32話目 残されたもの 王族の宿命 編
アイナとアラナに案内されて、俺たちは村長の家に来た。
家の前にはエルフおばちゃんが待っていた。
「あっ、ただいま。
シュウ、この方は村長の奥さんよ。歓迎会の準備でエルフ料理を教わったの。」
「初めまして、かな? シュウです。今日はお世話になります。」
「シュウ君、初めまして。いろいろ噂はエリナちゃんから聞いたわよ。
若妻との同衾をためらっているなんて、何をしているのかねぇ。全く。
人類はエルフより寿命も妊娠適齢期も短いんだから毎晩頑張って、一杯子供を作らないとねぇ。
子供ができたらいつでも遊びに来てね。
エルフ流の離乳食も教えてあげなくっちぁねぇ~。」
エリナちゃん、俺の知らないところでなんちゅう相談をしているのかな。
これで、この村のエルフ女子に俺の甲斐性なしと言う噂が広がってしまうじゃないか。
えっ、待てよ、エルフの情報網は人類とは違うんだった。
おばちゃんの趣味、井戸端会議が別の村にいる知り合いともリアルタイムで可能だと言ってたな。
やばい、俺のうわさがエルフ領に広がるのも時間の問題と言うことじゃないか。
ただでさえ、数十年ぶりに来た人類と言うことで噂が立ちやすい俺たちなのに。
「つまり、つんだということじゃな。」おばちゃん
「だから早くオオカミに変身しなさいと言ったのに、私の言葉を真摯に受け止めない罰ですわ。」メイドさん
「変な噂が増えても俺はシュウの愛人兼美人秘書を止めねぇから安心しな。」雷ちゃん
"ふっふ~ん。外堀を埋めてあげるわね。"若妻エリナちゃん
「まぁ、ここで立ち話もなんだし、王太子様との話が終わったら、あっ、でもそうしたら夕飯の時間になるわねぇ。
そうだ、明日の夕方にまたいらっしゃい。夕飯を食べながらみっちり、夫婦について教えてあげちゃう。」
あっ、久しぶりにキャンプ飯が食べたいなぁ。一週間も食べないと妙に恋しくなるなぁ。だから明日はキャンプ飯を食うので来れないなぁ。
"大丈夫、ここにキャンプ飯を持ってくればいいんだから。それにプラスしてエルフ料理も食べればいいのよ。"
「「「その策でいこう。」」」
食べないやつらがエリナの案に何で同意しているんだ。
「さっ、皆さん、部屋に入ってくださいな。
お茶とお菓子を運んだあとは呼ばれるまで外で待っているよ。
用があるときはこの鈴を鳴らしておくれ。」
エルフ村長おばちゃんはそういって、一度退室するとお茶とお菓子を持ったアイナとアラナを伴って戻ってきた。
「じゃ、ごゆっくり。
さぁ、アイナとアラナは今晩の夕食の手伝いをして頂戴。下準備は家でやってくよ。
あんたたちもいい年なんだからそろそろお婿さんを、むふふふふ、あんな甲斐性なしを捕まえちゃだめだよ。
周りも苦労するからね。」
と言いたいことを言って部屋を出て行こうとした間際に、エルフおばちゃんは俺をちらっと見て、今度はエリナの方を見てにゃっと口元を上げた。
完全にグルでしょ、君たち。
俺の外堀を埋めようとしているでしょ。
「まぁ、シュウ殿、エリナさん、人類の繁栄のためにも励んだ方が良いな。」
王太子まで何を言い出すんだ。
「もちろん、全力で頑張ります。ねっ、シュウ。」
外堀がぁぁぁぁぁぁ。
「まっ、あとは若い方たちの頑張りに期待してっと。
今日は時間を取ってもらいありがとう、シュウ殿、エリナさん、そして、ソニアさん。
今日はソニアさんのお母上についてお話をさせていただきたいと思います。
お聞きいただけますかな。」
「はい。」
ソニアは返事をすると、俺とエリナの手を握って来た。少し手が汗ばんでいる。
人類側とエルフ王族側がテーブルを挟んで相対しているような形だ。
主役のソニアは俺とエリナに挟まれて座っている。
「ソニアさん、あなたのお母上の名前は知っていますか。」
「はい。私を育ててくれた人達から聞いています。ソフィアです。」
「間違いないですね。ソフィア様は現エルフ王の妹です。
そして、あなたは現王の姪、私のいとこに当たります。」
「えっ、と言うことはソニアもエルフの王族に連なるということですか。」
