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9話目 怪しい買い物

次の日の朝、体が痛くて起き上がるのも一苦労だった。


昨日、上級司祭様から言われたように心臓に近いところからゆっくりと関節を回すように体を動かした。

筋肉痛と格闘すること30分、漸く立ち上がることができた。


立ち上がってしまえばあとはどうということはなくなり、普通に動くことができたので、宿坊の食堂に急いだ。


宿坊の入口にはエリナがすでに俺を待っていて、一緒に朝食を取った。

いつも雑談をしながらの食事となるが、今日の話題は当然筋肉痛である。


「シュウ、朝どうだった? 」


「あれのせいで、ベッドから立ち上がるのに30分かかったよ。

疲労回復魔法を受けなかったら今日一日中ベッドの上だったかも。」


「私も。でも、15分で立ち上がれたわ。私の方が関節が柔らかいからかしら。」


「うらやましい。

明日もこんなんだったら、集合時間に遅れちゃいそう。」


「行く前に少しストレッチをしてから行いきましょうか? 」


「少しは明日の筋肉痛が和らぐかもね。朝食が終わったらやってみようよ。」


まぁ、筋肉痛は上級司祭様の疲労回復魔法の匙加減だから、きっと明日も同じくらい痛いんだろうけどね。


俺たちはストレッチをしてから、道場にに急いだ。


午前中は道場で先生の指導の下、基礎訓練を行った。

今日も昨日と同じく剣で突くという基本動作を繰り返した。


休憩中に先生にここを出るまでに槍で突くという動作もきっちり覚えたいと指導をお願いした。

先生には筋肉痛が出なくなったら教えましょうと言われた。


昼食後は昨日と同じように遠征の準備をするように先生に言われたので、俺たちは野宿に必要で手持ちに足りないものを町に買い出しに行くことにした。

エリナとデートぽくなってしまったが、あくまで修行の一環である。

こんな修行なら24時間でもいいぞ。


いろいろ町の商店を見ていたが、エリナが突然ある古びた店の前に立ち止まり、中を確認するようにのぞき始めた。


「ここに何かいいものがあるの? 」


「ここ魔道具屋だと思うんだけど、あれあるかしら。」


かわいく首をかしげるエリナ。

そうすると店の奥からミイラが、失礼、しわくちゃのおばあさんが出てきた。


「わしの魔道具屋で何をお探しかい。

見習い魔法術士のお嬢ちゃん。彼氏とデートかい。


ほしいものは何だい。ただの冷やかしなら勝手に見ておくれ。」


「こんにちは。おばあさん。実はあれを探しているの。

彼は聖戦士を目指しているの。

聖戦士と魔法術士と言えばあれでしょ。あれ。」


「あれかい。あれは二人の関係により、いろいろ形があるからね。

恋人かい。」


「もちろん、もうすぐ婚約発表するの。」


「それはうらやましいことで、こんなに若いのに。

嫌味になるのを承知でこの婆の言うことを聞いてくれるかい。」


「? 」


「ほんとにこんなさえない男の子でいいのかい? 」


「もちろん。彼しかいないわ。

彼と戦い、彼と引退して、彼と子供を育て、彼と一緒に老衰するのが私の人生なの。

もう迷うことはないわ。」


「それはそれは、べたぼれだねぇ。うらやましいよ。

ちょっと待ってな。

そんなお嬢ちゃんたちにぴったりのあれがあるから。


今、あれを着けるのはちょっと早い気がするけどそこまで惚れているんなら、ほかの女に寝取られないためにもあれを着けて置いてもいいかもねぇ。


どこにしまったかねぇ。めったに使える条件に合うお客がいないから忘れちまったよ。」


「しばらく他の商品でも眺めていてくれるかい。

わしは裏の倉庫にいって、あれを探してくるよ。

あと、悪いけど他の客が来たら、今日は墓参りに行っていてしばらく戻らないと伝えてくれるかい。」


「わかりました。私のためにすみません。」


「孫と同じくらいの年の子が、あれのあれを欲しがっているんだ。

死んだ爺さんに冥途の土産話ができたと思えば、なんてことないさ。


じゃ店番頼んだよ。」


「行ってらっしゃい。」


「エリナ、店の人と何話していたの? ほしい商品がなかったの。」


「ほしい商品はあるらしいけど、あまりに売れないので裏の倉庫にしまってあるんだって。

今、探しに行ってもらっているわ。」


「そんなにレアな商品なの? 何に使うの? 」


「商品自体はそんなにレアものじゃないわ。本山では使っている人が多いもの。


ただし、私の欲しいそれは特別なの。ほんとに特別に身に着けるものなの。」


エリナの俺を見る目が一瞬鋭く光った。

口元も少し吊り上がって、冷たい笑顔になった。

俺は蛇に睨まれたカエルのように身動きができなくなってしまった。

先日同じ状況があったような。


エリナ女王様、そんな目で見ないでください。何か将来に不安を感じてしまいます。


俺たちは店の中の魔道具を見て回って、あれこれ使い道を想像していた。

魔道具と言っても攻撃に使えるようなものはほとんどなく、かまどの火を起こすもの、魔法のコンロ、魔力を注ぐと水がいっぱいになる水ガメ・・・・・。


要するに例えば家族に火の魔法が使えるものがいなければ、ここにある魔道具をいくつかそろえれば料理をするなど生活に困らないというような生活魔法の魔道具だった。


その中でもエリナが面白いものを見つけてきた。


「この魔法の箒。掃除用じゃないんだって。

何に使うでしょうか、シュウわかる? 」


「うーん。箒って、普通ごみを集めるために使うよね。何だろう???? 」


「押し売り撃退用だって。

しつこい訪問販売を箒でまずは埃を立てて嫌がらせ、それでも帰らない業者には箒の柄を振り回し、それでも帰らない強者には箒の風魔法でつむじ風をおこし、体を舞い上げ外に放り出すんだって。」


