11話目 双子のリング
町を出発して、2時間。道沿いで休憩をとる。
何度も通いなれた道なので水場の位置も完全に把握しているんだな。
水を汲んでまずは馬たちに水をやる。
馬たちは水を飲んで周りの草をはみ始めた。
人の方は同じように水を飲んで、小腹がすいたものはクッキーや干し肉をかじっている。
俺とエリナ、クズミチの3人で休んでいると、先生が近寄ってきた。
「次はシュウとエリナで馬車を動かしてくれますか。
馬はおとなしく前の馬車についていくので、止まれと進めの合図をしっかりと伝えれば何も問題はないはずです。
エリナは見張りをお願いします。」
「先生、検知魔法で探った方が良いでしょうか? 」
「できればそれでお願いします。魔力は大丈夫ですか。」
「検知であればそんなに消費しないので、問題ありません。
そのかわり、全方向性ですので、確認できる範囲が狭く、魔物の種類など詳細な情報を得ることが難しいです。」
「それで構いません。ここはまだ町からそれほど離れていませんし、人が目視で確認するよりははるかに高性能でしょうから。」
「わかりました。
歩きながらの探知は難しいですが、馬車に乗っていれば問題はありません。」
「では、よろしくお願いします。」
休憩時間が終わり、再び出発した。
俺とエリナは馬車に乗り、俺は手綱を握って、馬車を動かした。
エリナは二人で旅していた時と同じように、200m毎に検知魔法で魔物を探っている。
「ねぇ、シュウ。」 突然、エリナがちょっと顔を赤くして、顔を近づけて話しかけてきた。
「どうかした、エリナ? 」
「昨日の買い物のこと、何を買ったか気になる? 」
「それは気になるよ。全然教えてくれないんだもん。
ヒントさえないなんて。」
「ごめんね。それでちょっと聞きたいの。私との将来をどう思う? 」
「将来、エリナと? うーん、できればずっと一緒がいいかなぁ。
俺は聖戦士になり、世の中の役に立ちたいんだ。
でも、聖戦士は一人じゃ役に立たないし、魔法術士の助けがないと。
でも、魔法術士であればだれでも良いというわけでもないし、やっぱエリナと一緒がいいかなぁなんて・・・・。
うん、俺はできるならエリナに支えになってほしいし、俺はエリナを支えたいと今は思っているよ。
うーん、聖戦士と魔法術士の関係というより、ずっと一緒にいたいという単純な気持ちの方が強いかな。
あと8日間か。
町に戻ったらいったん別々だなと考えたら、なんだろう、胸が苦しくなるんだけど。
俺も教会本山に付いていきたいよ。」
「ありがとう。私もシュウに付いてきてほしいし、ここにいるなら私も残りたい。
シュウの顔を見ていたいし、声を聞いていたい。
でも、それはシュウの将来を縛ることになるわ。
聖戦士になることも、その後の活躍も。」
「だから私は、本当は、本当に嫌だけど、教会本山に帰るわ。
そして、将来のシュウを支えられるように、新しい魔法をたくさん覚えて、知識を蓄え、戦闘訓練を積むわ。」
「エリナにそこまで思っていてもらえるとは嬉しいな。
俺も別々に修行をするのは嫌だけど、将来のため、将来のエリナを支えるために、今はここで一人で修行するよ。」
「うふふふっ。でもね、私はすっごいわがままな女の子なの。
シュウと繋がっているという証が必要なの。
そうでないとすぐに転移魔法陣でここに戻って来てしまいそうなの。」
「・・・・・・」
「これを見て、これが昨日買ってもらったものなの。
ペアリングになっているわ。
もちろん魔道具屋で売っているものなので、ただのペアリングじゃないのよ、これは。
聖戦士と魔法術士がチームをペアで組むとき、お互いを繋ぐものなの。
これを付けたもの同士は離れていても、お互いの意思を伝え合えるものなの。どけだけ離れて使えるかは魔力の強さによるけどね。
それと、これを付けたもの同士は魔力のやり取りが離れていてもできるの。
そして、その魔力をこの魔道具に溜めておくことができるの。
一番大事なことは、何よりも私がいつもどんな時でもシュウの存在を感じていることができるの。
実はこの魔道具はリングでなければならないわけではないの。
短剣であったり、ペンダントだったり、お互いが身に着けたり、持っていたりできるものであれば何でもいいの。
でもねシュウ。私は簡単に外したり、置いとけるものじゃもう満足できないの。
常に身に着けておけるものがいいの。
この魔道具でリング型は滅多に出回らないの。売れないから。
それは魔道具の大きさに溜めて置ける魔力の量が依存するから。
剣と杖なんてペアもいるわ。
これはたまたま昨日のぞいた魔道具屋で、本当に偶然見つけたの。
シュウ、お願いがあるわ。これを私の指にはめてほしいの。
そしてね、こちらをあなたの指にはめさせてほしいの。
どうかしら。私のわがままを聞いてくれるかな・・・・?
