2話目 居間はツンドラ
「寒い。」
「パンが凍ってる。」
「ミルクシャーベットはおいしい。」
まぁ、なんだ。吹雪に魔力を込めすぎたため、吹雪の属性フィールドが自動展開して、居間が極地化した模様。
隣の食堂はツンドラ化した模様。
「うちには赤色がいないからな。」
父さんは己の失態をごまかすかのように冷静に話す。
あなたがこの騒動の始点です。
初めに吹雪のことを詳しく教えてくれていたらこんなことにはなりませんでしたぁ。
まあ、説明聞いたら受け取らないけどね。
炎の魔法術士である赤色さんがいれば隣の居間を温められるのに。
夏すぎるまでは居間は永久凍土だな。
俺は今日出ていくから直接の被害は少ないだろう。
許せ妹と弟よ。
すべては吹雪をお払い箱? にしようとした父が悪い。
俺は悪くない。
「母さん、そういえば新しく来た見習い司祭は赤色ではなかったかい? 」
「見習いに吹雪の属性フィードを塗り替えられるわけがないと思うよ。」
「わかんないじゃないか。隠れた天才魔法術士様とか。」
「教会本山の人事部がそんな実力者をこの田舎の教会に赴任させるわけがないでしょ。」
「こんなど田舎の教会に飛ばされ・・・いえいえ、栄転していらっしゃるお方ですもの、それなりに高い能力と実績ということじゃないかしら。」
母の丁寧な言い回しはたまに当事者をさらにへこますことを自覚した方が良いと思う。
「しばらくツンドラ地帯、今から夏だから丁度良いかな。氷室だね。」
弟よ。まだ、夜は冷えるし、秋まで温暖地に戻るとは限らないぞ。
「まあ、今日はおめでたい<シュウ>の旅立ちの日なのだから、ツンドラはともかく朝食を済ませて、見送りましょう。」
母はうまくまとめたつもり。
でも肝心の朝食は・・・凍ったままだ。
唯一食べられそうなミルクシャーベットをしゃくりあげ、朝食を終了。
お昼用に作ってくれた冷凍サンドイッチを手に自室に向かう。
部屋着から旅用の装備に着替え、昨日までに準備しておいた荷物を持って、ツンドラ食堂へ。
さすがに寒くて食堂にいられなかったのか、家族はみな見送りのため? 玄関の外に避難していた。
「それじゃあ、行ってくるよ。みんな元気でね。」
「おーっ。お前も元気出な。
途中、悪い女に引っかかるなよ。
本山についたら一番高い酒を送ってくれ。
おまえの小遣いで。」
「元気でね。無事に帰ってきてね。
次に帰ってくるときはお嫁さんが同伴かしら。
どうしましょう。このままツンドラだったら。
本山の赤色の方に依頼して溶かしてもらわなきゃ。
そうだわ。できれば赤色の高名な魔法術士様をお嫁さんにもらってきてね。」
「お兄ちゃん。元気で頑張ってね。
素敵なパートナーが見つかると良いね。魔族なんてまとめてやっつけてよ。
成功報酬はこちらに振り込んどいて。」
「兄ちゃん。お土産。お土産だけ帰ってきていいよ。」
家族の励ましというか生暖かい期待の言葉を背に、俺は自立に向けた一歩を踏み出した。
目から汗が出てきたよ。さみしさとは全く別の意味で。