「無駄に高性能。」


「応用編としては、午前様のぐーたらダンナを家に入れないとか浮気相手を家から追い出すなど多様な使い方ができるそうよ。」


「エリナほしいの? 」


「必要ないわ。押し売りはシュウが追い出してくれるし。

シュウがぐーたらするわけないし、しても私が稼ぐから良いし、シュウは浮気なんてしないし、ねっ、必要ないでしょ、私には。」


「おおっ。」


俺って、すげー信用されているし。

その前に、一緒に暮らすのがすでにエリナの中じゃ既成路線だし。

でも、悪い気はしない。

そんなやり取りをしていると、店の主人が探し物を終わって、帰ってきた。


「すまんかったねぇ。漸く見つかったよ。

売れないと思って、倉庫の奥の棚の下にある木箱に入っていたよ。

自分でもよく見つけたと思うよ。ほめてくれていいぞ。」


「おばぁちゃん、すごーい。」


素直な美少女様は言われるがままに褒めている。

何がすごいのか俺には理解できないぞ。


「そうじゃろ。そうじゃろ。さて、お嬢ちゃんだけこっちおいで。

坊主は財布だけおいて、向こうに行ってな。」


「財布だけって・・・。」


「これを彼女に買ってやるくらいの甲斐性がないのかい。

お嬢ちゃん、こんな甲斐性なしは捨てたほうが身のためだ。どうする? 」


「ふふふっ。シュウは甲斐性あるもの。

これぐらいはきっと買ってくれるはよね。ね。ね。ダーリン。」


くそう、その下から覗く目線。抵抗できねぇ。

でも何を買うのか、いくらなのか聞いてねぇ。

足りるか? 旅に出てから宿代と昼代がかかってないので、少し余裕はあるが。

買ってもいいけど何を買うのかぐらいは知りてぇ。


「シュウよ。ここは黙って財布をだすのじゃ。男の甲斐性を見せるのじゃ。

残金がなくなってもびっくりしてはいかんぞ。

好きなおなごが喜ぶ顔が見られるならそれでよいではないか。

昔から言うであろうぉ。「武士は食わねど、高いびきと。」」


おばちゃん。食わないとおばちゃんに魔力を補充できないんですけど。

最近静かだと思っていたら、余計なところだけ顔を突っ込んできたな。


「わかった、わかったよ。とりあえず買っていいよ。」


「ありがとう。さすが私のシュウね。大好き。」


「おおっ、顔に似合わず、御大尽様のようだな。

それじゃ5000バートをいただこうかのう。」


10日分の生活費が。まぁ、今までほとんど使っていないか良いか。


「それではお嬢ちゃんはこちらにきな。使い方をおしえてやるよ。」


「はーい。」


「良いか、あやつへの渡し時を間違えるんじゃないぞ。

なんせ男にとってドン引き機能がオプションで付いているのでな。


こちらが親機、こちらが子機じゃ。

機能としては通常機能のほかに、子機を持った男に親機を持たないおなごが異常接近、あるいは通常触れてはいけないところが触れると電撃が走る。


また、親機を持ったおなごが呼ぶと密かに仕込まれた風魔法が発動してな、瞬時に親機のもとに飛んでくるというものじゃ。


完璧な浮気防止機能がついておる。あやつには通常の機能を説明しておけばよい。


お前さんは素直であやつにべたぼれの様だから、聞かれたらなんでもホイホイ答えてしまいそうで心配じゃ。」


「大丈夫ですよ、お代官様。決して、へまはいたしません。」


「おぬしも悪よのう、越後屋」


何か店の奥の方で二人でこそこそしている。

その顔は明らかに悪だくみをしている悪人にしか見えないのだが。

エリナ、悪の道に踏み込まないで、こっちの世界に帰ってきてよ。


「シュウ、お待たせ。今使い方を聞いていたの。買ってくれてありがとう。」


「いいけど。ちなみに何を買ったか聞いてもいい? 」


「それはちょっと。おばあちゃんとの約束だから、言えないの。」


とまた、上目使いで俺に迫ってくる。

これをされると俺は何も言えなくなって、あっさり白旗を上げるしかなくなるし。


「まぁ、一番はエリナが満足してくれることだから。

もう何を買ったか聞かないよ。

買い物したしそろそろ宿坊に帰ろうか。」


俺たちは、手をつなぎながら教会に向かうのであった。


「・・・・・・シュウよ。

人生には自分ではわからないターニングポイントというものがあってだな。

これからそなたの運命を握るアイテムをエリナは手に入れたぞ。

さぁ、尻に敷かれるがよい。・・・・・


わっはははは。妾をないがしろにした罰を受けるがよい。

一生。・・・・・・」


教会に着いて、昨日と同じ上級司祭様に疲労回復魔法をかけてもらい、夕食後明日に備えて早く寝る二人だった。


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