つける、必ず。」とつぶやき続けてフラフラと出て行ったようです。


農家のおかみさんが赤子を連れた身でそんな戦場に行かせてはならないと、引き留めようと手を伸ばしたのですか、風魔法であっという間に走り去ったということでした。


それから数カ月間何の音沙汰もなくて、その農家の皆はたいそう心配していたようですが、ある日突然、ぼろ雑巾のようになったソフィア様が帰ってきました。


しかし、赤子はいません。

農家のおかみさんは赤子のことを聞いたのですが、ぶつぶつとつぶやくのみで意思を通わせることができない様子だったとのことです。


少し落ち着けば反応があるだろうと思い、その日は体を拭いてベッドで休ませることにしたそうです。


しかし、次の日もその次の日も、パンとスープを差し出すと食べることは食べるのですが目うつろで、相変わらず言葉を交わすことはできないため、農家のおかみさんはこのまま落ち着くまで様子を見ることにしたそうです。


それから3日後に元お付きの人がその農家を訪ねたというところです。」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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