「その通りです。」
「私のお母様は今もエルフ領に暮らしているのですか。」
「それは・・・・、シュウ殿、エリナさん、ソニアさんの手をしっかりと握っていてあげてください。」
おれは、王太子の次の言葉が重く暗いものであると予感し、しっかりとソニアの手を握りしめた。そして、王太子が重い口を開く。
「ソフィア叔母さんは、他界しました。100年前のことです。」
「「「・・・・・」」」
俺たちは言葉を失った。ソニアの手が震え、目には光るものがあった。
それでも王太子の次の言葉を静かに待つ心はかろうじて残っていた。
「ソフィア叔母さんは生きていれば今年で320歳であったはずです。
220歳で亡くなりました。
エルフとしては短命でした。」
俺は何も言葉が浮かばなかった、ソニアに掛ける言葉が。
ただ、ギュッとソニアの手を握り直した。
ソニアもそれがわかったのか、弱く握り返してきた。
もう少し話を聞いても大丈夫そうだ。
俺は王太子の目を見てわずかに頷いて、話を先に促した。
「叔母さんは100歳になり大人の仲間入りをすると直ぐに人類領に移住していきました。
それは叔母さんが子供のころから決められたことです。
すでに短期間であれば人類領域を訪ねてはいましたが、本格的な移住という形ですね。
その時は私はまだ子供でしたが、ここ特一風見鶏の町に見送りにも来ました。」
「ここは当時は町だったのですか、村ではなく。」
「人類側の特一風見鶏が健在で、ある程度の人の行き来はあったのです。
そのために宿泊場所、役所、商店などが整備されていましたね。
人類側の特一風見鶏が見失われて、往来がなくなり、その内に町がさびれてしまって。
今はかろうじて特一風見鶏の管理をする一族がこの村を形成しているというわけですね。」
「そうだったんですね。
ところでソフィア様はどういう理由で人類に移住することが幼いころから決められていたのですか。
先ほどソシオさんも王族だから人類領域に行くことが決まっているような話もありましたが。」
「少し回りくどくなるのですが、まぁ、我慢して聞いてもらえますか。
エルフ自体は風魔法を得意とし、風魔法を使うものが多く存在します。
その次に多いのが以外にも炎属性です。
まれに水属性で、土属性は全くってといっていいほどいません。
昔は水属性も土属性もある程度はいたようなのですが。
それとは別にのエルフ領で起こっているもう一つの現象があります。
昔ほど強い魔力の使い手が減って来たという事実が明らかとなってきました。
生きているうちに魔力が減るといったものではなく、生まれた者の魔力が世代を重ねるごとに減っている事が分かったのです。
魔力がなくても生活に困ることはないのですが、魔力と共に生命力と言うか、わかりやすく言うと寿命が短くなってきたように思えるのです。
我々エルフは、これは生命を司る水属性、或いは生きる力を司る土属性の魔法術士が減少していることと関連付けて考えました。
種族に水、或いは土の属性を持つ者を増やせば種族としての元の生命力や魔力を取り戻せるのではないかと考えています。
幸いにして、王族には風属性の他に、水属性を持って生まれてくるものがたまに生まれてきます。
そこで、人類側に行き強い土属性を持つものと伴侶になり、エルフ族の血に強い魔力と、そして土と水属性を取り入れることができないかを試しているのです。
このような生体実験まがいのことをエルフの民に強いることは憚れますので、王族がその役を買って出ているのです。」
「それでは人類領に出されたエルフの王族は愛よりも、属性と魔力で伴侶を探すと言うとですか。」
「いえいえ、そこまで極端ではありませんよ。
人類領に行き、気に入った相手と友人となり、そして好きになり、愛し合える方が見つかれば伴侶になる。
ちょっとだけ伴侶になる条件として強い魔力を持ち、水か土属性の方というのが加わる感じです。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。