16話目 芦高さん、エルフの子供を救う
俺たちは門番に敬礼されながら村の中に入った。
村は大きな木々で空が覆われていたが、その下には広い空間があった。
村の建物は木造の平屋であるが、湿気が多いせいか少し床を上げた高床式になっている。
あげた床の下を子供が駆けずり回っている姿は微笑ましい。
これはどこの世界でも同じである。
エリナとシュウなどはついこないだまでは微笑まれる方だったのに、もう逆にその光景を見て微笑んでいるのは成長の早い人類ゆえであろうか。
しかし、子供以外は皆顔を強張らせている。
やはり、芦高さんが同行しているせいであろうか。
「大蜘蛛様のことはパキトよりすでに知らせが届いていると思うのですが。
やはり心の奥底に植え付けられた大蜘蛛様への恐怖は言葉だけでは拭えないようですな。
大蜘蛛様、申し訳ないことです。」
「気にすることはないんだな。できればこのまま避け続けないで少しづつ慣れて行ってくれるといいんだな。」
その時、高床式住居で遊んでいた子供の上に、屋根を修理中のためか完全に固定されていなかった大きな石が落ちてきた。
「あっ、危ないわ。」
エリナの悲鳴とほとんど同時に、落ちてきた石を器用に抱える芦高さんが前方にいた。
いつの間に移動したんだ。芦高さん、俺たちの後ろにいたよな。
「あっ、おっきな蜘蛛だ。ピカピカのおっきな蜘蛛だ。」
「僕は芦高なんだな。ここは危ないから、家の下で遊ぶなら隣の家のした方が良いんだな。」
「えっ、ここは危ないの。じゃっ、隣の家にするよ。
おっきな蜘蛛さんも一緒に遊ぼ。」
「ごめんね。僕は今お仕事の途中なんだな。お仕事がないときには一緒に遊べるんだな。」
「しょうがないか、お仕事だもんね。僕の父ちゃんも今日は屋根で家の修理をしているよ。
また、今度遊んでね。きっとだよ。」
「わかったんだな。暇なときは大丈夫なんだな。」
「おっきな蜘蛛さん、今日はさようなら。」
子供はそう言うと手を振って、向こうの家の方に駆けて行ってしまった。
「芦高さん、ありがとう。子供を助けてあげられてよかったよ。」
「ケガをしなくてよかったんだな。」
そんな話をしていると芦高さんの前に顔を真っ青にしたエルフ男が膝を着いて、荒い呼吸を静めていた。
「大蜘蛛様、ありがとうございます。
事故とは言え息子を危うくこの手で怪我をさせてしまうところでした。
それを助けていただき。本当にありがとうごさいます。」
「気にしなくていいんだな。ただ、もう少し周りに気を付けて仕事をしてほしいんだな。」
「私の不注意でした。気を付けて作業をするようにします。
本当にありがとうございました。」
そういって、さっきの子の父親は頭を地面につけて何度も芦高さんにお礼を言っていた。
「芦高さん、子供を救うことができて良かったな。
それにしても素早い動きで、全然移動したことがわからなかったよ。」
「助けられてよかったんだな。」
「大蜘蛛様、村長の私からもお礼を言わせてください。
エルフの子供が一人救われました。
あのままあの石が子供の頭に当たっていたら、ケガでは済まなかったと思います。
ありがとうございます。」
「お礼はさっきの子の父親からしてもらったんだんな。
それよりもこの石をどうしたらいいのかな。」
「そこの家の脇に置いといてください。屋根の修理が終わったら、屋根に上げますので。」
そう村長に言われたので、芦高さんは石をそっと家の脇に置いた。
この一連の出来事を見ていた他のエルフたちの目から芦高さんへの底知れぬ恐怖が消えて行くのが分かった。
「村長、先に来ている熊師匠と駄女神さんはどちらにお邪魔していますか。
多分、本当に皆さんの邪魔をしていると思いますが。すいません。」
「あちらの村の集会場にご案内するようにパキトには申し伝えました。行ってみましょう。」
