14話目 ソニアは俺の大事な妹だ。嫁にはやらん。
村長と共に俺たちはゆっくりと村の方に歩いて向かう。
緑が濃い。
見上げれば大きな木々が空を覆い隠している。
それでも常に吹いている風に枝と葉っぱが揺れて、時々光が目に入って、目を細めてしまう。
木々の間を縫うように一本の道が踏み固められている。
木々の下に生えている下草は余り育っていない。大きな樹の葉にに邪魔されて日が届きにくいためだろうか。
それとも村から社までの見通しが良いように社を管理しているエルフ族が下草を刈っているためかもしれない。
俺は先をゆっくりと進む村長に尋ねた。
「村長、村にはどの程度のエルフが住んでいますか。」
「村にはここの特一風見鶏を管理している一族が暮らしているので、100人ぐらいですかな。子供を含めてね。」
「エルフは長寿だと聞いていますが、どのくらい長生きなんですか。
我々人類は65年ぐらいでしょうか。」
「エルフは普通は300~400歳ぐらいですか。
20歳ぐらいまでは人と同じように成長し、その後は250歳まではその姿を保ち、その後徐々に年老いていくような感じですね。」
「子供ってどのくらいの年齢を指しますか。」
「20歳までは幼児ですね。
それから50歳ぐらいまでは子供です。子供はいろいろな経験を積む時期ですね。
それから100歳までを青年と呼んでいます。この時期は子供の時の経験をさらに発展させ、ある程度の責任を持たせて大人と一緒に働きます。
大人はその後300歳ぐらいまでですね。
それからは姿も年寄ぽくなるので長老としてゆっくりとした時間を生きていくことになりますね。」
「村長は何歳ですか。僕とエリナは13歳です。
ソニアは190歳らしいです。だよね。」
「そだよ、お兄ちゃん。」
「私はだいたい300歳ですね。もうすぐ村長を引退して、幼児や子供たちの面倒を見ながらのんびり生きていくことになりますね。
ところでよくわからないのですが、13歳の兄に190歳の妹ですか。
ソニアさんはエルフ族の末裔なんでしょうか。
それにしても7~8歳ぐらいの背格好ですね。
エルフならその年では既に大人の背格好のはずですね。」
「当然、ソニアは俺の本当の妹ではありませんよ。
妹のような存在と言うことですね。
実の妹より妹らしいのがうれしいやら悲しいやら。」
「魔族は角が生えていますとし、魔族でもなさそうですね。
魔族の寿命はエルフと人の間の250歳ぐらいと言われていますし。」
「私の母親はエルフだったらしいよ。父親は人類らしいけど。
だから年を取り難い上に大地の母の祝福と泉のおばばの呪いでちんちくりんのままにされているんだって。」
「そうですか。ソニアさんは我々と人の種族の両方の血を受け継いでいましたか。」
「そだよ。」
「「そうなの!! 知らなかった。」」
「お兄ちゃん達には言ってなかったけ? 」
「「ぶんぶん、聞いてないよう~っ。」」
「今回の冒険が終わった時にこのちんちくりんの祝福と呪いが解けるかもって、両方の魔法使いのおばばが言っていた。」
「「そうなんだぁ、あの婆どもがそういっていたのかぁ。」」
「では、ソニアさんの成長が止まってしまったのはその悪い魔法使いのおばばたちのせいと言うことですか。」
「まぁ、そう言うことにしておくよ。乙女の秘密にこれ以上つっこまないでね。」
「わかりました。乙女の秘密ですもんね。ハハハハッ。」
知らんかった、こいつ半分エルフだったんかいな。
通りで人類離れした美少女だと思ったんだ。
えっ、じゃ、エリナも?
「しかし、魔族はつのが生えているので区別がつきますが、人類とエルフでは外観からは全く分かりませんね。
若干エルフ族の方が肌の色が濃い感じはしますが。
南の方に行けばそういう感じの人類もいますし。」
「そうですね。実際ソニアさんもエルフの血を引いているなんてわかりませんでしたから。」
「ソニアの両親はどうしているの。」
「父親の人類はもちろん死んじゃって、母親はエルフ領に帰ったそうだよ。」
「そうだよ?
