18話目 心温まる交流って
「村長さん、お待たせしました。
俺たちは南東か北西に向かいたいと思います。
今日はここで宿をお願いして、明日の朝出発し、3日間移動します。
移動した先で、目的の方向を確認したいと思います。
その後はここに戻ってきて、いったん人類側に帰える予定にしたいと思います。
そして、多分、一週間後にはここに戻って、今度はその目的物を本格的に探索することになると思います。
こんなことをお願いするのは申し訳ないですが、どなたか道案内をお願いできますか。」
「わかりました。私を含めて数名でご案内とお手伝いをしたいと思います。
具体的な移動方法についてですが。
通常は何日もかけて旅をすることはあまりなくて転移魔法陣を使用しています。
しかし、今回の旅は徒歩による移動が良いでしよう。
転移魔法陣による移動ですと、一度都の隣にある城塞都市に転移し、さらに都に行き、そこから目的の町まで転移する必要があります。
この村にはここの特一風見鶏と城塞都市との間の転移魔法陣しか設置が許されていません。
また、近郊の村には転移魔法陣の設置すら許されていません。
さすがに、このままあなた方を城塞都市に転移させることははばかられますし、あなた方もどこに飛ばされるかわからない転移魔法陣を使いたいとは思わないでしょうからね。
徒歩で行くとなると、北西の方は海まで続く道がありますが、南東方面には道がありません。南か東に向かう道になります。
獣道のようなものはありますが、3日間の移動と期日が制限されていますので、それほど移動距離を稼ぐことはできませんね。
移動距離を稼ぎたいのであれば北西に向かい、村々で宿泊をしながら移動するのが良いと思います。
こちらとしてはこの村よりもう少し規模の大きい町まで移動していただき、都から来るエルフ族の使者と、これは王族と族長会議からのものになりますが、お会いしていただく方が良いのですが。
まぁ、6日後にここに戻ってくるときに使者とお引き合わせできればいいのではないかと思います。
さすがに、何も準備もせずに今日ここに使者が転移してくるとはないと思います。
ふっほほほ。」
「使者が来るのですか? 」
「その通りです。先ほど都に向けて今回のあなた方のご訪問について連絡しました。
数十年ぶりの人類の訪問ですし、そして、友好的な関係を築くことを望まれている、さらに、エルフ領で探し物をしたい、となりますと逆に政治の中枢にいる者がお会いしないのはおかしいと思います。
エルフ族の転移魔法陣の譲渡のこともございますし。
あと、勝手なことをして申し訳ないのですが、ソニアさんのお母上の消息についても何かわかるかもしれません。」
「えっ、私の母親のことは・・・・・、まぁ、ほっといてよ。」
「勝手なことをするようで申し訳ない。
しかし、あなたが人類とエルフの間に生まれた方で、お母上がエルフ領に戻って来ているということでした。
190年ぐらい前だと私はお会いしているかもしれませんね。ずっとこの村にいますから。
まぁ、私のことはどうでもいいのですが。
人類領域に行ったエルフ族は当然観光ではなく、何かしらの使命を持って訪問しています。
その使命があなたのご誕生に関係しているのなら、これはエルフ族の問題として確認しなければなりません。
それよりも一番大事なのは、ソニアさんはお母上のことを割り切っているとおっしゃっていましたが、その行方については気にしていないとはおっしゃっておりません。
聞きたくないのであれば、こちらもお話はしません。
しかし、多少とも気になるのであればいつでもお応えできるようにしておきたいと思います。
ソニアさんのお母上のその後についての調査は人類との窓口を務める私が行政官の役目として行いますが、それをあなたにお話しするのは、そうですね、私も人の親と言うことですね。」
「ソニア、お母さんのことを聞くか聞かないかはじっくり考えたらいいと思う。
お兄ちゃんはどちらでも間違いではないと思う。
これっきり、エルフ領に来れないわけでもないので、聞きたくなったら聞いてみるような体でいいんじゃないかと思う。」
「でも、勝手に母親のことを調べるなんて・・・・・。」
「申し訳ない。
ソニアさんのことを聞いた上で、私の行政官としての役割として、この件を調査しないわけにはいかないのです。
本当に申し訳ない。」
「ソニアちゃん。
調査するだけなら、わざわざ調査していることを私たちに告げる必要はないと思うわ。
村長があなたの心をかき乱すことを承知でお母さんの調査について告げてくれたのは、人の親としての心情からだと思うの。
シュウが言うとおり、聞く聞かない、いつ聞くについてはまたゆっくり考えればいいんじゃないかしら。
ただ、村長のソニアちゃんに対する心情だけは悪く取らないわ方がいいと思うの。」
「ごめん、急なことで動揺したの。
村長、ありがとう。
その話を聞くか聞かないかは自分の心と相談して決めるね。
でも、村長の私に対する思いやりにはありがとうを言わせて。」
「余計なことをしてしまい。申し訳ない。
聞きたいときには私に話してください。
おっと、でも今は調査中ですので、どこまでわかるかは不明ですけどね。」
「親子や、家族、そして他人を思いやる心は人類とエルフ族で変わらないことを学んだような気がします。
それを知り得たことだけでもおっかなびっくり風見鶏でここに転移してきたかいがありました。」
「そういっていただくと嬉しいですね。
私もほんのわずかな間しか、まだお話をさせていただいていませんが、人類の心根と言うものに少し触れたような気がします。
そして、それは決して冷めていたり、不快だったりするものではなく、暖かいものとして感じています。」
「他種族間の交流と言えば、俺たちと芦高さんの関係も同じように暖かいものですよ。
わかり合いたいという気持ちと他人を思いやる気持ちが暖かい間柄を作るということでしょうか。」
「わたしはそのように思いました。まさに、今日が人類とエルフ族の暖かい交流の再開となりましたな。
ところで、暖かい交流をもっと深めるためには何が必要でしょうか。
ソニアさん、如何ですかな。」
「う~んっと、おいしいお菓子を食べる。」
「私は一緒にお料理をする。」
「俺は・・・・、ここのおいしいものをたらふく食べる。」
「ふっほほほほっ。つまり、宴会ですな。
今日の夕食は皆さんの歓迎会を開かせていただくことになっています。
是非、出席なさってください。」
「「「もちろん。」」」
「その前にとりあえず、お昼にしましようか。
夕食に備えるためにお腹の調子を整えるような軽いものを用意しています。
シュウ殿にはいささか物足りなさを感じるかもしれませんが、歓迎会に備えてたものだと思って召し上がってください。」
こうして、暖かいエルフ族との交流を少しづつ深めていく俺たちであったのだが・・・・・。
生暖かい交流を既に満喫している人たちは・・・・・。
まだ、動かなかった。
エルフ族との交流の第一弾はこいつらを向こうの森に捨ててくることで決まりだな。
初めての協働作業と言うやつだな。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。