24話目 隣村に着いたよ
日が暮れるころ俺たちは隣村にやって来た。予定より、少し時間が掛かってしまったようだ。
まぁ、雑談しながらだから歩みが遅くなるのも仕方と俺は思った。
今晩は野宿ではなく隣村の集会場兼宿泊施設に泊まれるというので、野宿の準備は必要ないため薄暗くなってから到着しても何ら問題はなかった。
俺たちが、今日、この村に来て宿泊することはすでに隣の村に伝わっているらしく、大勢のエルフが村の入口でわいわい楽しそうに待って居た。
そう、彼を見るまでは。
彼、芦高さんを見たとたんに大人のエルフは意味不明の叫びをあげながら逃げて行った。
逆に子供たちはわぁぁぁっと言って芦高さんに群がってきた。
ピカピカのボディは相変わらずエルフの子供たちの興味を引き付けるらしい。
俺たち人類や同行のエルフ族は隣の村人には無視された形でぽつんと立ちつくした格好だ。
「昨日、隣村にも大蜘蛛様がいらっしゃることは連絡したんですが。ものの見事に逃げ散ってしまいましたな。
申し訳ないことです。」
「・・・・蜘蛛の子を散らすとはこのこと・・・・」
隣村エルフ男若衆にも逃げられて明らかにがっかりした様子の駄女神さまが何かぼそぼそ呟いています。
もう、ぼそぼそと洒落を言っていないで、逃げて行ったエルフ男若衆でも捕まえてきてくださいよ。
もう、今日は許可しましょう。追いかけ食べつくすことを。
えっ、そんなはしたないことはできないとおっしゃるか。
何言っているの、普段のガサツが服を着て天下の公道を歩んでいる駄女神さんのセリフとは思えんぞ。
バッコーン(エリナに借りたハリセン強化版)。
「俺が"俺の"エルフ男若衆のために考えてた渾身のダジャレを馬鹿にして、さらに、絶対にばれてはいけないことを"俺の"エルフ男若衆の前で堂々と言うとはいい度胸をしているなシュウ。
今、最後の川を強制的に渡らせてやろうか。
二度と引き返せない川をな。」
失礼しました~ぁ。
まぁ、ぽつんとたたずんでいる間、駄女神さんと漫才の練習です。
歓迎会で一芸を望まれた時の準備です。はい。
「どうしましようか。村長、隣村の人がみんないなくなってしまいましたね。」
「彼らは我々のように戦士ではなく、本格的な農民ですので、頭ではわかっていても大蜘蛛様を見たとたん勝手に足が反応したんでしょう。
もう少ししたら、少なくてもここの村長は戻ってくるものと思います。
村長は我々の村の出身の男ですからな。」
そんな話をしていると慌てて向こうから走ってくるエルフ男壮年がやって来た。
俺も昨日の歓迎会でいろいろなエルフ男と接しているうちに少しはエルフの年齢と姿がわかるようになってきた。
エルフ鑑定士ランク10ぐらいのスキルは獲得できた自信がある。
ちなみに駄女神さんはランク7だそうだ。負けたぜ。
「申し訳ない。何かに突き動かされるように逃げてしまった。
大蜘蛛様のことは昨日情報で聞いていたのにな。
どうした訳なんだろうか。」
「我々も昨日はそうでしたから、これはエルフ族の宿命としか言いようがありませんな。気にしないで。
おっと、気にしてもらわねばならない相手がここでポツンとしていますよ。
シュウ殿こちらが隣村の村長です。」
「隣村の村長です。
お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ない。」
「隣村の村長さん、ご紹介します。
こちらが数十年ぶりに特一風見鶏で転移してきた人類のシュウ殿一行です。
昨日、情報を流しました通りに、エルフ領のある場所を探すための予備調査の旅と我々エルフ族との交流を深めているところです。」
「シュウと言います。よろしくお願いします。
人類領域から転移してきて、今、エルフ領で旅をしています。
あちらの大蜘蛛は芦高さんと言って、俺たちの家族です。
全く、害はなく、危なくもないのであまり怖がらないでください。
落ち込んでしまうので。
まぁ、相変わらず子供達には大人気ですね。」
「もう暗いのに、足元が見えなくて危ないのでみんな帰りなさいよ。
後で集会所でお客さんを紹介するからな。
それではみなさんお疲れでしょう、こちらにおいでください。
今日は集会場に泊まっていただき、夕飯は皆さんの歓迎会と言うことで、村のものと一緒に食事をしていただきたいと思います。
さっ、こちらに。」
「それではお世話になります。」
俺たちは隣村の村長の案内で村の中に入った。