そう言って、たぶん村で一番大きそうな建物に案内してもらった。
この建物もやっぱり高床式の木造平屋立てであった。
村長が先に入り、ドアを開けて、中に入るように促された。
「芦高さんは外で待っていたくれるかなぁ。」
「子供たちと遊んでいていい? 」
芦高さんは既に先ほど助けた子を含めのて4~5人の幼児(エルフ年齢)に取り囲まれていた。
「おっきい蜘蛛さんの背中に上ってみて良い? 」
「いいよ。芦高さん、悪いけど子供たちと遊んで待っていてくれるかなぁ~。
危ないことはしないようにね。」
「ご主人様の御用が終わるまで、この辺で遊んで待っているんだな。
あっ、背中に上ってもいいけど、その前に背中の荷物を降ろすので待っていてほしんだな。
ちょっと待っててよ~ぉ。危ないよ~ぉ。」
子供たちの動きに既に振り回されている芦高さん。お疲れさんです。
「じゃ、俺たちは中に入ろうか・・・・・・・」
中に入った俺たちはその光景に言葉が出なかった。
まずは、謝罪だ。
村長と周りのエルフさんに謝罪だ。
人類の恥部を連れてきたことを心からお詫びせねば。
何でツボに顔を突っ込んで寝てねんだぁ、ああ!
なんでイケメンに膝枕と団扇で扇いでもらってんだぁ、ああ!
「申し訳ございませんでした。
俺の目が届かなかったばっかりにエルフ村の皆さんには大変不快な思いをさせてしまいました。
こいつらは人類の底辺を這いずり回っているようなGでして、ほとんどの人類は俺たちのように品行方正なんです。
こいつらは人間の皮をかぶった巨大Gなんです。
だからこのように床に近いところが好きなんです。
人類のGをエルフ領に持ち込んで大変申し訳ございません。
すぐに人類領域に送り返して、巨大ハリセンで撃退します。
代わりにタイさんと言って人類の生きた品行方正とカメさんと言って知的で冷静な戦略家をすぐ連れてきますので。
どうかご勘弁くだされ。
こんな、友好のゆの字も理解できないようなカスどもを今回の冒険メンバーに選んだ俺の責任は大変重いです。
ものすごく反省しています。」
「ええっと、パキト。
これは、お客人たちはどうしたんですか。」
「皆さん、大変申し訳ございません。
このような事態を招いてしまい。
お詫びのしようもございません。」
「いえいえ、こちらこそ。
このようなやつらをエルフ領に連れ込んでしまい、お詫びのしようもございません。」
「いえいえ、こちらこそ・・・・」
「パキト、定番のボケはいいから、こうなった状況を話しなさい。」
「わかりました、余計混乱させて申し訳ありません。
こうなった事情をお話させていただきます。
まずはこちらの女神さまについてです。
女神さまをご案内して村の門を入り、今日、屋根の修理をしている家の前を通りかがったときのことです。
屋根を押さえている石が修理で固定していなかったために、屋根から転げ落ちてきました。
それが女神さまの目前だったので、慌てて俺は女神さまを私の方に引き寄せたため、女神さまを俺が抱き寄せるような形になってしまいました。
そしたら、きゃぁぁぁぁっと小さな悲鳴を上げて気絶してしまいました。
今まで、うんうんとうなされていた上に、顔に大汗を浮かべていたものですから仲間の一人に女神さまを膝枕してもらい、体を冷やすために俺が扇いでいたというわけです。」
「つまり駄女神のイケメン耐性、全く耐性がないけど、の限界値を一瞬で超えたため、イケメンあたりをしたということですね、納得です。
まぁ、当人は目的が十二分に達せられてさぞかし満足でしょう。
このままあの森に捨ててきて、神様の下に返してあげましようか。
あっ、いらない。粗大駄女神を捨てるなと。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。