直接は知らないのか。」
「父親は軍人で、魔族との戦いで亡くなったそうなの。
それに悲観した母親は私を大地の母に預けてエルフ領に帰ったとのことだわ。
まだ私が1歳になったばかりのころよ。
そう言うことを大地の母に聞いたわ。
その年じゃ、細かいことなんて覚えてないしね。」
「でも、小さいソニアちゃんを残してエルフ領に帰ってしまうなんて・・・・。」
「一応その理由も聞いたけど、まぁ、仕方ないわねというものだったよ。
若いころは納得できないかったけど、ここまで年を取るとね、そう言う身内へのわだかまりよりも、一緒に生きているみんなのことの方に心が行って、いつの間にかわだかまりもどうでもよくなった。
今よ、今が楽しくなくっちゃ、それを目いっぱい楽しまなきゃ。
長く生きている意味がないもんね。
でも、今回の冒険で終わりそうよねぇ。
私は私の役割があるだろうし。
それを放棄してまで、今この瞬間を楽しもうという気持ちはないわ。
だから、こうやって皆についてきて、本当はエルフ領なんて来たくなかったけど、自分の役割を探してそれをやり遂げるつもりなの。」
「まぁ、ソニアは俺の大事な妹だ。嫁にはやらん。
その代わり俺が、俺たち家族がソニアが楽しく暮らせるようにするつもりだ。
これからの冒険の行方を考えると決して安全とは言えないかもしれないが、それでも家族として、家族みんなでその困難に立ち向かっていければと思う。
それでも、どうしてもソニアが嫁に行くと言ったら、お兄ちゃんは断腸の思いでお前を見送るだろう。
その時を想像したら、うっ、うっ、目から汗が出てきた。」
「シュウ、私にとっても妹みたいで、家族であることには間違いないわよ。
芦高さんも居れて4人が今の大切な家族。
これからも家族が増えるね。シュウの甲斐性次第では凄く一杯に。
そして、もっと時がたてば家族の誰かが離ていく。一人、また一人と。
でも、離れて行ったとしても家族は家族よ。
この世界で一番大切な人たち。
ソニアもその家族の一人なの。
だから、楽しいこと、苦しいこともみんな家族として共有したいわ。
今回の冒険も、これから降りかかるだろう困難も家族として乗り越えていきたいわ。」
「エリナちゃん、家族が増えるの? 」
「もちろんよ。いつも一緒に居るとね。
夜も一緒に寝るようになるとね、ほら自然と。
ぽっ、もうシュウったらまたエッチなことを考えていたでしょう、ほんとにエッチなんだから。
私はいつでも待っているけどね。」
「こんなところで何を言い出すんだエリナは。」
「何って何? 」
「ソニアはまだ知らんでいいの。」
「ソニアだけわかっていないなんて、仲間外れにしているでしょ。
家族なんだから教えて。」
「帰ったらおばば二人に聞け。」
「ぶ~ぅ。」
「ははははっ。シュウ殿たちはお若いながらもすでにしっかりとした家族を築いていますな。
はははははっ、種族繁栄は大事なことですよ。
エリナさん、頑張って家族を増やしてくださいね。」
「もちろんです。がんばりますよぉ~。」
「家族ってどうしたら増えるの? かわいい子をさらってくるの。
まさかエルフ領にどうしても来たかった理由って、エルフの男の子をさらって、家族にするため?」
「そうなのよ。実はそれがエルフ領に来た一番の目的なの。
それでソニアと結婚してもらって、私のところとソニアのところでバンバン家族を増やすことがすでに決定しているの。
そのためにはエルフの男の子はシュウのような甲斐性なしではだめよ。
バンバン家族を増やせないからね。
まずは今から行く村で甲斐性のありそうなエルフを探しなさい。」
「エリナ、何をソニアに教え込んでいるんだ。
それじゃ、駄女神とやることが完全にかぶってるぞ。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。