もちろん、婚約指輪と結婚指輪は別に買ってもらうけどね。ダーリン。」
すげぇエリナの迫力。気の弱い俺じゃこの申し出は断れねぇ。
でもこれをはめるということはこの先ずっと、一生エリナと、こんなにかわいくて、素直で、優しくて、俺のことをいつも思ってくれていて、白色魔法使いで、・・・・。
何の問題もないじゃないか。
俺にデメリットが全くねぇ。むしろエリナにはデメリットだらけだ。
こんな美少女で素直な子がここまで言ってくれるなんて、もう、ぜーったいに一生ないな。
俺、決めたよ母さん。ちょっと、エリナの母さんに不安はあるけど。
着けるよこの指輪。
「ありがとうエリナ。指輪をはめてほしい。」
「ありがとうシュウ。指輪をはめてね。」
こうして俺たちは、なんか早い気もしたが、指輪の交換をした。
もう後戻りができない。でも、後悔はない。今のところ・・・・
「あーあ、やってらんねぇなぁ。
エリナより長く女してっけどよ。
俺なんて、そんなセリフを言う機会がまーたくないょっ。
グズミチ、めんどくせぇ、もうお前でいいや。早く成長しろ。
まて、俺が成長させてやろう。とりあえず、駆け足。遠征隊の前後を往復500だ。」
「えーっ。マリアンナさん。おれにも選ぶ権利が・・・・・」
「あんっ。見習い武人に拒否するなんて権利はこの世に存在しねぇんだよ。
口に出していいのは「イエスッ・サー」のみだ。
さっ、りぴーとあふたみー。ほれほれ。」
「方や恋愛小説、方やどつき漫才。この遠征無事に帰ってこれますかね、師範代?
私の子供はまだ小さいんですよね。」
「無理かも。まっ、覚悟はしておけ。」
「・・・・・・・・・しくしく。」
馬車の上はラブラブで、馬車の後ろは言葉でどつき合い。にぎやかな遠征隊が通り過ぎていく。
「んっ。この気配はなんじゃ。」
「おひさーっ。」「お久しぶりでございますわ。」
「なんじゃ、だれかと思えば、アホ双子か。」
「私をアホとはずいぶんじゃございませんか。こちらのガサツな人と同じ括りにしないでください。でも、あなたなんかカビ臭いわ。」
「うるせーつ、俺がカビ臭かったら、お前もおんなじなんだよ。
おんなじだけタンスの中にいたじゃねぇか。」
「あなたはガサツだからタンスにそのまま入れられていたけど、私は大事に真綿にくるまれていたわ。一緒にしないでいただけます。カビくさーい。」
「くそーっ、ド頭に来たぞ。表に出ろー。勝負だ。」
「ふっ。これだからガサツな人は嫌なの。なんでもすぐ力で解決しようとするから。
いやだいやだ。」
「キーッ。覚えていやがれ。この仕返しは100倍返しだ。」
「ふっ、負け犬の遠吠えをいちいち覚えているほど私、暇じゃないの。」
「うむ。相変わらずアホ双子は元気そうじゃのう。
その捨て台詞を何百年繰り返しておるのじゃ。
いい加減別の展開にする気はないのかのう。
妾はすべてのセリフを貴様らを先取りして言うことができるでのう。」
「お嬢様、何とかに付ける薬はございますか? 」
「あればとうに付けておるに。」
「うるせーっ。ばぱぁは引っ込んでろ。」
「おばさまと鞘氏も相変わらず何とかの薬、以外のたとえを知らないのですね。
私、お年を召した方は昔話を何度も繰り返すと聞いたことがございます。
なんでもボケた証拠とか。」
「アホ双子、言わせておけば、勝負じゃ。負けた方は打ち首じゃ。」
「おばちゃんたち、うるさい。今、エリナと大事な将来の話をしているんだ。静かにしてくれよ。
年寄りはこれだから全く。
ところでおばちゃん、アホ双子ってだれ?」