村のつくりは特一風見鶏の村と同じような感じだった。
建物は木造平屋の高床式。
違う点としては、住居の隣に食物庫らしい大きな高床式の倉庫が必ずあることだった。これだけの倉庫を見ればここが豊かな農村だということが見て取れた。
「丁度収穫祭が終わったところで、今、倉庫には食料がいっぱいです。」
「住居の隣にあるのがその倉庫ですか?」
「あれは各家庭の食糧庫ですね。そこも今は一杯ですね。
この他にも村の倉庫があります。村の倉庫は村の共同財産と税として納めるものが収納してあります。
ここ村人は村所有の農地でみんな働いています。
そこから各家庭で必要な食料を分配して、各家庭の倉庫に入れます。
村の倉庫に残った食料のうち半分は税となります。税は決められた量を別の各村々に直接我々が運び入れます。
残りの半分は村の共有財産として管理します。
概ねその半分は貯えとして保管し、飢饉などに備えます。
残りの半分は近郊の村に売り払います。
売ったお金のうち半分は村の共同基金に入れ、半分は各家庭に分配します。
我々の村は食料の生産を引き受けていますが、明日行くさらに隣村は鉱石の採掘、精製、鍛冶などのを行う鉄製品の生産を引き受けています。
明日詳しく説明してもらえるとは思いますが、隣村は武器や防具などは税として行政機関に収めて、包丁や鍋などの生活必需品は我々の村が売る税以外の食料と交換します。
ちなみに、生きていくための食料は税として我々が運び込んだ食料で賄えるため、鍋などと交換した食料は村の備蓄に回るはずです。
エルフ領の各村は行政機関により役割が決められており、各村が生きていくために必要な物は税として集めたものを各村に再分散するような方法をエルフ領ではとっています。
税以外の生産品は村の共有財産として管理され、別な村から買ったり交換したりすることでさらに必要な物をそろえたり、備蓄するような感じですね。」
「我々人類にそんな詳しくエルフ領の行政システムを教えてもいいんでしょうか。」
「今日、王族と族長会議より指示が届きました。
あなたたちには軍事以外のことは話してもかまわないと、むしろ積極的にエルフ領のことを知ってもらうようにとのことです。
軍事関係は王族と族長会議の使者が話すとのことでした。
先程、パキトさんから情報が届きましたがシュウ殿と奥様のコンビはあのメタル化した大蜘蛛様より強力な攻撃力をお持ちとか。
さらに、大蜘蛛様はあなた方の家族とのことですよね。
そんな方々に敵意を持って攻められては、おそらく、エルフ族は滅亡してしまうと思います。
我々エルフ族は決して卑屈になることはありませんが、無駄な争いは好みません。
人類と争うより友好を望みます。
友好関係を結ぶためには、まずは我々エルフ族のことを良く知ってほしいのです。
これは中央も我々村の者も同じ考えです。」
「我々も同じです。魔族とは現状敵対していますが、エルフ族とはそうならないことを望みます。
人類でエルフ領に転移できると知っている者はここにいるものと俺の師匠だけです。
できるだけ友好的な交流を図れるように下地を作ってから、人類にエルフ領の情報を広めたいと思います。
改めてエルフの皆さんよろしくお願いします。」
「シュウ、村長さんたち、私たち女子はすっかり仲良しだわよ。
ここに来る途中も、コイバナで盛り上がって。
あっ、そうそうシュウ、アイナさんとアラナさんが他のエルフ女子がシュウにちょっかい出さないように見張っていてくれるって。
これで安心してエルフ領の旅ができるというものだわ。よかった、よかった。」
旅の途中で何しやがりますか、若奥様。
あっ、でもアイナさんとアラナさんは接触していいわけだ。
むふふふっ、親密になりエルフメイド戦隊設立の下準備も着実に行わなければな。
「相変わらずゲスイやつじゃ。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
丁度、第200部分となります。これからもよろしくお願いします。
まだまだ、お話は続きますよ。
これからはエルフ領での謎解きの冒険がお話の中心になります。
輪廻の会合に集いし者共もどんどん登場し、覚醒してくるはずです。
水と土の使徒はだれ? 残りのアーティファクトは?
そして、中心にいるものの使命として、シュウは全ての種族を滅亡から救えるでしょうか。
シュウとエリナと、そして、月の女王のサーガをお楽しみくださいね。